たからしげるブログ

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つれづれ思うことどもを不定期で発信しています。

 で、けっきょく、話さないことにした。
 いまはまだ、レツゴさんのUFOに乗ったことは、五人だけのひみつにしておいたほうが、これからいろいろと都合よく運ぶんじゃないかと思ったからだ。
 ほかの四人も、ぼくと同じように考えているだろうことは、すぐにわかった。
「だよな」
 ぼくがいうと、四人はだまったまま、いっせいにうなずいた。
 え、待てよ。これ、どういうこと?
「ダカラサ、トリアエズハ、ダレニモ、イワナイデ、ダマッテ、イヨウゼ」
 頭のなかに直接、龍太の声がひびいた。
 亜矢美の声も、いった。
「ソウシテ、オカナイト、コレカラ、センセイタチニモ、ケイサツノヒトタチニモ、アレコレ、イロイロ、キカレテ、タイヘンヨ」
「ヘタシタラ、ケイサツニ、ツレテイカレチマウカモ、シレナイゾ」星那だ。
「ワア。アタシ、イチドデイイカラ、パトカーニ、ノッテ、ミタカッタノニ。ナーンテ、ジョウダン、ジョウダン」
 木村志保の声に、ぼくたちはにやりとした。
 校長先生がいった。
「いま、みんな笑ったかい?」
 菅沼先生も、きいた。
「何か、おかしなことでもあったのか?」
 ぼくは声にだして、答えた。
「いいえ。ぼくたち、ここで先生たちにみつけてもらえて、うれしいだけです」
「ヨシヨシ。ウマク、ゴマカシタナ」
「サスガハ、ヨンモジクン」
 もちろん、先生や警察の人たちに、ぼくたち五人の、なぜかいきなり身についてしまった、テレパシーの会話はきこえない。
 テレパシーがつうじるのは、ぼくたち五人のあいだにかぎってのことらしい。
 菅沼先生が、いった。
「それじゃみんな、教室にもどろうか」
 校長先生が、うなずいていった。
「それがいいでしょう、やれやれ。おまわりさん、ごくろうさまでしたね」
「いいえ、どういたしまして」
「それじゃ本官は、これで失礼します」
 警察官たちは帽子に軽く手をあてると、パトカーに乗りこんで、いってしまった。
 レツゴさんが乗ってきたUFOは、こうして、その姿を一度みた先生たちにとっても、すっかり有名無実のものになってしまった。
(つづく)



《有名無実》名前ばかりが立派で、実質がともなっていないこと。「有名」は、名前すなわち評価や評判があること、「無実」は、実すなわち中身がないこと。
【参考】名存実亡(めいそんじつぼう)。
●古川くんは本をまくらに寝ていて、朝の読書の時間を有名無実にしている。
●駅前にある高層ビルは火事でまる焼けになって有名無実の建物と化した。


38(有名無実)

 教室全体が大騒ぎになって、自分の机のひきだしや、ランドセルの中まで探したやつもいたらしいけど(ばかだね)、ぼくたちをみつけることはできなかった。
「しかたがない。先生はちょっと、職員室にいってくる。みんな教室からでないように。いいか竹中。学級委員長のきみの責任で、先生がもどってくるまで、だれも外にださないように注意してくれたまえ」
「がってんです、先生」
 竹中瑛大が刑務所の看守に早変わりして、だれも教室から脱獄しないように、ドアの前に立って目を光らせているあいだに、先生は職員室に向かったという。
「そしたらそこに、校長と副校長がいて、いま、警察がくるのを待っているところだって教えてもらったんです」
 先生はさっそく、ぼくたち五人が教室でいきなり、空中にとけこむようにしていなくなってしまったことを、校長に話したという。
「それはまた、おそろしくきっかいな!」
 と、校長先生がいったかどうかは知らないけど、ちょうどそのころ、ぼくたち五人はレツゴさんのUFOに乗って、三十年前の過去のこの場所の「下」にある「時間のはざまの世界」を訪れていたんだろうな。
 警察官のひとりがいった。
「ではけっきょく、校長先生が連絡されたUFOとやらは、やってきたとたんに消えてしまって、そのころ教室から突然いなくなってしまったという子どもたち五人もいま、こうしてぶじにみつかったというわけですね」
「ん? まあ。そういうことです」
 校長先生がみとめて、もうひとりの警察官がいった。
「では、われわれがこれから捜査しなければならない事件のようなものは、けっきょく何もなし、ということでよろしいでしょうか」
「はあ。よろしいかと思いますよ」
 校長先生の代わりに副校長先生が答えて、でもどうしてこの子たちはここにいるの? みたいな目でまたぼくたちをみた。
 ぼくは、自分たちがレツゴさんのUFOに乗って、百年後の人類に最大の脅威をもたらすだろう地球温暖化のこれ以上の進行と、そのころになってやってくるだろう邪悪な宇宙人の侵略を食いとめるために、三十年前の過去までいって、歴史をほんのちょっぴり変えてきた事実を、ここで先生たちに話すべきかどうか、優柔不断な頭で考えた。
(つづく)



