たったいままでそこにいたOの所在を求めて落ち着きをなくしたSを、Fはしばらく見つめた。心の会話が通じないと知って、次に出した声は母親のOとよく似ていた。
「母は私を産んだ時、出血多量で一度、死んだそうです。三十二歳の時でした。でも、しばらくたって奇跡的に生き返りました。その間に不思議な体験をしたって、教えてくれたことがありました」
「ああ。臨死体験だね」
「はい。死んで肉体から抜け出した母は、天国だとばかり思った世界にいったんです。でも、そこで出逢った人に、言われました。ここはまだ天国ではない。せっかく母親になれたのに、そのまま死んだらだめだ。きみには地上でまだしなければならないことが残っている。すぐに戻りなさい、って」
先刻、SがOに伝えた言葉と同じだった。
Fが続けた。
「その人がだれか、母はだれにも教えませんでした。でも、男の人だとは私、薄々感じていました。その人と母は、おそらく恋愛関係にあったのではないかと。そう言っても、母はいつも笑って、想像におまかせします、としか答えてくれませんでした」
気持ちを抑えられなかったSの心を、Fはすぐに読んでしまった。
「あなただったんですね。そうでしたか。あの、ちょっと待ってください。頭が混乱してきました。私、生まれたのは……」
知っているのはOだけだろう。彼女はきっといまも地上に生きている。しかし、娘のFはなぜ、命を落とすことになったのか。
「はい。母はまだ地上にいるはずです。私が死んだのは高校生の時でした。自転車に乗って通学中に、車にはねられたんです」
何てことだ。Sは深く同情した。次にFが投げた質問に、Sは答えようがなかった。
「知っていたんでしょうか、疑っていたんでしょうか。父は、その秘密を……」(続く)





