通常は興味を示すミュージシャンではないんですが、シンガーソングライター系が自分のブームになっているし、ふと耳にしたアルバムのデキが良かったので手に取ってみました。

Paul Simon"So Beautiful Or So What"
ソー・ビューティフル・オア・ソー・ホワット/ポール・サイモン

¥2,800
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実によく練り込まれ、細部まで気を使って創られたアルバムです。
歌も声もいいし、楽曲もバリエーション豊か。
アレンジメントも平板に終わらず冴えている。

このクオリティの高さは特筆ものでしょう。

しかし、自分の中で評価は揺れ動きます。

その質感の高さに身をゆだね楽しめる時間と、物足りなさを抱えながら聴く時間と。

物足りなさを抱える時は、聴きながらだんだんとフラストレーションが溜まってきます。







キレイに質感高く創られた、ポピュラーミュージックなんですね、これは。
ロックのベクトルを持っていません。
ノイズの存在感がありません。

70歳にして5年ぶりのアルバム。
ロックの系譜で語られることもある彼ですが、やはりこの年齢的には刺激とかノイズはすでに不要で、達観した音楽観で皆が楽しめる音楽を創りたくなるんでしょうかね。

職人技としては楽しめるけれど、自分の中に食い込み、揺り動かすエネルギーは出てきません。
この音楽に向きあって聴こうとすると、見事に肩すかしを食らってしまう。

ひとつにはノリ、だと思います。
そして、どの楽器の音にも刺激が非常に少ない。
極上のポピュラーミュージックを創り上げるために、役割に徹した楽器の音。

存在感のカタマリのような、ノイズであふれた突き刺さってくる音は、ここにはありません。
欠落感や焦燥感からたまらず溢れてきた音楽ではなく、エンタテイメントとして創られた音楽。

しかし、この音楽のレベルの高さはさすがです。
70歳とは思えない、声の張りと艶。
どこまでも破たんなく、バランスが整えられ磨きこまれた音楽。

自分がロックを求めてるモードじゃない時には、満喫できます。
極上のポピュラーミュージック。



イギリス勢が不調だ不調だと言いながらも、けっこう良いアルバムのリリースが続いてます。

最近では Arctic Monkeys 、The Horrors などの中堅どころと、話題の新人 WU LYF 。

WU LYF のデビューアルバム、 "Go Tell Fire To The Mountain"
Go Tell Fire to the Mountain/Wu Lyf

¥2,079
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まず、最大の特徴はボーカルでしょう。

類人猿が叫んでるかのようで、言葉もとても英語圏のグループの英語には聴こえませんね。
彼らの音楽のつかみでありながら、アクの強さがプラスにもマイナスにも働くような、強烈な存在。
方向性はまったく違うけど、先日ご紹介した Wild Beasts もボーカルの個性が受け入れられるかどうかの分岐点になってましたね。

これもまたWild Beasts に共通するのですが、バックの演奏がとてもいい。
強烈なボーカルと思いきったバランスをとる演奏。
ボーカルをうまくサポートしながらも、曲にしっかりとしたサウンドスケープを付け加えるサウンド。

WU LYF の場合は、いかにもブリティッシュといった雰囲気のギターを中心としたサウンドです。
アルペジオや単音のフレーズを中心としたギターは、Foals にも通じるところがありますね。
なんとなく The Smith を彷彿とさせる瞬間もあります。







