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1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

今時の、菊半切判以上の、国産枚葉印刷機は、こりゃほぼ、もれなく、

倍胴型式ってのが採用されてますよね。つまり、圧胴と中間胴が倍胴。

 

版胴やブラン胴に対して、倍の直径に成ってます。・・・もっと言うなら、

圧胴に、A面と、B面の、2面が有って、版胴等の倍の直径に成って

いますから、これを、倍径圧胴、略して「倍胴」と言ってるワケです。

(輪転機では、ブラン胴が倍胴に成るのですが、それとは違います)

 

この倍胴型式に対して、版胴やブラン胴と、同じ直径の圧胴を持った

印刷機を「単胴型式」と言って区別しています。私自身は、倍胴型式の

使い手ですから、単胴の印刷機は、出来れば使いたくないですわ~。

 

圧胴の直径が倍に成るって事はね・・・。圧胴って、印刷用紙が巻き

付いて、印刷して行く所じゃないですか。細い単胴に巻き付いて印刷

して行くか、倍の直径の、太い胴で印刷して行くかを考えた場合にね、

こりゃ平面に近い方が、網点の再現性とか見当精度が良いってのは

簡単に想像が出来るかと思います。

 

だから、倍胴の方がイイって話に成るのですが、この他にも、紙を搬送

する際の、咬え替え回数が減るなんて言うマニアックな部分に関しても

倍胴の方が有利なんです。咬え替え回数が減る=渡し胴の数が減る

って事ですから、メンテや補修等にも有利ですよね。

 

この倍胴型式にも、「くの字配列」、「逆くの字配列」って言うのが有ります。

印刷機を操作側から見た場合、版胴、ブラン胴、圧胴の位置関係ってさぁ、

その中心位置が、上から下へ一直線ではないじゃないですか。印刷機を

印刷状態にするには、「胴入れ」って言う動作が必要に成りますよね。

 

普通は、各胴が離れていて、それぞれ空転してるんですが、印刷を開始

する時には、胴入れをしなくては成りません。この胴入れって、どの胴が

動いてるのか?って言うと、ブラン胴が動いて、版胴と圧胴に接触して、

圧力(印圧)を掛けるような構造に成っています。ですから、全ての胴が

一直線上に並んでたら、ブラン胴が動いても、何とも成りませんわね。

 

簡単に言えば、ブラン胴が、版胴や圧胴より、左側に出っ張ってる恰好を、

ひらがなの 「く」 の字、に成ってるって事で、「くの字配列」って言います。

これとは逆に、ブラン胴が右側に出張ってれば、「く」 の字の逆って事で、

「逆くの字配列」って言うワケなんですわ。

 

昔はね、「くの字配列が良い!」とか、「逆くの字が絶対だッ!」なんて言う

論争も有ったんですが、両方共使ってみれば、すぐに分かります。これは、

明らかに「逆くの字」の方が使い易い。今時は、ほとんど、逆くの字配列の

印刷機ばかりに成りましたから、その点からも明白ですよね。

 

マニアックな話に成ってしまいましたが次回は、この逆くの字配列の

特徴と、注意点についての、お話を紹介させて頂きます~。

もう、40年以上も前の話ですが、その当時、私に印刷技術を教えて下さった

古い職人さん達は、かなり、いろいろな、独自のワザを持っておられました。

そのワザは、その人が独自に開発したか、また、その師匠から受け継がれた

非常に尊いワザですので、なかなか伝授して頂けないのですが・・・(笑)。

 

今時、そんな古(いにしえ)のワザを紹介しても良いのか?ってチョッと迷う

ところではあるのですが、実際に実践するかどうかは別として、昔はこんな

事をやってたんだ~。くらいに留めておいて頂ければ幸いです。とは言え、

工夫をする!と言う意味では、少し参考に成るかな?とは思います。

 

例えば、ブランケットの凹み。・・・今は当たり前のように、エアーブランって言う、

エアー層(気泡層)の有るブランが主流ですが、昔はそんな物は無くてですねぇ、

いわゆる、ソリッドブラン(ゴム層と布層だけのブラン)が普通だったんですよ。

 

新品のブランに交換して、いざ刷り出してみたら、異物の混入かなにかで、

ブランの真ん中あたりに直径1cm くらいの凹みが出来てしまった。端っこなら

ブランを巻き込んで凹みの場所をズラすって方法で凹みの部分を印刷面から

逃がしてしまえばイイんですが、真ん中では、そうは行かない。

 

この時、私の師匠が採った第一の方策。・・・これ、ケッコウ、おもしろいです。

ブランケットメーカーに電話して、「なんだ、おまえんとこのブランはッ!新品に

交換したばっかなのに100枚も刷らん内に凹んじまったぞッ!大至急、新品の

ブランを持って来いッ!」 ・・・エエッ!新品のブランが凹んだのは、こっちに

落ち度が有ったワケで、ブランメーカーさんの責任じゃないでしょう~。

 

