11:50には待ち合わせの場所に着くと思います。
今日はよろしくお願いしますネ♡』
――さて、弱ったナ・・・
今日は帰国後、最初の土曜日。石川さんとの約束の当日だった。
メールのやり取りでだいぶ打ち解けてはきたものの、いかんせんあの小さな集合写真では彼女の顔がハッキリと思い出せない。
そこで私は一計を案じ、彼女にメールを送信した。
「約束の場所はヒトが多すぎるので、その近くの○○広場で待ってます。
私の今日の服装は、黒の革ジャンと黒のデニム、それから黒いブーツを履いた黒づくめなンで、スグに分かると思います。」
――これで大丈夫。
私は身長182cmなンで、こっちが覚えていなくても向こうが見つけてくれるだろう。
そう思って安心した私は、待ち合わせ時間の15分前に○○広場に到着した。
そして、およそ10分くらいは経っただろうか、不意に後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。
『リンさぁ~ん!』
振り向くと遠く人影、手を振りながら駆けて来る。
出逢いは スローモーション
軽いめまい 誘うほどに
出逢いは スローモーション
瞳の中 映るひと
――あかん、あかん・・・
軽く息を弾ませて近づいてくる彼女を見て、私は思わず「來生たかお」の古い歌を思い出したが、今日の要件はそンな軽く浮ついたモノではない。
私は掌で顔をゴシゴシとこすり、ニヤケそうになった顔を引き締めた。
『ごめんなさい!待ちましたか?』
「いやいや、私もついさっき来たばっかりです。」
『アタシのコト、スグにわかりました?』
「も、もちろん!」
――あンな大きな声で呼ばれりゃ、誰でもわかりますがナ(汗
石川さんは私のコトをよく覚えていたみたいだが、なンせ2人とも逢うのは半年ぶり。
お互いにぎごちない笑顔になって挨拶したが、ちょうど昼時でもあるので立話を切り上げてレストランへ向かうコトになった。
『ココって前から来たかったンだぁ♡
一緒に行ってくれるヒトがいなかったから、ずっと諦めてたんです。
ウフ。めっちゃ嬉しいですぅ♡』
――へぇ、ホンなら今はフリーってコトかな?
いかん、いかん。またそンなコトを・・・
ココは有名なイタリアンレストラン。
私は通い慣れた風を装っているが、実はこの店に来るのは初めてである。
というのも、アラフォーになったオッサン達がこンな小洒落た店に来るわけもなく、昨日慌てて「食べログ」で検索して見つけたダケだった。
しかし、知らずに見つけたとはいえ、彼女の気持ちをほぐすにはちょうど良い店だったようだ。
「とりあえず先に食事をしましょう。
それから、依頼内容の方は後回しにして、石川さんがあれから半年でナニがあったかを教えてくださいナ」
『あ、あのお・・・』
「なンです?」
『アタシ年下なンで、敬語はやめてくださいよぉ。
それから、名字じゃなくって名前で呼んでください。
ミク、でいいですぅ♡』
「あ、は、はい。わかりました。え~と、美紅さん。」
『だからぁ~。美紅さん、じゃなくって、ミ・ク!』
「え~(汗。ホンじゃ、美紅ちゃん、でどう?」
『う~ん。ま、いっか。』
――おいおい、これじゃまるでデートやないか・・・
私はまたもやニヤつきそうになったが、そこをグッと堪えて応対をした。
そして、彼女の身の上話をゆっくりと聞きだした。
彼女の名は石川 美紅。元介護士で、バツイチ子持ちの32歳。
私が見積もった年齢よりも少し年上だったが、それでも4歳も年下だった。
離婚して7年になるが、現在は小学校3年生になる娘さんがいるそうだ。
前回の勤務先は月に数回夜勤があったが、子供のタメに夜勤のシフトを入れない条件で就職した。
しかし、職場に慣れてくるとその条件を受け入れてくれなくなったので、やむなく去年の秋ごろ退職したらしい。
「それで?現在はどこで働いているの?」
『・・・・・。』
「え?」
『・・・・・・てる、・・嬢です。』
「なんて?」
『デリヘルで働いてる、風俗嬢です』
――なンと!!
なかなか話の本題に入れなかったのは、こンな理由があったからなのか。
どンな事情があるにしろ、私にできるコトはなンでもチカラになるつもりだった。
しかし、このあと驚くべき出来事がまだあるとは、この時の私には想像すらできなかった。
つづく