RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~ -4ページ目

RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~

こンな髪形してますが、アラフォーのおっさんです。
このブログでは、過去に体験した奇妙な恋愛話を綴ってます。
一部不快な表現も含まれておりますので、予めご了承ください。

『やっぱりダメですかぁ?』

――なンとかなる。いや、絶対になンとかするンだ!

私は自分の記憶を全力で検索している。
少額訴訟?いや、額がデカすぎる。
では通常訴訟?あ、本人はオリの中か・・・
ん、支払督促は?

「美紅ちゃん!借用書はあるか?」

『うん!今日は持ってきてないケド、家に置いてあります。』

「内容は?覚えてる?」

『え~。甲が乙にとかなンとか・・・。
あと、毎月の返済額とか返済日とか書いてあったような・・・』

「でかした!なンとかなりそうヤ!」

私は思わず美紅ちゃんの両手を握ってしまった。

――あ、しまった!

慌てて手を放そうとしたが、美紅ちゃんは逆に私の両手を離そうとしなかった。

『ホントですかぁ!アタシ、めっちゃ嬉しいンですケドぉ♡』

「いや、まだ詳しく聴かないと断言はできないケド、たぶん大丈夫やワ。」

私は美紅ちゃんに詳しく質問するコトにした。

自宅は事務所の近くにあるが、これは賃貸マンション。しかし2部屋借りている。
これは、むりやり解約すれば保証金が還ってくるが、100万にも満たないだろう。

通帳は臨時の店長が管理していて、おそらく店名義と個人名義両方あるハズ。
女の子の出勤人数は平均して1日に20名前後。
店の金庫には常時多額の売上金が入っているが、銀行に入金するのは週に1回。
これを無理から引っぺがすと、他の女の子に恨まれるだろう。

「それから、店長はクルマ持ってる?」

『うん。ベンツのマークが付いてる4WDみたいなクルマ』

「ん?SUVかな?」

『ううん。AMGって書いてた』

――ゲレンデヴァーゲンAMG!

AMG


ベンツ・ゲレンデヴァーゲンは安いモノでも新車で1000万以上はするし、高いモノなら3000万以上だ。
そして、ソレは中古車でも500万以上はするので、叩き売ったところで300万を下るコトはあるまい。

「よし、ほんじゃ私が、支払督促の申立書を作成するワ。
これで裁判所から督促状が届くケド、たぶん代理店長が受け取るハズ。
そこから2週間経過したら、裁判所から仮執行宣言が出て・・・・」

『リンさん、ありがとぉ!』

――う、うわぁ!

私が債権回収の話を終える前に、美紅ちゃんはいきなり抱きついてきた。
そして、涙を浮かべた目で私をじっと見つめている。

「ちょ、ちょっと、美紅ちゃん?」

『アタシ、ホントはもうほとんど諦めかけてたンです。
もう死のうかと思ったくらい。
でも、この前、リンさんにもらった名刺が偶然出てきて、それで思い切って電話したンです。』

――へ?名刺なンか渡したっけ・・・

『ホントにありがとうございます!』

今度は私にキスをしてきたが、私はとっさに顔をそむけてしまった。

『え?』

「え? い、いや・・・」

『やっぱり・・・。
風俗嬢なンかに、抱きつかれたりキスされるのは嫌ですか?』

「ち、違うヨ!そりゃ嬉しいに決まってるヨ。
でも、私はそンなコトしてもらうつもりで来たワケじゃないから・・・」

上目づかいで私を見つめている美紅ちゃんの目にはだんだんと涙が溢れていた。
下心がないコトを強調したかった私は、かえって美紅ちゃんを傷つけたようだ。

「い、いや、じゃあこうしよう。
この計画が成功したら、その時のご褒美として受け取りますワ。
それでどうですか?」

『じゃ、これは手付金がわり♡』

今度は私の頬にキスしてきたが、さすがにこれを躱すホド私はバカではない。
頬に伝わる美紅ちゃんの唇の感触は、実に心地よかった。

改札口


『今日はホンっトにありがとうございました。
おかげで今夜からぐっすり眠るコトができそうです。
リンさんはアタシの命の恩人ですぅ♡』

――んな、たいそうな(A;´・ω・)

