「この世界にアイは存在しません」
高校の数学教師が放ったこのことば。
虚数である i のことなのだが
主人公のアイにとって
それは今後彼女につきまといつづけることばになるのであった。
虚数が暗示する自己の存在の不確かさ。
国際的な養子という出自。
アイが十代のころから感じる
世界で起こる哀しい出来事と自分とのつながりの
モヤモヤみたいなものはぼくも共有する。
もっとも
ぼくの場合は安全な場所からの妄想に過ぎない
という自覚もある。
自分に悲しむ資格があるのか。
自分の悲しみはどこからくるものなのか。
正直つらすぎてページをめくる気になれなかったところもあったけど
とにかくアイがたどりついた答えがラストにあらわれる。(印象的なシーン。)
ていねいに思考を重ねた結果
説得力のある答えになっていると思う。
ぼくの問題意識や世界観とも通じるものがあって
とても読みごたえがあった。
西加奈子さんの作品には
これまでから制御不能なエネルギーがほとばしっているのだが
この作品では
それが抑制的にコントロールされながら
しかもエネルギーを弱めることなく実現している。
女性同士の愛情。(アイもミナもまじめ。)
男女の愛情。(ユウのアイへの接し方は男性の鑑。)
親子の愛情。(ダニエルと綾子のアイへの接し方も誠実。)
その物語としても充実していた。
愛。
-- i (アイ)--
西加奈子