河合隼雄著『コンプレックス』④ | 武狼太のブログ

武狼太のブログ

大学の通信教育過程で心理学を学んでおり、教科書やスクーリングから学んだことをメインに更新しています。忙しくて書けなかった、過去の科目についても遡って更新中です。

 
==================
【4】文化人類学とコンプレックス
■1■男性像と女性像
■2■文化差の問題
■3■心理学研究者とコンプレックス
 
■参考文献■(目次)
==================
 
 
【4】文化人類学とコンプレックス
■1■男性像と女性像
・これほど深い問題は、人間にとって他にないかもしれない
・コンプレックスとの関連について触れる
 
▼文化人類学の研究
◎「男らしさ」「女らしさ」は、その性差に基づく絶対的なものではない
 →それは文化によって異なることが解ってきた
<例>
*女性が外で活動し、男性が家と子どもの世話をする、という未開社会が存在する
 
◎男性的女性的な属性は、社会や文化の影響により、相当一方的に形作られている
・素質的な性差
 →人が生まれ、文化や社会の影響を受ける前に、どの程度有するかは不明確
 →ただ、身体機能の差から、何らかの差は存在すると思われる
<例>
*男性が、その社会で容認されている男性的自我を形成してゆくとき
・女性的な面は、一つのコンプレックスを形成してゆく
 →全ての男性は、女性的な面を潜在的に持っている、とも考えられる
 →その深い層まで開発することは不可能とも考えられるが
 
◎現代の文明社会では、一般に、男性的役割を重視する傾向が強い
・男女が役割を決め、お互いが協力することは悪いことではない
★問題は、その役割に優劣の価値観が伴う時である
・女性が、男性に対抗しようとするとき
 →女性も、男性的役割を遂行できることを示そうとする
 →女性は、潜在的な男性性を一挙に顕在化しようと焦る
 →自我と男性コンプレックスとの同一化の現象が生じやすい
 
▼ディアナ・コンプレックス
○ディアナ:気位が高く、執念深く、狩猟が得意な処女神(別名:アルテミス)
・女性の心の中にある、男性的な強さと独立心を抱くコンプレックス
・殆どの女性が、このコンプレックスと無縁ではいられない
◎ディアナ・コンプレックスを完全に抑圧しきっている女性
・自立心が非常に乏しい
 →同性からは相手にされないことが多い
 →逆に、異性からは好かれることが多い
・個性も乏しい
 →男性のあらゆる投影を引き受けやすい状態となる
 
▼元型:アニマ&アニムス
*アニマ :男性の心の中に生じる「女性像」の元型
*アニムス:女性の心の中に生じる「男性像」の元型
・コンプレックスの背後に存在して、その活動を規定するもの
 →我々の人生に生命力を吹き込む程の、プラスの影響をもたらす
 →規定が強すぎると、逆にマイナスの影響をもたらす
★異性のいない世界がどれ程味気ないか、を想像すればその意義が分かるだろう
 
<例>
*アニマとカイン・コンプレックス
○カイン:神に供え物をしたが無視され、弟は喜ばれたことに憤り、弟を殺した
・きょうだい間や同僚間で強い敵対感情を抱かせるコンプレックス
・その背後でアニマが影響を及ぼす場合
 →その男性は、ライバルに対して、裏からコソコソと執拗に攻撃をしたりする
 
<例>
*アニムスとメサイヤ・コンプレックス
○メサイヤ(メシア):救世主のこと
・他者を救いたがる傾向が強くなるコンプレックス
・その背後でアニムスが影響を及ぼす場合
 →その女性は、慈善活動に従事すると、男勝りの働きをしたりする
 
 
■2■文化差の問題
▼ここまでの記載内容
◎西洋的な発想に基づいて論じたもの
・疑問を持たなかった人
 →自我が、相当に西洋化しているかもしれない
・色々と疑問を感じた人
 →西洋的な発想に対する疑問を感じたのではないだろうか
<例>
*イメージよりも言語化を重視することへの疑問
*コンプレックスと必ずしも対決する必要があるのかという疑問
など
 
◎土居健郎(精神分析家)
・日本人の心性における「甘え」の重要性を指摘
★「甘える」は日本語特有の表現である
 →日本人の心性にとって重要で、大きな役割をもっている
 →「甘える」という表現は、英語には存在しない
・誰でも同様に暖かく育ててくれる「グレートマザー」
 ①個人差を無視した絶対的平等感
 ②絶対的な母性愛の欲求
 →そのイメージを投影したものが「甘え」と言える
 
