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藤巻隆(ふじまき・たかし)オフィシャルブログ

私のテーマは6つあります。
(1)ビジネス書の紹介(2)医療問題 (3)自分ブランド力
(4)名言 (5)ランキング (6)ICT(情報通信技術)
このブログでは、主に(1)~(4)を扱っています。
(5)と(6)はそれぞれ別のタイトルで運営しています。

<このページでは、『日経ビジネス』の特集記事の
概要紹介と、管理人のコメントを掲載しています>



日経ビジネスの特集記事(110)

孤高の製造業
ファナック
利益率40%を生む異様な経営

2015.06.08



テーマ

今週の特集記事のテーマは

世界シェア8割の商品を持ち、営業利益率40%という
最強製造業。
それが今、株式市場を沸かせる産業用ロボットメーカー、
ファナックだ。
米アップルや独自動車大手も、ファナック無しでは
成り立たない。
極端に少ない情報開示から、実態はベールに包まれて
きたが、最大80%という大胆な株主還元策を打ち出し、
話題の中心に躍り出た。
富士通の傍流部門から始まったファナックが、
なぜここまで強くなったのか。
あえて常識の逆を行く、異様なビジネスモデルが
そこにはあった。

 (『日経ビジネス』 2015.06.08 号 P.026)

ということです。






孤高の製造業<br />ファナック<br />利益率40%を生む異様な経営

孤高の製造業
ファナック
利益率40%を生む異様な経営

(『日経ビジネス』 2015.06.08 号 表紙)
「日経ビジネスDigital」 2015.06.08




今特集のスタートページ

今特集のスタートページ

(『日経ビジネス』 2015.06.08号 PP.026-027)
「日経ビジネスDigital」 2015.06.08







第1回は、
「PROLOGUE 利益の最大8割を株主還元
 満額回答に隠された真意」
を取り上げます。


第2回は、
「PART1 あえて常識の逆を行く
 『異様』なのにはワケがある」
を取り上げます。


最終回は、
「PART2 偉大な父との葛藤
 カリスマを継ぐ『雑用係』の意地」
「PART3 稲葉善治社長が独白
 創業者がいなくても勝ち続ける」
 
をご紹介します。




今特集のキーワードは次の5つです。

キーワード

 株主還元 
 黄色いロボット 
 高収益 
 カリスマとの葛藤 
 永続性 



今週号の表紙と特集の写真をご覧になって、
お気づきの点があると思います。

ロボットの色が黄色であることです。


黄色は、ファナックのコーポレートカラーであり、
「戦いの色」だそうです。


今年になって、緑のロボットを発売したそうです。
緑はエコカラーです。


黄色いロボットと緑のロボットの違いは、
何でしょうか?


黄色いロボットは、ロボット単独で動きます。
黄色いロボットが動いている時には、
人は近づけません。危険だからです。


一方、緑のロボットは人と一緒に作業をします。
仮にロボットアームが人にぶつかっても安全
です。なぜなら、人に接触した瞬間に停止する
ようになっているからです。


ファナックという社名には、馴染みがないかも
しれません。BtoB(企業向けビジネス)の会社
だからです。


一般人が製品を目にすることが殆どないから
です。


NC(数値制御)装置や産業ロボットメーカーとして、
国内外で圧倒的な地位を築いています。


ファナックは、当初は富士通ファナックでした。
富士通の一部門に過ぎず、しかも傍流でした。


その後、富士通ファナックは富士通から独立し、
ファナックとなりました。


ファナックの創業者は、富士通でNC装置やロボット
部門の責任者であった、稲葉清右衛門氏です。
カリスマと言われています。


ファナックは高業績企業です。


その一端をご覧ください。


グラフ1

ファナックは飛び抜けている<br />・主要製造業と競合各社の売上高営業利益率

ファナックは飛び抜けている
・主要製造業と競合各社の売上高営業利益率

(『日経ビジネス』 2015.06.08号 P.027)
「日経ビジネスDigital」 2015.06.08



グラフ2

高い利益率を誇る<br />・ファナックの売上高と営業利益率、<br />東証1部上場製造業の営業利益率

高い利益率を誇る
・ファナックの売上高と営業利益率、
東証1部上場製造業の営業利益率

(『日経ビジネス』 2015.06.08号 P.027)
「日経ビジネスDigital」 2015.06.08






では、本題に入りましょう!


 PROLOGUE 利益の最大8割を株主還元 
 満額回答に隠された真意 


ファナックは東証一部の企業です。
ファナックの本社・工場の所在地はどこにあると
思いますか?


海外でしょうか? 国内でしょうか?


多くの方が驚くと思います。
富士山麓にあります。
もちろん、東証一部の企業で、本社・研究所・
工場が富士山麓にある会社は、ファナック以外
にはありません。


 富士山麗に広がる山梨県忍野村。

 山中湖から北に3kmほど車を走らせると、

 ファナックの本拠地が見えてくる。

 黄色の建屋が林立し、周りを鉄製の柵が囲う。

 通りには黄一色のトラックや社用車が行き交う。

 異様な光景だ。

 ファナックにとって黄色は「戦いの色」である。

 「狭い路(みち)を真っ直ぐに」「ロボット市場を

 征服せよ」。

 実質的創業者であり、現社長の父親である

 稲葉清右衛門は自社の理念を「黄色」に込めた。

 建屋、ジャケット、社用車、帽子まで黄色で染め

 上げた。


 4月13日、米国の大物投資家が2人のブレーンを

 連れてこの黄色い世界にやってきた。

 「アクティビスト(物言う株主)」、サード・ポイントCEO

 (最高経営責任者)のダニエル・ローブだ。

 今年2月にファナック株の保有を発表。

 株主還元が足りないとの批判を展開し、株式市場の

 注目をさらっていた。

 出迎えたのは、社長の稲葉善治と副社長の山口賢治、

 権田与志広の3人。

 彼らを前に、ローブは静かな口調で話し始めた。

 「御社の価値は今の株価より高いはずだ。自社株

 買いをすべきだ」。

 社長の善治はこの要求をはぐらかしながら、自社の

 理念を説いていった。


 2時間を超える会談の後、ローブは言った。

 「経営は何も変える必要はない。御社に尊敬の念を

 持った。長い付き合いをしたい」。
 

  (P.028)



