河合隼雄著『コンプレックス』② | 武狼太のブログ

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大学の通信教育過程で心理学を学んでおり、教科書やスクーリングから学んだことをメインに更新しています。忙しくて書けなかった、過去の科目についても遡って更新中です。

 
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【2】自我とコンプレックスとの関係
■1■自我がコンプレックスを認識せず影響も受けてない
■2■自我がコンプレックスを認識し影響を受けている
■3■自我とコンプレックスが完全に分離し主体性が交代する
■4■自我とコンプレックスに望ましい関係がある
■5■心理治療の従事者
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【2】自我とコンプレックスとの関係
◎大別すると下記の通り
<あるコンプレックスに対して>
 (1)自我がコンプレックスを認識せず影響も受けてない
 (2)自我がコンプレックスを認識し影響を受けている
 (3)自我とコンプレックスが完全に分離し主体性が交代する
 (4)自我とコンプレックスに望ましい関係がある
 
■1■自我がコンプレックスを認識せず影響も受けてない
◎何も問題は生じない
・あるコンプレックスに対して、下記のような時期がある
 ①何ら問題とならない時期
 ②どうしても問題としなければならない時期
・コンプレックスは、無意識下で段々と強力になることがある
 →その影響は、何らかの形で意識されてくる
 →(2)へと移行する
 
★全てのコンプレックスが無くなる、というのは人間業ではない
 
 
■2■自我がコンプレックスを認識し影響を受けている
・健常者にも生じる
・神経症(ノイローゼ)の症状にハッキリと示されることがある
 
▼影響の内容を分ける条件
 ①自我がコンプレックスを意識している「度合い」
 ②自我に対するコンプレックスの「強度」
 ③コンプレックスに対する自我の「対処方法」
 
【状態1】コンプレックスの影響を、自我が意識していない
・感情のゆれを経験する
 →何だかイライラする、気分が沈んで仕方ない、など
 →情緒の不安定さが、自分にも他者にも分かる
 
【状態2】コンプレックスを知的に理解してるが、その力が弱まらない
・下記②の状態
★知的に「知っている」こと
 ①コンプレックスの力を多少弱めたり、制限したりすることができる
 ②問題を知的に判断することで、コンプレックスとの対決を避けている
 *両面性がある
 
【状態3】コンプレックスの力が強まっている
・自我は安定を図るために、コンプレックスに対して様々な防衛手段を用いる
 
▼自我の防衛機制
 ①抑圧
 ・コンプレックスを完全に抑えつけ、影響を受けなくする
  →なかなか完全には抑えきれないため、他の手段へと移行してゆく
 ②投影
 ・自我に受け入れ難い感情や考えなどを、他の誰かが持っていると思い込む
  →例:真実とは思えない勝手な想像だけで、他者を非難してしまう
     投影される側は、何らかの「カギ」を持っていることが多い
 ③反動形成
 ・生じた欲求を自我が受け入れ難いとき、それに反発した言動をしてしまう
  →例:他者に愛情を抱いたとき、それを意識する前に憎悪の感情が生じる
     人を真剣に愛することは、恐ろしいことでもある
 ④代償
 ・生じた欲求を自我が受け入れ難いとき、その対象と代わるものへ欲求を向ける
  →例:親に対する強い愛憎の感情を、恋人や配偶者に向けてしまう
 ⑤逃避
 ・コンプレックスとの対決を極端に避ける(④代償と結びつきやすい)
  →例:白昼夢や空想の中に逃れて、代償満足を見出す
 ⑥同一化
 ・コンプレックスが黒幕となって、自我をコントロールする
  →例:誰からも「良い子」と言われた子が突然、家出をする
     自分で判断する経験が乏しく、力をつけた自立コンプレックスが爆発
   <特徴>
    *ある一面から見た輝くほどの真理 (例では、自立すること)
    *驚くほどの現実の無視 (例では、自活する具体策を持たない)
    *説得を許さない頑固さ
   ★コンプレックスと同一化する時(自我が弱い時)
    →その人の持つ力は強力となる
    →コンプレックスの力が弱まり、自我が回復するのを待つしかない
 ⑦その他
 
