RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~ -5ページ目

RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~

こンな髪形してますが、アラフォーのおっさんです。
このブログでは、過去に体験した奇妙な恋愛話を綴ってます。
一部不快な表現も含まれておりますので、予めご了承ください。

「なンや、事務長。
えらいご機嫌ナナメやないか?」

今夜は民族舞踊が見られるレストランでの夕食なので、私は送迎車が来る集合場所へ向かったが、オッさん共は私の表情を見て訝しんでいる。

「い、いいえぇ!
さっき昼寝したモンだから、時差ボケがブリ返したンですヨ!」

――さすがはドクターやなぁ。
ヒトの顔色を読むのには長けているワ(汗

「おや、事務長。
時差ボケって言っても日本とは1時間しか時差はありませんヨ!
ねえ、理事長先生。」

――ギク!

「あ、い、いや、飛行機の中では全然眠れなかったのと、今日は朝から観光だったので疲れてたンですヨ」

オッさん達はなンとしても私のしかめっ面の理由を訊きたがったが、どうにか躱すコトが出来た。

――ホントのコトを言ったら、どうせ酒の肴にされるダケやンか・・・

「サテ、ミナサマ。迎エノ車ガ到着シマシタヨウデス。
ソレデハ出発シマショウ!」

ガイドが現れたおかげで私への詮索は打ち切りとなり、一行はレストランへ向かった。

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「なンや、キミ。
せっかく目の前でお姉ちゃんが踊っているのに、さっきから携帯ばっかり見て、オマケに小難しい顔してからに・・・」

――ギク!

私は目の前の民族舞踊など眼中にはなく、昨日の依頼のコトでアタマがいっぱいだった。

「サテ、皆サン。
宴会ハソロソロ、開キトナリマス。
コノアト一度ほてるへモドリマシテ、ツギハ空港マデお送リ致シマス。
オ忘レ物ノナイヨウ、オ気ヲツケクダサイ!」

――おお!ガイドさん、グッジョブ!

またもやガイドのおかげで余計な詮索を避けるコトが出来た。

それから飛行機に搭乗するまでは、ずっとメールのやり取りをしていた。

――しかし、どうも何かがおかしい・・・

「給与明細に雇用保険の控除が記載されているなら、勤め先が倒産した場合は労基署が給料を立替払いしてくれますよ!」

『雇用保険は引かれてません。
勤め先は会社ではないんです・・・』

そンなにヤバイ勤務先なら、今の間に給料を貰ってさっさと辞めれば良いではないか。
それから、経営者に金を貸すとはどういうコトなのか・・・
その辺りに話題が向くと、彼女は途端に返信しなくなってしまう。

『詳しいコトは、お逢いしたトキに全部お話しします。
お願いだから助けてください!』

――こうまで言われてはなぁ・・・

一度ダケしか逢ったコトの無い、それも半年前の知り合いだけど、ココで見て見ぬ振り出来るホド、オレは人間が練れてないからなぁ(^^;;

「業種は?販売業?製造業?
それとも派遣かな?」

『明後日 土曜日の正午、N駅の7番出口で待ってまぁす♡』

――またはぐらかされたなぁ・・・

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最後の受信メールを確かめたあと、携帯の電源を切った私は、アイマスクを着けて飛行機の離陸を待った。

これからどンな依頼が待ち受けているのかわからなかったが、とりあえず聴くだけでも聴いてみよう。

これからこの暑い国からまだ寒さの残る日本へ帰るワケだか、私の気持ちも同じく、最初の浮ついた気持ちは全く無くなってしまっていた。


つづく
「それじゃ、ワシらは今からお姉ちゃんの店に行くケド、キミはホンマに行かへンのか?
相変わらずお堅いやっちゃのぉw」

笑い声を残しながら3人のオッさん共が去って行った。

ココは東南アジアの某国。
私は理事長のお供で、3泊4日の旅行に参加している。
表向きは「視察旅行」となっているが、同行しているのは医療材料販売会社の社長と生命保険会社の営業マンで、旅程の方はゴルフと宴会の接待尽くし。
これではいったいなンの視察をするのやら。
さらに今からオッさん達が行く所は買春宿のハズだ。

私は別に身持ちが硬いワケではないが、東南アジアは病気が怖いと聴くので、そこは「君子危に近寄らず」に徹しているダケである。

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夜までヒマを持て余すのもなンだから、とりあえずプールにでも行って、カクテルを飲みながらゆっくりとくつろぐコトにしよう。

と、プールサイドでジントニックを飲んでいると、携帯が鳴り出した。

――やっぱり一緒に来いってか?