いいと思いますよ。
でも。
特徴的であり、面白いんですが、この音楽に対してあるレベル以上にのめりこめないでいます。
原因はやはりこのボーカルにあります。

感情移入ができないんですよね。
最大の問題は、やはりあの歌い方です。
全編同じトーンで歌い方の幅が狭い上に、何言ってるんだかわからない。

このボーカルが聴こえた瞬間にどの曲も印象が似てしまう、と思うのは僕だけでしょうか。

とてもいいものを持ってるのに、ボーカルがこのままだとセカンドアルバムをどうするんだろう、これからの展開はどうなるんだろう、とちょっと不安。

歌は音として気にならなくなって、ギターを中心としたサウンドの魅力に浸れるか。
歌が気になって、離れて行くか。

そろそろ、その境目に差し掛かろうとしています。



前作 Primary Colors が大きく評価されたHorrorsですが、強いオリジナリティは感じるものの、その世界に入りきれませんでした。

ダークな基調にシンセの入れ方で独特の色彩感が出ている楽曲たち。
自分の好みからすると、そのダーク感自体に殺伐とした印象があり、色彩感もわりと乱暴に付け加えられた感があって、ダーク感と色彩感がうまく融合していないというか、全体バランスに不満が残るアルバムでした。ボーカルも今一歩の印象。

それでも自分の聴いていないファーストから見ると圧倒的な進化だとかで、NMEでは年間ベストに選出されてましたね。

そんなわけで新作には多大な期待はしてませんでしたが、違和感を感じながらもその世界観の持つ可能性は感じていたので、目にした新作ジャケットの世界観がそこを広げてくれてる気がしたこともあり、購入。

The Horrors "Skying"
スカイング/ザ・ホラーズ

¥2,490
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彼らのセルフプロデュースです。
セルフプロデュースは、実力を勘違いしたミュージシャンがやって失敗するケースと、自分の創りたかった世界観を純度高くカタチにすることができて成功するケースに、はっきりと分かれる気がします。

今回のセルフプロデュースは、前作のプロデューサーが自分たちだけでできるんじゃないの、と発言したことで発生したとかしないとか。
まあ、それだけプロデューサーの仕事に口出しするウザいやつらなのかもしれませんね。
実力もあったのでしょうけど。

逆に言うと、自分たちの音楽に対する具体的なイメージとアイデアがあるということで、大いに期待したいところ。

で、このサードアルバム、世界観がさらに進化しました。
自分がセカンドアルバムに感じた違和感がことごとく改良されてます。

融合せずに浮いていたシンセによる色彩感が落ち着き、楽曲にフィットしている。
ボーカルから粗さが取れ、より歌に向いて来ている。

ある種、セカンドの世界観に強烈な魅力を感じた人たちにとっては、落ち着いてしまったとか、平板になって他との違いがなくなってしまったとかの印象を持つのかもしれませんね。

その分、賛否両論が起きそうなアルバムではあります。

シングルカットされた曲。この曲がこのアルバムを代表しているとは思えませんが、YouTubeに他の曲がほとんど存在してません。著作権パトロールが厳しいんでしょうね。


アルバムではとてもいいノリを見せてくれる曲。ライブバージョンで。


他にもっと紹介したい曲があるんですけどね。

ボウイなどグラムロック系の色気や、SUEDEの妖しさも加わり、曲によってはSUEDEを彷彿とさせるものもあります。
アルバム最後の Oceans Burning という曲がたまりません。
まさにSuede級のナルシシズムが爆発したような、耽美のスパイラルにはまりこんでいくかのような曲です。
これもYouYubeにのってませんでした。

3年経って同じ音楽やってるなんて信じられない、とのたまった彼ら。

若干地味な印象もありますが、バランス悪く突出していたトゲがバランスよく整えられ、深みが加えられて見事なブリティッシュ・ロックに仕上げられたアルバム。

知性と毒性の両立。

一過性に終わらず、何度も聴くことになるアルバムになりそうです。


最近あまり本の紹介をしてませんね。


音楽聴くのと読書は、やはり時間の取り合いです。

どちらも満喫できるまで時間があればいいんですが、1日24時間ではとても足りません。


自分が好きな作家。


おそらく、ジェイムズ・エルロイが筆頭に挙がってくるでしょう。


アメリカのミステリー作家です。ノアールの旗手。


ブラック・ダリアとか、LAコンフィデンシャルが映画化されたので、そちら方面で聞いたことがあるかもしれませんね。

その2作は、彼の代表作LA四部作のうちのふたつです。

4作とも大傑作で、この4冊のおかげでエルロイが自分にとって最も好きな作家のひとりになってます。


ちなみにこれは、4部作の最終編、ホワイト・ジャズ。

ホワイト・ジャズ (文春文庫)/ジェイムズ エルロイ
¥940
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4部作を通して、犯罪への妄執、暗い情念の世界が描かれます。