▼神経症(ノイローゼ)
・心理的要因により、心理的機能や身体的機能に、比較的永続的な障害が生じる
・あるコンプレックスが自我に影響を及ぼし、神経症症状となって出現する
 →本人も不可解と思いつつ、それを病的な症状として認める
 →どうしても意識的には治すことができない状態となる
 
◎神経症の発症
・自我とコンプレックスとの相対的な力関係が影響する
 →神経症になる人の自我が、他者よりも弱い、ということではない
 →個人の素質、人や物との出会いを含めた環境、心と体の関係、などが影響する
 →状態も症状も変動してゆく
 
◎神経症の期間
・短期間に一時的に生じる場合と、長期間に渡って続く場合とがある
 ★治療の際には、見極めが重要となる
<短期間>
 ・我々は、コンプレックスとの対決により、常に自我の拡大を図っている
 ・健常者と言えども、一時的に神経症状態に陥ることがある
 ・思春期には、ほとんどの人が多少とも、神経症状態を経験するだろう
<長期間>
 ・症状が長期に渡って固定している場合は、真正の神経症と言える
 
◎神経症の分類
・治療の方に重きを置くべきであるが、見通しを立てる上で分類が必要となる
・症状による分類には、自我とコンプレックスとの関わり方が関係している
・症状とコンプレックスの内容に関連性はない
 
*そのコンプレックスが、自我の近い位置に存在するとき
 →自我の統制が及ぶ範囲にある身体機能が障害を受ける
 →手足の運動、視覚、聴覚などに不調をきたす
*そのコンプレックスが、自我から非常に遠いとき
 →自我の統制が及ばない範囲にその影響が現れる
 →ある種の皮膚病や胃潰瘍などの症状が現れる
 
①ヒステリー
②二重人格
③抑うつ神経症(心因性抑うつ症)
④精神衰弱
⑤心気症
⑥不安神経症
⑦恐怖症
⑧強迫神経症
⑨器官神経症
 
★上記は、互いに重複したり、その中間的な存在が多い
 →自我とコンプレックスとの関係の変化に応じて、症状間の移行が生じる
・似た症状をもつ「統合失調症(旧:精神分裂病)」や「躁うつ病」とは区別される
 
◎神経症の心理治療
・患者と治療者との人間関係が重視される
 
▼コンプレックスと人間関係
◎同種のコンプレックスは影響し合う
 →感応現象が存在する、と言える
・強いコンプレックスを持つ人と接したとき
 →こちらのコンプレックスが刺激を受け、何となく不安定な感じがしたりする
・ただその人物に会うだけで、何の理由もなく感じる感情
 →コンプレックスの相互作用によるものが多いのではないだろうか
★「虫が好かない」と他者を毛嫌いする
 →自身のコンプレックスを他者に投影していることが多い
★きょうだいは「もう一人の私」としての役割を持つことが多い
 「もう一人の私」=コンプレックス
 
◎コンプレックスの感受性
・大人よりも子どもの方が、人間よりも動物の方が、感覚が鋭敏と思われる
①適当にコンプレックスを持つ人
 ★感受性がより強い状態
 →自我とコンプレックスとの関係が「カギ」となる
②自我よりも強いコンプレックスを持つ人
 ★傷つきやすい状態
 →感受したものを自分勝手に増幅し、現実を無視した判断をしがちとなる
③自我がコンプレックスを抑圧し切っている人
 ★感受性は鈍い
 →コンプレックスと接触が切れて安定している分、感受性が鈍くなる
 
◎対人関係
・「投影」や「代償」が強く作用している例がよく見られる
 
<例>
*『スケープゴート』(生けにえの羊)の現象
・集団のメンバー達が、共通のコンプレックスを1人の人間や少数集団に投影する
 →誰かをスケープゴートにすることで、集団は結束しやすくなる
 →手軽で安易に結束することができる
★現実を無視した判断の上で成り立っているため、強そうで脆い集団となる
 