んでもこの時代はね、「ハイッ!申し訳有りません!すぐ持って伺いますッ!」

なんて事で話が付いてしまうんですね。あっ、もちろん、新品ブランの請求書は

キッチリ会社へ回って来ますよ(笑)。・・・今時なら「申し訳ないですが、新品の

ブランを凹ませてしまって予備が無くて困っているので、すぐに持って来て頂く

ことって可能でしょうか?」なんて感じかと思うんですが、当時の機長さん達は、

ケッコウ威張ってらっしゃる方が多かったんですよ~。

 

ん?これって、ワザの話に成ってませんね(笑)。・・・まぁそうやって、新品の

ブランを確保しておいて、ここからがワザです。ブラン胴にブランを張ったままの

状態で、凹んでしまった箇所を、油性ペンで丸を書いて囲んで目印を作ります。

その後、ブランを外して、その目印の部分の裏面に、グリスを擦り込むんです。

 

要するに、凹んだ部分のブランの裏面(布面)に、グリスを擦り込む事で凹みを

修正してしまおうってワケです。これね、ウマい人がやると見事なくらい綺麗に

凹みを修正してしまうんですよ。「本当はな、グリスに砂糖を混ぜるとイイんだ。

砂糖が熱で溶けて、凹んで低くなった所に溜まるから、丁度良く成る」とかって

話もしてましたが、それはチョッと、どうかな(笑)。

 

実はこのワザ、数年後に私も、3回ほど、やってみた事が有ります。正直ね、

ソリッドブランなら、もう少しウマく行くかもですが、エアーブランではチョッと

辛いんじゃないかな?って感じでした。私の腕が、師匠のワザの領域にまで

到達していないって事もあるのでしょうが、まぁそれ以上、極める気は無い

かな(笑)って思っています。

 

ベテランさん達は、それぞれに、なかなかスゴい裏技みたいなのを持ってる

ことが有ったりします。時間が有れば、ベテランさん達から、昔話を聞くのも、

ケッコウおもしろくて、勉強に成る部分も有りますよ。(^^)v

久々のブログ更新です。

実は、しばらく体調が悪く、新型コロナ感染の容疑が掛かっておりまして、

ずっと自宅待機状態でした。そんな状態の中、ブログ更新も出来ず・・・。

 

37.5度を超える熱が、4日間、続いたんですよ。あと凄い怠さでした。

日本国中へ出張に行く仕事ですから、どこでコロナに感染しても、まぁ、

おかしくはありませんよね。酒は一滴も飲めませんので、夜の街関連は

全く無いんですが、食事をする時が一番、ヤバいですよね。

 

朝食と夕食は、コンビニで弁当やパンを買って、ホテルの自分の部屋で

一人で食べてましたから安心なんですが、昼食はレストランとか食堂に

成ってしまいます。マスクをしたままでは食べられないので、こりゃまぁ、

当然のように、非常に無防備な状態で食事をする事と成りますよね。

異常な程の怠さと、37.5度の体温計の数字を見て、こりゃヤバいかも。

 

PCR検査が受けたくて、とりあえず掛かり付けの内科へ行ったんですわ。

「いや、ウチではコロナ関連の事はやってないし、他を紹介するツテも無い」

・・・こらこら、オレの主治医だろう、もうチョッと何とかしようと頑張ってよ~。

 

主治医に「保健所と交渉せえ!」と言われて、保健所に電話。30分位で

電話が繋がって、とても丁寧に症状や状況を聞いてくれましたが、回答は、

「PCR検査は、公費を使っておりますので現在の症状では受けられません」

との事。・・・はッあ~ん!公費を使ってるだとッ!誰も使わんような、あんな

アベノマスクにスゲェ大金を使っておきながら、ここで公費だとかぬかすか!

と、保健所の方に言っても仕方ないので、グッと堪えて・・・。

 

では、味覚障害や嗅覚障害、または息苦しさ等が出たら検査が受けれますか?

「いや、それらの症状は心意的な部分が多いので、それでは受けられません。

保健所から紹介出来る病院をネット上で掲載していますので、そちらで診察を

受け医師の判断が有れば検査を受ける事が可能ですから、指定病院へ電話で

確認をしてから、受診するようにして下さい」

 

早速、ネットで検索。病院に電話で聞いてみると、「当院では対応しておりません」

と言う回答ばかり。・・・こりゃ話に成らんなぁ、毎日、「本日の感染者数~」とか言う

報道をテレビでやってるけど、一体、どんな人がPCR検査を受けられてるんだ??

