女性のボーカルはもともと好きなんで良く聴きますが、中でもひいきにしているのがサウンドデザインまでこだわり、自分のロックを創り出す女性ミュージシャン。

最近アルバムをリリースした人でいえば、Feist や Sharon Van Etten 、St.Vincent 。
彼女らは基本シンガーソングライターですが、創り出す音楽はオルタナティブ・ロック。
ボーカリストとしては今一歩魅力に欠けるところもあるけれど、とても良くデザインされベクトルの明確な音楽を創り出してくれます。

単なるロックに留まらず、音がよく整理されて一音一音が際立つ創り方が多いのが特徴。
音が潔く、凛とした佇まい。

そしてこの人、 Cat Power
アトランタ出身のシンガーソングライターです。
活動歴はけっこう長く、これが9作目のアルバム。

"Sun"

Sun/Matador Records

¥1,416
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このアルバムも、音が潔くキリッとした佇まいです。
ダラダラしていたり暑苦しかったりすることはなく、実に凛々しいサウンドスケープ。
なんでこういう音創りは女性が得意なんだろうと思ったり。
やはり声とのバランスなんですかね。

ギターの音もピアノの音もシャープで気持ちいい。
実にクールなオルタナティブ・ロック。





このギターの音がたまらない。



あえて贅沢を言えば、ボーカリストとしての魅力がもう少しあれば。
声質の魅力でもいいけれど。
そうなれば、実にたまらない音楽になるのに。

例えば、Kate Bush や Joanna Newsom のようにね。
彼女らはボーカリストとサウンドメイカー双方で突出した天才だけれど、ケイトは年齢とともに音楽性がブレてきたし、ジョアンナは最近動向を聞けません。

彼女らの次を担う、ボーカリストとしての魅力を兼ね備え、サウンド的にもアグレッシブでクールな女性ミュージシャンが早く出てきてくれないものでしょうか。
ハードでソフト。
ノスタルジックでサイケ。
ドリーミーでノイジー。
甘さと凶暴性の共存。

サンフランシスコに拠点をおくグループ、 Sleepy Sun
彼らのことは最近まで知りませんでしたが、これが一聴して一目ぼれ。

3枚目のアルバム、 "Spine Hits"

Spine Hits/The End Records

¥1,227
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特にボーカル。
時々ボウイかブレット・アンダーソンかとも思える色気を感じます。
ギターもノイジーでキレがいい。
そしてそのボーカルとギターを中心としたサウンドとのバランスも素晴らしい。
グッドメロディをベースに、甘さと激しさが共存し、アルバム通して展開にメリハリもある。

基調は、非常に聴き応えのある、ロックンロール。
自分としては最近では珍しい、ストレートなロックが新鮮。





ブレットとバーナードか?


並みのガレージロックなぞ吹き飛ばすクオリティ。
こういう質の高いバンドがまだ埋もれているアメリカ。
いや、自分が知らなかっただけか。

USインディの奥深さは、底知れない分だけとても楽しい。
ブルックリンUSインディの中心、 Grizzly Bear

前作 Veckatimest は素晴らしいアルバムでした。
USインディの中でも明らかに異質。
Dirty Projector の Bitte Orca と並んで、聴いたらすぐに体の芯まで音楽が届くアルバムではなく、あえて予定調和をはずした展開や、落ち着かないメロディ進行など、その消化にはそれなりの時間とステップが必要とはされるけれど、並みのミュージシャンには創り得ない高い芸術性・創造性にあふれたロックでした。

そのメンバーであるクリス・テイラーとダニエル・ロッセンが最近リリースしたソロアルバムを聴くと、バンドの方向性とまったく違うエレクトリック中心の音楽をやったクリス・テイラー、バンドのアコースティックパートを取りだして拡大したダニエル・ロッセンと、その嗜好性の極端な違いに驚き、納得もしたわけです。

クリス・テイラーは、今はグループ名を変えてしまった旧・The Morning Benders の傑作アルバム Big Echo をプロデュースした人でもあり、バンド・ソロ・プロデュースと方向性の異なる3つの活動で素晴らしい結果を出しているし、本当に多才な人達の集まりがこの Grizzly Bear というバンドです。

ある種、主要メンバーのふたりがソロアルバムをリリースすることでのガス抜きも終了したわけで、ニュートラルポジションに戻った4人がどんなアルバムをリリースしてくれたのか。

主要メンバーがソロアルバムをリリースした後というのは、グループのアルバムが薄味でそっけないものになる危険性もありますからね。

4枚目のアルバム、 "Shields"

Shields [帯・解説付き / 国内盤] (BRC344)/BEAT RECORDS / WARP RECORDS

¥1,800
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レベル感は、ある種想定通り。
でも中身は想定を超えていました。

ダイナミックに、より凝縮された Grizzly Bear 。
それぞれのメンバーの嗜好性が高い次元で昇華され、独特のベクトルをもつアルバムに仕上がりました。
本来は別のベクトルを志向するミュージシャンたちが、ひとつのベクトルを共有してその完成度を高めるためにエネルギーを集約したのでしょう。

ロックの持つダイナミズムがストレートに出され、今までは美しいけれどところどころに聴きにくさも持っていたメロディもよりブラシアップされた印象。
そして何よりも、どの曲も美しく輝くしなやかさを持っています。

