偏差値は遺伝か?(中学受験) | 中学受験・高校受験 学力を伸ばす方法

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学習塾「テイクオフ」は2023年2月19日で閉塾しました。
18年間、誠にありがとうございました。

森下武三は、森下和装工業(横浜市)で
畳・襖・障子の仕事をしています。

学力達成が、遺伝によるのか、環境によるのか?
詳しく知りたい方に。
 
 
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子どもの成績がふるわないのは、本人のやる気・勉強の仕方に問題があるからなのか、
それとも遺伝や才能のようなもので仕方がないのか、どちらなのだろう。
このような疑問を持たれていると思います。
そして、考えてもわからないし、わかったところでどうしようもないだろうし、ということで、
そのままになっている、と思います。
今回は、大変扱いづらいテーマなのですが、あえてその点を突っ込んで考えてみたいと思います。
テーマがテーマだけに、誤解を与えないか心配しております。
1週間以上にわたってお伝えすることになると思いますが、
全部お読みいただいた上でご判断くださいますようお願い致します。

1.
学業成績は、何によって決まるものなのか。
遺伝によるものなのか、あるいは、環境によるものなのか、古くから様々な研究者が追究してきました。
遺伝によるものとは、親の遺伝です。才能とか素質とか言われるものです。地頭としばしば言われるものもほぼこれです。
環境によるものとは、子どもの育った環境、勉強のさせ方、本人の興味の持ち方、やる気、学校や塾の状況、仲間集団、などです。
この環境か遺伝か、という問題については、主に、心理学系(教育心理学系、発達心理学など)と
大脳生理学系(いわゆる脳科学や神経生理学も含める)の研究者の発言が目立ちます。
まずは、この二つの研究領域の専門家の主張から見ていきます。

2.
人間の発達は、環境なのか遺伝なのか、という問いは、心理学系の研究者によって20世紀初頭、
議論が繰り広げられました。どちらか一方だけが要因となっている、という一元的な議論が戦わされましたが、
片方だけで説明し尽くすには限界があるという見方が徐々に主流になり、現在は、両方が関係している、
というのが一般的な理解になっています。
では、どちらの方が大きな要因になるのか、というのが次の関心事になりますが、
教育心理学系の研究者は、基本的に、遺伝要因よりも環境要因の方が大きな意味を持つと主張します。
環境によって人が変わらないとするなら、教育というもの自体が不要となりますので、
立場としては当然の主張ですし、それなりの妥当性もあります。しばしば、狼に育らてれた子どもの話
(フランスのアヴェロンの野生児、インドのアマラとカマラの話)の例が引かれ、適切な環境や教育が
与えられなければ、人間的な行動様式は習得されない、つまり、遺伝によって行動が決まるわけではないという
主張の根拠とされます。もちろん、遺伝を重視する優生学のような発想は、
ナチなどのような人種差別につながるとして、遺伝要因をタブー視する傾向もあり、それゆえに、
余計に遺伝要因が語られないという側面もあります。
 
 
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前回は、心理学系の研究では、学業成績は、遺伝よりも環境の影響の方が大きいと言われることが多い、
ということを申し上げました。
 
3.
大脳生理学系の研究成果からは、脳に関する事柄は、基本的には環境要因で決まるということが
メッセージとして受け取れます。環境要因が支配的な要因であると発言している脳科学もいます。
3歳までに脳の90%の成長がある訳だから、そこまでにどう関わるかが重要である、とか、
学習によって神経線維(この広がりが頭の良し悪しを決めるとする)が伸びる訳だから
学習によって頭の良さが決まる、学習が重要だ、という考え方です。
この考え方は、一見、極めて科学的で反論の余地を許さないもののように思われます。
事実、幼児教育の重要性をこうした観点から主張しているものを読むと、説得力があるように感じます。
しかし、大脳生理学による説明では、兄弟間の差異が説明されない点が大きな問題として残ります。
同じ家庭で育ち、ほぼ同じ環境が与えられたにも関わらず、兄弟間で大きな差異があるのは
珍しくありません。お兄ちゃんはすごく優秀なのに、弟さんの方はごく平凡(あるいはその逆。姉妹間も同じ)。
こういうことは珍しくないどころ、日常的にしばしばあることが確認できます。
また、百ます計算のような単純計算は、脳内血流量が増加する、だから、子どもの教育に良い、
というようなことを脳科学者は主張します。しかし、百ます計算が有効かどうかは、これだけの
データではとても裏付けられているとは言えません。どのレベルの子どもにとって、どのような対照作業と
比較した上で、どの程度の差異があるのか、ということが示されなければなりませんが、
このような点については検証がなされていません。常識的には、高齢者のボケ防止や、
学習習慣のない子どもには有効であっても、中学受験生のように日常的に計算練習を行っている
生徒にとっては、百ます計算のようなものはほとんど効果を持たないと推測できます。

