ナビゲイター | RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~

RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~

こンな髪形してますが、アラフォーのおっさんです。
このブログでは、過去に体験した奇妙な恋愛話を綴ってます。
一部不快な表現も含まれておりますので、予めご了承ください。

『やっぱりダメですかぁ?』

――なンとかなる。いや、絶対になンとかするンだ!

私は自分の記憶を全力で検索している。
少額訴訟?いや、額がデカすぎる。
では通常訴訟?あ、本人はオリの中か・・・
ん、支払督促は?

「美紅ちゃん!借用書はあるか?」

『うん!今日は持ってきてないケド、家に置いてあります。』

「内容は?覚えてる?」

『え~。甲が乙にとかなンとか・・・。
あと、毎月の返済額とか返済日とか書いてあったような・・・』

「でかした!なンとかなりそうヤ!」

私は思わず美紅ちゃんの両手を握ってしまった。

――あ、しまった!

慌てて手を放そうとしたが、美紅ちゃんは逆に私の両手を離そうとしなかった。

『ホントですかぁ!アタシ、めっちゃ嬉しいンですケドぉ♡』

「いや、まだ詳しく聴かないと断言はできないケド、たぶん大丈夫やワ。」

私は美紅ちゃんに詳しく質問するコトにした。

自宅は事務所の近くにあるが、これは賃貸マンション。しかし2部屋借りている。
これは、むりやり解約すれば保証金が還ってくるが、100万にも満たないだろう。

通帳は臨時の店長が管理していて、おそらく店名義と個人名義両方あるハズ。
女の子の出勤人数は平均して1日に20名前後。
店の金庫には常時多額の売上金が入っているが、銀行に入金するのは週に1回。
これを無理から引っぺがすと、他の女の子に恨まれるだろう。

「それから、店長はクルマ持ってる?」

『うん。ベンツのマークが付いてる4WDみたいなクルマ』

「ん?SUVかな?」

『ううん。AMGって書いてた』

――ゲレンデヴァーゲンAMG!

AMG


ベンツ・ゲレンデヴァーゲンは安いモノでも新車で1000万以上はするし、高いモノなら3000万以上だ。
そして、ソレは中古車でも500万以上はするので、叩き売ったところで300万を下るコトはあるまい。

「よし、ほんじゃ私が、支払督促の申立書を作成するワ。
これで裁判所から督促状が届くケド、たぶん代理店長が受け取るハズ。
そこから2週間経過したら、裁判所から仮執行宣言が出て・・・・」

『リンさん、ありがとぉ!』

――う、うわぁ!

私が債権回収の話を終える前に、美紅ちゃんはいきなり抱きついてきた。
そして、涙を浮かべた目で私をじっと見つめている。

「ちょ、ちょっと、美紅ちゃん?」

『アタシ、ホントはもうほとんど諦めかけてたンです。
もう死のうかと思ったくらい。
でも、この前、リンさんにもらった名刺が偶然出てきて、それで思い切って電話したンです。』

――へ?名刺なンか渡したっけ・・・

『ホントにありがとうございます!』

今度は私にキスをしてきたが、私はとっさに顔をそむけてしまった。

『え?』

「え? い、いや・・・」

『やっぱり・・・。
風俗嬢なンかに、抱きつかれたりキスされるのは嫌ですか?』

「ち、違うヨ!そりゃ嬉しいに決まってるヨ。
でも、私はそンなコトしてもらうつもりで来たワケじゃないから・・・」

上目づかいで私を見つめている美紅ちゃんの目にはだんだんと涙が溢れていた。
下心がないコトを強調したかった私は、かえって美紅ちゃんを傷つけたようだ。

「い、いや、じゃあこうしよう。
この計画が成功したら、その時のご褒美として受け取りますワ。
それでどうですか?」

『じゃ、これは手付金がわり♡』

今度は私の頬にキスしてきたが、さすがにこれを躱すホド私はバカではない。
頬に伝わる美紅ちゃんの唇の感触は、実に心地よかった。

改札口


『今日はホンっトにありがとうございました。
おかげで今夜からぐっすり眠るコトができそうです。
リンさんはアタシの命の恩人ですぅ♡』

――んな、たいそうな(A;´・ω・)

私は地下鉄の改札まで美紅ちゃんを見送りに来た。
N駅はヒトが大勢いるのだが、その人ごみの中、大きな声で呼ばれるとかなり面映ゆい。
しかし、あの満面の笑顔が見られるのなら、このくらいのコトは我慢しよう。


――どうやら、うまくナビゲートできそうやナ。

美紅ちゃんはシングルマザーだが、頼れる両親や兄弟がいない。
元旦那とはDVが原因で別れたらしいので、2度と顔も見たくないそうだ。
美紅ちゃんとは来週の土曜日にもう一度打ち合わせをする約束をしたが、うまくいけばあと数回の打ち合わせで私の役目は終わるハズだ。
私のようなおっさんが若くて可愛い美紅ちゃんの彼氏にはなれないが、せめて彼女が道に迷わないためのナビゲーターにはなれるだろう。


つづく