理事長からの電話だと思ったが、声の主は全く違うヒトだった。

『リンさん?お久しぶりです!
今ちょっとイイですかぁ?』

――ん?誰だったかなぁ・・・

梨乃さんに別れを告げてから、一年半が過ぎた。
私はもうすぐ36歳になろうとしているが、アラフォーと呼ばれるこのオッさんに女性から電話があるとは珍しい出来事だ。

『あ~!リンさん、アタシのコト覚えてませんかぁ?』

画面には「石川 美紅」と表示されているが、さて誰だったか・・・

――お!確か異業種交流会で知り合った、介護士の・・・

「いやいや、ちゃん覚えてますヨ!
確か○○介護センターの石川さんですよネ?」

『嬉しいィ!
ちゃんと覚えていてくださったンですネ♡
あ、今ちょっとお時間イイですかぁ?』

「あ、スンマセン。
実は私、今 外国にいてまして、このまま話すと通話料がびっくりする金額になりますよ。
明後日には帰国しますケド、それからじゃダメですかネ?」

『え~!!それは大変だぁ!
じゃあ、後でメールするから読ンでくださいね。
帰国したら連絡くださぁい♡』

――なンだろう?

職場には多くの女性スタッフがいるのだが、私の職位では女性が親しく話しかけるコトもなく、稀に話しかけてくる女性がいてもたいてい私よりもずっと年上で、その内容もクレームばかりだ。

異国の地で若い女性の声を聴けるとは思ってもみなかった私は、偶然の電話に少なからず心を踊らせていた。

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私は年に数回、医師・歯科医師・薬剤師・介護事業者などで構成される異業種交流会に参加している。

石川さんとはおそらくそのトキに知り合ったのだろうが、何を話したのか、またどンな容姿の女性だったのか全くもって覚えていなかった。

そして数分後、さっきの女性からのメールが届いた。

『ミクで~す!
リンさん、お久しぶり(^_-)
アタシのコト覚えてくれていてありがとう♡
実は、リンさんにおり行って相談したいコトがあります・・・』

――な、なンや・・・?

『勤務先が倒産しそうなンだけど、もしそうなったら給料はどうなるの?
それから、経営者にお金を貸してるンだけど、どおしたら還してもらえるのかなぁ?』

――おいおい(^_^;)
さっきまでの踊った心をどうしてくれるンだ!

思わす叫びそうになった私だが、よく考えると(考えなくとも)アラフォーになったオッさんに若い女性から色気のある誘いがあるハズは無かった。
要するに彼女は、単に事務長としての私に相談を持ちかけたダケだった。

――なンでこンな案件を国際通信を使ってまで・・・

私は多少愚痴りたくはなったが、「義を見てせざるは勇無き也」の師匠の教えを守るため、雇用保険の概要と制度を解説したメールを石川さんに返信した。

『あのぉ・・・
勤務先は介護事業者じゃないンです。
実はアタシ、あンまりヒトには言えないトコロで働いているンだけど・・・』

――はあ?

携帯の写メデータに交流会の写真があったコトを思い出した私は、とりあえず石川さんの写っている写真を探してみた。
人物が固まっているグループ=職業別なので、介護士の中から知っている顔を探すにはさほど手間取らなかった。

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――この娘だったよナ?

写真に写っている石川さんは、歳の頃なら28~29歳で、利発で気の強そうな、そして清らかな印象の女性だった。

――いったい彼女に何があったのか?