脳科学者の中には、遺伝要因よりも環境要因がはるかに大きな意味を持つと主張される
方もいますが、その臨床的な論証過程は他の学問領域のそれと比べて未成熟という印象を受けます。
大脳生理学系の観点から導かれる環境優位の見方や幼児教育の重要性についての見方には、
やや慎重に考える必要があり、少なくとも、私が把握している限り、脳科学者によって語られた脳科学の知見の中で、
中学受験層への指導に活用できるレベルにまで検証されているものはありません。
(やや脱線しますが、脳科学者の中には、その知見を基に教材等を販売されている方がいますが、
一般の人々には入手しがたい情報を根拠にされていて、良心的な販売方法と言えるのか疑義を持ちます。
ゲーム形式で販売されている場合もありますが、ゲーム形式のデメリットも現実的には勘案されるべきですが、
その部分は無視されています。慎重に検討されることをお薦め致します。)

4.
結局、多くの専門家の主張は、両方関係するが環境要因の方が大きい、ということなのですが、
これは“一般的”な場合で、中学受験生というカテゴリーに関してはどうなのか、というより焦点を絞った
観点が必要です。
上記の例のように、一般的には、百ます計算が有効だと言っても、
それが中学受験生にとって有効なのか、ということがわからなければ、中学受験のご家庭には意味がありません。
中学受験層においてどうなのか、ということについての文献はありませんので、
私なりに以下分析し、この点に関してどう向き合うべきか、ということを申し上げていきたいと思います。
 
 
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5.
一般的には、学業成績に環境要因の方が大きく影響すると考えられていますが、
当然と言えば当然です。
たとえば、常識的に子どもを愛して面倒を見てあげている家庭と、
両親ともに仕事の他にギャンブルや酒にのめりこんで、ろくに子どもの面倒を見ない、という底辺層に
一定の割合で存在する家庭とを比べれば、大きな環境の差が存在し、
これが学業成績に影響するのは容易に想像できますし、このような場合は、
遺伝要因を上回る要因となりうると考えられます。
ただ、中学受験層を考えますと、このようなことはまずあり得ません。
塾代で小4からの3年間で200万円とか、小6の1年間で百数十万円とか、かかると言われます。
首都圏の約2割弱の生徒が中学受験に臨みますが、おおよそ、所得階層のおおむね上位2割程度の
ご家庭が中学受験層であると考えらえます。
所得階層上位2割程度のご家庭の間で、一般的な意味での環境条件の差がどれほどあるか。
それなりの見識をもって生活されている方々だと思います。それぞれのご家庭なりに、情報収集して、
工夫して、愛情を注がれ、子育てされていると思います。
つまり、中学受験層の場合、一般的な意味での環境条件の差は非常に小さい、ということです。
中学受験層では、一般的に考えられるよりも、遺伝要因が大きい、ということです。
(あくまで、一般的に考えられているよりも、です)
また、中学受験のご家庭でも兄弟間の大きな差異があることは珍しくないことを考えても、
いくら環境を整えても、どうにもならない点がある、つまり、遺伝要因がある程度あると言わざるを得ません。
ですから、成績不振を個人の努力不足、あるいは、家庭の努力不足に帰すような考え方は、
適切ではありません。
本人は頑張っているのに「やる気が足らない!」と言われてしまった子どもは、一体どうすればいいのか、
自分はダメなんだ、と勉強嫌いになってしまったり、ネガティブな感情をためこんだり、
自己肯定感の低い人間になってしまったりするでしょう。
家庭としては頑張っているのに、周囲から「あそこは親がダメだから子どもの成績がダメ」と言われてしまったら、
親としては落ち込むでしょう。自分を責めるばかりでしょう。大きなストレスになるでしょう。
つらいばかりの子育てになるでしょう。
しばしば、子どもの成績を親の責任と考える向きが中学受験ではありますが、
一定の相関は確かにありますが、遺伝要因でどうにもならない場合もあります。
そのことを踏まえて、子どもの成績と向き合わなければならないと思います。
 