富士の裾野にあるファナック本社・工場

富士の裾野にあるファナック本社・工場

(『日経ビジネス』 2015.06.08号 PP.028-029)
「日経ビジネスDigital」 2015.06.08




ここに登場している、サード・ポイントCEO(最高経営責任者)
のダニエル・ローブ氏の名前は、雑誌やサイトで目にします。


激しい要求(彼にしたら当然の要求)をする株主として、
有名です。


この話の続きがありますが、その前に、ファナックは米アップル
にとっても、フォルクスワーゲンにとっても欠かせない存在に
なっているという、記事をご紹介します。


 ファナックが止まれば米アップルの「iPhone」が作れなくなる。

 世界の自動車生産も滞る。

 2015年3月期の売上高営業利益率は40%、スマートフォンの

 筐体を作る機械の世界シェアは8割、手元資金は約1兆円、

 ROE(自己資本利益率)は東証1部上場製造業平均の倍の

 16%。日本企業の中で飛び抜けた事業、財務体質だ。
 

  (P.028)





表1


ファナック(株)【6954】 Yahoo!ファイナンスから



表2


ファナック(株)【6954】詳細情報 Yahoo!ファイナンスから





先ほどの話の続きはこちらです。
サード・ポイントCEO(最高経営責任者)のダニエル・
ローブ氏の要求に屈したかのような対応をしました。
ところが、『日経ビジネス』は真意は別のところにある、
と指摘しています。


 決算発表翌日の4月28日には4年3カ月ぶりに

 投資家向け説明会を開催。

 決算発表と同時に明らかにした株主還元策は

 「(サード・ポイントの要求に対して)満額回答

 に近い」(外資系証券アナリスト)ものだった。

 今後5年間、利益の最大80%を株主に還元する。

 「サード・ポイントに屈した」「企業に株主との

 対話を求める政府の方針(コーポレートガバナンス・

 コード)に従わざるを得なかった」。

 株式市場ではこう捉えられている。

 だが、外部圧力による変心と捉えては本質を見誤る。

 善治は明かす。

 「(株式市場の周囲から出る)ゴチャゴチャとした騒音

 を断ち切りたかった。だから有無を言わせない還元策

 を発表して黙ってもらった」。

 モノ言う株主や政府に屈したわけではない。
 

  (PP.028-029)



では、どうしてこんな大胆な株主還元をしたのでしょうか?



 黄色い壁の中で40年以上、ファナックは実質的な

 創業者の教えを忠実に実行してきた。

 それは「教義」と言ってもいいほど浸透している。

 一例を挙げよう。1970年代から工作機械の司令塔

 であるNC(数値制御)装置と、産業機械、ロボット

 という3部門の研究開発に特化し続けてきた。

 清右衛門がNC装置とモーターを基本技術と定め、

 その応用以外の分野については参入しないと決めた

 からだ。

 1兆円もの手元資金をため込んでいるのも、清右衛門

 が借金を嫌い、強固な財務体質を目指してきたから。

 利益率が高いのは、売り上げが3分の1に減るという

 異常事態が発生したとしても、利益を出しながら生き

 残れるようにするためだ。
 

  (P.029)


常に危機感を持って事業に取り組んできた姿勢が、
窺い知れます。


株式時価総額は6兆3千億円を超えています。
ファナック(株)【6954】詳細情報をご参照ください。


 稲葉家はファナックの大株主ではない。


 株式市場の「騒音」を断ち切ろうとしたのは、

 「カリスマ」が生み出し、稲葉家を中心に引き継い

 できた教義、すなわち強さの根幹を守るためだった。

 常識はずれに見える戦略を解きほぐすと、

 謎めいたファナックの本質と、目指す新しい企業像

 が浮かび上がってくる。
 

  (P.029)




表3






ポイント

稲葉家を中心に引き継いできた教義、
すなわち強さの根幹を守る



強みをさらに強化するのが、企業の取るべき戦略です。
さらに、経営者が「危機感」を自覚していることが、
補強しています。驕りは、破滅への道に導きます。




ポイント

黄色いロボットは、コーポレートカラーであると同時に、
戦いの色


なぜ黄色を選んだかについて、次のような記述が
見つかりました。


 黄色が会社カラーになった由来は、富士通の一事業部

 時代に、事業部ごとの報告書等を区別しやすいように

 黄色が割り当てられたためであり、また稲葉清右衛門が

 黄色を「皇帝の色」「気遣いの色」「注意の色」と気に入った

 ため、徹底されて使われるようになった。
 

  ファナック Wikipedia から



ちなみに、ファナック(FANUC)の由来は、
「社名のFANUCは「Factory automation numerical control
(工場の自動化及び数値制御)」の頭字語である」
ファナック Wikipedia から)
そうです。







今特集のキーワードを確認しておきましょう。

キーワード

 株主還元 
 黄色いロボット 
 高収益 
 カリスマとの葛藤 
 永続性 



次回は、
「PART1 あえて常識の逆を行く
 『異様』なのにはワケがある」
をお伝えします。


ご期待下さい!






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本当に役に立つビジネス書
『お金の流れが変わった!』
新興国が動かす世界経済の新ルール
PHP研究所 2011年1月5日 第1版第1刷







<目次>
第1章 超大国「G2」の黄昏
 Ⅰアメリカ-「唯一の大国」はいかにして崩壊したか
 Ⅱ中国-バブル崩壊はいつやってくるか

第2章 お金の流れが変わった!
 Ⅰ「ホームレス・マネー」に翻弄される世界
 ⅡEU-帝国拡大から防衛のシナリオ
 Ⅲ新興国ー21世紀の世界経済の寵児

第3章 21世紀の新パラダイムと日本
 Ⅰマクロ経済政策はもう効かない
 Ⅱ市場が日本を見限る日

第4章 新興国市場とホームレス・マネー活用戦略
 Ⅰ新興国で成功するための発想
 Ⅱ日本経済再成長の処方箋




昨日(6月12日)、テレビ東京のワールドビジネス
サテライト(WBS)で放送された内容で、印象に残った
ことがありました。


『俺のイタリアン』や『俺のフレンチ』という外食
産業のチェーン店をご存知でしょうか?