《優柔不断》ぐずぐずしていて、ものごとを決断するのがにぶいこと。「優柔」は、優しくて柔らかなために決断力がとぼしい、「不断」は、決断力がないからびしっと決められない。
【参考】右顧左眄(うこさべん)、首鼠両端(しゅそりょうたん)、朝令暮改、狐疑逡巡。
●空き家の探検に行くのか行かないのか、伊藤くんの態度はいつも優柔不断だ。
●優柔不断でいつまでも決められないのは、自分をしっかりともっていない証拠だ。


(37)優柔不断

「ところで、その。UFOとやらは?」
 警察官のひとりが、ぼくたちの会話にわりこんできた。
「ああ、そうでした」
 菅沼先生は、あたりをみまわして、頭をかいた。肩をすくめてみせた。
「やっぱり、もういないなあ」
 警察官は、あきれたみたいにいった。
「もういないっていわれてもねえ。派出所に連絡されたのは、どなたでしたっけ?」
 校長先生が手をあげた。
「あ。それはわたしです。ちょうど、朝のホームルームが始まってすぐでした。わたしは校長室にいたんですが、校庭のどまんなかにいきなりあんなものがあらわれたら、だれだってびっくりしますからね」
「あんなもの、っていわれてもねえ」
 UFOをみていない二人の警察官は、おたがいに顔と顔をみ合わせた。
「いえいえ、それでですね」
 副校長先生が、あとをひきうけた。
「校長が警察に電話しているあいだに、UFOは消えちゃったんですよ。それはもう、あっというまに。煙みたいに」
「煙みたいにね(笑)」
「それで、何がどうなっているのか、わたしと校長とで、校庭にいってたしかめようって申し上げたんですけど、校長は」
「うん。ここはやはり、警察の方々がいらしてくれるまで、われわれは外にでないほうがいいんじゃないかって、考えました」
 警察官は胸をはって、答えた。
「それは正しい判断ですよ。本官二名は通報をいただいてから、これまでの最高記録の三分十五秒フラットで、ここまでかけつけてきたのですから!」
「それはどうもです」
 いつもパトカーがとまっている駅前の派出所からここ、日暮坂小学校までは、子どもが歩いても十分とかからない。
「ここにいる五人の児童が教室からいなくなったのと、校庭に降りてきたUFOがたちまち消えたのとは、同時くらいでしたから」
 菅沼先生が説明する。
「ぼくはてっきり、UFOがこの子たちをさらっていったんじゃないかと思って。ほんとに、そうとしか考えられなかったんですよ。もう、どうしていいかわからなくなって」
 パニックをおこした先生は、無我夢中でぼくたちを探しまわったという。
(つづく)



《無我夢中》心をうばわれて、我を忘れた状態になっていること。ほかのことは忘れて、ひとつのことに熱心に取りくんでいる様子。「無我」は、そこに自分がいない、「夢中」は、夢中になって心がうばわれている。
【参考】一心不乱、一意専心。
●片野さんは背が立つプールだったのを知らなくて、無我夢中で泳いだそうだ。
●無我夢中で遊んでいるうちに、おてんとうさまが沈んで日が暮れた。


