レスピーギ「ローマの祭り」ロマン派の音楽㉙ | 翡翠の千夜千曲

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       交響詩「ローマの祭り」 O.レスピーギ作曲 NHK交響楽団

00:04 1.チルチェンセス(I.Circenses)

04:51 2.五十年祭(II.Giubileo) 

12:00 3.十月祭(III.L'Ottobrata) 

19:34 4.主顕祭(IV.la Befana) 

指 揮:ヘスス・ロペス=コボス(Conductor:Jesus Lopez-Cobos) 管弦楽:NHK交響楽団(Orchestra:NHK Symphony Orchestra) ※2017年1月18日 サントリーホール(January 18th, 2017, Suntory Hall)

 

 

 オットリーノ・レスピーギの音楽の傾向は、過去の作曲家や古い様式への回帰から、レスピーギを新古典主義音楽の作曲家と位置付けする人と印象派への傾向を指す人もいます。レスピーギは、古典派音楽以前の旋律様式や舞踊組曲などの音楽形式を、近代的な和声法や音楽様式と好んで融合させています。オットリーノを日本語風に解釈すると”おっとりしている”なんて言う向きもありますが、どちらかと言えば彼の音楽の響きは先鋭的ですらあります。

   フランスで六人組が「新しい単純性」を、中でもウィーン古典派の軽やかさへの回帰を目指したのに対し、レスピーギはイタリア古楽の復興、そして古楽の再創造や構成のために古い音楽を利用したと言えます。実際、彼の古典研究は実に丹念で学者肌の素質も見せています。その一つは、中学の器楽などに掲載されているシチリアーノなどで知られていると思います。

 「ローマの祭り」( Feste Romane)は、イタリアの作曲家レスピーギが 1928年に完成させた交響詩です。「ローマ三部作」の「ローマの噴水」、「ローマの松」そしてこの最後を「ローマの祭り」が飾ります。

 前作に比べれば、「ローマの松」よりバンダは小規模です。しかし、「ローマの噴水」「ローマの松」に比べオーケストレーションは大規模になって、色彩的に豊かであざやかで派手な作品と言えます。通俗的な音楽だと言う人もいるようです。皆さんの知らない楽器も混じっているのではないでしょうか。

 

※ オーケストラの使用楽器

フルート3(3番フルートはピッコロ持ち替え)、オーボエ2、コールアングレ1、クラリネット2
小クラリネット(D管)、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4
トランペット4、トロンボーン3、チューバ1、ティンパニ、タンブリン、ラチェット、鈴、スネアドラム、テナードラム、トライアングル、シンバル、バスドラム、タムタム、グロッケンシュピール、チューブラーベル、シロフォン、タヴォレッタ2(音程の異なる2枚の小さな木の板を木槌でたたく)、ピアノ(第1部は奏者1人、第2~4部では奏者2人でピアノ1台4手の連弾。)
オルガン、ブッキーナ3(古代ローマの自然ラッパ。バンダとして使用される。トランペットで代用できる。)、マンドリン、弦5部

 この作品には、作曲者自身の説明がついています。

構成

 単一楽章で4つの部分が切れ目なく演奏される。各部分は古代ローマ時代、ロマネスク時代、ルネサンス時代、20世紀の時代にローマで行われた祭りを描いたものであり、それぞれレスピーギ自身によるコメント(標題)がつけられている。以下ではその標題と構成を書いていく。

第1部 チルチェンセス Circenses

 「チルコ・マッシモに不穏な空気が漂う。だが今日は市民の休日だ。『ネロ皇帝、万歳!』鉄の扉が開かれ、聖歌の歌声と野獣の唸り声が聞こえる。群衆は興奮している。殉職者たちの歌が一つに高まり、やがて騒ぎの中にかき消される。」

 古代ローマでは紀元前から平和の統治のために食料や娯楽が市民に提供された。いわゆる「パンと見世物」と呼ばれる政策で、チルチェンセスとはこの見世物のことである。前座に猛獣対猛獣や人間対猛獣の闘いもあり、重罪人やキリスト教徒らが猛獣の餌食とされた。この曲ではキリスト教徒と猛獣の対峙の様子を描いている。決闘は100日を超える市民の休日に開催され、ローマの貴族や善良な市民がオペラ鑑賞のように楽しんだ。また、チルチェンセスというのは、一名アヴェ・ネローネ祭ともいい、皇帝ネロが民衆を喜ばせるために円形劇場で行ったことからその名がついた。「アヴェ・ネローネ≪Ave, Nerone!≫」は「ネロ皇帝万歳」ということに相当する。なお、決闘はチルコ・マッシモではなく、ネロの時代は円形劇場で催されていたようである。