それにさぁ、苦しんでるオレが、何で、たらい回しにされにゃアカンのや~ッ!

 

他の地域は分かりませんが、京都でPCR検査を受けるまでの道のりは、まだまだ

かなり高いハードルを越える必要が有ります。 しかし、もし私がコロナに感染して

しまっていたら、私が訪問させて頂く会社さんや、自社の仲間に感染させてしまう

危険性が有るワケでして、何としてでも、検査を受ける事が必要なワケです。

 

そこで、自費検査と言う手段です。3~4万円くらい掛かりますが、これに対応して

くれる医療機関は京都にも数件有ります。ネットで調べて、先に予約する事が必要

なので、電話で予約しようとすると、「本日の予約で、検査日は9月末に成ります」

・・・おいおい、2ヵ月も先かよッ!それで何の意味が有るんだよッ!

 

それとね、この自費検査、「現在、発熱など、何らかの症状が有る方は受けられま

せん」って言う条件が付いてる所が多いです。・・・いやいや、体調が悪いから検査

を受けたいのに、体調の悪い方は、お断りって、なに、それッ!

 

結局、小さなクリニックが、唾液によるPCR検査を、ほぼ、ドライブスルーのような

方式で実施してくれました。二日後の検査結果報告で、陰性だと分かり、ようやく

出社する事が出来て、本日を向かえていると言う次第です。

 

主治医が言うには、「今はまだイイけど、風邪の季節に成ったら最悪だ。初期の

症状は風邪もコロナも区別が付かない。対応のしようが無い!」との事でした。

このままの感染状態が冬まで続けば、大変な冬に成りそうです。

 

PCR検査の件数を増やしたと報道では言ってますが、外国の態勢と比べたら、

まだまだ、かなり、お粗末な状態です。もっと簡単にPCR検査を受診できる様に

して、初期の軽症や、無症状の人達を迅速に割り出し、外出させない等と言う

ような態勢を確立すれば、感染者の数も、もう少しマシに成るのではないか?

と、シロウトの私は思うのですが、どんなもんなんでしょうね・・・。

ほとんどの印刷会社さんは、明日から4連休ですかね~。

私も4連休ですが、コロナの第二波が怖くて動けないですね(笑)。

こりゃまた、好きなギターを弾きつつ、ステイホームですわ~ (^^)v

 

さて連休前の印刷機の整備ですが、印刷機そのものは、各機械メーカーさんの

指示に従って頂くとして、ウチ(コスモテック)としましては、湿し水冷却循環装置、

いわゆる、TOP-ONE等のメンテを、どうしておくべきか?って言う、お話を少々。

 

湿し水ってヤツには、エッチ液が入ってます。紙粉や、様々な油汚れが混入して

しまっている場合も有るかと思います。これを、このままにして4連休してしまうっ

て言うのは、実はあまり良い事では有りません。・・・寒い冬場なら、まだイイん

ですが、昨今のような暑い日が続いて、しかも工場が、お休みと成ると工場内の

室温が、どうしても高く成ってしまいますよね。

 

水ってね、水腐りって言葉が有るように、やっぱり腐るんですよ。まぁ、腐るって

言う言葉が正確に正しいかどうかは別にして、エッチ液や紙粉が入った水って、

バクテリアが発生しやすく成ってしまうんです。印刷機が稼働中で、湿し水が

冷却されている状態ならまだしも、4連休で冷却も停止され、室温がケッコウ

上昇するって事は、それに伴って、湿し水の温度も上昇し腐りやすく成ります。

 

と言うワケで、こうした暑い日の長期休み前には、湿し水冷却循環装置の中の

汚れてしまっている湿し水は全て抜き去って、タンク内や戻り水の中間タンク内

とかも、キレイに掃除されておかれる事を、お勧めしています。

 

もう一つ。湿し水を抜いて、キレイに清掃しただけで良いのか?って言うと実は、

他にも、お願いしたい事が有ります。水を全て抜き去った場合、例えばメインの

タンクとかってのは、まだ大丈夫なんですがホース配管の取り回し部分とかには、

直角に曲がる為の金属パーツ等が使われています。

 

錆びにくい材質を使用していますが複雑に曲がるような部分には、やはり汚れが

溜まりやすく、その汚れ等が、水を抜いて長期放置すると、固まってしまう事など

も有ります。そうした事を回避する為には、まず、汚れた湿し水を全部抜いてから、

キレイに清掃した後、連休前に、真水(水道水)で満たして連休を迎えるってのが、

お勧めです。

 

