『リンく~ん!おまたせぇ♡』
美紅ちゃんが改札口から小走りでこちらに向かってくる。
今日はもう6回目のデートで、季節は春、4月も半ばになっている。

『ごめんなさい。お店に行く途中でATMに寄ってもらってもイイ?
昨日は遅かったから、店長からの入金を確認できなかったの。』
「ああ、この駅を出たトコに、いくつか銀行があったと思うヨ。」
美紅ちゃんが貸し付けたお金は、少額ながら毎週末に店長から返済されることになった。
私の考えたシナリオは、 “もしもこのまま返済しない場合には裁判沙汰にする”と軽く脅しを入れたモノだったが、美紅ちゃんはどうやらちゃんと伝えられたようだった。
――ホントは返済が始まった時点で、私はお役御免だったンよなぁ・・・
まだほんの少ししか返済はされていないが、美紅ちゃんにとっては大きな前進だったと思う。
あれからは過食嘔吐を繰り返すコトも無くなったようで、前よりよく笑えるようになったと言ってくれた。
それから、美紅ちゃんはいつの間にか私に敬語を使っていないが、それも私にとって嬉しい変化だった。
『あ~!すくなぁ~!!!』
「どしたン?」
『毎週最低でも10万以上振り込むって言ってたのに、6万しか入ってない・・・』
「そらぁアタンなぁ・・・。
次にやったら裁判所を通じて強制執行するって釘を差しとこか。」
『うん!そうする。』
――コレが続くようなら、私も一緒に行ってねじ込むべきやナ・・・。
『どうしたの、怖い顔して?
さ、早くごはん食べに行きましょ♡』

『さぁ、今日はどンなコトをして欲しいの♡』
「え、あ、お、お任せでお願いします」
『うふ。じゃぁ、どうしよっかなぁ♡』
ここは2人がいつも使っているラブホの一室。
ランチはいつも違うところを2人で考えるのだが、そのあとは決まってココを利用している。
美紅ちゃんは今まで責められる方だったが、私と出会ってからはどうやらSに目覚めたようだ。
それに、責める側に回るというのは仕事とは逆の立場になれるので、自分が風俗嬢であるコトを忘れられて新鮮な気持ちになるらしい。
『ねえ、いつもソレ着けてるケド、やっぱり着けないとダメ?』
「え?」
『そのゴム。やっぱりアタシが汚れてるからなの?』
「だ、だれが汚れてるって・・・。
美紅ちゃんの悪口を言うのは、たとえ美紅ちゃん本人でも許さへンで!」
『避妊なら大丈夫。アタシ、ピル飲んでるから。
あ、避妊のタメじゃなくって、ホルモンバランスが崩れてるから20代前半から飲んでるの。』
「あ、それならいいケド、ホントに大丈夫?」
『うん、大丈夫。
それから、汚れてないって言ってくれるのは嬉しいケド、風俗の仕事をしてるのは事実なのヨ。』
「そンなモン、俺かって風俗くらい行ったコトあるよ。
風俗嬢が汚れてるンなら、ソコに行った俺も汚れたコトになるからお互い様やン。
どンな仕事をして、どンな過去があろうと、俺はありのままの美紅ちゃんを愛してるから。」
『あ、ありがとう!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Don't you know? あなたは
本当の自分を見てないの
Don't say no 私を
天使みたいに 見ているの
ねえ わかって ねえ わかってよ ねえ
私の翼はこんなに汚れてる
Stop your dream はやく目を覚まして
Stop your dream 瞳 そらさないで
ありのままを抱きしめて
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『ねえ、シャワーの温度、熱くない?』
「え?なに?」
ラブホのバスルームは無暗に広いので、音が反響して声が聞き取りづらい。
さっきから美紅ちゃんがいろいろ話しかけてくれるのだが、話の内容は半分くらいしか聞き取れていない。
『もう、ちゃんと聞いてよぉ!』
「い、いや、声が反響するのと、シャワーの音が邪魔で・・・」
プイっと顔を背けた美紅ちゃんは、急いでシャワーを止め、そして振り返った。
顔はかなり紅潮しているし、なにやら真剣な表情をしている。
『このまま仲良く過ごして、1年たったら、その時は結婚しよっ♡』
――な、なンと!
前回の告白といい、またもや美紅ちゃんに先を越されてしまった。
さてと、今度はどううまく切り返して、男としての威厳を守ろうか・・・・
つづく