落日とともに・・・ | RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~

RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~

こンな髪形してますが、アラフォーのおっさんです。
このブログでは、過去に体験した奇妙な恋愛話を綴ってます。
一部不快な表現も含まれておりますので、予めご了承ください。

『件名:こんにちは!
先週末に退院しました!
いろいろご心配かけてごめんなさいm(__)m
リンくんには直接逢ってお話したいことがあります。
今週土曜日の午後に逢えませんか?』

電話


――ふん。何をいまさら・・・

ドタキャンから1カ月以上が経過した。
10月になってから朝夕もすっかり涼しくなり、オマケに私の心もすっかり荒んでいた。
例のショットバーで驚くべき事実を聴いた後、梨乃さんへ連絡する気も全くおこらなかった。

――入院の話にしたって、真実かどうか・・・

そう、話があまりにも出来過ぎているような気がした。
最初に病気の話を聴いたトキは私もかなり驚いたが、だからと言って急に音信不通にならなくともよいのではないかと思う。
それに、病気と闘っている間は、私も見舞に行って励ましたりと何かと力になってあげたかった。
見舞にも来させないのは、「本当は入院なンてしてなかったのでは?」と疑ってしまう。

――それに、あの電話の若い男・・・

携帯を間違えて持ち帰られたと言っていたが、私に電話をかけてきたあの若い男は本当は誰なンだ。

――ん?若い男???

そういえば、今の今まで気にしていなかったが、電話の声は確かに若かったようだ。
あの時は突然のコトに驚いてしまったが、あの声は忘れられるモンではない。

「こらぁ!われェ!!!」
そう、大声を出した時に裏返った声は、私のようなオッサン声ではなく、甲高く若々しい声だった。


「なに、ヒトの嫁はンに手ェ出してくれとンぢゃぁ!!!」
うん、「手ェ」と「ぢゃぁ」も裏返っていた。

あれは明らかに私よりは10歳以上は年下の、それも華奢な体格の声に違いない。


――川は両岸から見よ、と言うしなぁ・・・

私はバーのマスターから聴いた話を信じきっているが、梨乃さんからは何も聴いてなかった。
真実を知るためにも、今度の土曜日には全てを聴いてみることにした。

・・・・・・・・・・・

地下街

――あれ?梨乃さん?

ここはO市の繁華街にあるN駅から続く地下街。
待ち合わせ場所には梨乃さんがいるが、その前に1人の男性がいる。

後姿なのでよくわからないが、来ている服装から見て10代後半から20代前半だろう。
頭は茶色く染めていて、上着もパンツもラフな、というよりちょっとワイルドな感じだ。

――なンだ?不良にでも絡まれてるのか?

その割には梨乃さんには怯えた表情が見えず、むしろ困惑しているように見えた。
私は離れた場所で見守っていたが、何度目かの言い争いの末に男性がこちらへ振り向いて走ってきた。
そして私とすれ違う前、もう一度振り返って梨乃さんに叫び、今度は脇目も振らずに走り去っていった。

――オカンのアホ?確かにそう叫んだよな・・・・

梨乃さんはようやく私に気付いたようで、少しバツの悪い表情になったが、すぐ笑顔になり走り寄ってきた。


・・・・・・・・・・・・・

個室


『ごめんなさいネ。さっきは驚いたでしょう?』

ここは2人で初めて来たレストラン・バー。
1か月半ぶりに見る梨乃さんは相変わらずの美貌だが、心なしか顎のラインが尖って見える。
やはり、入院していたのは本当のようだった。

「もう体調の方は大丈夫なンですか?」

『ええ、おかげさまでもう大丈夫ヨ♡』

「ところで、さっき梨乃さんと口論していた男は誰ですか?」

『ああ。バッチリ見られてたもんネ。
うん、全部正直に言うワ。
あれはウチの息子。
3人いる子供の一番上なの』

――え、ええ!?