連休明けは、その水を抜いて再度、湿し水を作り直すのが理想ですが、そこまで

しなくても、その水にエッチ液を計量して、規定の%分のエッチ液を入れてやる

だけでもOKかと思います。とにかく、この暑い季節、連休で工場内の気温が上昇

して、そこに汚れたままの湿し水が有るってのは、決して良い事ではありません。

 

湿し水の循環系がトラブルを起こすと、どこかで水が溢れてしまう等と言うケッコウ

厄介なトラブルにまで発展してしまう事が多いですから、特に、この暑い季節の、

長期連休前は、面倒でも、チョッとだけ気を使ってやって下さいませ。

普通の印刷屋さんに、どうしても付いて来てしまうのが「特色」ってヤツ

ですよね。特色のインキ作りをしなきゃイカンし、ローラー洗浄しなきゃ

イカンし、手間ばっかり掛かって、本当に儲からん仕事ですわ~。

 

今時は、CCM装置なんて言う、コンピュータ調色装置を導入しておられる

印刷工場さんも多いのですが、私が見たところ、普及率は30%以下かな?

と言う感じです。と言う事は、大半の印刷現場では、自分でインキを練って

作っているか、または、インキ屋さんにお願いして作っているか、ですよね。

 

この、自分で練るって言う世界も、私の時代とでは随分、様変わりしたように

思います。今時は特色の見本帳の、配合表を見て、ハカリで測ってインキを

配合するってのが、主流のやり方ですよね。私らの時代はねぇ、まずそんな

高性能なハカリが有りませんでしたわ~。

 

インキ(中間色)もね、色によって、インキメーカーが違うってのが当り前でね、

・・・この辺りは、古い職人さんのコダワリが強くてですねぇ、金赤は絶対に、

あのメーカーの物でなくてはダメ!とか、紺藍は、このメーカー以外は許さん!

なんて具合で、DICさんの配合表を参考にしたとしても、中間色のインキが

DICさん以外の物ばかりなので、配合表通りの配合をしても色が出ません。

 

「特色は頭の中で作れッ!」なんて言われて、配合表など一切、見る事は無く

自分の頭の中で考えて配合をするクセが、付いてしまっていました。これねぇ

ある程度、技量が上がってウマく作れるように成れば良いのですが、ヘタクソ

な内は本当に大変です。500g も作れば充分なインキがね、どんどん増えて

行ってしまって、気付けば2kg も有ったり、実は、その前に 1kg コソッリと捨て

てしまっていたり。 まぁ、時間とインキがメチャメチャ、無駄ですわね~(笑)。

 

それと、特色作りの中で、一番難しいのが、そのインキを紙に付けて叩いて

延ばして、色の出来具合を確認するって言うワザですよね。これがヘタクソ

だと、いつまで経っても、まともな特色が作れないですよね。でもね、これが

難しいのは当たり前なんですよ。印刷した時のインキの膜厚は1μでしょう。

叩いて延ばして、自分の指先で1μの被膜を作るなんて本当に神業ですよ。

 

こんな神業、さんざん練習しなきゃ出来ないですよね。でも、どうやって練習

するのか?・・・私の場合は、先輩が刷ってる特色のベタ部分を手本にして、

それと全く同じ色で延ばせるように、必死に成って、その感覚を覚えました。

 

しかしです!一番困るのが例えば、色上質紙へ特色で刷る場合の配合です。

黄色の色上へ、仕上がりが緑色に成るように、特色を作れ!なんて、本当に

イヤですよね。これも、CCM装置が有れば、自動で計算してくれるようですが、

そんな便利な装置を持っていない所では、本当に大変なんです。

 

上質紙ってね、指先で延ばそうとしても、延びないじゃないですか~。普通の

白い上質紙なら、コート紙で延ばした色から換算するのも、まぁ楽なんですが、

色上質紙はアカンですわ~。まぁこんなもんかな?と思って作ったインキで、

その色上質で 1度刷ってみないと分からんですもんね~。   あッ!これも、

展色機なんてのを持ってればイイんですが、それも無いのが普通ですわね。

 

そこで、私が先輩から教わった秘技!・・・いや、秘技ってほどの物じゃないん

ですけど、やらんよりはマシかな?ってくらいの技です(笑)。まずね、不要に

成ったブランケットを、平らな机の上とかに置きます。そのブランケットの上に、

作っている特色インキを少々乗せて、それをインキヘラで平らに、薄く延ばし

ます。その平らに薄く延ばしたインキの上に、これから刷る色上質紙を貼り

付けて、色上質紙の上から、擦る。

 

ブランケット上での、インキの延ばし方に少々、コツが必要なんですが、これ、

普通に印刷するように、ブランから紙へと転写出来ますので、ケッコウ使える

ワザなんですよ。色上質紙に限らず、ファンシーペーパー系でも有効に使える

かと思いますので、ヒマな時にでも、やってみて下さい (^^)v 。

いろいろ、メールや質問を頂いたので、前回ブログの補足を・・・。

 

印刷工場の場合、私もそうですが、もともとオペレータだった人が工場長とか、

管理責任者とかに成る場合が多いかと思います。工場長って、人を扱う仕事

ですよね。それまで自分がやって来た、印刷機を扱う仕事と、人(部下)を扱う

仕事では、どちらが難しいですか?