私は地下鉄の改札まで美紅ちゃんを見送りに来た。
N駅はヒトが大勢いるのだが、その人ごみの中、大きな声で呼ばれるとかなり面映ゆい。
しかし、あの満面の笑顔が見られるのなら、このくらいのコトは我慢しよう。


――どうやら、うまくナビゲートできそうやナ。

美紅ちゃんはシングルマザーだが、頼れる両親や兄弟がいない。
元旦那とはDVが原因で別れたらしいので、2度と顔も見たくないそうだ。
美紅ちゃんとは来週の土曜日にもう一度打ち合わせをする約束をしたが、うまくいけばあと数回の打ち合わせで私の役目は終わるハズだ。
私のようなおっさんが若くて可愛い美紅ちゃんの彼氏にはなれないが、せめて彼女が道に迷わないためのナビゲーターにはなれるだろう。


つづく

『アタシの父親はアタシが1歳のころに愛人を作って出て行ったンです。
母は2年前に病気で亡くなりました。
ひとまわり年上の姉が一人いますが、アタシが離婚するトキに迷惑をかけたので、それ以来会ってませン。
だから、こンなコト相談できる相手は誰もいなかったンです。』

――そうか・・・

カラオケボックス


ここは先ほどのレストランの近くにあるカラオケボックス。
ランチを食べ終わった後にお茶でもしながら要件を訊こうと思ったが、話の内容はヒトが大勢いる場所ではやりづらかった。
ホテルのラウンジにでも行こうと思ったが、それでは下心を感じさせられてしまうと思ったので仕方なくこの店を選んだ。

「それで、今日の相談内容だけど、詳しく訊かせてもらえますか?」

『だ・か・ら!
リンさん、アタシなンかに敬語なンて遣わないで下さいよぉ!』

「あ、ごめん、ごめん。
オッチャンはなぁ、あンまり若い娘と話す機会が無いモンで、つい・・・」

『オッチャン?リンさんって、アタシより1つか2つ上でしょう?
リンさんがオッチャンだったらアタシはオバチャンじゃない!』

「なにお!私は美紅ちゃんより4つ上の35歳。あ、もうじき36歳やデ!」

『え~!!ほんとぉ!?じゃ、卯年生まれなンだ。
あ、アタシは未年だからまだ31歳よ。でも4月で32歳になるケド。
でもリンさん、若く見えますよ♡』

「いや、まあ、年の話はそのへんにして、そろそろ本題を」

『あ、ごめんなさい。てへ♡』

――アンタの方がよっぽど幼く見えますがナ(汗

生い立ちや身の上話を訊いているとかなり苦労しているハズなのに、美紅ちゃんはけっこう明るい性格のように見えた。
こンな可愛い娘を困らせている原因はいったい何なのか・・・

『じつは、前の職場で介護士をしているときから、週に何回かは風俗でバイトしてたンです。』

「ええ?」

『介護の仕事って思ったよりもお給料が安くって。
それにアタシ夜勤が出来ないから、他のヒトより余計に少なかったンです。
だから、前の職場を辞めたトキ、いっそ風俗を本業にしようと思って・・・』

――なるほどなぁ・・・

介護事業者はけっこう羽振りが良く見えるのに、そこで働くスタッフ全員がそうとは限らないようだった。
女手ひとつで子供を3人も育てていた梨乃さんも、きっと同じような理由だったのだろう。
私はつい、2年前に別れた相手のコトを思い出してしまった。

『それでネ、どうせ専業でするならもっと稼げるお店にしようと思って。
それに、前に働いてたお店でストーカーに遭ったコトもあるし、だから思い切って違うお店に変えたの。』

