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(本好きな)かめのあゆみ

かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

夜を乗り越える。

 

又吉直樹さんの

小説への切実な愛情がいっぱいに詰まったこの新書。

 

又吉さんが書いたというよりも

又吉さんが口述して

ライターさんが文章に整理するといったものなのであろう。

 

あとがきに

しゃべりすぎて歯が抜けそうです

って書いてあるから。

 

口述ゆえに感情が素朴に伝わってくる。

 

又吉さんが小説を好きになったきっかけの話とか

小説に何を求めているかとか

なんかいいわあ。

 

ぼくもずっと迷い続けているし

絶対

とかいいたくないし

いろんなものの見方を知りたいし

それにいまだに

人間って何だろう

って考えてるし。

 

近代日本文学がそのテーマのひとつとする

苦悩。

 

彼女の誕生日に

先輩と飲みに行って

飲んでいるあいだじゅう

彼女に対しては申し訳ないという気持ちがあふれ

でも先輩には彼女の誕生日であるとはいわなくて

もし先輩にいったら

すぐに帰って彼女と食事でもして来い

ってお金さえくれそうなのに

自分でそれを選んでおきながら

先輩のことをどんどん嫌いになっていく

っていう感覚。

 

ひとり相撲。

 

いまのぼくはそんなことしないけど

かつてはそんなこともあって

あれっていったいなんなんだろう

って思う。

 

又吉さんの好きな作家はなんとなくぼくも好き。

 

太宰治

芥川龍之介

夏目漱石

谷崎潤一郎

織田作之助

町田康

西加奈子

中村文則

平野啓一郎

 

太宰への思いの深さはもちろん

芥川の

或阿呆の一生

又吉さんの

火花

との関係も興味深かった。

 

太宰や芥川が

あの夜を乗り越えて

そのことを書いた小説が読みたい

っていう気持ちには

なんだかしびれた。

 

いいこという。

 

テレビでは見られない

批判的な表現も垣間見られて

とても内容の充実した

それでいてとても親近感のある

1冊でした。

 

 

 

--夜を乗り越える--

又吉直樹

ライムスターの宇多丸さんのことは

存じ上げなかったのですが

この本

すごくおもしろかったです。

 

なにしろ熱量。

 

熱い

ほとばしってる。

 

単なる映画紹介ではなく

日常のお悩み相談に対して

映画を引き合いに出してカウンセリングする

っていうこの手法。

 

はまってます。

 

また

宇多丸さんの

社会への視線というか

世界観というか

人間観というか

固定観念に縛られず

フラットでニュートラルな感じで

そこにも共鳴します。

 

かなりいい視点の持ち主であるとお見受けしました。

 

「カツラを外すタイミングがわかりません!」

というお悩みに

スーパーマンに登場する悪役を引き出してます。

 

ぼくはこの映画は観ていないのですが

その紹介の仕方がまたなるほどと思わせる。

 

ほかにも

「怒りを鎮める方法ってありませんか?」

「なぜかお年寄りが寄ってきます」

「ファッションの意味って何ですか?」

「この世には価値があるのでしょうか?」

など

てんでにばらばらなお悩みがあわせて43本。

 

1本につき5本くらいは映画を紹介しているので

200本くらいはタイトルがあがってると思うんですが

ぼくが観たことのある作品は

おそらく20本くらいでしょうね。

 

幅広い時代とジャンルをカバーされてますが

ゴダールなんかは含まれていなかったような。

 

紹介されている映画を観るかどうかはともかく

宇多丸さんの熱量に引っ張られて気分が晴れる

そんな1冊です!

 

 

 

 

--ライムスター宇多丸の映画カウンセリング--

宇多丸

「この世界にアイは存在しません」

 

高校の数学教師が放ったこのことば。

 

虚数である i のことなのだが

主人公のアイにとって

それは今後彼女につきまといつづけることばになるのであった。

 

虚数が暗示する自己の存在の不確かさ。

 

国際的な養子という出自。

 

アイが十代のころから感じる

世界で起こる哀しい出来事と自分とのつながりの

モヤモヤみたいなものはぼくも共有する。

 

もっとも

ぼくの場合は安全な場所からの妄想に過ぎない

という自覚もある。

 

自分に悲しむ資格があるのか。

 

自分の悲しみはどこからくるものなのか。

 

正直つらすぎてページをめくる気になれなかったところもあったけど

とにかくアイがたどりついた答えがラストにあらわれる。(印象的なシーン。)

 

ていねいに思考を重ねた結果

説得力のある答えになっていると思う。

 

ぼくの問題意識や世界観とも通じるものがあって

とても読みごたえがあった。

 

西加奈子さんの作品には

これまでから制御不能なエネルギーがほとばしっているのだが

この作品では

それが抑制的にコントロールされながら

しかもエネルギーを弱めることなく実現している。

 

女性同士の愛情。(アイもミナもまじめ。)

 

男女の愛情。(ユウのアイへの接し方は男性の鑑。)

 

親子の愛情。(ダニエルと綾子のアイへの接し方も誠実。)

 

その物語としても充実していた。

 

愛。

 

 

 

-- i (アイ)--

西加奈子