 

印刷機ってのは機械です。ウソを言いません。言い訳もしないし、ごまかす事も

有りませんわね。でもね、人はウソを言います。理屈の通らないような言い訳も、

当然のようにしますし、時には、ごまかす事も有るでしょう。

 

本当に私もそうだったんですが、機械を扱う仕事をして来た人間にとって、人を

扱う仕事って言うのは、メッチャ難しいし、ストレスが溜まるし、とても悩みます。

自分一人で動かしていた印刷機に、人材育成とか言う名目で、補助の人間とか

が付けられると、まぁこりゃ正直なところ、うっとうしい。それまでの自分の仕事の

リズムが崩れてしまって、メッチャ疲れてしまいます。

 

何で、こんな簡単な事に、こんなに時間が掛かるんだ!オレが自分でやった方が

速いから、もう、どけよ!って言いたく成ってしまいますわね。たった一人の部下が

相手でもそうなのに、工場長に成って、複数の人間が、部下に成ってしまったら、

その心労は本当に大変です。 ・・・でもね、それが工場長とかの仕事なんですよ。

 

ミスばかりする部下が一人居て、その子の育成で悩む。その子は作業者として、

未熟なのですが、その未熟な子をシッカリ指導出来ていないと言う点においては、

自分自身も、工場長(管理者・責任者)として、未熟なのだと言う事なんですわ。

 

未熟な部下には、教育や指導が必要であり、それをするのが上司の役目ですよね。

そして、自分自身も上司として、「人を扱う」と言う仕事に対して、未熟であるならば、

やはり、勉強や努力をしなくては成らないわけなんですよ。

 

優秀な部下ばかりで、何の悩みも無ければ、何も考えなくてイイし、何も悩まなくて

イイですよね。しかし、あまり優秀ではない部下が一人居てくれるおかげで、必死に

成って改善策を考えなくては成らない。その考える事、悩む事こそが、工場長として

成長させてもらう為の大きな糧に成るのだと思うのです。出来が悪いから他部署へ

移動させる。それも充分に有効な手段でしょう。でもね、その出来の悪い子を成長

させて一人前にする事で、自分自身も工場長として成長させてもらえるんですわ。

 

具体的には、どうしたら良いか。私ね、日本全国の印刷現場を見ていて一番感じる

のは現場内のコミュニケーションの悪さです。「あの人は何を考えてるのかサッパリ

分からん」とか「あいつと話しても無駄だ」とか、機長同士の間で、そんな言葉を聞く

現場が少なくありません。これでは情報の共有とかが出来ないですよね。

 

こうした事を改善する為には、まず徹底的に会話をする事だと思うんです。工場長が

実際に現場に行き作業状態を見て「どうした?ウマく行ってない?」から始まるような

コミュニケーションを求める会話が、とても大切だと思うんですわ。そうした会話が、

「打ち合わせ」と成り、やがて全員を集めた「ミーティング」と成り、「現場会議」と言う

具合に成長して行かせる事が出来れば、部下達全員が、同じ方向を向く事が出来る

ように成るんですよ。

 

例えば、現場会議の中で、「今月の目標!」なんてのを、自分達で作るんですわ。

「今月は納後ミス(納品後にお客さんの所で発覚するミス)ゼロを達成する!」なんて

言う目標を自分達で作って、その為には何を、どうしたら良いのかを自分達で考える。

まだまだ未熟な新米機長を、どうやってカバーするかを考える。

 

他人や上から押し付けられた目標ってのは、意識が薄れてしまう場合が多々有るの

ですが、自分達で考えて掲げた目標ってのは強いです。それに向かって、迷う事無く

進んで行けるように成る。そんなチーム(組織)を作り上げる事が出来たら、おそらく

黙っていても人材育成ってヤツが自然に出来て行くのだと思います。

 

会話から始まるコミュニケーション、時には議論が過熱してしまうかも知れません。でも、

それも必要な事だし重要な事だと思うのです。そうした事をコーディネートして、向くべき

方向を明確に示し、進むべき方向へ導く事が、「長」に課せられた重要な職務だと思うし、

それも、人をまとめる為の、大切な一つの、システム作りだと思うのです。

「ウチのA君は、ミスばかりで、何回指導しても直らん。もう他の部署へ

移動させようかと考えている。」・・・とある、印刷工場の工場長さん

から、そんな悩み相談を受けました。

 

そりゃアカンねぇ。でもね、移動させるのは、A君じゃなくて、工場長さん、

あなたの方が、移動するべきだよ。・・・「ええッ?」 ミスはA君の責任か?

