RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~ -6ページ目

RINの奇妙な恋愛 ~The strange tale of romance ~

こンな髪形してますが、アラフォーのおっさんです。
このブログでは、過去に体験した奇妙な恋愛話を綴ってます。
一部不快な表現も含まれておりますので、予めご了承ください。

「梨乃さん?あ、谷中さんネ。
ハンタ・・・、おっと、失礼。
谷中さんは最近お見えになってませんね。
あのヒトは、来られるトキは毎日だけど、来られないトキは何ヶ月もお見えにならないンですヨ。」

――ん?ハンター?って言ったよナ・・・

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ドタキャンの日から2週間が過ぎた。
ここは梨乃さんの自宅近くにある、いつものショット・バー。
あれから梨乃さんからは全く連絡がなかった。

梨乃さんの自宅はこの近くと聞いていたが、私は実際に自宅へ行ったコトは無かった。
だから、ここに来れば何かわかると思ってやって来たが、マスターの歯切れは悪いようだ。

「マスター、つかぬ事を訊きますが、梨乃さん、いや、谷中さんは既婚者ですか?」

「あ、やっぱり・・・」

「やっぱり?そりゃあどういう意味です?」

「い、いや、なンでもありません。
ただ、ときどき貴方のような質問をする方がおられるモンでね。
私が聴いている話では、どうやら独身のようですね。
でも、高校生のお子さんはおられるようですが・・・」

――なンと!

それは初耳だった。
病院の勤務に加えて風俗のバイトをしていたのは、あるいはソレが理由なのか・・・

「ところで、マスターは今、ハンターって言いましたよネ?
ソレはどういう意味です?」

「う~ん・・・。
コレは言ってもイイのかなぁ」

――マスターは何かを隠している。

直感的にそう思った私は、日頃コンプレックスに感じてる自分の人相の悪さを利用して、マスターをちょっと睨みつけてみた。

「い、いや、言いますよ!
だ、だから、そンな顔で睨まないでください‼︎」

――そンな顔で悪かったナ!

「谷中さんはね・・・」

マスターの話によると、梨乃さんはこの店に来るお客さんで自分が気に入った男がいると、片っ端から狩っていくクセがあるらしい。

だから、モノにするまでは足繁く通うが、トラブルがあれば糸を切ったように姿を見せなくなるそうだ。

そして、口の悪い常連客や選に漏れた非イケメン達からは、陰で「ハンター」と呼ばれているらしい。

「と、と、ところで・・・」

私はあまりのコトについ吃ってしまったが、ここまで来たからには梨乃さんの自宅を訊かねばならない。

「もとい。ところで、マスターは谷中さんの自宅をご存知ですよネ?」

「私が?いいえぇ!知りませんヨ!
確か、この近くのファミレスの裏とは聞いてましたが、どのマンションの何号室かまでは知りませんヨ。
私がお店のお客さんに手を出すと商売がしづらくなりますのでネ。ハイ。」

――じゃ、電話を間違えて持ち帰られた話も・・・

「マスター、モヒートをお代わり!
ついでに、知ってるコトあったら・・・
いや、もうええワ。」

そのコトを確認する勇気は、今の私にはもう残っていなかった。

「リンさん、でしたよネ?
さっき、やっぱりって言ったのは、そうやってご兄弟の方が同じ表情で同じコトを訊かれるモンでね」

「兄弟?兄弟がいてるンか?」

「あ!コレは失礼しました!
兄弟と言っても、あの、下世話な方の兄弟のコトでして。」

――なンのこっちゃ・・・
ん?兄弟?あ!
あ、あ、穴兄弟か!

「いやいや、リンさんは何度もウチに来られているので、てっきりご存知かと思ってましたよ。
知っててお付き合いされてるので、なかなか度量の大きいだと感心してましたのに・・・
ほら、カウンターの端にいる彼、それから後ろのテーブルにいる彼、そしてさっきまでお隣にいた彼も、みんなご兄弟ですヨ」

――え、え、え、えええええ?
ホンなら、知らんかったのは私ダケかいな???

私の名はRIN。
癒えたハズの恋の傷痕が、またもや化膿し始めた34歳。
恋人と信じていたのはハンターで、どうやら獲物としての賞味期限が切れてしまった、哀れな中年サラリーマンだ。


つづく
『ええ~。ウチ、泳げないからなぁ~』

ここは梨乃さんの自宅近くにある、いつものショットバー。
8月も終盤にさしかかったが、まだまだ暑い日が続く。
この夏はお互いのスケジュールが合わなかったため、デートはいつも例の「カラオケ屋」と、このお店だった。
梨乃さんの水着姿が見たかった私は、さっきから海へ行くコトを懇願しているが、どうもお気に召さないようだ。

マスター

「そ、それじゃ、健康ランドなンかはどうですか?
プールもあるし、お風呂もカラオケもありますよ!」

『う~ん。お風呂とカラオケなら、いつものお店でもあるしなぁ。
ウチ、顔を水につけるのが苦手なンよ。
それに、メイクだって落ちるでしょう?』

「は、はぁ・・・・」

『あ!あそこはどう?ホテル○○。
あそこならプールもあるわ。』

――それって、ラブホやン・・・
ま、ええケドW

梨乃さんはさすが風俗嬢ダケあって、市内のラブホには精通しているようだった。
それに、この前にテーマパークに行って以来、夜の街はともかく昼間に不特定多数のヒトがいる場所はどうも避けたがっているようだ。

――お店の客とばったり出くわすコトを避けているのかなぁ・・・

「わ、わかりました。それじゃ、今度の週末はそのホテルへ行きましょう」

『そう?ありがと。ウチも前からあそこは行きたかったの♡』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

電話

『件名:ごめんなさい
約束を守れなくてごめんなさい。今、入院中です。
いつ退院できるかは、今のところわかりません。
またこちらから連絡します。』

――え?