 
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6.
先に、教育心理学系と大脳生理学系の研究者の一般的な見解は紹介しましたが、
行動遺伝学については申し上げませんでした。
行動遺伝学の研究成果はあまり知られていませんので、ここで紹介したいと思います。
行動遺伝学では、遺伝要因が大きいことが主張されています。
例えば、一卵性双生児、及び、二卵性双生児に、同じ環境を与えても、結果は、一卵性双生児の方が
似通います。環境よりも、遺伝要因の方が強く働くことが説明されます。
また、行動遺伝学では、およそほとんどの人間の特質について遺伝要因が見られる、と説明されます。
身長を初めとする身体的特徴は遺伝の影響が強く、性格的特徴は遺伝の影響が弱いと一般的には
考えられますが、その性格面でも遺伝要因が見られます。
遺伝をあまりに重視することは、人種差別につながる恐れがあると警戒されるからでしょう、
このような研究成果が大きく取り上げられることはあまりありませんが、
大脳生理学系の研究成果に比べれば信頼性が高いと思われます。

7.
教育心理学では、発達とは、遺伝プログラムが環境によって発現していくプロセスである、
という説明もされます。
上記の行動遺伝学の主張と、教育心理学系で示されている見解を合わせれば、
「人間は遺伝的には様々なものをもって生まれてくる、そして環境によってそうした形質が発現される」
という考え方を導くことができます。
中学受験層を前提とした場合も、この考え方が妥当だと思われます。
算数国語理科社会といった点数ではかられない部分で才能をもって生まれてきていても、
それが発現していない可能性が大いにあるということです。様々な分野の成功者を見ても、
何らかの可能性が発現するまでに、10年、20年、30年かかるのは珍しくありません。
40歳過ぎてから、傑出した才能を開花させた人物も多くいます。
今の時点で学業成績についての才能があまりないと思われる場合は、受験までの数カ月とか1年で
大変身する可能性(偏差値40が70になる)は、現実的に高いとは言えないと思います。
(可能性がないという意味ではありません。可能性はあります。)
しかし、数年後や5年後に、偏差値30程度を逆転するような何らかの業績を上げることはさほど難しいことだとは思いません。
難関中学出身者が必ずしも難関大学に進学する訳ではありことや、
難関大学出身者が社会的な業績を上げる訳ではないことからも、このことはうなずけます。
そして、難関中学出身者以外で難関大学に進学する場合も多々ありますし、
難関大学出身者以外で社会的な業績を上げる場合も、これは枚挙にいとまがありません。
誰しも様々な可能性をもって生まれてきます。
算数国語理科社会の成績が悪いから、「おまえはダメな奴だ!」と断罪するのではなく、
現状は現状として受け止め、認めてあげて、「きっと、そのうち、すごい才能が花開くよ。」
と言い続けてあげなければならないと思います。
中学受験の算数国語理科社会の勉強で計測できる能力は、
人間のもっている能力のごく一部にしか過ぎませんし、社会で活躍するための方法はいくらでもあります。
今、子どもの成績がふるわないとしても、子どもの才能を信じて、子どもの可能性を発揮される
環境がいつか訪れると待ち続けてあげることが、その日のために適切な環境を用意してあげることが、
保護者のしてあげるべきではないかと思います。
 
 
 
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8.Q&A  様々な可能性が潜在的にあるということは、やはり親の遺伝が大きいということでしょうか。
 