 レスピーギは、キリスト教徒たちが衆人環視の中で猛獣に喰い殺されるこの残酷な祭りの一部始終を克明に描いている。導入部では闘技場に詰めかけた市民の喚声を表す部分とブッキーナによるファンファーレの部分が交互に現れる。次第に、それらは渾然一体となり興奮が高まっていく。次の低音楽器によるスタッカートの場面では解説者によって解釈が異なっており、「闘技場の扉が開き犠牲となるキリスト教徒たちが重い足取りで入場する」[1]「鉄の扉が押し開かれて飢えたライオンが姿を現す」などがある。弦楽器や木管楽器たちがキリスト教徒たちの祈りを思わせる讃美歌風の旋律を歌い始める。一方、猛獣たちの唸り声に似た低音楽器たちが荒々しく割り込む。弦楽器と木管楽器の歌声はより発展し、速度が増し、音高も高くなっていく。これに対し、金管楽器の猛獣の唸り声もだんだん高まっていく。

第2部 五十年祭 Il Giubileo

「巡礼者たちが祈りながら街道をゆっくりとやってくる。モンテマリオの頂上方待ち焦がれた聖地がついに姿を現す。『ローマだ!ローマだ!』一斉に歓喜の歌が沸き上り、それに応えて教会の鐘が鳴り響く。」

 五十年祭とは、50年ごとに行われているロマネスク時代のカトリックの祭(聖年祭)である。世界中の巡礼者たちがモンテ・マリオ (Monte Mario) の丘を登り、頂点へたどり着き、そのうれしさのあまり「永遠の都・ローマ」を讃え讃歌を歌う。それに答えて、教会の鐘がなる。古い讃美歌「キリストは蘇り給えり(Christ ist erstanden)」が使われている。

第3部 十月祭 L’Ottobrata

 「カステッリ・ロマーニの十月祭はブドウの季節。狩りの合図、鐘の音、愛の歌に続き、穏やかな夕暮れのロマンティックなセレナーデが聴こえてくる。」

 ローマ郊外にあるカステッリ・ロマーニという地域で、秋のぶどうの収穫を祝って開催されるルネサンス時代の祭がモチーフ。ローマの城がぶどうでおおわれ、狩りの響き、鐘の音、愛の歌に包まれる。やがて夕暮れ時になり、甘美なセレナーデが流れる。

第4部 主顕祭 La Befana

 「主顕節前夜のナヴォーナ広場。お祭り騒ぎの中、ラッパの独特なリズムが絶え間なく聴こえる。賑やかな音と共に、時には素朴なモティーフ、時にはサルタレッロの旋律、屋台の手回しオルガンの旋律と売り子の声、酔っぱらいの耳障りな歌、さらには人情味豊かで陽気なストルネッロ『われらローマっ子のお通りだ!』も聞こえてくる。」

 ナヴォーナ広場で行われる主顕祭前夜の祭がモチーフ。三賢人がキリストを礼拝した主顕祭は、カトリック信者にとってはクリスマス以上に重要な行事で、その騒ぎぶりも半端ではない。さらに、イタリアでは1月6日の朝、魔女のベファーナが暖炉に吊るしてある靴下に良い子だった子供にはキャンディやおもちゃ、悪い子には木炭を入れていくという民間伝承が広がり、広場にはベファーナの人形や仮装、お菓子を売る屋台等で大変にぎわう。第4部のイタリア語の標題「La Befana(ベファーナ)」は、文化の違いに配慮したのか英語では「Epiphany(エピファニー)」と表記され、日本でもその流れで「主顕祭」と訳された。

 踊り狂う人々、手回しオルガン、物売りの声、酔払った人(グリッサンドを含むトロンボーン・ソロ)などが続く。強烈なサルタレロのリズムが圧倒的に高まり、狂喜乱舞のうちに全曲を終わる。

※ 以前の記事

① レスピーギ「ピアノのための6つの小品」

② レスピーギ「ローマの噴水」

③ レスピーギ「ローマの松」

 

 

レスピーギ:交響詩「ローマの松」 「ローマの祭り」 「ローマの噴水」

デュトワ(シャルル) (アーティスト, 指揮), レスピーギ (作曲), & 1 more  Format: Audio CD