私はこの番組で初めて知りました。


このチェーン店は一流シェフが腕を奮い、低料金で
美味しいイタリアンやフレンチを提供するという
コンセプトで2009年に、最初に『俺のイタリアン』
を立ち上げ好評を博し、今年になり『俺のフレンチ』
を銀座に開店したということです。


このチェーン店のオーナーは坂本孝氏です。


ご存知のように坂本氏は『ブックオフコーポレー
ション』(以下、ブックオフ)の創業者で、元会長
でした。


50代で『ブックオフ』を立ち上げ一部上場企業に
成長させました。


しかし、売上の水増しが発覚し、会長を辞任しました。


その後、69歳で『俺のイタリアン』を開店しました。
現在72歳だそうです。


外食産業で常識とされているのは、
「材料費が30%、人件費が30%で残りが40%でなければ
やっていけない」ということでした。


坂本氏は「これは違う」と考えました。


「材料費は45%、人件費は25%、その他30%」でやれる
と確信していたそうです。
食材をけちっては美味しい料理はできないし、
一流シェフも腕の奮いようがない、と考えたそうです。


先頃、銀座に開店した『俺のフレンチ』のシェフは
渋谷松濤にある『シェ・松尾』の元総料理長だそう
です。


でも、「なぜ?」という疑問を抱きますね。


坂本氏は元総料理長をこのような言葉で口説いた
そうです。


「フランス料理を食べたことがない人にも、一流の
フレンチを低価格で楽しんでもらえるような店づくり
に協力してもらえないか」


銀座に開店した理由は、銀座は厳しい場所だから
ここで成功すればどこででもうまくいく、
と考えた上でのことでした。


今後の動向に注目ですね!





第1章 超大国「G2」の黄昏
 Ⅱ中国-バブル崩壊はいつやってくるか






上海を筆頭に中国は成長を続けていますが、
湾岸部と内陸部との格差が拡大し、
バブルが弾けるのでは時間の問題だ、
と述べる専門家がいます。


一方で、当分は成長し続けると指摘する人もいます。
どちらの考えが正しいのか、は時間が判断してくれる
ことです。


Time will judge who is right.


はっきりしていることは、一人っ子政策により確実に
高齢者の比率が高まるということと、賃金が急上昇
しているため会社経営が困難になるという2点です。


さて、その中国について『中国シフト』『チャイナ・
インパクト』『中華連邦』の中国3部作のある
大前研一さんは、どのように考えているのでしょうか?






 
 いま中国で起きているバブルは、かつて日本や

 アメリカが経験したものとは次元が違う。

 たとえばサブプライム危機につながったアメリカ

 のバブルはせいぜい、返済能力のないサブプライム層

 にまで貸し出しを行い、値上がりを前提に住宅を

 買わせる程度だった。

 ところがいまの中国は年俸の20~30倍を借金

 させてマンションを買わせ、しかもそのマンションを

 抵当にしてさらに新しいマンションを買わせる。


 5、6年前に買ったラッキーな人はすでに3軒目の

 取得に入っており、気がつけば年俸の100倍以上

 を借りている人もめずらしくない。

 日本の場合、バブルのときでさえも借金は(将来見込ま

 れる)年俸の8倍から10倍だったから、中国のそれは

 桁が違う。

 すでに中国では新築物件(多くは投機で買ったマンション)

 の空室が7000万戸もあるといわれている。

 アメリカでサブプライム危機の後遺症によって競売に

 出されると予想されているのは最大でも1000万戸で、

 じつにその7倍にあたる。

 しかも中国のマンションは完成形ではなく、コンクリート

 を打ちっぱなしの空っぽの状態で売られているので、

 いまだその多くにはトイレも風呂も設置されていない。


                
(今日の名言 02  通算 498 )






このような大前氏の指摘を受け、中国のバブルが
弾けるのはそう先のことではない、と考えるのは
私一人ではないでしょう。







上記の記事は2012年6月13日のものです。


この3年で中国の成長は鈍化しました。
毎年二桁成長していた中国が、7~8%になったのです。
それでも先進国の成長率と比較すれば高いですが、
中国はこれを「新常態」、つまり普通と考えています。


中国は、「世界の工場」として知られていましたが、
今はもうその面影はありません。


人件費が高騰したため、日本のメーカーなどは、
タイやインドネシア、フィリピンなどへ生産拠点を
移転したからです。


ですが、これらの国々は急成長していますので、
人件費が上昇しつつあり、コスト高になるのは時間の
問題でしょう。


中国に話を戻しますと、人口は13億人で世界一です。
「市場」としての魅力は大いにあります。


中国に次いで人口の多いインドは11億人と言われて
いますが、この国はカースト制がいまだに残り、
貧富の差は激烈です。


最近の報道で、インドには2億人が飢餓に苦しんで
いる、と伝えられました。日本の人口をはるかに
上回る人たちが飢餓に苦しんでいるとは、想像でき
ませんね。その数字から分かるように、飢餓に苦し
んでいる人数は、不名誉なことに世界一です。


中国共産党の幹部の腐敗は相当根深く、習近平国家
主席は「浄化」のため、中国共産党総書記経験者の
側近まで逮捕しています。


まだ浄化は継続中で、これからも逮捕者は増える
でしょう。




<参考>

日経ビジネスの特集記事(102)
日本を揺るがす新常態 失速中国でも稼ぐ鉄則(1)



日経ビジネスの特集記事(102)
日本を揺るがす新常態 失速中国でも稼ぐ鉄則(2)



日経ビジネスの特集記事(102)
日本を揺るがす新常態 失速中国でも稼ぐ鉄則(3)







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『お金の流れが変わった!』
新興国が動かす世界経済の新ルール
PHP研究所 2011年1月5日 第1版第1刷