誤解が生まれやすい部分かもしれませんが、先の行動遺伝学の知見は、主に双生児による検証から得られたもので、
親子の優秀さの関連性から導かれたものではありません。
親の優秀性と子どもの優秀性とは、広く知られている通り、一定の相関関係があることは様々な調査から
言われていますが、行動遺伝学の知見によってもたらされたものではありません。
(一般的には、遺伝要因もあるかもしれないが、優秀な親のもとでは学業成績をあげるための
いい環境が用意される傾向が強く、そのことが子どもの優秀性につながっていると解釈されることが多い。)
遺伝のしくみは実に複雑です。両親に共通して見られる形質が子どもにはどういう訳か見られない、
ということは珍しくありませんし、両親に見られない形質が子どもに見られる、ということも全く珍しくありません。
ですから、親の偏差値と子どもの偏差値は、必ずしも関係ない、と基本的には考えるべきだと思います。
たしかに、優秀な両親から優秀な子どもが生まれる可能性が高い訳ですが、
並み以下の子どもが生まれることもあります。
逆に、平凡な両親から、優秀な子どもが生まれることもあります。
関係していることが多いとしても、関係ない場合も多々ある、という認識が必要です。
しばしば親の優秀さを誇示するために、子どもをせっせと勉強させる、子どもをよその家庭に負けないように
勉強させる、というケースがあります。
周囲のご家庭に対しての見栄なのか、義理の両親に対するプライドなのか、わかりませんが、
いずれにしても利己的な態度で、不幸な結果を招くことが多いと思います。
遺伝のメカニズムは極めて複雑です。両親に見られない形質が子どもに見られることは珍しくありません。
このことを謙虚に受け入れるべきではないかと思います。
やや脱線になりますが、自分の子どもが優秀でさえあれば、他の子どもを少々バカにしても
構わないというような態度ですと、子どもにもそのような考え方が染みつき、点数の低い周囲の生徒を
バカにするようになります。少なくとも男子進学校ではそういう点数を自慢しようとする生徒がいじめのターゲットに
なりやすいということがあるようで、そういう意味でもやはり気をつけた方がいい点だと思われます。

繰り返しになりますが、子どもが優秀ではないからといって、それを親の責任だと決めつけるのは正しくありません。
大きなハンディキャップを背負って生まれてくる子どもたちもたくさんいます。
一昔前まではそれを親の責任と見なす風潮がありましたが、どうなのでしょう。遺伝には偶然の要因が相当にあります。
逆に、子どもが優秀ならば、親が優秀だからだ、というのも短絡的で、これも偶然の要因があるわけで、
天からの授かりものだ、というくらいに謙虚に考えるべきだと思います。
 
 
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9.Q&A 一般的に考えられているよりも遺伝要因が大きい、ということは、成績はどうにもならないということでしょうか?
 
中学受験では、環境要因が誇張されることが多いため、あえて、遺伝要因を強調する形で
申し上げてきました。
しかし、成績はどうにもならない、あきらめるしかない、ということを言おうとしている訳ではありません。
実際、大手塾さんの入塾時と卒塾時の成績・クラスを比べると、6~8割程度はほぼ変わっていないとしばしば言われますが、
それは逆に2~4割は変わっているということでもあります。
また、私の塾では、転塾されてきたほとんどの生徒さんを伸ばすことができています。
環境要因で確実に成績は変わります。
希望は失わず、諦めず、子どもにとってのいい環境とは何を追究しながら取り組んでいくという姿勢も
大事だと思います。
 

10.Q&A それではやはり、「誰でも灘開成に受かるんだからお前も頑張れ!」という姿勢で子どもに向き合えばいいでしょうか?
 
誰でも偏差値30から簡単に偏差値70になる訳ではなく、それはかなり低い確率でしか起こりません。
今の子どもの学力を受け入れることも重要です。成績がよいことは、それはそれで素晴らしいことで、
そういう才能が社会的に認められるということも重要です。
同時に、将来、何らかの才能が開花するという一定の確率で起こりうる
状況に備えて、そのご家庭なりのいい環境を用意してあげる、という姿勢が必要だと思います。
 

11.最後に
 
今を取り巻く社会は、環境優位です。
「誰でもできるはず。」であって、ということは、逆に、「できないのは本人の努力不足のせいだ。」
と考える風潮が強いです。近代成立以降の経済発展とともに根付いてきた一種の平等観であり、
新自由主義的な思潮の源泉の一つであろうと思われます。
「誰でもできるはず。」しかし、「できないとしてもいつかできるようになるかもしれないし、他のことができるのかもしれない。」
これは、二律背反的に見えて、両者共存しうる観念だと思います。
保護者の方の中にも、すでにこのように考えてらっしゃる方が多くいると思います。
このような考え方が、子どもと豊かに向きあわせてくれるのだと思います。
(これは、今の社会がもう一歩豊かな方向に進んでいくための考え方でもあり、私見になりますが、
様々な分野で次なる希望の世界像へとつながる新たな平等観でもあり、
少なくとも教育分野の改革においてはこの確立が必須の要件ではないかと思っています。)
※何しろ、この分野のテーマは誤解を招きやすいものですから、長くなって恐縮ですが、
1番から全てお読みいただいた上でご判断くださいますようお願い致します。
※遺伝か環境か、のテーマ、これで最後です。長らくお付き合い頂きましてありがとうございました。
 
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