こうなるとメールのやりとりはかなりまどろっこしかったが、なにせココは海外なので長時間の通話が憚られる。
私は要件を掻い摘んでメールを送ったが、彼女からの返信はイマイチ要領を得ない。
彼女の方ももどかしくなったのか、何度目かの返信は以外なモノだった。

『あのぉ・・・
もしリンさんさえよろしければ、この週末にでもお食事をご一緒させていただけませんか?』

――え?そ、そりゃあ・・・

私には断る理由など何も無い。
むしろ喜んでお受けしたいトコロだが・・・

――あ、ああ、そうネ(^^;;

何もデートのお誘いを受けたワケじゃないから、そう手放しで喜ぶコトでも無かった。

そンなワケで、私は元介護士さんから、この奇妙な依頼を引き受けるコトになった。

季節は春にはまだ早い2月の中旬、東南アジアの暑い夕暮れの中、35歳と9ヶ月の出来事だった。


つづく
『件名:こんにちは!
先週末に退院しました!
いろいろご心配かけてごめんなさいm(__)m
リンくんには直接逢ってお話したいことがあります。
今週土曜日の午後に逢えませんか?』

電話


――ふん。何をいまさら・・・

ドタキャンから1カ月以上が経過した。
10月になってから朝夕もすっかり涼しくなり、オマケに私の心もすっかり荒んでいた。
例のショットバーで驚くべき事実を聴いた後、梨乃さんへ連絡する気も全くおこらなかった。

――入院の話にしたって、真実かどうか・・・

そう、話があまりにも出来過ぎているような気がした。
最初に病気の話を聴いたトキは私もかなり驚いたが、だからと言って急に音信不通にならなくともよいのではないかと思う。
それに、病気と闘っている間は、私も見舞に行って励ましたりと何かと力になってあげたかった。
見舞にも来させないのは、「本当は入院なンてしてなかったのでは?」と疑ってしまう。

――それに、あの電話の若い男・・・

携帯を間違えて持ち帰られたと言っていたが、私に電話をかけてきたあの若い男は本当は誰なンだ。

――ん?若い男???

そういえば、今の今まで気にしていなかったが、電話の声は確かに若かったようだ。
あの時は突然のコトに驚いてしまったが、あの声は忘れられるモンではない。

「こらぁ!われェ!!!」
そう、大声を出した時に裏返った声は、私のようなオッサン声ではなく、甲高く若々しい声だった。


「なに、ヒトの嫁はンに手ェ出してくれとンぢゃぁ!!!」
うん、「手ェ」と「ぢゃぁ」も裏返っていた。

あれは明らかに私よりは10歳以上は年下の、それも華奢な体格の声に違いない。


――川は両岸から見よ、と言うしなぁ・・・

私はバーのマスターから聴いた話を信じきっているが、梨乃さんからは何も聴いてなかった。
真実を知るためにも、今度の土曜日には全てを聴いてみることにした。

・・・・・・・・・・・

地下街

――あれ?梨乃さん?

ここはO市の繁華街にあるN駅から続く地下街。
待ち合わせ場所には梨乃さんがいるが、その前に1人の男性がいる。

後姿なのでよくわからないが、来ている服装から見て10代後半から20代前半だろう。
頭は茶色く染めていて、上着もパンツもラフな、というよりちょっとワイルドな感じだ。

――なンだ?不良にでも絡まれてるのか?

その割には梨乃さんには怯えた表情が見えず、むしろ困惑しているように見えた。
私は離れた場所で見守っていたが、何度目かの言い争いの末に男性がこちらへ振り向いて走ってきた。
そして私とすれ違う前、もう一度振り返って梨乃さんに叫び、今度は脇目も振らずに走り去っていった。

――オカンのアホ?確かにそう叫んだよな・・・・

梨乃さんはようやく私に気付いたようで、少しバツの悪い表情になったが、すぐ笑顔になり走り寄ってきた。


・・・・・・・・・・・・・

個室


『ごめんなさいネ。さっきは驚いたでしょう?』

ここは2人で初めて来たレストラン・バー。
1か月半ぶりに見る梨乃さんは相変わらずの美貌だが、心なしか顎のラインが尖って見える。
やはり、入院していたのは本当のようだった。

「もう体調の方は大丈夫なンですか?」

『ええ、おかげさまでもう大丈夫ヨ♡』

「ところで、さっき梨乃さんと口論していた男は誰ですか?」

『ああ。バッチリ見られてたもんネ。
うん、全部正直に言うワ。
あれはウチの息子。
3人いる子供の一番上なの』

――え、ええ!?