「ほうほう」

『前はホテヘルだったけど、今度のお店はデリなの。
入って2カ月で本指名もつくようになって、けっこう稼げるようになったのよ。
でも、ソコの店長がある提案を出してきたの・・・・』

「その提案とは?」

美紅ちゃんの話によると、そのデリヘル店はフランチャイズチェーン方式なので全国に系列店があるらしい。
店名が有名なのでお客は多く来るそうだが、そのぶん本部への上納金も多いらしい。
店長が開店したのは最近の話で、潤沢な資金もまだ溜まっていなかったそうだ。

ところで、風俗嬢というヒト達は、入店して数日経つとバンス(前借)をするそうだ。
店長は嬢達にバンスをさせて、さらにそこから利子もしっかり取るらしい。
本業の収入にプラスして、この利子収入もバカにならないそうだが、肝心の貸付ける資金がそう多くは無かった。

そこで店長は、真面目に働いてお金を貯めこんでいる嬢にも出資させて、回収した利子を店長と嬢で折半する方法を思い付いた。
纏まったお金が溜まったら辞めるつもりだった美紅ちゃんは、この話にまんまと乗せられてしまった。

ところが・・・

『それがネ、事務所の金庫番をしてたボーイが、お金を持ち逃げしちゃったンです』

――ありゃ、ま。

『当然、店長は血眼になってボーイを探し出したンだけど、見つかったトキにはお金は残ってなかったそうなンです。
それで、腹いせにリンチとかやって、無理やりお金を引っ張ろうとしたンだけど、今度は怖くなったボーイが警察に逃げ込ンじゃって・・・』

「うん、うん、それで?」

『店長は前に何かやって服役してたらしいンだけど、弁当持ち※で出所したんです。』

※仮釈放のコト。刑期前に釈放されているが、罰金刑以上の刑罰が課せられた場合は仮釈放が取消になり、仮釈放が許された全ての期間を、刑事施設で過ごさなくてはならない。

『今、店長は警察に行ったまま帰ってこないから、オーナーが代わりのヒトを臨時の店長としてお店を営業してるンだけど、業績が悪くなったら閉店するって言ってました。
でも、女の子たちが貸したお金はオーナーとは関係ないから、戻ってこないって言われました。』

――な、なンと!理屈は通っているようだが、そりゃあンまりだ!!

「そ、それで、美紅ちゃんはいったいいくら貸したの?」

『3です。』

「30万?」

『いいえ、300万円』

――な、なンでまた・・・・

お金を稼ぎに行って、逆に多額のお金を無くしてしまうとは・・・・
それも並大抵の苦労ではなく、ヒトには言えないような苦労までして、やっと貯めた虎の子を。

『ごめんなさい。アタシってバカでしょ?
こンな話、リンさんに話してもどうにもなりませンよねぇ・・・』

――いかん。コレは私がなンとかしてやらねば、この娘はますます不幸になってしまう。

義を見て為ざるは勇無き也。
自分が覚えた術や知識は、他人の役に立ってこそ初めて意味がある。
師匠はそう言って、私にいろんなコトを教えてくれた。

出来る出来ないはもう関係ない。
今こそ私の全知識を総動員して、この目の前の女性を護ってあげたい。


つづく
『今、電車に乗りましたぁ。
11:50には待ち合わせの場所に着くと思います。
今日はよろしくお願いしますネ♡』

――さて、弱ったナ・・・

今日は帰国後、最初の土曜日。石川さんとの約束の当日だった。
メールのやり取りでだいぶ打ち解けてはきたものの、いかんせんあの小さな集合写真では彼女の顔がハッキリと思い出せない。
そこで私は一計を案じ、彼女にメールを送信した。

パークス


「約束の場所はヒトが多すぎるので、その近くの○○広場で待ってます。
私の今日の服装は、黒の革ジャンと黒のデニム、それから黒いブーツを履いた黒づくめなンで、スグに分かると思います。」