<目次>
第1章 超大国「G2」の黄昏
 Ⅰアメリカ-「唯一の大国」はいかにして崩壊したか

 Ⅱ中国-バブル崩壊はいつやってくるか

第2章 お金の流れが変わった!
 Ⅰ「ホームレス・マネー」に翻弄される世界
 ⅡEU-帝国拡大から防衛のシナリオ
 Ⅲ新興国ー21世紀の世界経済の寵児

第3章 21世紀の新パラダイムと日本
 Ⅰマクロ経済政策はもう効かない
 Ⅱ市場が日本を見限る日

第4章 新興国市場とホームレス・マネー活用戦略
 Ⅰ新興国で成功するための発想
 Ⅱ日本経済再成長の処方箋





ギリシャ危機に端を発した欧州金融危機が世界経済へ
悪影響を及ぼしています。


2012年6月10日、EU諸国はスペインに対し最大1000億
ユーロ(約10兆円)の融資を決定しました。


この決定に株式市場は好感し、上昇しました(2012年6月
11日)。


しかし、ポルトガルやイタリアも財政危機に瀕しています。
こうした世界経済のうねりに日本は対岸の火事と高みの
見物をしている余裕はありません。


日本の債務残高は1000兆円に達し、増え続けています。
対GDPで200%以上に達しています。
さらに、2011年3月11日に発生した東日本大震災と福島
第一原発事故の後遺症は、被災地や被災者だけでなく、
日本全体に大きな傷跡を残しています。


さて、こうした世界情勢の中、
今回から『お金の流れが変わった!』を取り上げます。
大前氏はどのような処方箋を用意しているのか、
じっくり見ていくことにしましょう。





第1章 超大国「G2」の黄昏
Ⅰアメリカ-「唯一の大国」はいかにして崩壊したか




しばらく前にアメリカ国内で起こった、サブプライムローン問題
にまで遡ってみましょう。大前さんの考えは次のとおりです。





 サブプライムローンが破綻する以前のアメリカの繁栄は、

 借金に支えられたバブルだった。

 国家は米国債で海外から、個人はローンとクレジットで

 将来から借金をして、身の丈をはるかに超える消費に

 興じていたのである。

 なぜそんなことができたかというと、

 要するに「アメリカ経済は強い」「ドルは世界の基軸通貨

 でありつづける」という幻想を、世界じゅうの人が信じた

 からだ。

 もちろんITや金融、情報などの分野ではつねに先端を走り、

 投資に値する企業や人材が次々と生まれてきていたから、

 ある部分は実体をともなっていたといえる。

 それでも全体を見れば、明らかにバブルだったのは

 まちがいない。


                
(今日の名言 01  通算 497 )




今後、日本は世界は、また企業や個人は
どう変わっていくのか、いや変わらなければならないのか。

大前さんの見解に注目し続けます。
橋下徹大阪市長の影のブレーンでもあるからです。






上記の記事は、2012年6月11日に書いたもの
です。3年前です。3年で日本も世界も大きく
変わりました。


国内では、安倍首相による長期政権が確実と
なりました。


憲法改正に向かって、安倍首相は民意を顧みず、
突き進んでいるように見えます。


安倍首相の側近には、諫言する人物は皆無で、
独裁者の言いなりとしか、考えられません。


さらに、国内では非正規雇用者の割合が増加
しました。正規雇用者と非正規雇用者との
賃金格差は一段と拡大しました。


所得の減少が、晩婚化や非婚化の増加に拍車を
かける状況を作り出しています。



世界を見ますと、EU内では、ドイツが頭ひとつ
抜きん出ていて、フランスが後を追っている
状況です。


ドイツは「インダストリー4.0」という標語を
掲げ、第4次産業革命はドイツが主導権を握る、
と躍起になっています。


アメリカはIoT(モノのインターネット)を推進
し、さらにその先の産業同士をインターネット
で接続し、産業を強化し、世界との差を拡大
しようとしています。


ますます世界は混沌とした時代に入っていき
そうです。いや、すでに入っていると言うべき
でしょう。



日本はアメリカとEU、とりわけドイツとの
つばぜり合いを眺めているだけなのでしょうか?


自動車産業だけではどうにもなりません。
スマホの基幹部品の供給をひているだけでは、
世界情勢の大きなうねりに巻き込まれ、
沈没してしまうかもしれません。


21世紀も、アメリカが主導権を握り続けるので
しょうか。それとも中国あるいは、新興国の中
から台頭してくるのでしょうか?




世界や日本が変わったことをお話ししましたが、
3年前と変わらないことが日本にはあります。


それはよくご存じのように、東日本大震災による
東電福島第一原発事故の後遺症です。


被災地の住民の皆さんは、いまだに元の生活を取り
戻していません。仮設住宅から転居できない人たち
が多数います。


仮設住宅では、一人住まいの高齢者が増えている
そうです。


死亡原因は、ガン、心臓病、脳疾患と言われますが、
実は「孤独」だそうです。


孤独が、免疫力を低下させ、病気にかかりやすくし、
精神に悪影響を及ぼし、亡くなるケースが多い、
と聞いたことがあります。


安倍政権は、原発事故の問題も、北朝鮮による日本人
拉致問題にも、最近はほとんど触れなくなりました。


ただ、「集団的自衛権」の連呼で、憲法第9条の改正
がすぐにできないと分かると、憲法を勝手に解釈し、
自衛隊を「軍隊」にしようとしています。


「平和主義」が日本国憲法の特質であるにもかか
わらず、憲法改正をゴリ押ししようとしています。


安部首相は「我が軍・・・」、と口を滑らしたことも
あります。


憲法記念日に、横浜で、ノーベル文学賞受賞者の
大江健三郎氏が、「安倍がアメリカ議会で話したこと
は嘘だ。安倍は嘘つきだ」と「あべ」と7回も呼び捨て
したことが、ネット上で公開されていました。


大江氏に親しい人は、「大江さんはめったなことでは、
他人を呼び捨てにしない人。その大江さんが安倍首相を
呼び捨てにしたのは、よほど腹に据えかねたからだろう」
と述べていました。



<参考>

「すべて安倍のせい」と護憲派が横浜でスパーク
大江健三郎氏「米演説は露骨なウソ」
香山リカ氏「憲法使い切ってない…」

(「産経新聞ニュース」から)