(36)無我夢中

 パトカーは、ぼくたち五人が立っている場所めがけて走ってきて、とまった。
 校舎の窓という窓からは、みんなが鈴なりになって顔をのぞかせている。
 やがて、パトカーから警察官が二人、降りてきたのと、校舎のかげから数人の大人、いや先生たちが、ぼくたちのほうに向かって走ってくるのは、ほぼ同時だった。
「きみたち、UFOはどこだ?」
 警察官のひとりが、きいた。
 ぼくは、あたりをみまわして、いった。
「さあ、どこへいったんだろう?」
「どこへいったかだって? ということは、電話で連絡があったとおり、UFOはここにとんできたんだね?」
「そう、だとは思いますけど」
 あいまいな返事になってしまった。
 もうひとりの警察官が、いった。
「思うってきみ。それじゃ、きみたちはそのUFOとやらをみたのかい?」
「みたっていうか」
「そう。ねえ」
 そこに、先生たちがかけつけてきた。
 五年一組担任の菅沼英樹先生と、校長の姉崎哲也先生と、副校長の勝山雪子先生だ。
 校長先生がいった。
「きみたち、こんなところにいたのか」
 菅沼先生がいった。
「それにしても、いったいどうやって教室をぬけだしたんだい?」
 その口は、おどろきが限界をこえてしまったのか、ひらきっぱなしになっている。
 勝山先生がいった。
「まさか、三階の窓から五人そろってとび降りたわけでもないでしょう」
「何いってるの?」
 意味がわからない。
「でも、みつかってよかったわ」
「みつかったって?」
 菅沼先生が教えてくれた。
「きみたちは、ほんのさっきまで五年一組の教室にいたんだ。それが、そろって突然、いなくなってしまったんだよ」
「UFOがあらわれたときに」
「うん。宿題の読書感想文を集めようとしていたときだな。五人がそろって消えてしまった」
 志村龍太がいった。
「おれ、宿題忘れたのに気がついて、どこかに消えちゃいたいって思ったからかな」
 それは本末転倒というものだろう。
(つづく)



《本末転倒》ものごとの根本にあることと、どうでもいい末端にあることを取りちがえること。「本末」は、根本と末端、「転倒」はひっくり返る、つまり取りちがえること。
【参考】主客転倒、冠履転倒。
●森さんは勉強をしにいったはずなのに、ゲームに夢中になるなんて本末転倒だ。
●本末転倒とは、お金をためるために高価な貯金箱を買うようなおろかなまねをいう。


(35)本末転倒

 

「ドウゾ、キニシナイデ、クダサイ、ヨンモジクン。ミナサンモ、ネ」
 レツゴさんは、やさしかった。
「ソレヨリ、ソロソロ、オワカレノ、ジカンガ、ヤッテ、キマシタ」
「え、もうおわかれなの?」
「まだ、知り合ったばかりなのに」
「どうして?」
 ぼくたちはおどろいて、口々にいった。
「チョウノ、ハバタキ、ヒトツデモ、ジカンガタテバ、セカイハ、カワリマス」
 いって、レツゴさんの思考が、ぼくたちの脳みそにいっせいに降りてきた。
 ぼくたちは、全員が納得した。
 志村龍太がいった。
「三十年前の過去を、ほんのちょっぴり、変えたんだな」
 森亜矢美がつづけた。
「わたしたち五人の、それぞれの前世を生きた人たちがたどった人生を、ほんの少しだけ変えたのね」
 上田星那がいった。
「それで三十年後のいまが、地球全体、少しだけ変わって、さらに百年後の未来は、もっと大きく変わるって。よくわからんが」
 ぼくはいった。
「これで、日々進行している地球温暖化を完全に食い止めることができたわけじゃない。でも、百年たって邪悪な宇宙人がせめてきても、人類はそれに対抗できる文明をたもっていられるようになったんだ」
 木村志保がまとめた。
「あとは、これからこの地球に生きていく人類、つまり、あたしたちひとり一人の努力しだいっていうわけね。努力が実をむすべば、地球温暖化は食いとめられて、百年後に邪悪な宇宙人がやってきても、みんなで力を合わせて追い返せるんだ!」
 船がかすかにふるえた。
「モトノ、セカイニ、ツキマシタ」
 天井に大きな輪ができた。
 ゆかがせり上がってきて、天井の輪がまばゆいばかりの青空に変わった。
 あたりが、やさしい光につつまれた。
 つぎの瞬間、立っていたのは、どこからどこまでみおぼえのある、日暮坂小学校の午前中の校庭のどまんなかだった。
 レツゴさんのUFOは、姿を消していた。
 パトカーが一台、サイレンを鳴らしながら傍若無人に、校庭に侵入してきた。
(つづく)



《傍若無人》まわりや他人を無視して、自分勝手に気ままにふるまうこと。「かたわらに人なきがごとし」ともいう。「傍若」は、傍(かたわ)らに若(ごと)し、「無人」は、人がいない。まあ、パトカーの場合は、仕事だからしょうがないけどね。
【参考】得手勝手、傲岸不遜、眼中無人、勝手気儘。
●姉崎校長先生は昨夜、駅前で酔っぱらって通行人に傍若無人にふるまっていたそうだ。
●他人の家なのに、断りもしないで勝手に冷蔵庫をあけるなんて傍若無人なやつだ。