――これで大丈夫。

私は身長182cmなンで、こっちが覚えていなくても向こうが見つけてくれるだろう。
そう思って安心した私は、待ち合わせ時間の15分前に○○広場に到着した。

そして、およそ10分くらいは経っただろうか、不意に後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。

『リンさぁ~ん!』

振り向くと遠く人影、手を振りながら駆けて来る。

彼女


♪ふいに背すじを抜けて 恋の予感甘く走った

出逢いは スローモーション
軽いめまい 誘うほどに
出逢いは スローモーション
瞳の中 映るひと

――あかん、あかん・・・

軽く息を弾ませて近づいてくる彼女を見て、私は思わず「來生たかお」の古い歌を思い出したが、今日の要件はそンな軽く浮ついたモノではない。
私は掌で顔をゴシゴシとこすり、ニヤケそうになった顔を引き締めた。

『ごめんなさい!待ちましたか?』

「いやいや、私もついさっき来たばっかりです。」

『アタシのコト、スグにわかりました?』

「も、もちろん!」

――あンな大きな声で呼ばれりゃ、誰でもわかりますがナ(汗

石川さんは私のコトをよく覚えていたみたいだが、なンせ2人とも逢うのは半年ぶり。
お互いにぎごちない笑顔になって挨拶したが、ちょうど昼時でもあるので立話を切り上げてレストランへ向かうコトになった。

レストラン


『ココって前から来たかったンだぁ♡
一緒に行ってくれるヒトがいなかったから、ずっと諦めてたんです。
ウフ。めっちゃ嬉しいですぅ♡』

――へぇ、ホンなら今はフリーってコトかな?
いかん、いかん。またそンなコトを・・・

ココは有名なイタリアンレストラン。
私は通い慣れた風を装っているが、実はこの店に来るのは初めてである。
というのも、アラフォーになったオッサン達がこンな小洒落た店に来るわけもなく、昨日慌てて「食べログ」で検索して見つけたダケだった。
しかし、知らずに見つけたとはいえ、彼女の気持ちをほぐすにはちょうど良い店だったようだ。

「とりあえず先に食事をしましょう。
それから、依頼内容の方は後回しにして、石川さんがあれから半年でナニがあったかを教えてくださいナ」

『あ、あのお・・・』

「なンです?」

『アタシ年下なンで、敬語はやめてくださいよぉ。
それから、名字じゃなくって名前で呼んでください。
ミク、でいいですぅ♡』

「あ、は、はい。わかりました。え~と、美紅さん。」

『だからぁ~。美紅さん、じゃなくって、ミ・ク!』

「え~(汗。ホンじゃ、美紅ちゃん、でどう?」

『う~ん。ま、いっか。』

――おいおい、これじゃまるでデートやないか・・・

私はまたもやニヤつきそうになったが、そこをグッと堪えて応対をした。
そして、彼女の身の上話をゆっくりと聞きだした。

彼女の名は石川 美紅。元介護士で、バツイチ子持ちの32歳。
私が見積もった年齢よりも少し年上だったが、それでも4歳も年下だった。
離婚して7年になるが、現在は小学校3年生になる娘さんがいるそうだ。
前回の勤務先は月に数回夜勤があったが、子供のタメに夜勤のシフトを入れない条件で就職した。
しかし、職場に慣れてくるとその条件を受け入れてくれなくなったので、やむなく去年の秋ごろ退職したらしい。

「それで?現在はどこで働いているの?」

『・・・・・。』

「え?」

『・・・・・・てる、・・嬢です。』

「なんて?」

『デリヘルで働いてる、風俗嬢です』

――なンと!!

なかなか話の本題に入れなかったのは、こンな理由があったからなのか。
どンな事情があるにしろ、私にできるコトはなンでもチカラになるつもりだった。
しかし、このあと驚くべき出来事がまだあるとは、この時の私には想像すらできなかった。


つづく