刑事が事件に捉われ、人間としてのバランスを崩して行きながら、情念だけが突き進む。

その物語が、異常にドライな筆致で描かれます。

彼の文体に触れるだけで至福ですが(翻訳だけどね)、そのミステリーとしてのプロットも半端じゃありません。


そのエルロイ、LA4部作に続く、アンダーワールドUSA3部作を創作中ですが、ついにその最終章である3作目「Blood's A Rover」の上梓が決定しました。

どうやらJ・エドガー・フーヴァーを軸にした物語になりそうだとか。


なんと10年ぶりの長編です。


楽しみにするなと言う方が、無理。

7月23日の発売ですが、すでに待ちきれません。


単行本の上下巻という、そうとうな長さです。


あの情念に捉われた何人もの悪党や警官たちが、複雑かつ緻密なプロットの中で、破滅に向かって突き動かされていくのでしょう。

楽しみでたまらん。


音楽と本との、時間の縄張り争い。

7月下旬からは、本の勢力が勝るんでしょうか。


10代のメンバーが中心となったグループはこの世にたくさんあるわけですが、おっさん世代に突入している自分にとって、しっくりくる音楽を創っているグループばかりじゃありません。

むしろ、しっくりこないグループの方が多いかもですね。

以前レビューした結構人気の高い Smith Westerns ですら、その輝きは認めるものの、おそらく若さを源とするどこかしら過剰なところ、メロディ完結の強引さだったり音の粗さだったり、に違和感を感じる自分がいます。

Smith Westerns については、自分の嗜好との相性の問題だろうと思いますが、若さの持つ未熟さや未完成さという可能性を秘めた側面を活かせるかどうかは、本人たち次第。
その時の若さの持つ勢いだけがすべてで、未完成な粗さだけに終わってしまうミュージシャンが多いのも確かです。

先日も軽くご紹介した、デンマークの10代グループ Iceage
彼らのデビューアルバム "New Brigade" を聴く限りでは、もちろん未完成な粗さはあるけれど、ある種の強烈なベクトルをその音楽に持っているなあと感じます。
New Brigade/Iceage

¥1,700
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マンチェスターからの新人 WU LYF のような一聴してわかるほどの強烈な個性を放っているわけではないけれど、ブレない意思の強さというか、目指すところの明確さというか、とりあえず任せたぞやってくれい、という気持ちにさせる何かがあります。

音の立ち姿がりりしい(?)。
このグループもローファイなインディ一派にくくられるのかもしれませんが、明らかに違います。
音の硬さ、エッジ。
余計な甘さやぜい肉がついていない。







その昔、パンクからニューウェイブ、オルタナティブに向かって時代が疾走している時、こういった音の表情を持つロックが、立ちあがったばかりのレーベルからたくさん飛び出してきました。

レーベル買い、ジャケ買い、オススメ買い、なんでもあり。
もちろんハズレもしたし、すぐ聴かなくなったのもたくさん。
しかし、その中の何枚かは、時代を大きく動かし決定的なインパクトを与えた音楽として、今でも宝物のようなアルバムです。

Iceageからは、良くも悪くも、その時の空気感を感じますね。

ステージでは流血していたりで、そのあたりは手放しで褒められない思いもあるんですが、音楽性だけ見るとPILとかポップグループなど、デビューアルバムがまず評価され、セカンドで孤高の輝きを放った例もあります。

衝動と感性だけで成り立った一過性の輝きではあまりにももったいないので、デビューアルバムで見せたポテンシャルをベースに、自分達の音楽に対し意識的に突き進んで欲しい。

がんばれ、17歳。