A君が無能だから、ミスを頻発させてしまうのか?  違うだろ。

 

人間はね、どんな優秀な人でも「ヒューマンエラー」と言う、うっかりミスを

してしまうものなんだよ。精神状態だって、常に万全なワケじゃないよな。

15年前に起こった大惨事、福知山線脱線事故。死者107名、負傷者が

562名と言う、歴史に残る大事故だ。

 

この事故は、運転手のヒューマンエラーだと言われている。その運転手は、

この事故で既に亡くなっている。運転手がミスの原因だとしたら、その原因

である運転手が死んでしまっているのだから、もう、こんな大惨事は二度と

起こらない!と、言い切る事が出来るか?  出来ないよなぁ。

 

この事故は、精神的に追い詰められた運転手が、急カーブへ異常な程の

猛スピードで侵入して発生している。そんな、脱線の危険性が有るような

急カーブの所へ、猛スピードで侵入させてしまうような、超危険な行為が、

なぜ可能だったのか。それを阻止する為のシステムは無かったのか。

 

例えば列車には、自動列車停止装置(ATS)ってのが有って、それを使えば、

自動での列車停止や、自動減速が出来る。福知山線の、あの部分に、その

ATSが使えるかどうかは、私には分からないが、そうした安全システムが、

当然のように有るべきではないのか。

 

600名を超える死傷者を出した責任が、運転手に有ると考えるならば、この

大惨事は何度でも起こるだろう。「システムが悪かった。システムを見直そう。

管理者の我々が、また会社全体が、二度とこの大惨事を起こさないための

システムを構築し実践しよう」 こう考えたから、15年間経っても無事故だ。

 

ミスを、部下や他人のせいにしていたら、絶対に無く成りも、減りもしない。

部下に「シッカリしろッ!」と怒鳴り付けたって、ミスは発生してしまうんだよ。

シッカリしなきゃアカンのは、責任者や管理者である、あなただ!

 

ミスを未然に防ぐためのシステムを構築出来ていないあなたが一番悪い。

そのシステムを造り上げる事も出来ずに、部下の愚痴を言ってるあなたに、

工場長としての資格が有るのかッ! 工場長としての仕事をしてるかッ!

私に部下の愚痴を言ってるヒマが有ったら、死ぬほどの思いで、

自分の現場のシステムを作り上げてみろッ! それが出来ないのならば、

あなたに工場長を名乗る資格など無いんだってこと、解るだろ。

印刷クレームって言うのは、こりゃまぁ、いろいろ有るんですが、とにかく厄介

なのが、スポット的に発生するトラブルですよね~。例えば、印刷してる時の、

オペレータの行動を考えてみて下さい。見当合わせや、色合わせが終了して、

印刷を開始したら、その後は、完全放置! なんて事はありませんわね。

 

印刷中も、500枚ごとに1枚とか、必ず抜き取り検査ってのをやってますよね。

例えば、その抜き取り検査で汚れを発見した。その前の抜き取りには無かった

汚れなので、汚れを解消させた所に、間紙(あいし)等を入れておいて、その

下の部分を、後から、検品して不良個所を抜き取ってやれば終了ですわね。

(あ、品質検査カメラとかが無い場合の話ね)

 

スポット的に発生するトラブル。例えば、「水垂れ」、「油垂れ」、「パウダー垂れ」

なんてのは、こりゃ、3枚から多くても10枚程度が連続して出たら、もう終わりっ

て言うトラブルだから、メッチャ発見し辛くて、しかも、発生すればシロウト目でも

一目瞭然なトラブルなので、大きなクレームに成ってしまう事も有りますよね。

 

昔、学習塾の問題集とか、テスト問題なんかの印刷をさせて頂いていて、その

テスト問題で、油垂れが発生してるのを気付かず納品してしまいましてね~。

問題文章の肝心な文字が油で抜け落ちてしまってて、大クレームに成りました。

 

水垂れ、油垂れ、パウダー垂れなんてのは、1枚づつ全数検査でもしないと、

発見する事が出来ませんよね。特に、今のような湿気の多い梅雨時とか、夏の

暑い日なんてのは、結露が発生しやすく、それが水垂れ、水飛びに繋がり易い

ので、細心の注意が必要ですわね。

 