▼日本の文化
★「グレートマザー」の強力な作用を受けている
 →それを父権制という社会制度によって補償し、バランスを保ってきた
 →戦後、父権制度が壊され、母性の力が急激に強まった
 ★学校恐怖症の続出にも影響したと考えられる
・現在、父親像の喪失を嘆く人は多い
 →しかし、元々、日本では確固とした父性像は存在しなかった
・日本の男性の傾向
 →グレートマザーによる一体感を支えとして立つとき、確固とした強さがある
 →その支えを持たない、一個の個人としては弱い存在となる
 *本来の父性像とは言いがたいもの
 
<例>
*日本の帝国軍人
・息子:非行少年
・父は、偉くなるようにと手をとって教育し、始めのうちは成績もよかった
・反抗期を迎えた息子は段々と手に終えなくなった
 →陰ではぶつぶつ言いながら、小遣いを与えたり、車を買い与えたりした
★兵隊を率いて敵陣に突入した「強い父」は、一人息子と対決できなかった
・上からの命令に従うとき、この男性はあくまでも強かった
・息子が「近頃の若い者は皆、車を持っている」と言うとき
 →「近頃」「皆」との言葉にたちまち降参し、自身の考えで息子と対決できなかった
 
▼日本人の自我の構築
◎日本人の社会
・絶えず他者の心を「察し」ながら、自分自身を失ってしまってはならない
 →我々日本人は、とても難しい仕事を課せられている
 →非言語的な察し合いによって、他者との関係を構築せねばならない
  (それを関係と言えるかどうかの問題もあるが)
 ★対人恐怖症の人は、上記をどのようにすればよいか解らずに悩んでいる
 
◎対人恐怖症
・日本には多く、西洋には殆どない
・他者との適当な「間合い」を取ることに大きな困難を感じている
・2人だけのときはいいが、3人目が加わると困難をきたすことがある 
 →相手が1人のときは何とか間合いを測れるが、2人になると混乱が生じてくる
 
◎西洋人の自我
・地なる母とある程度の訣別を行い、天なる父をモデルにして確立してゆく
 →自我と自我との対話によって、他人との関係を持つ
*文化交流
・日本人に、西洋的な意味での自我の萌芽が生じている
 →日本の文化、社会の中で、どのように伸ばしてゆくかが課題となる
 
◎日本人の自我
・西洋人と比較して、コンプレックスとの共生関係がはるかに強いと言える
 →日本人の自我とコンプレックスとの境界は、漠然としている(ふすま越し)
 →西洋人の自我は、コンプレックスと判然と区別される(ドア付きの個室)
・日本人は、コンプレックスとの共生関係の状態をうまくやり抜くのが得意
 →時に、美徳とされる
 
◎心の問題の取り扱い
・西洋で発生した学問体系
 →その論理の展開において、どうしても文化差の問題に突き当たる
 →心理学も同様
★日本の文化の特徴について、より慎重な考慮が必要である
 
 
■3■心理学研究者とコンプレックス
○ジークムント・フロイト(1856年―1939年)
○アルフレッド・アドラー(1870年―1937年)
○カール・グスタフ・ユング(1875年―1961年)
 
▼エディプス・コンプレックス
◎フロイトが命名
・エディプスの神話の凄まじい内容が、我々の無意識内にも存在すると主張
★男性の無意識内には、母をその愛の対象とし、父を敵対視する衝動が存在する
 →その抑圧に伴い、エディプス・コンプレックスが形成されると考察
 →神経症の多くの症例から考察した
・「エディプス・コンプレックス」を基本として、他のものが派生すると考えた
 
◎エディプス(別名:オイディプス)
・ギリシャ神話の悲劇に登場
・エディプスはテーバイ国の王子として生まれる
・子に殺されると神託を受けていた父ライオスは、エディプスを殺させようとする
・母イオカステは殺すに忍びず、嬰児のエディプスを国境付近に棄てさせる
・隣国コリントの王子として育ったエディプスは、養子と仄めかされ神託を受ける
・故郷に帰ると父を殺し母と結婚すると言われ、実子と信じて戻らず旅に出る
・旅の途中、争った老人(実の父)を殺し、テーバイ近郊でスフィンクスを退治する
・スフィンクスの退治者にテーバイの王位継承権が与えられ、実の母と結婚する
・後に神託通りの状態を知り、実の母は自殺、自らは両目を潰し放浪の旅に出る
 