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本当に役に立つビジネス書
一貫生産に再度こだわる
2015.06.08

上釜 健宏 (かみがま・たけひろ) 氏

[TDK社長]


 将来を見据えて工場を建てるなら、中国などよりも

 むしろ日本でやるべきだろうと考えています。

 私の信念は「ロケーションフリー」。

 どこで作っても同じ品質の製品が出来上がるという

 意味ですが、秋田はその中心になります。


 最近、「インダストリー4.0」という単語をよく聞くように

 なりました。ドイツが発祥の言葉で、4回目の産業革命

 を意味します。


 そこで私は「インダストリー4.5」を目指せと提唱して

 います。4.0に加える「0.5」は、TDK独自の品質に対する

 こだわりです。

 品質を重視した工場を造るなら、日本でやった方が目

 が届きやすい。


 安い賃金を求めて動くという感覚は、もう捨てるべき

 でしょうね。市場があるから進出するという戦略が重要

 になると考えています。


 私が社長になってから何度かリストラを実施しましたが、

 結果として全員が萎縮しちゃうんです。赤字部門を切る

 選択をすると、黒字の部門まで引っ張られてしまう。

 ならば、強い部門に「伸びろ、伸びろ」と言い続けた方が

 企業全体にとってメリットがある。

 磁石あるいは磁性製品はTDKの「DNA」です。

 赤字だからといって磁石を捨てたら、当社に何が残る

 のか。

 競合の電子部品メーカーにできないことを考えた結果、

 磁石は絶対にやめないという決断に至りました。

 5月の人事で取締役専務執行役員を磁性製品の専任に

 したのは、私の意志の表れです。


 TDKはもともと一貫生産が得意な会社でした。

 それが、カセットテープが爆発的に売れたことで、

 変な成功体験ができてしまった。

 材料から完成品まで自前で全部やらなくても、

 仕事が何となくできてしまう。

 かなり昔の話ですが、ある意味で「ミーハー」になっちゃっ

 たんですよ。

 自分の手を汚して試作して、足を使って顧客に届ける

 よりも、電話一本で外注業者に依頼する方が格好いい。

 カセットテープがヒットした頃から、社内でそういう雰囲気

 が出始めた。要は「手配師」が増えたんですね。


 自社の不得意な分野を外に任せるのではなく、

 人手が掛かりそうだから、あるいは面倒くさいからという

 理由で、外に業務を投げてしまう。

 そういったことを続けるうちに、業務が細分化されて部分

 最適が進行。社内で一貫してモノ作りをする能力が失われ

 ていった。


 もちろん反省はあります。就任直後は、社長が言っている

 んだから社員は理解していると思い込んでいたのです。

 でもそれは大きな間違いだと、2~3年前に気付きました。

 5年前の年頭所感では「スマートフォンの時代が来る」と

 言いましたし、大量生産からカスタム品へのシフトも強調

 してきました。

 ところが社員は「スマホって何」って感じで、なかなか付いて

 こない。私は裸の王様だったんです。


 TDKは今年、創業80周年を迎えます。100周年に向けて

 成長を加速するには、今から手を打たないと間に合いま

 せん。

 重要になるのが、創業者の精神や行動指針を末端の社員

 まで理解させること。だから私は、漫画家を雇って絵で伝えろ

 と言っているんです。文字だけだと誰も読みませんからね。


 今後、スマホはあらゆるものの「鍵」となります。

 クルマのロックを解除したり、エンジンを起動したりする

 のもスマホ次第。家のドアも、スマホで開閉するように

 なるでしょう。加えてスマホには、持ち主のあらゆる情報が

 格納されるようになる。健康関連の情報はスマホに蓄積され、

 医者にもそうした情報が伝達されます。

 そんな世界が到来したとき、スマホが壊れたらどうなるか。

 人の生き死にに関わる問題を引き起こしかねない。

 だからこそ、電子部品の品質をもう一度問い直す必要があり

 ます。そのためには、自前でやらないと問題点を把握でき

 ません。


 磁性といえばTDKと、世界中で評価されるような会社を目指す

 のが、私の考えです。

 磁石は、技術を持っているからといって必ずもうかるような

 事業ではありません。材料から地道にこつこつ続ける必要も

 ある。

 外部から後ろ指を指されないためには、営業利益率やROE

 (自己資本利益率)で2桁を達成するのが大事になるでしょう。

 世の中から、磁気は決して無くならない。物理の原理原則に

 照らしても明らかです。TDKはやっぱり、ここを大事にして

 いきたいと考えています。
 

  (PP.076-079)




TDK社長 上釜 健宏 氏

TDK社長 上釜 健宏 氏
(『日経ビジネス』 2015.06.08 号 P.077)
「日経ビジネスDigital」 2015.06.08









キーセンテンスは、

 「磁性といえばTDKと、世界中で評価されるような 
 会社を目指すのが、私の考えです」 
です。

自社の強みはどこなのか? 他社と差別化する技術は何か?
中核となる事業(コア・ビジネス)をしっかり定義することが、
とても重要だ、と考えています。


上釜さんは、好調な現在だからこそ、積極投資し、原点回帰
するタイミング、と述べています。


コスト削減のため、人件費の安い海外生産を行なう企業が
多くありました。ですが、新興国も年々人件費が上昇し、
コスト削減が難しくなってきました。


だからこそ、「ロケーションフリー」という言葉が出てくるのです。


国内であれば目が届きやすく、品質管理がきちんとできる、
と考えているからです。






ポイント1


磁石あるいは磁性製品はTDKの「DNA」


カセットテープ全盛時、TDKテープをよく購入したものです。
安心感があったからです。


TDKのもとの名称は、東京電気化学工業です。
SONYが東京通信工業であったのと同様に、世界を目指す
企業となるには、文字の少ないアルファベット表記が適切
と考えたのは、至極自然な流れです。