今日はプールへ行くと約束した当日の朝。
しかし、梨乃さんから突然メールが入ってきた。

――ど、どういうコト?先週まであンなに元気だったのに・・・

確か先月の終わりに梨乃さんから「自分は悪性リンパ腫」だと聞いていたが、その後は何事も無く1カ月が過ぎていた。
だから、おそらく何年も前に完治していた病気のコトを念のために言ったダケだと思っていた。

――と、とりあえず、午後からでも連絡をとってみよう。

それから数時間後、私は梨乃さんに現在の入院先と病状、それから何か必要なモノの有無を確認するメールを送った。
そして数十分後、信じられないコトがおこった。


「件名:無題
おまえあほか わしだんなや」


――え、え、え、えええええ?
ど、ど、ど、どゆコトぉ???

私の名はRIN。
この春に新しい恋に落ちて、この夏を幸せいっぱいで過ごしていた34歳。
夏の終わりとともに、秋の訪れより先に、恋の終わりの予感を感じている、悲しくも哀れな中年サラリーマンだ。


つづく
『どう?タマにはこンなデートもいいでしょう?』

――い、いや、ホント。明るいトコで見る梨乃さんはいつもより綺麗に見えます♡

謎の電話から2週間が経った土曜日の午後、2人はO市にあるテーマパークで健全なデートの真っ最中だ。

USJ1

『さ、次はあっちのジュ○シック○ークに行こう!』

「え?あ、は、はい」

――弱ったなぁ・・・・

こう見えて私、高所恐怖症なのである。
最初のアトラクションは見てるダケ、そしてさっきのアトラクションは屋内なンで助かったが、とうとう苦手な絶叫系の乗り物に連れて行かれるコトになった。

『どうしたの?顔色悪いわよ』

「え? い、いや、なンでもないです」

行列に並んでいる間は平静を装っていたが、自分の順番が近付くと口数が減ったので、梨乃さんは私を訝しんだ。

『あら?リンくん、ひょっとしたら怖いの?』

「い、いいえ! な、何を言うんですか?」

私は必死に取り繕ってみたが、梨乃さんの顔には怪しげな笑みが残っていた。

――ええい!今さらジタバタしても始まらんわ。
イザとなったら眼を瞑っていればええダケや!

そして、とうとう自分たちの番になったので、2人は乗り込むコトにした。
この乗り物はいわゆる「急流すべり」と同じで、最初は水の上をただ漂いながら流されていくだけだった。
私は緊張のタメに余裕が無かったが、梨乃さんはナゼか饒舌に話し続けている。

『ねえ、リンくん。ウチのコト好き?』

「え?ええ、も、もちろん!」

『どのくらい?ねえ!』

「え?え~っと・・・」

『ナニがあっても好き?ねえ、ねえ?』

「え、ええ。も、もちろん、ナニがあっても大好きです!」

『じゃぁあ、ナニがあっても怒らない?』

――ちょ、ちょっと!なンで今そンな話をするンですか!?

そろそろこの乗り物が落下する地点が迫ってきた。
私はほとンど上の空で返事をしていた。

『リンくん。さぁ、この手を離しなさい!』

梨乃さんは乗り物のバーを握り締めている私の指を剥がしだした。

「ちょ、ちょっと!梨乃さん、な、ナニをするンですか!?」

『じゃぁあ、答えなさい。さっきの返事は?』

「あ、あ、あ、あ、あ」

『はやくぅ!』

「だ、だ、大好きです!ナニがあっても梨乃さんのコトが大好きです!
どンなことがあっても怒ったりしません!愛してますぅ!!」

『よくできました♡ でも手はそのままネ。うふ♡』

「あ、あ、あ、あ、あああああ!!!!」

USJ2

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『うふふ♡ リンくんって、意外にかわいいトコあるのネ。』

急流すべりはレインコートを着るべきだったが、2人ともソレを知らなかったのでズブ濡れになってしまった。
季節は夏場だったので、服はどうにか乾かしながら残りのアトラクションを楽しンだが、2人とも水と汗にまみれていたので、今はいつもの「カラオケ屋」でお風呂に入った。
そして、2人は今、ベッドでくつろいでいる。

『さっきの泣きそうだったリンくんの顔、とってもキュンってなったワ。
さあ、頑張ったご褒美に今日はいつもより可愛がってあ・げ・る♡』

「え? あ、あ、あ、ああああああ!!!!」

梨乃

・・・・・・・・・自粛します・・・・・・・・・・

『ねえ、リンくん。ちょっと真剣な話なンだけど・・・』

「な、なンでしょうか?」

『ウチね、実は悪性リンパ腫なンヨ。だから、いつ再発するか分からンの』

「え!ええ!?」

『これから、ある日突然に連絡が出来ンこともあるケド、その時は許してネ♡』

――え、え、え、えええええ?
そ、そンな大事なコトを笑いながら言うって、ど、ど、どゆコトぉ???

私の名はRIN。
恋の傷がようやく治り、今は新しい恋に落ちている34歳。
急流滑りで落ちてズブ濡れになり、今度は恋に落ちたとたん驚愕の事実で、全身が冷や汗で濡れている中年サラリーマンだ。


つづく