『それから、ウチのホントの歳は39歳。
バツイチ、子持ち、でも借金は無し。
どう?驚いた!?』

――え、え、え、えええええ!


「そ、そ、そ、それじゃぁ・・・」

『だから、私の方が年上って、最初っから言ったでしょ♡』

「だ、だ、旦那サンは・・・・」

『ああ、電話のコトね。
あれはさっきの息子がやったの。
ウチに新しい彼氏ができるたびに、ああやって嫌がらせするのヨ。
ホントにごめんなさいネ。』

私の目の前に不意にあのメールの文字が蘇った。

「おまえあほか わしだんなや」

――そうか!

全部「ひらがな」とはおかしなメールだとは思っていたが、今この瞬間やっと腑に落ちた。
どうやら私は、知らない男に母親を取られまいと思った子供たちに、まんまとしてやられたワケだ。

「はは、ははは、あっはははは!」

久しぶりに腹の底から笑えてきた。
しばらくは呼吸困難になるほど笑ったが、梨乃さんの表情は曇っているようだった。

『それでね、リンくん。
これからの2人のコトなンだけど・・・』

「はい、なんなりと言ってください!」

『一番上の子が大学に入るまであと2年、その下があと5年あるの。
一番下は女の子だから、そンなにお金はかからないケド、それまでは風俗のバイトは辞められないの。』

「は、はぁ・・・」

『それから、子供にリンくんの存在がバレちゃってね。
ほら、いつものバーのマスター。
アイツがウチの子と道で会った時に喋っちゃったみたいなの。
前にウチがアイツの告白を断ってから、時々ウチに嫌がらせをするのヨ。
そのたびに行かなくなるンだけど、しばらくすると詫びを入れてくるからまた行っちゃうんだなぁ。
でも、もう今度こそ、絶対に行ってやらないンだ』

――じゃ、ハンターの話はウソかいな?

『ウチはリンくんとは離れたくないンだけど、子供たちが猛反対するの。
どうしたらいいかなぁ?』

――はぁ・・・・・・・
そりゃあ、ある日突然、こんな親父が出来たら嫌やわなぁ。

「オカンのアホ」

さっきすれ違いざまに聴いた声が、私の耳に蘇ってきた。

「わかりました。
理由が理由だけに、私にはどうしようもありません。
梨乃さんとお子さんたちの仲が悪くなるのは、私にとっても不本意です。
だから、ココは男らしく、きっぱり諦めます。」

『ち、違うのよ、そンなコト言ってないの・・・』

「いいえ。私なら大丈夫です。
こう見えてフラれるのには慣れてますから。」

『だ、だから違うって!そンなコト・・・』

「では、さようなら。今までありがとうございました。」

私はテーブルの上の伝票を素早くとって、そして梨乃さんに背を向けた。
梨乃さんは後ろから何か叫んでいたが、私は立ち止まらずに個室の扉を閉めて出口に向かった。
会計を済ます間はどうにか我慢が出来たが、店を出てエレベーターに乗ったとたん、涙が一気に噴き出した。

――カッコつけすぎたかなぁ・・・

しかし、妥協しながら付き合ったり、誰かに何かを隠しながらの恋愛は、私にはもう耐えられなかった。
また、そンなコトが出来るくらいなら、眞知子サマと別れるコトも無かった。

落日



ビルから出て空を見上げると、そこには秋の綺麗な夕焼けが広がっていた。
秋の高い空から流れる冷たい風が、私の胸の中を通り過ぎていくような気がした。

口ずさめば悲しい歌ばかり
届かぬ想いに胸を痛めて
今日もまた呼ぶ声に応えては
訳もなく砕かれて手のひらから落ちて


路地裏の少年  浜田省吾
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私の名はRIN。
たった今、失恋してきたばかりの34歳。
行き止まりの路地裏で立ち尽くしている、もはや譬えようも無い、悲しくも哀れな中年サラリーマンだ。

Fin