磁石あるいは磁性製品は、TDKの遺伝子として引き継がれ
てきたものですから、これを捨てるわけにはいきません。


自らの強みを強化していかなくてはなりません。





ポイント2


変な成功体験


「成功の復讐」という言葉があります。
成功するとあぐらをかき、同じ手法をとり続け、しっぺ返しを
食らうということです。


「大企業病」とか「茹でガエル現象」などと同じことですね。
マンネリ化してきてしまうのです。


つい楽な方を選択してしまうのです。地道にコツコツと行なう
ことを軽視してしまうのですね。





ポイント3


部分最適


業務を細分化することで、全体が見えにくくなってしまうのです。
自部署だけのことを考えればよい、という流れになってしまい
ます。


組織横断的な「クロスファンクショナルチーム」の運用が有効で
あることが指摘されます。縦割りの弊害を取り除くために、
組織を強制的に横串にして、全体最適を目指します。
決して簡単なことではありませんが。


今までしてこなかったのですから、直ぐに結果が出るはずは
ありません。ですが、明確な指針を打ち出し、この方向で前進
していくのだ、というメッセージを発信し、末端の社員まで浸透
させることが大切です。


ただし、組織が大きくなればなるほど、困難になってきます。
だからこそ、大企業でも小組織にして迅速に動けるようにし、
単位あたりの売上高や利益を算出し、きちんと管理しています。


京セラの創業者、稲盛和夫さんが「アメーバ経営」を考えだした
のも、それが原点です。




TDKの業績の推移を見てみましょう。



TDK(株)【6762】 Yahoo!ファイナンス から



有利子負債を除き、全ての項目が前期の業績を上回っています。
売上高、営業利益、経常利益、当期利益が大幅に増加しています
ので、EPS(一株当たり利益)が3倍になりました。






私見



上釜さんは、
「営業利益率やROE(自己資本利益率)で2桁を

達成するのが大事になるでしょう」
と述べています。


営業利益率は6.69%で、ROEは7.20%(いずれも
2015年3月期)になっています。
あとわずかのところまで来ています。


おそらく2桁を近いうちに達成するでしょう。



飯田展久編集長は、傍白で「なかなか正直な人です」、
と上釜さんを評していますが、たしかにそうですね。


「もちろん反省はあります。就任直後は、社長が言って

 いるんだから社員は理解していると思い込んでいた

 のです。でもそれは大きな間違いだと、2~3年前に

 気付きました。


 私は裸の王様だったんです」


創業家出身ではないにもかかわらず、上場企業の
社長として9年務めています。


そこで、飯田編集長が、
「これまで手を打ってなかったのですか」
という、結構辛辣な質問をしました。


その質問に対する回答が上記のものだったのです。


目下、業績好調という高材料はあるにせよ、
過去は過去として真摯に受け止める姿勢は、
立派だと思います。


スマホの基幹部品は日本メーカーが製造しています。
TDKや村田製作所、ソニーなどの部品がなければ、
スマホを製品化できません。


アップルもサムスンも完成品を販売し利益を上げて
いますが、黒子に徹している日本メーカーがあるから
こそ成り立つ構図です。


ところで、今週の特集で、産業ロボットメーカーの
「ファナック」が取り上げられています。


この特集記事を読んで初めて知ったことですが、
「中国などの工場では、『ロボドリル』と呼ばれる

ファナックの機械がスマホの筐体を大量に削って

いる」 (『日経ビジネス』 2015.06.08 号 P.033)
ということです。


日本の技術は、凄いですし、驚きましたし、素晴らしい
(SOS、箱田忠昭さんの言葉)ですね!






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医者と患者の関係 (2)


以前にもこのブログで取り上げたことのある、国際的に
高い評価を受けている心臓外科医の南淵明宏さんが
著した、

『心臓外科医の挑戦状』
(南淵明宏 中公文庫 2008年3月25日 初版発行)

を読了しました。


この本の中に、「医者と患者の関係はどうあるべきか」
というテーマが書かれた箇所がありました。


そこで、 「医者と患者の関係」 を中心に
本の内容と、私の考えをご紹介していきます。


もちろん、私は素人ですから解釈に間違いがある
かもしれません。


もし間違いがあれば、ご指摘していただけると幸い
です。


まず、南淵明宏さんについてご存じない方のために、
プロフィールをご紹介します。



 1958年大阪府生まれ。 83年奈良県立医科大学

 卒業。 国立循環器病センター、セント・ビンセント

 病院(オーストラリア)、国立シンガポール大学病院、

 新東京病院などを経る。医学博士。わが国屈指の

 心臓外科のスペシャリストとして国際的な評価も

 高い。 現在、大崎病院 ハートセンター長。
 

  (『心臓外科医の挑戦状』 「著者紹介」からの抜粋
 と、近況は心臓外科医 南淵明宏 公式サイトの
 「プロフィール」から補足





心臓外科医 南淵明宏 氏
Wikipedia から








目次

第1章 医者と患者の深い溝

第2章 違和感だらけの医療裁判

第3章 医者同士の壁

第4章 患者の心得




本書の章順に従って、内容をご紹介して
いきます。


第2回は、第2章 違和感だらけの医療裁判です。

南淵さんは、原告(被害者)側証人として裁判に
出廷したことが難度もあるそうです。


法廷の内外で繰り広げられた争いに巻き込まれた
経験もあり、その都度感じたことも記しています。


手術室の中で行われたことは、手術に携わった
病院関係者だけしか知りません。
つまり、密室の中で行われているのです。


それだけに、手術中あるいは、手術後に患者さんが
亡くなった場合、遺族が訴訟を起こすケースがあり
ます。


その場合、どのように裁判が行われるのかについて、
詳しく語っています。 


その前に、まず、病院とはどのようなところなのか、
語っています。誰もが納得できることでしょう。


 病院とは人が死ぬところである。人の死を十分に

 理解し、納得することで「病院での死」は受け入れ

 られるのである。病院とは人が死んでしまうところで

 あるが、また患者や家族が「納得」するところでも

 あるのだ。
 

  (『心臓外科医の挑戦状』 P.61  以下同様)