<例>
*「劣等感コンプレックス」の強い人が集まった集団
・劣等感コンプレックスを暗黙の共有物とすることで、絆が深まりやすい
 →多数の力を頼って虚勢を張り、「反動形成」により自らを守ろうとする
 ★この集団の結束力は固い
・集団の外へ出ると、個人で劣等感コンプレックスと対決せねばならない
 →集団内に留まる限り、形容しがたい「温かさ」を感じられる
 →この「温かさ」から離れる淋しさに耐えられない人が多い
 ★強いコンプレックスは、個人の自我の存在をおびやかしてゆく
・共有する強いコンプレックスと自ら対決し、それを統合した人
 →その集団から外へ出なければならない
 →集団から非難や攻撃を受けたり、温かさを思い起こさせられたり
 ★コンプレックスが強ければ強い程、連帯感が強く、人の個性が奪われる
○自らの個性を生かそうとする人
 →その集団の中に安住せず、その温かい人間関係を切ることが必要となる
 ★自己実現の道は孤独な道
 
<例>
*独占コンプレックスの強い老夫婦(アメリカ人)の元に留学した日本人女性
・独占コンプレックスを抑圧し合理化して過ごしてきた老夫婦
 →実の子ども達をその対象とはせず、個性を尊重した
 →老境に入り、段々と抑えられなくなり、留学生をその対象としてしまった
・親切の押し売りをしてしまう
 →留学生を心理的な娘に見立てて、当人が迷惑がるような行動を取ってしまう
 →心理的な娘=イメージ、留学生=実像、両者が別物であることに気づけない
  ★イメージと実像を同一視してしまうことで、人は悩み苦しむことが多い
○誰が悪いのか?
 →思い悩むよりも、対決を迫られたコンプレックスと対峙することが大切
○日本人女性
 →アメリカ人と比較して、日本人女性は独占コンプレックスを刺激する力が強い
 →西洋と東洋とで、自我のあり方は相当異なる
 
▼布置(ふち)
=コンステレーション
・人間の内界にあるコンプレックスと、外界の事象との関わり
 →見事な「布置」が出来上がっていることがある
 →不思議な巡り合わせに、呼応性に、全く驚かされることがある
・「一体真の原因はどちらか」「一体誰が悪いのか」
 →原因は不問にして、付置が形成されていることに注目する
 →それまで意識していなかったコンプレックスが見えてくる
★その布置の意味を知ることに、自我の努力が払われることが大切
 
・・・
*ここでは詳細を省きますが、傾聴や心理相談において、特に重要なキーワードのように感じています。ご興味あれば、是非、下記を参照してみてください。
・本:河合隼雄「こころの最終講義」
 
 
■3■自我とコンプレックスが完全に分離し主体性が交代する
▼二重人格
・コンプレックスが自我を追いやり「もう一人の私」が現実に出現する現象
・同一の個人に異なる2つの人格が交互に現れる現象
 
◎両者間における自我意識の連続のパターン
 ①両者ともに連続がない(互いの存在を知らない)
 ②どちらか一方のみに、他方との連続がある(片方のみが両者を把握している)
・2つの人格は、相反する性格を持つことが多い
 →陰気と陽気、享楽的と道徳的、暴力的と良心的、幼稚と大人など
 
▼二重身(ドッペルゲンガー)
・精神医学的には、「分身体験」「自己視」「自己像幻視」とも呼ばれる
・自分自身が重複して「もう一人の私」が見える、感じられる体験をする
・コンプレックスと関係している現象もある
 →簡単な心理的な説明だけでは、理解しがたいものも多い
・現代では、二重人格はほとんど生じないが、二重身は今なお存在する
★単純に病気が診断されるものではない
 →神経症、統合失調症、てんかん患者の他、健常者にも起こりうる
 
◎体験談
・短時間、自分の姿を見た
・もう一人の自分がいると確信した
・自分の分身が遠隔地で独自の行動をしていると感じた
 →分身が死んだ、切れてしまったという状況に絶望を感じる人もいる
 ★「コンプレックスが無い方がいい」との考え方は、少し浅薄と思われてくる
 
◎心理的な規制が、通常とは相当に異なると考えられる
・「分身」をコンプレックスと呼ぶには、あまりにも大きすぎる
・あえて言うならば
 →コンプレックスの喪失時の苦しみ、空虚さ、と重なるかもしれない
 →コンプレックスの喪失は、コンプレックスの解消の際に必ず生じる
 
 
■4■自我とコンプレックスに望ましい関係がある
▼コンプレックスの解消
・大変な努力を要するもので、簡単に消え去るものではない
・時に、強い対決の姿勢が必要なときがある
 ★しかし、コンプレックスへの敵対や攻撃を良しとすることではない
 