んじゃ、これらに対して、具体的には、どんな注意をしたらイイか?って話

なんですが・・・。水垂れ、水飛びなんてのは、湿し水関連の部分で発生し

やすいですわね。湿し水は冷却されてるから、断熱材(水舟の所とかに

貼ってある黒色とかのスポンジみたいなヤツ)が、剥がれてしまってたり、

破れてしまってたりすると、そこから、ポタンッと、水垂れが発生します。

 

油垂れも、例えば、ローラー部の所に付けられている、金属性の受け皿とか、

そんな所に、機械油や、グリスの溶けたのとか、ローラーの洗浄油とかが、

溜まってて、それが溢れて、ポトリって感じが多いかと思います。

 

パウダー垂れも、そうなんですが、要するに、どれだけ印刷機を、キレイに

保つ事が出来るかって話なんですよ。例えば、水舟の下とか、インキ部の、

金属トレイの下とかさぁ、放置しておけば、どんどん汚れてしまって、そんな

汚れた部分に、自分の手を突っ込むのは、イヤですよね。

 

1日の仕事が終わったら、印刷機をキレイにしてやるって言うクセを付けて

おけば、そうした汚れやすい部分を、キレイに保つ事が出来ます。キレイなら、

機械を完全停止させてから、その部分を手で触ってやる事も容易です。手で

撫でてやれば、結露しそうな所とか、油が溜まってしまっている所とかって、

すぐに分かりますから、そんな部分をウエスで拭いてキレイにしてやればOK

です。  トラブルの発見、それはまず、「5S」 から!ってヤツですよね。

「淡ければインキを盛れ!汚れたら水を上げろ!」って言う、物理的な対応では

ダメだ!オフセット印刷は、科学的な印刷なのだから、淡ければ、「なぜ?」と、

その原因を考えてみろ!それが科学だ!  なんて事を、私はよく言いますよね。

 

例えば、汚れが出るのには、必ず原因が有るんです。その本当の原因を考えずに、

「おおッ!汚れた!それ、水上げろ!」なんてやってたんでは、汚れた⇒ 水上げる

⇒ 濃度が下がる⇒ インキ盛る⇒ また汚れる⇒ また水上げる⇒ 濃度が下がる

⇒ またインキ盛る⇒ またまた汚れる って言う、負のスパイラルに嵌まり込んで

抜け出せなく成り、ヒドイ印刷物を作る事に成ってしまいます。

 

先日、久々に質問を頂き、7千枚刷る時に、5千枚位の所から、藍の特色(2胴目)

の駆動側、咬から2cm 位の所から汚れが出だしてしまって、気付かず、増刷をする

ハメに成ってしまったのだとか。ローラーニップや、水の絞りには、ある程度、自信が

有るんですが他に、どんな箇所をチェックしたら良いでしょうか?  との事。

 

詳しく話を聞いてみると、同じ藍の特色で文字が有って、その文字が埋まって

しまいやすいので、そっちに気を取られていて咬の汚れに気付かなかったのだ

とか。・・・文字が埋まりやすい?って事は、けっこうインキを盛っているって事?

またはインキが軟らか過ぎる?インキの濃度が無さ過ぎて盛ってしまってる?

湿し水が多い?エッチ液を多く入れ過ぎてる?

 

「文字が埋まりやすい」って言う情報からだけでも、いろんな事を考える事が

出来ますよね。例えばね、普通のプロセスカラーのインキを使って文字を刷った

としましょう。黄色は判別が難しいので、墨と藍と紅のインキで、小さな文字を

刷ったとして、これらの文字が埋まりますか?まず、埋まらないでしょう。

 

小さな文字が埋まるようでは、もっと小さな網点なんぞ、埋まりまくってしまって、

まともなカラー印刷に成りませんわね。つまりね、今回の藍の特色インキはね、

これらのプロセスカラーインキよりも、インキとしての性能が、劣るって事です。

・・・まぁ、各インキメーカーさん共、プロセスカラーのインキが最高の性能を持っ

ていますから、特色インキの性能が、それより劣るのは当たり前ですけどね。

 

インキの問題を別にしたとして、今回の汚れに関して、他の点を考えてみると、

5千枚刷り進んだ時から汚れ出した。って言うのが、チョッと特徴的ですよね。

何かが思いっ切り悪ければ、最初からか、もっと早くから汚れ出すんじゃないか

と思うんですが、5千枚までは、まともに刷れてるワケですもんね。

 

と言う事は、5千枚刷るまでに、徐々に徐々に、何かが悪く成って行ったって事。

駆動側だけが過熱してインキを軟らかくしてしまったとか、駆動側だけ湿し水が

出過ぎていて、インキが乳化して汚れてしまったとか。はたまた、駆動側だけ、

インキが少し出過ぎていて、5千枚刷るまでに、破綻してしまったとかね。

 

