密会旅行先にてDay3⑧



「すごく綺麗ですね!」

「ねぇ。こんなに素敵なデートしたことある?僕はこんなの初めて。」

「私もですよ。こんなデートした事ないです。」

「ほんと?さっき言ってた先輩とか学生時代に憧れてた人とかと来てない?」

「え、何言ってるんですか?そういう関係じゃないし、無いですよ」

「そうなの?分からないからさ。」

「ここまでして会いにくるっていうのも初めてだし、こんなに素敵な場所で、こんなに綺麗な夕陽を見るのなんて初めてです。」

ふふっと笑顔を浮かべて、彼はまた太陽の方角に顔を向けた。

色白の彼の顔に、沈む直前の太陽のオレンジ色の光が当たり、そして鼻や頬に薄い灰色の影を作って、とても綺麗に見えた。

日没までに、太陽に1番近い先端までは行けなさそうだったので、いまいる場所からカメラを持った腕を上に伸ばして日没直前の写真を撮ったりしていた。ひとしきり、パノラマモードで撮ったり、ガラスに映り込んだ夕陽を撮ったりして、写真に残すことに気が済んだ。

「写真でどんなに綺麗に撮っても、これは肉眼で見た光景の方が綺麗ですね。この広さとか色とか全部は写真じゃ再現できないから、よく見とこうっと。」

「うん、そうだね。」

太陽が完全に沈むまでもう少しになり、周りの人も増えてきた。年末のカウントダウンを待つ人混みのように、オープンエアのデッキに熱気が満ちてきた。

いつしか彼が手を伸ばしてきて私の左手を握っていた。

オレンジ色の太陽の1番上の丸みが沈んで見えなくなる瞬間、周囲の人たちは写真を撮ったり、それぞれの言語で綺麗だなどと言ってざわめいた。


その瞬間に、彼は不意に私の唇にキスをした。突然だったので一瞬固まったが、同時にすごくドキドキして、さらに思考を介さずに、いきなり濡れてしまった。