『それから、ウチのホントの歳は39歳。
バツイチ、子持ち、でも借金は無し。
どう?驚いた!?』

――え、え、え、えええええ!


「そ、そ、そ、それじゃぁ・・・」

『だから、私の方が年上って、最初っから言ったでしょ♡』

「だ、だ、旦那サンは・・・・」

『ああ、電話のコトね。
あれはさっきの息子がやったの。
ウチに新しい彼氏ができるたびに、ああやって嫌がらせするのヨ。
ホントにごめんなさいネ。』

私の目の前に不意にあのメールの文字が蘇った。

「おまえあほか わしだんなや」

――そうか!

全部「ひらがな」とはおかしなメールだとは思っていたが、今この瞬間やっと腑に落ちた。
どうやら私は、知らない男に母親を取られまいと思った子供たちに、まんまとしてやられたワケだ。

「はは、ははは、あっはははは!」

久しぶりに腹の底から笑えてきた。
しばらくは呼吸困難になるほど笑ったが、梨乃さんの表情は曇っているようだった。

『それでね、リンくん。
これからの2人のコトなンだけど・・・』

「はい、なんなりと言ってください!」

『一番上の子が大学に入るまであと2年、その下があと5年あるの。
一番下は女の子だから、そンなにお金はかからないケド、それまでは風俗のバイトは辞められないの。』

「は、はぁ・・・」

『それから、子供にリンくんの存在がバレちゃってね。
ほら、いつものバーのマスター。
アイツがウチの子と道で会った時に喋っちゃったみたいなの。
前にウチがアイツの告白を断ってから、時々ウチに嫌がらせをするのヨ。
そのたびに行かなくなるンだけど、しばらくすると詫びを入れてくるからまた行っちゃうんだなぁ。
でも、もう今度こそ、絶対に行ってやらないンだ』

――じゃ、ハンターの話はウソかいな?

『ウチはリンくんとは離れたくないンだけど、子供たちが猛反対するの。
どうしたらいいかなぁ?』

――はぁ・・・・・・・
そりゃあ、ある日突然、こんな親父が出来たら嫌やわなぁ。

「オカンのアホ」

さっきすれ違いざまに聴いた声が、私の耳に蘇ってきた。

「わかりました。
理由が理由だけに、私にはどうしようもありません。
梨乃さんとお子さんたちの仲が悪くなるのは、私にとっても不本意です。
だから、ココは男らしく、きっぱり諦めます。」

『ち、違うのよ、そンなコト言ってないの・・・』

「いいえ。私なら大丈夫です。
こう見えてフラれるのには慣れてますから。」

『だ、だから違うって!そンなコト・・・』

「では、さようなら。今までありがとうございました。」

私はテーブルの上の伝票を素早くとって、そして梨乃さんに背を向けた。
梨乃さんは後ろから何か叫んでいたが、私は立ち止まらずに個室の扉を閉めて出口に向かった。
会計を済ます間はどうにか我慢が出来たが、店を出てエレベーターに乗ったとたん、涙が一気に噴き出した。

――カッコつけすぎたかなぁ・・・

しかし、妥協しながら付き合ったり、誰かに何かを隠しながらの恋愛は、私にはもう耐えられなかった。
また、そンなコトが出来るくらいなら、眞知子サマと別れるコトも無かった。

落日



ビルから出て空を見上げると、そこには秋の綺麗な夕焼けが広がっていた。
秋の高い空から流れる冷たい風が、私の胸の中を通り過ぎていくような気がした。

口ずさめば悲しい歌ばかり
届かぬ想いに胸を痛めて
今日もまた呼ぶ声に応えては
訳もなく砕かれて手のひらから落ちて


路地裏の少年  浜田省吾
(↑リンクをクリックすると動画が表示されます)

私の名はRIN。
たった今、失恋してきたばかりの34歳。
行き止まりの路地裏で立ち尽くしている、もはや譬えようも無い、悲しくも哀れな中年サラリーマンだ。

Fin