(34)傍若無人

 

 それからいったい、ぼくたち五人の身に何がおきたのか、情けないことに、ぼくもほかの四人も、さっぱりおぼえていない。
 長くて深ーい眠りからさめたみたいな気分で目をあけると、そこはレツゴさんのUFOのなかだった。
 ぼくたち五人は、さっきと同じ輪の形をした席に、むき合ってすわっていた。
「ミナサン、ドウモ、オツカレサマデシタ」
 頭のなかに、レツゴさんの声がひびいた。
「え?」
「ほよ?」
「はれ?」
「ん?」
「どうしたの?」
 ぼくたちは、おたがいに顔をみ合わせて、口々に声をもらした。
「何がどうなっているんだ?」
 志村龍太がきいて、レツゴさんが答えた。
「サクセンハ、セイコウ、シマシタ」
「そういわれてもねえ……」
 森亜矢美が納得のいかない顔でいう。
「ミナサンノ、キョウリョク、カツヤクハ、ゼツダイノ、モノガ、アリマシタヨ」
 ぼくはいった。
「でも、どんな協力や活躍をしたのか、さっぱりおぼえてないよ。レツゴさんがその記憶を消したっていうんなら、ひどいよ」
「ソレデ、イイノデス」
「よくないよ。いじわるだよ。ぼくたちはただの操り人形じゃないか。ふざけてるよ」
 レツゴさんは、静かにいう。
「アナタタチハ、サンジュウネンマエノ、ゼンセヲ、イキタ、ヒトタチノ、カラダニ、モグリコンデ、キタノ、デスヨ」
「どういうこと?」
 ぼくたち五人の脳みそに、レツゴさんの答えがいっせいに降りてきた。
 人はみんな、この世に生まれた瞬間に、前世の自分がどこのだれで、どんな一生を過ごしてきて、なぜこの世に生まれ変わってきたかという事実を、忘れることになっている。
 新しい人生をゼロからスタートするためには、そうでなければこまるからだ。
「だから、前世の記憶は消されたのね」
 木村志保がいって、レツゴさんが答えた。
「ソウイウ、コトデス」
 ぼくはたったいま、レツゴさんの悪口をちらっとでも口にしたのを思いだして、平身低頭してあやまるしかなかった。
(つづく)



《平身低頭》体をかがめ、頭をたれておそれ入ることから、ひたすらあやまること。「平身」は、身を平らにして、「低頭」は、頭を低くする。
【参考】三拝九拝、三跪九叩(さんききゅうこう)。
●吉良くんは自分が悪かったと、志村くんに平身低頭してあやまっていた。
●平身低頭して、ぺこぺことはいつくばっている姿はみられたものではない。


(33)平身低頭

 気がつくと、ぼくたち五人はふたたび、レツゴさんのUFOに乗りこんでいた。
「デハ、シュッパツ、シマス」
 天使の白衣を着た水野先生そっくりのレツゴさんの姿はどこかに消えて、ぼくたちの頭のなかにはふたたび、レツゴさんの声がテレパシーとなって直接とどいていた。
「いくって、どこへ?」
「上の世界でしょ」
「いまいた場所だよ。いまとちがうのは、上の世界はふつうに時間が流れているんだ」
「三十年前の、古い学校の敷地ね」
「ふつうに時間が流れているっていうと、おれたちのほかにも、だれかがいるわけか」
「いるんじゃないのかな」
「いるとしたら、あたしたちの前世を生きていた人たち?」
「かもしれないけど」
「だれがだれだかわからないのに、自分の前世を生きてたやつをみつけて、そいつの体にもぐりこめってか?」
「でも、どうやって?」
「とにかく、時間のはざまの世界からぬけだして、三十年前の過去に、えーと」
「上るんだ」
 ぼくがいったとき、UFOがゆれた。
「ツキマシタ」
 頭のなかでレツゴさんの声がした。
「着いたってさ」
「で、おれたち、これからどうするの?」
 志村龍太がいって、森亜矢美が答えた。
「レツゴさんにまかせましょう」
「ダイジョウブ」
 レツゴさんの声がいった。
「ミンナ、メヲトジテ、ココロヲ、ヤスラカニ、シテクダサイ」
 いわれたとおり、ぼくたちは座席に体をあずけたまま、全員が目をとじた。
 いきなり、すごく眠たくなってきた。
「スベテ、ワタシニ、マカセテ……」
 そんなレツゴさんの声が、たちまち低く、小さくなって、遠のいていく。
 つぎに気がつくと、ぼくは知らない人の体のなかにいた。だれだ、この人?
 あたりにも、知らない人がたくさんいた。
「デハ、サクセン、スタート、デス」
 レツゴさんの声が、頭のなかにひびいた。
 人類の未来を救うためだ。ぼくはレツゴさんの目的をはたすために、粉骨砕身がんばろうと思った。
(つづく)



