――な、なンやぁ???
私が手の痣を指摘したとたん、美紅ちゃんは突然泣き出した。
どうやら触れてはいけないところに不用意に触ってしまったようだ。
『自分ではどうにも出来なくって、考えれば考えるほど出口が見つからなくて・・・。
それで、気が付いたら冷蔵庫の中のモノ全部食べてしまってたンです。
でも、しばらくしたら苦しくなって、それで指を突っ込んで吐きました。』
――か、過食症ってヤツか?
『食べたモノを全部吐いてしまうと、またスーパーに買いに行って、それで同じコト繰り返してました。
リンさんに電話をかける前までずっと毎日です。』
「そ、それで今は?」
『先週リンさんが“大丈夫”って言ってくれたから、もうしなくなりました。
ホントですぅ!ホントにやってませんから!!』
――いやいや、誰もウソやとはいってないがナ・・・
どうやら極度のストレスが溜まるとこンな行動をとってしまうようだ。
だいぶ前にTVでこンなコトを取り上げていたような気がするが、実際に見たのは初めてだった。
「まあまあ。俺は別に非難してるわけじゃないから、安心してよ。
ほら、落ち着いて。泣きやんでヨ。」
『アタシのコト、嫌いになりましたぁ?』
「だ~か~ら~!そンなコトナニも言ってないがナ!」
『うそ!』
――なンでやねン(^^;)
たった今、告白したばっかりなのに、“吐きダコ”を見つけたくらいで嫌いになれるヒトっているんだろうか?
クーリングオフでも2週間の猶予があるのに、美紅ちゃんの疑いようは度を超えているみたいだ。
「ほんの今、美紅ちゃんのコトが好きヤって言ったトコやがナ。
別に手足にタコや魚の目があったって、好きな気持ちは変わらンよ。」
『え、なに?』
「だから、美紅ちゃんのコトが好きやって」
『もう1回!』
「おいおい、何回言わせるンやナ(´ヘ`;)
俺は美紅ちゃんが大好きや!」
『じゃ、抱いてくれますかぁ?』
――ちょっ、ちょっと・・・
美紅ちゃんは若いから体に自信があるだろうケド、私には人前で裸になれないワケがある。
これは仲良くなってから少しずつ機会を見て説明するつもりだったが、今日いきなり裸になるには私のココロの準備が出来ていない。
『やっぱり・・・・。』
「な、ナニが?」
『やっぱり風俗で働いてる女なンて、ダメですよネ?』
「そ、そンなコト言ってないがナ!」
『じゃ、抱いて!』
――お、おい!
美紅ちゃんはいきなり自分の服を脱ぎ出した。
さすがに直視できなくて視線を逸らしていたが、あっという間に下着まで脱いでしまったようだ。
私は俯いたまま床を見つめ、ナニも出来ないまま硬直している。
『リンさん!ナニしてるのヨ!』
「え!?」
今度は私の両肩をつかみそのまま体を預けてきた。
いきなりだったので避けることもできず、ちょうど押し倒された格好になってしまった。
「お、おいおい!ちょっと待ってヨ!」
『だ~め!覚悟しなさい!!』
――いや、そンな、これじゃアベコベやンかぁ!
『うふ♡リンさんって、エッチのときは可愛いのネ!
全身性感帯みたいで、すっごく責め甲斐があるワ。
それに、毛が全然ないからとっても舐めやすいし♡』
――しまったなぁ・・・
完全に立場が逆転してもうたがナ。
無理に抵抗すると不自然でもあるし、それに美紅ちゃんはまた泣き出しそうになるので、私はされるがままに従った。
最初は私のカラダに体毛がないコトに驚いたようだが、が、しかし、さすがに美紅ちゃんもプロだ。
私のカラダの隅々にまで舌を這わして、どこにツボがあるか的確に探り当てた。
『リンさんって、いつからこンな敏感なのぉ?』
「え、そ、それは・・・」
『あ、もしかして元カノに開発されたぁ?』
「え、あ、い、いや・・・」
『あ、言わないで!言っちゃダメぇ!!』
「え?」
『アタシも言わないから、リンさんも前のヒトのコトは言わないでね!』
「は、はぁ・・・」
『そして、これからはアタシだけを見ててくださいネ♡』
「あ、ああ、も、もちろん!」
『やったぁ!』
美紅ちゃんはまたもや私に飛びかかってきた。
今度はしっかりと抱きとめて、そのまま抱き上げた。
ふと窓を見ると、西日になったせいなのか、カーテンから光が差し込んでいる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
♪小さい頃は神さまがいて
不思議に夢をかなえてくれた
やさしい気持で目覚めた朝は
おとなになっても 奇蹟はおこるよ
カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の
やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『じゃ、また来週の土曜日ね♡
帰ったらまたメールします。
今日もありがとうございましたぁ!!』
――これからもずっと優しさで包んであげれば、きっと美紅ちゃんを幸せに出来るハズだ。
美紅ちゃんには過去にいろいろ暗い出来事があったようだが、少なくとも私の前では明るくて可愛い娘だった。
今日は突然泣き出したりしたので少し面喰ってしまったが、ソレは私が原因を取り除いてやれば良いコトだ。
風俗の仕事はすぐにでも辞めてほしいが、それも追々話し合って決めるコトにしよう。
そう、恋はまだ始まったばかりだ。
つづく