▼エレクトラ・コンプレックス
◎ユングが命名
・フロイトと協同してた頃、女性にも男性同様のコンプレックスがあると指摘
★女児は始めは母に愛着を持つが、5~6歳になると異性の父が愛の対象となる
 →そのライバルとしての母親を敵対視する
★異性の親に対する愛着、同性の親に対する敵対心
 →総称して、「エディプス・コンプレックス」と呼ぶことも多い
 
◎エレクトラ
・ギリシャ神話の悲劇に登場
・エレクトラの父アガメムノンは、ギリシャ軍の大将としてトロイア戦争に出陣
・その母クリュタイムネストラーは、その間に不義を行い、アイギストスと通じる
・復仇を恐れた2人は、奸計によりアガメムノンを浴槽で惨殺する
・そののち、エレクトラを貧農の下に預け、弟オレステスを殺そうとする
・エレクトラは弟を助けて伯父に預け、機をみて父の仇を討つことを弟に告げる
・エレクトラは弟を励まして、父の仇である実の母とアイギストスを殺す
 
▼マリノウスキー(イギリスの人類学者)
◎トロブリアンド島の文化を調査
・母系制社会
 →男児は、父親に対して憎悪の感情を示さない
・エディプス・コンプレックス
 →“西洋の父系制社会”において重要なもの、であることを示した
◎文化人類学の発展
 →コンプレックスの解明にも、文化差を考慮すべきことが明らかとなった
・ある国の文化の特徴
 →ある種の元型の力が、特別に強く作用している可能性が考えられるようになった
 
★コンプレックスは感情の複合体であり、単純ではない
・単純に、異性の親を愛し、同性の親を憎む、とは言い切れない
・愛憎の感情が入り交じり、両価的(アンビバレンス)な態度となって現れる
 
▼備考
◎フロイト
★人間にとって、エディプス・コンプレックスをどう取り扱うかが一生の課題と考えた
・人間のもつ文化は、そのような努力の所産であると考えた
 →宗教や芸術の背景に存在するエディプス・コンプレックスを研究した
・自我によって受け入れ難い性欲が、コンプレックスの構造を色どると考えた
・当初、コンプレックスの中核に存在する外傷経験を意識化する治療を行っていた
 →コンプレックスは単純な構造ではなく、複雑な多層構造をもつことに気づいた
 
◎アドラー
★人間は何らかの劣等感をもち、それを補償するために「権力への意志」が働くと考えた
・「劣等感コンプレックス」の重要性を強調した
・人間にとって最も根源的な欲望は「権力への欲求」であると主張した
・エディプス・コンプレックスも、「劣等感」をカバーするためのものと考えた
 →家族に対する自分の優位性を示そうとして生じてくるもの
・社会的感情を重視し、人間は社会的存在として教育されねばならないと説いた
 →教育者などに好まれ、「劣等感」という用語が広まり、また誤解も生じた
 
◎ユング
★フロイトとアドラーについての考察
*フロイトの考えは、外交的な観点からなされていると考えた
 →ユダヤ人として、父権の強い家庭に育ち、父との年齢差がかなりあった
 →エディプス・コンプレックスは、フロイト個人にとっての根本的なものと考えた
*アドラーの考えは、内向的な立場によってなされていると考えた
 →次男であり、少し背が曲がり、既に偉大であったフロイトの下についた
 →劣等感コンプレックスは、アドラー個人にとっての根本的なものと考えた
・「外向性」と「内向性」という性格類型を考察
・コンプレックスのどれか一つを、特に根本的であると断定はできない
 →コンプレックスは多層構造を有するもの
 →個人的なコンプレックスを超えて、もっと普遍的な存在があると考察
 →「元型」に関する仮定的な概念が生まれた
★西洋的な発想と東洋的な発想の違いにも着目した
 
 
 
参考文献
「コンプレックス」河合隼雄著
(目次)
第1章 コンプレックスとは何か
1.主体性をおびやかすもの
2.言語連想検査
3.自我
4.コンプレックスの構造
第2章 もう一人の私
1.二重人格
2.二重身(ドッペルゲンガー)
3.劣等感コンプレックス
4.心の相補性
第3章 コンプレックスの現象
1.自我とコンプレックスとの関係
2.ノイローゼ
3.人間関係とコンプレックス
第4章 コンプレックスの解消
1.コンプレックスとの対決
2.トリックスター
3.死の体験
4.儀式の意味
第5章 夢とコンプレックス
1.コンプレックスの人格化
2.夢の意味
3.男性像と女性像
4.夢の中の私
第6章 コンプレックスと元型
1.エディプス・コンプレックス
2.文化差の問題
3.元型
4.自己実現