「なンや、事務長。
えらいご機嫌ナナメやないか?」
今夜は民族舞踊が見られるレストランでの夕食なので、私は送迎車が来る集合場所へ向かったが、オッさん共は私の表情を見て訝しんでいる。
「い、いいえぇ!
さっき昼寝したモンだから、時差ボケがブリ返したンですヨ!」
――さすがはドクターやなぁ。
ヒトの顔色を読むのには長けているワ(汗
「おや、事務長。
時差ボケって言っても日本とは1時間しか時差はありませんヨ!
ねえ、理事長先生。」
――ギク!
「あ、い、いや、飛行機の中では全然眠れなかったのと、今日は朝から観光だったので疲れてたンですヨ」
オッさん達はなンとしても私のしかめっ面の理由を訊きたがったが、どうにか躱すコトが出来た。
――ホントのコトを言ったら、どうせ酒の肴にされるダケやンか・・・
「サテ、ミナサマ。迎エノ車ガ到着シマシタヨウデス。
ソレデハ出発シマショウ!」
ガイドが現れたおかげで私への詮索は打ち切りとなり、一行はレストランへ向かった。
「なンや、キミ。
せっかく目の前でお姉ちゃんが踊っているのに、さっきから携帯ばっかり見て、オマケに小難しい顔してからに・・・」
――ギク!
私は目の前の民族舞踊など眼中にはなく、昨日の依頼のコトでアタマがいっぱいだった。
「サテ、皆サン。
宴会ハソロソロ、開キトナリマス。
コノアト一度ほてるへモドリマシテ、ツギハ空港マデお送リ致シマス。
オ忘レ物ノナイヨウ、オ気ヲツケクダサイ!」
――おお!ガイドさん、グッジョブ!
またもやガイドのおかげで余計な詮索を避けるコトが出来た。
それから飛行機に搭乗するまでは、ずっとメールのやり取りをしていた。
――しかし、どうも何かがおかしい・・・
「給与明細に雇用保険の控除が記載されているなら、勤め先が倒産した場合は労基署が給料を立替払いしてくれますよ!」
『雇用保険は引かれてません。
勤め先は会社ではないんです・・・』
そンなにヤバイ勤務先なら、今の間に給料を貰ってさっさと辞めれば良いではないか。
それから、経営者に金を貸すとはどういうコトなのか・・・
その辺りに話題が向くと、彼女は途端に返信しなくなってしまう。
『詳しいコトは、お逢いしたトキに全部お話しします。
お願いだから助けてください!』
――こうまで言われてはなぁ・・・
一度ダケしか逢ったコトの無い、それも半年前の知り合いだけど、ココで見て見ぬ振り出来るホド、オレは人間が練れてないからなぁ(^^;;
「業種は?販売業?製造業?
それとも派遣かな?」
『明後日 土曜日の正午、N駅の7番出口で待ってまぁす♡』
――またはぐらかされたなぁ・・・
最後の受信メールを確かめたあと、携帯の電源を切った私は、アイマスクを着けて飛行機の離陸を待った。
これからどンな依頼が待ち受けているのかわからなかったが、とりあえず聴くだけでも聴いてみよう。
これからこの暑い国からまだ寒さの残る日本へ帰るワケだか、私の気持ちも同じく、最初の浮ついた気持ちは全く無くなってしまっていた。
つづく