《粉骨砕身》骨を粉にして、身を砕くくらいに、力のかぎり努力すること。非常に苦労して、はたらくこと。「粉骨」で、骨が粉になり、「砕身」で、身が砕ける。
【参考】砕身粉骨、彫心鏤骨(ちょうしんるこつ)、刻苦勉励。
●佐藤さんは何でも一流になるためには、粉骨砕身努力するしかないといっていた。
●ゲームが始まったら、粉骨砕身してチームにつくすことしか考えない。


(32)粉骨砕身

 ぼくたち五人の脳みそに、レツゴさんにかんする知識が一瞬にして降りてきた。
「えー、そうだったんだ」
「わあ、びっくりぎょうてんね」
「そんなこと、ぜんぜん知らなかったぞ」
「ひえー、そういうことかよ」
「おどろくなっていわれても、むりむり」
 だれもが、予想をはるかにこえたレツゴさんの正体を知って、目を丸くした。
 ところが、それからまもなく、ぼくたち五人は、さらにおどろくべき事態におそわれることになった。たったいま、その知識を自分たちの脳みそにしまいこんだばかりだというのに、だれひとりとして、それを言葉にかえて口にだすことができない。
 ふしぎといえば、ふしぎだった。
「レツゴさんは、レツゴさんだよ」
「宇宙をはるばる十三年近くもとんで、地球にやってきたんだからね」
「人類の未来を救うために」
「作戦は、地球温暖化の脅威をとりのぞくことから始めるんだって」
「やがてやってくる邪悪な宇宙人の侵略は、人間の手で防がないといけないんだ」
 ぼくたちが口にだしてはっきりといえるのは、だいたいそれくらいだった。
「それでいいんです」
 一瞬、姿を消していた水野先生、じゃなくてレツゴさんが再び姿をあらわして、いった。
「あなたたちは、わたしのことをよく理解してくれました。わたしがこうして、地球にやってきた目的も、しっかり伝わったことと思います。では、そろそろ時間もせまってきました。みなさん、よくきいてください」
 ぼくたちは耳をそばだてた。
 できればいまみたいにテレパシーを使ってほしいのだが、レツゴさんがぼくたちと同じ人間の、しかもとりわけ美しく、かわいく、うるわしい水野先生の姿と声をたもっているときは、このうらわざは使えないことが、いまではわかりかけていた。
「まずは、いま、上の世界で暮らしているあなたたちの前世を生きている人たちの体にもぐりこんでもらうことから始めましょう」
「もぐりこむって?」
「心配しなくても大丈夫。みなさんは気を楽にして、このわたしとはつかずはなれずのままでいてくれたら、それでいいんです」
 レツゴさんとぼくたちは、不即不離の関係をたもっていればいいのだという。
(つづく)



《不即不離》関係がくっつきすぎてもいなければ、はなれすぎてもいないこと。「不即」は、くっつかない、「不離」は、はなれないこと。つかずはなれず。「即」は、みた目は対立している二つの事物が、じつは同一、つまりくっついていることをいう。
【参考】不離不即。
●竹中くんと上田くんは、仲直りしてからこのまま不即不離の友情を保ちたいそうだ。
●べたべたもしなければ、つんつんもしないのが理想的な不即不離の親子関係だ。