◎コンプレックスの解消に必要なもの
・『愛情を背景とした対決』
・『ごまかしのない対話』
 
◎コンプレックスの解消には、凄まじいことが起きる時がある
・感情により固められたコンプレックス
 →「爆発」に近い現象によってこそ、克服が叶うときがある
 →「感情の嵐」との対決があってこそ、事態が好転するときがある
 ★関係者各自の心の中に起こった現象こそ、「対決」と呼ぶべきもの
*誰が悪いのか?真の原因はどちらか?
 →俯瞰してみると、不思議な巡り合わせとしか言いようがないことが起こる
 →原因は不問にして、対決を迫られたコンプレックスと対峙することが大切
 
◎コンプレックスの解消は、常に苦しいものとは限らない
・出現したコンプレックスよりも、自我が十分に発達していて力が強い場合
 →それを統合する仕事は、楽しいと思えるほど
 ★自我が強くても、そのコンプレックスを意識できないと悪影響に苦しまされる
 
◎コンプレックスと自我との望ましい関係とは
★両者の間に「対話」が成立していることが重要
・あるコンプレックスが自我に抑圧されるとき
 →そのコンプレックスは、徐々にエネルギーを蓄え、力を強くしてゆく
 →自我は、そのコンプレックスからエネルギーを得られなくなる
・自我がコンプレックスを統合してゆく努力を続けるとき
 →コンプレックスが極端な爆発を起こすことを避けられる
 →自我は安全な状態で、望ましい発展を遂げることができる
★自我は、コンプレックスと適切な接触を保ち、エネルギーを得ていくことが大切
 
<例>
*子どもの自立
・子どもが生まれ育ってゆくためには、母親の暖かい保護が必要
・子どもは成長過程において、母親から徐々に自立してゆかねばならない
 →ある年齢において、子どもの自我は自立を目指し始める
 →「母親コンプレックス」との分離を図り、対決しなければならなくなる
・子どもの自我
 →母親コンプレックスの中に浸って安住してきた
 →そこから分離してゆくことは、余りにも辛く、不安を感じる
 →反面、「このままでは駄目だ」という心の動きも強くなる
 ★葛藤状態となる
○子どもの自我が、未だハッキリと形成されていない場合
 →登校拒否症などの要因となる
○子どもの自我が、自立コンプレックスと同一化した場合
 →その強度により、非難したり家出したり、攻撃的な様相をきたす
 →強度に比例して、自立コンプレックスのもつエネルギーは大きい
 
◎自立と孤立
 ★自立:他者と関係を持つことが出来る
 ★孤立:他者との関係を拒否する
 →自立コンプレックスが自我と同一化した場合、孤立が生じてくる
 
 
■5■心理治療の従事者
・コンプレックスを解消する仕事を通じて
 →相談者の自己実現の過程に携わってゆく
・人間の心の発展の素晴らしさに、心を打たれることがあるのも事実
 →しかし、自己実現の仕事の苦しさや危険性に耐えかね、逃げ出すこともある
・他人から見たら些細なことで、家族や仲間が相争う
 →いつの間にか巻き込まれ、右往左往するだけのこともある
 
◎心理治療
・コンプレックスの解消には、相談者との「対話」を重ねることが大切
 →コンプレックスを明確にしてゆくことが重要
 →「対話ムード」というような甘いものではない
 →「劣等性の認識」などを伴う、非常に厳しいもの
★コンプレックスの解消における輝かしい将来
 →長く根気のいる対決と対話を通じてこそ、輝かしいものが磨かれてくる
 
◎コンプレックスの解消の過程
<相談者>
①コンプレックスに対する反発、それに伴う感情を放出する
②段々と、コンプレックスの存在を認めるようになる
③関心を持ってこなかった一面を認めてゆく
④コンプレックスが自我に取りこまれてゆく
 
◎カウンセラーとなり悩める人のために尽くしたいと思う人
・まず自問しなければならない
 →まず救われるべき人は、他人なのか、それとも自分なのか
 
◎「人間は努力すれば何でもできる」と信じている人は幸福である
・対人援助に従事する者は、常に突き付けられる
 →人間の能力には限界があること
 →抗し難い不可解な力が人間に働いていること
 ★時に、言いようのない絶望感に襲われる
・問題と必死に取り組まなかった人は、安易な楽観論をもつことができるだろう