 医療裁判 

「医療裁判」とは何か?
この問題に関して真摯な態度で語っています。
「感情裁判」という言葉が出てきます。


 医療裁判の多くは何かに納得できなかった患者遺族

 が起こす感情裁判だ。

 感情裁判とは、つまり患者遺族側が病院の不誠実な

 対応に「ミスの存在を確信して」起こす損害賠償請求

 の民事裁判、という意味である。 言い換えれば多くの

 場合患者側は、最初の段階では、ミスを合理的に証明

 する証拠を何ら持ち合わせない、患者側の推量で裁判

 起こす決心を固めているのである。 前章で述べたよう

 に結果がどのようなものでも、病院や医師はたいがいの

 場合、患者側に医療行為の説明のための資料や文書を

 渡す、あるいは交付することはないからだ。
 

  (PP.60-61)


病院や医師は、資料を保管しているはずですから、
患者側からの請求がなくてもコピーを渡すことはできる
はずです。 しかし、現実にはそうならないのですね。



こうした状況では、訴訟を起こしても証拠隠滅されたら
患者側は不利になります。


 証拠保全という法律的手続きがあり、カルテやレントゲン

 写真の複製を患者側が入手することができる。

 そのカルテを読み解き、過失を客観的証拠(カルテのこと)

 にもとづいて立証し、しかるのちに訴訟にいたるのが普通

 だが、医療事故情報センターの堀康司氏によると、

 医療裁判の60%はこういった証拠保全なしに行われて

 いるのだそうだ。
 

  (P.62)



医療事故情報センターについて調べてみました。


 医療事故情報センターは、医療事故被害者の

 代理人として活動する全国各地の弁護士が

 正会員となって構成される任意団体です。

 わたしたちは、医療事故の被害回復と再発防止

 の実現に向け、様々な活動を行っています。
 

  (医療事故情報センター Wikipedia から)



医療事故情報センターは、
「医療事故被害者の代理人として活動する
全国各地の弁護士が正会員となって構成
される任意団体」だそうです。


このサイトの中に、「医師から説明を受ける時」
という項目があります。
その一部をご紹介しましょう。


 医師から説明を受ける時

 何よりも肝心なことは、医師から説明を受けた後で
 必ずそれを記録しておくことです。

 実際に医師に説明を受ける際には、次の事項が
 一応の目安となります。

 患者の異変発生までの投薬や処置の内容と、
 それについての事故・副作用・合併症の可能性。

 これらについて事前の説明と食い違っていた

 場合に、その食い違いの理由。

 医療事故発生時の状況と医師・看護婦等の対応。

 事故直後に受けた説明と現在の説明とに食い

 違いがあれば、その食い違いの理由。

 患者の異変の原因についての医師の意見。

 後遺症、治癒の可能性について。
 

  (医師から説明を受ける時 医療事故情報センターのサイトから) 




ただし、いくら密室の中で手術が行われても、
内部告発文書が遺族のもとに届けられること
があるそうです。


 内部告発文書が遺族のもとに送られるという

 事態がもとで医療裁判に踏み切ったケースが

 ある。

 こういった内部告発文書は、わざと文法的に

 おかしな部分があったり当て字が使われて

 いたり、奇怪な文面であることが多い。

 2002年にある大学病院での医療事故で娘を

 亡くされたH氏のもとにも内部告発文書が

 届いたが、両親は最初は何を言いたい文書

 なのか理解できなかったという。

 こういった内部告発文書はもちろん匿名であり、

 告発者が出所を推測されるのを極端に恐れた

 結果なのだろう。
 

  (PP.67-68)



ここで、医療訴訟件数はどうなっているか調べて
みました。


グラフ1


医療訴訟の件数とその推移




新受も既済も横ばいですね。
増加はしていません。



グラフ2


医療訴訟の件数とその推移




整形外科や産婦人科がもう少し多いかと思い
ましたが、内科や外科を上回ることはありま
せんでした。



表1






平均審理期間は、ほぼ2年でこれもほとんど
変動がありませんでした。


これらのグラフや表を見て感じたことは、
医療訴訟は年々増加傾向にあるかと
予測していましたが、完全に外れたこと
です。


その理由として考えられることは、次のこと
です。少々長いですが、ご一読ください。
医療が非常に専門性の高い行為であることが、
裁判に長く暗い影を落としています。


原告側が勝訴できないのはなぜか、
頷けることがあります。


 最高裁の資料によると、医療過誤の民事訴訟は

 年間、約800件に上る。

 高い専門性が必要なため、通常の民事裁判よりも

 審理に時間がかかる。

 さらに訴えた患者側の主張が通る勝訴率は、

 約2割にすぎない。

 通常の裁判では8割だから、医療過誤で裁判を

 起こすには、極めて厳しい覚悟が必要になるようだ。

 しかし、それでも患者本人や残された遺族は、

 医師の謝罪を求め、何が起こったかを知りたいが

 ために提訴する。


 なぜ、患者側が勝訴することが難しいのか。

 裁判では、誰がどのように医療ミスを立証して

 いくのか。

 医療訴訟にくわしい浅尾美喜子弁護士に聞いた。


 「医療過誤事件においては、患者側の弁護士は、

 訴訟にする前に医療機関側と話し合いの機会を

 持つのが通常です。医療機関側の過失が明らか

 な事案では、この話し合いの段階で、医療機関が

 自らの過失を認めて示談にする例がほとんどです。

 つまり、医療機関側の過失が相当程度明らかな

 場合は、訴訟にはならず、訴訟前和解(=示談)で

 解決されるということです。


 医療機関側の過失は原告(患者側)が立証しな

 ければなりませんが、一般的に医師は医師をかばう

 傾向があり、過失があったと証言してくれる医師を

 見つけることは、至難の業です」

 浅尾弁護士はこのように医療訴訟の特徴を指摘

 したうえで、「医療事件で患者側の勝訴率が低く

 なるのは、医療がきわめて専門的で閉鎖性が高い

 分野だから、という側面があります」と話していた。
 

  (「医療過誤訴訟」はなぜ難しい?
   患者側の勝訴率わずか2割
 から)