(31)不即不離

 三十年前の、時間のはざまの世界にとどまっていられる時間が、せばまってきた。
 何しろ制限時間の三十分をこえると、「上の世界」つまり、時間がふつうに流れている三十年前の過去のこの場所に、強制的にもどされてしまうというのだから。
 いや、「もどされる」といういい方は正しくなかった。なぜなら、ぼくたちがもともといた世界は、いまの時点からみると三十年も先の未来になるのだから。
「それではさっそく、ことにかかるとしましょうか」
 レツゴさんの言葉に、志村龍太がいった。
「だけど、おれたち、いったいどこまで、レツゴさんのいうことを信じられるんだよ」
 森亜矢美もいった。
「信用できないっていうんじゃないのよ。でもわたしたち、レツゴさんがいったい、宇宙のどこからやってきたかも知らないし、地球温暖化と、百年後にやってくる邪悪な宇宙人の脅威にさらされているっていう人類を、どうして助けてくれようとしているのかも、よくわかってないじゃない」
「でもさ」
 ぼくはいった。
「レツゴさんがその気になったら、ぼくたち人間なんてたぶん、あっというまにほろぼされちゃうと思うよ。それに、地球温暖化の脅威は、いま人類がかかえていて、何とか解決しないといけない最大の問題だろ」
 上田星那も声を重ねた。
「いまのおれたちには、選ぶ権利なんてないんだよ。レツゴさんのいうことを信じて、いわれたとおりにしようぜ。ほかに方法なんてないんじゃないのかな。よくわからんが」
 木村志保がまとめた。
「あたしたちはレツゴさんに選ばれたのよ。具体的に何をどうするかは、レツゴさんが教えてくれる。だったらレツゴさんをがっかりさせないように、いまは全力で、あたしたちができることをするしかないと思う」
「ありがとう、みなさん」
 レツゴさんの声は、ほんのりと感動のしめり気をおびているようにもきこえた。
「でも、龍太くんと亜矢美さんのいいたいことは、よくわかります。では、そのへんの疑問に、さくっとお答えしましょう」
 それだけいったあとのレツゴさんは、地球温暖化の知識をさずけてくれたときと同じように、不言実行の態度をとった。
(つづく)



《不言実行》何もいわずに、やるべきことをだまってやること。文句をいったり、屁理屈をこねたりしないで、やることをやる。「不言」は、言葉を発しない、「実行」は、行うこと。一度口にだしたことは必ずやる場合は「有言実行」「言行一致」で、こちらもかっこいい。
【参考】訥言実行、訥言敏行。
●勝山校長先生はいつも、人を助けるときは不言実行でいこうといっている。
●ボランティアで活躍する多くの人たちは、不言実行をモットーにしている。


(30)不言実行

「それで、ぼくたちはこれから、ここで何をすればいいんですか?」
 ぼくがきくと、レツゴさんは答えた。
「あなたたちは、選ばれた五人です」
「選ばれたって、だれが選んだの」
「もちろん、わたしに決まっています」
「わたしっていうのは、レツゴさんね」
 木村志保が念をおした。
「そのとおりです」
「みんながどんどん消えていったのに、おれたちは最後まで消えなかったからな」
 志村龍太がいって、レツゴさんがうなずいたので、ぼくはまたいった。
「消えていった人たちはみんな、もとの世界にいるっていったよね。ってことはいま、もとの世界にいないのが、ぼくたち五人ってことになるわけだ」
「おれたち、いまは行方不明ってことか」
「さあ、それはどうでしょう」
 いって、レツゴさんは笑った。どういうことなのか?
「だけど、何を基準にして、あたしたちは選ばれたのかしら?」
 志保がきいて、レツゴさんは答えた。
「まずは、三十年前の過去を少しだけ変えても、あなたたちはみんな、いまと同じ両親のもとに生まれてきて、いまと同じ人生を歩むだろうことがたしかめられました」
「えっと、それは?」
「三十年前の過去に、あなたたちはみんな、この国の、この地域に生きていました」
「はあ?」
「うそ」
「生きてるわけないだろ。だって、三十年前っていったら、おれたちはだれもまだ生まれてなかったじゃないか」
 龍太が指摘して、レツゴさんが答えた。
「いまのあなたたちとはちがう、べつの人間として、生きていたんです」
「どういうこと?」
「よくわからん」
 でも、志保は気がついたみたいだった。
「それって、あたしたちの前世のことね」
「そのとおり」
 レツゴさんはほほえんで、つづけた。
「あなたたち五人の、それぞれの前世を生きていた人たちがとった行動を、ここでほんの少しだけ変えてもらうだけで、百年後の地球の状態が、がらっと変わるのです」
 だれもが半信半疑だった。
(つづく)



《半信半疑》半分信じて、半分疑うこと。ほんとうか、うそか、気持ちが左右にゆれていて、決められない状態。迷っている状態。
【参考】(やや意味は異なるが)優柔不断。
●片野さんは、駅前の占い師にいわれたことばを半信半疑で受けとった。
●どうしていいか迷ったら、半信半疑でもいわれたとおりにしてごらん。


(29)半信半疑