しなやかさは、彼らがもともと持っていた資質だけれど、繊細なしなやかさだけでなく力強さが加わったしなやかさ。







昨年のベストアルバムの選出をしなかった最大の理由が、このアルバムを年内に聴く時間がなく、候補に入れられなかったことです。
じっくり聴きたいアルバムだったので、忙しさの中で中途半端に聴きたくなかった。

それだけ期待していたわけですが、彼らは見事にそれに応えてくれました。
実に完成度が高く、素晴らしいアルバムです。

これは昨年リリースのトップクラスであることは間違いありません。
いや、確実に1位を争うアルバムでしょう。
やっぱり音楽には相性ってものがありますね。

単純な好き嫌いだけじゃなく、すんなり自分の中に入ってくる音楽なのか、消化するのに時間がかかる音楽なのか。
一目ぼれだけで終わるものや、聴けば聴くほど好きになっていくもの。
いろんな相性がありますが、このミュージシャンは、実は自分にとってけっこう付き合い方が難しい。

Tame Impala

オーストラリアのグループです。
前作のデビュー作、 "Inner Speaker" は今ではとても好きなアルバムです。
そのディストーションのかかり具合といい、独特の密度感のあるサウンドといい、彼らならではの音の感触。
このアルバムは、暑くて空気感の濃密な夏に空を見ながら聴くのが好きだなあ。

ただし、このアルバムが好きだ、と確信を持って言えるまでにけっこう時間がかかりました。

凄く良さそうで絶対にハマると確信してても、何度聴いても今一歩乗り切れない。
こんなはずではない、と思いながらも、なぜか引き寄せられるように何度も聴く自分。
聴きたくて聴くんだけれど、なかなか納得感が得られない。
結果として、突如腑に落ちたというか、ああやっぱりいいよなあ、と思う時がきたわけですが。

そもそもサイケ感というものが、自分にはそれほど魅力的には響いてこないということもあります。
だからなのか、サイケ感をウリにするミュージシャンには、それほど好きな人がいません。
それが Tame Impala との相性につながっているんだろうと思いますが、彼らはそれを消化して自分たちのオリジナリティに仕上げているのが、高評価。

そしてリリースされたセカンドアルバム、 "Lonerism"

Lonerism/Modular Interscope

¥1,742
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さて、このアルバムとの相性はどうか。
どのように好きになっていくのか。







今ではけっこう好きです。
特に Elephant がいい。

やっぱり時間がかかりました。
ああ、これはやっぱりいいアルバムだな、と実感できるまでに。

最初に聴いてやはり強烈なオリジナリティは感じたんですが、そこからなかなか先に進まない。
また同じだな、と。

良いとは思うけど、手放しで褒めるところまで自分の中に入ってくるのに、自分の脳のどこかが抵抗している。

ファーストに比べて、ややすっきりしたでしょうか。
アクの強さはそれほどでもなく、シンプルにポップに整理された印象があります。
ごった煮的な混沌のパワーは抑えられている感じ。
ノイジーでサイケなギターも控えめ。

その分、より幅広い人に受け入れられそうではあるけれど。

そのことがもしかしたら物足りなさにつながっているのかもしれません。
ファーストには原初的なエネルギーがあふれていたので、そこにようやく適応した脳が、ちょっとした抵抗をしているのかも。
昨年の新刊本ではありませんが、久々に脳みそが揺さぶられる本に出会いました。

伊藤計劃 「虐殺器官」 。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)/伊藤 計劃
¥756
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タイトルがちょっと不気味だし、描写にも気持ち悪い箇所が少し(いや、大いに)ありますが、これほどまでに凝縮度とスピード感のある傑作だったとは。

伊藤計劃は、ジャンル的にはSF作家ですが、すでに2009年に34歳で亡くなっています。
彼が残した長編は2作しかありません。
そのひとつ、彼の長編デビュー作がこれです。
ゼロ年代の最高傑作SFという人もいます。

SFと言っても、まったく荒唐無稽な時代や背景ベースで成り立つものではなく、現代の延長線として読める近未来もの。
ただドンパチやってストーリーを追いかけるだけのエンタテイメントではなく、ある種、哲学的で思索的な側面も持つミステリー仕立て。

これだけ大胆な仮説と架空テクノロジーをベースに組み立てられた小説にしては、実に精緻かつ論理的に描き込まれ、いかにも実現しそうなリアルな舞台感。
テクノロジーの背景となる知識がなければ描けないし、知識があるだけで構成力と筆力がなければ、リアリティある描写はできない。

まあこれはありえんだろう、と思うようなテクノロジーでも、いかにも実現されそうに描いてしまう。

そして、これだけの構成と情報量と想像力を1冊の本にまとめあげたということ。
少しでも詰めが甘くなると緩い構成になって、上下巻などに分かれがち。
それを1冊にまとめたわけなので、その密度はやはり濃い。
これがこの小説の醍醐味でしょう。

すごい本は最後のページを読み終えた後、なんとなく放心状態に陥ります。
次の本を読み始めるのにしばらく時間がかかります。
その世界観の余韻に浸っていたいから。

これほど想像力豊かな物語をこれだけリアルに描き込める。
天才のあまりにも惜しまれる急逝。