上記の話は、南淵さんが、この本の中で指摘して
きたことと、軌を一にしています。


医師と患者の間には、「深い溝」があるのです。




 手術時間 

「手術にも適正な時間がある」、という話です。
長時間かかる手術は「怪しい」ということです。


 たいがいの場合、問題となった手術は長時間

 かかっている。トラブルがあれば当然手術は

 そう簡単には終了しない。もちろん予想外に

 病変の激しい場合は困難な手術となり時間は

 かかる。あるいは未熟な医師が行った手術は

 必ず時間がかかる。熟練者、あるいは「できる」

 やつというのは、短時間で的確にいい仕事を

 するものなのだ。

 
 手術にもはっきりと、適正な時間がある。

 適正な時間より明らかに短い時間で手術を

 やり終えるスーパーな手術があることはあるが、

 遅い手術でよいということはありえないはずだ。

 理由もなく異常に遅い手術はもはや手術とは
 
 呼べない。
 

  (PP.71-72)




 証拠が手に入らない 

医療訴訟が他の訴訟と異なる点は、
「肝心なところでは手に入らないもの」だ、と指摘
しています。怖ろしいことですね。


物的証拠が入手できなければ、原告側が勝訴
できるはずがありません。
遺族は踏んだり蹴ったりです。



 医療裁判では、本来ならば患者の病気の状態や、

 死亡の原因を客観的に物語るはずの実際の証拠

 は、肝心なところでは手に入らないものなのである。

 やはりある大学病院で行われた腹部の内視鏡手術

 で、患者が術直後に両足の血管が血栓で完全に

 閉塞してしまったことで死亡するという事例があった。

 裁判になっているようだが、裁判で提出された足の

 血管から摘出した血栓の写真について、本当に患者

 本人のものであるか、患者側から疑義が出されたと

 いうことだ。

 提出された写真は大きく印刷、というかプリントされた

 ものであった。

 まず第1の疑問は、血栓の写真には、よく手術で摘出

 した臓器の標本に見られる名前と日付けの名札が

 撮影されていない。というより、トリミング、つまり画像

 が切り取られたふしがあるということだ。

 第2の疑問は両足の血管が詰まっているにもかかわ

 らず写真は片足の血栓だけであったというのも不自然

 な点だということだ。血栓の形状はきれいに片一方の

 足の血管に詰まっていたそのままの形で並べられて

 いたらしい。

 医師が自分のデジカメで撮影した、ということなので、

 デジカメの機種を教えてもらい、IT機器に詳しい弁護士

 が検討するとやはり画像のサイズがあわないという。

 医師にメモリーに記録されているはずのもともとのデータ

 を提出していただきたいと希望したら、廃棄した、

 とのことだ。また提出された血栓の写真は、もともとの

 画像データを印刷し、その後それをスキャナーでスキャン

 したのだということだ。なんとも複雑な工程で出来上がった

 写真のようだ。
 

  (PP.76-77)


ここまで来ると、証拠の捏造と隠滅ですね。
とても信じられないことです。
ですが、現実に起こったことです。




 プロとは? 



 今日専門家、すなわちプロは、素人が理解できる、

 素人でも納得できる内容の「仕事」をしなければ

 ならないということであるし、それが可能となるよう、

 素人向けの素人受けするプレゼンができなければ

 プロとは言えない、ということだ。具体的にはまず

 医療行為のビジュアルで信頼のおける記録であろう。

 カルテや画像、手術のビデオ、それらはプレゼンの

 有効なアイテムなのである。

 こういった現場の専門家が一般素人社会に歩み寄る

 姿勢があれば、裁判はもっと判定がしやすくなるだろう。
 

  (P.91)



極めて分かりやすく、十分に納得できる「プロ論」だ、
と思います。
専門用語を並べ、「お前たちには分からないだろう」
という態度は、自分は優秀であるということをひけら
かしたいのでしょうが、その一方で誤魔化している
とも取れます。




 意見書 

意見書なるものがあります。私は鑑定に相当する
ものと考えていましたが、南淵さんは実際にはその
ような扱いはされていない、と述べています。



 実際に私はこれまでに10通以上の意見書を

 裁判に提出した経験がある。これらは、すべて

 患者原告側の依頼によるもので、裁判所鑑定

 という権威ある(はずの)ものではなく、私的鑑定

 意見書なるただの参考程度のものとの位置付け

 である。しかし、そこに正しいことが書いてあれば

 裁判官も「なるほど」と耳を傾けてくれるかもしれ

 ない、ということで一生懸命書かせていただくの

 だが、裁判官の心証の形成、つまり裁判の行方

 にどれだけ役に立っているのか自分ではわから

 ない。
 

  (P.104)



裁判官は法律の専門家ですが、医療の専門家では
ありません。


ですから、どのような手術がどのように行われたか、
十分に理解することは困難です。


勢い、原告(患者)側と被告(医師あるいは病院)側
の当事者あるいは、代理人(弁護士)のどちらが、
より「真実」に近い証言をしているか、心証で判定
することになってしまうのではないでしょうか。


裁判員制度が導入されましたが、選任された一般人
は、ほとんどが裁判と医療の知識がない素人です。
その人たちに裁定させるのは土台無理があるのです。




南淵さんの次の言葉は、じっくりと考えてみる必要が
ある、と感じました。


 心肺停止した後に行われた警察立会いの司法解剖

 においてもその原因がはっきりと究明できていない

 状況で、最初に診た開業医の責任が裁判で合理的

 に問われるとしたら、人が一人亡くなればどんな理由

 であれ、必ず一人の医師がその責任を問われること

 になる。これでは医者はこの世にいなくなる。患者死亡

 という、治療の結果がもたらす悲劇が、医療裁判を

 経由することで新たな過ちと禍根、諦めと不信、憤りと

 怒りを生み出すことになれば、医療という文化を朽ち

 果てさせてしまうだろう。
 

  (P.110)





第1章の最後で、南淵さんは次のように問題提起
しています。
『心臓外科医の挑戦状』の初出は2004年12月です。
11年近く前に書かれた状況が改善されていると、
よいのですが、私はそうでないことを危惧しています。



 この国では現在、大半の病院で、患者が受けた

 治療の内容が10年もたつと、誰も知らない、

 歴史に埋もれた事実という扱いになってしまうのだ。

 これも「何でも水に流す」という国民性のなせる業

 なのであろうか。
 

  (P.56)




かなり長い文章となりました。
第2回は、ここまでにします。


第3回は、
「第3章 医者同士の壁」
をお伝えします。







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