端っこの方の制御って難しいですよね。端っこの部分には、ほとんど絵柄が無い

事の方が多いですから、どうしてもインキが、余りぎみに成ってしまいやすい。

ローラーニップ等に自信が有るのであれば、あとは、インキ壺のゼロ点ってヤツ

ですよね。端の方のゼロ点セットが甘いと、徐々に端のインキが多く成ってしまい、

そのうち破綻して汚れが発生する。と言う状況ではなかったかな?と思われます。

印刷業ってヤツは、普通の場合、好き勝手にモノを作って、好き勝手に売って

いるワケではないですよね。印刷物ってヤツには発注して下さった、お客さんが

いらっしゃって、そのお客さんは、自分の商売なり、仕事なりを繁盛させる為に、

印刷物に高額な費用を投じて下さると言うワケですよね。

 

「印刷物は、発注者が儲ける為に有る」 と言うのが、私の揺るぎない持論なの

ですが、例えばですよ、魚屋のオッチャンが、自分の店のチラシを作りたいと

考えた。  ・・・何のために?  魚屋さんって普通の場合、自分の店舗に居て

お客さんが来てくれるのを待っているって言う、商売形態ですよね。

 

たまたま、自分の店の前を通ってくれれば、その人に魚を買ってもらえる可能性

が生まれる。でも、そんな、たまたまに期待をしてるだけじゃ売り上げが伸びない。

ならば、チラシをばら撒いて、一人でも多くの人に、店の前まで来てもらおう。

一人でも多くの人に、ウチの魚を買ってもらおう。

 

魚屋のオッチャンが儲けるために、チラシが有り、一人でも多くのお客さんに、

店まで足を運んで頂くための企画があり、その企画を成功させる為のデザインが

有り。その企画や、デザインを具現化する為の、印刷と言う工程が有るわけです。

 

・・・ある街に、魚屋さんが二軒、有りました。ライバルの魚屋さんが、バーゲンを

やると言う話が聞こえて来て、こりゃ負けちゃおれんと、自分の店もバーゲンを

やる事としました。バーゲンセールをやる為には魚の仕入れを、いつもの3倍に

しなくちゃ成らないので、オッチャン、虎の子の貯金をはたいて、準備します。

 

魚の仕入れ代金、チラシの印刷代金、新聞への折込み料金、お客さんがイッパイ

来たら、人手が足らなく成ってしまうかもと、臨時のバイトさんも雇ったので、その

人件費もケッコウな額に成ります。それらの額を合計すると、300万円超えの出費。

こりゃオッチャンにとっては、超一大イベントですわ~。

 

ライバルの店と、同じ日にバーゲンセールを開始!さぁ、お客さん、ドンと来いッ!

と意気込んでいたのに、お客さんはパラパラ。・・・なんでだ?と、不思議に思った

オッチャン、ライバル店の偵察に行ってみたらライバル店は、お客さんで大賑わい。

 

何で、こんなに差が有るんだ?と思って、こっそり、ライバル店のお客さんに話を

聞いてみました。「むこうにも魚屋が有るけど、こっちがイイの?」「だってねぇホラ、

こっちの店の方が安いのよ~」と、見せてくれたチラシに、ビックリ仰天!

 

全ての魚の値付けが、自分の店の物より、キッカリ1円づつ、安かったのです。

主婦さん達は、1円でも安ければバス代を支払ってでも、遠くに買いに行くって

くらい(笑)ですから、全ての物が1円安かったら、こりゃ勝負に成りませんわね。

 

しかし、なんで、キッカリ1円づつ安い値が付けられていたのか?

  ・・・どこかで、情報が漏れていた。

 

これは、ずっと昔、実際に有った話なのですが、先に刷られたオッチャンの店の

チラシが、印刷屋のクズカゴから漏れ落ちて、それを拾ったのが、ライバル店の

関係者だったのです。そんな情報をバーゲンセール前に拾ってしまえば、あとは

簡単。それより1円引きのチラシを作れば、お客さんを根こそぎ獲得できますね。

オッチャンの店は、結局、仕入れた魚の、ほとんどが売れ残り300万円の大損。

 

たった1枚の簡単な単色刷りの、魚屋さんのチラシ。それでもバーゲンセールが

始まるまでは、そのたった1枚に、300万円と言う莫大な資金が掛かっている。

我々、印刷業と言うのは、それほどまでに、重要な機密を扱っているのだと言う

ことを、決して忘れてはアカンのです。最近の印刷屋さんは、Pマーク等を取得

しておられるので、その点は万全だと思いますが、刷り損じのヤレ紙とか汚れて

使い物に成らないゴミのような印刷物。そんな物でもバーゲンが始まる前までは、

最重要機密事項だと言う事を、今一度、心に刻んでおいて下さいな。