戦争の時代を生きる、とはどういう意味を持つのか、Pは説明を始めた。
「ぼくが生まれた昭和七年、わが国では世界恐慌のあおりを受けて社会不安が増大していました。そこに、昭和維新などといった皇国思想のもとに国家改造を熱望する右翼カルト集団が発生して、政府や財界の要人らを次々と暗殺する血盟団事件が起きました」
戦後に生まれたSには、はるか昔の歴史上の事件としての認識しかなかった。
「それに続く五・一五事件で、日本は本格的な軍国主義の時代に突入していったのです。国民学校で学ぶ九歳の時には、真珠湾攻撃とともに太平洋戦争が始まりました」
「なるほど。戦争が始まっても子どもだったPさんに、召集はなかったわけですね」
「はい。広島と長崎に人類史上初の原爆が落とされて終戦になりました。ぼくは十三歳でした。でも、戦時中の食糧難や空襲などによる恐怖はいやというほど味わわされました」
「ご家族は無事だったのですか」
「父は戦死しました。母は戦後まもなく、まだ四十代でしたが病没しました」
「では、お二人ともいまはあの世に」と言いかけてからすぐ、それは変な質問だとSは思い直して苦笑した。あの世には、これまで地上で生きて死んでいった無数の人たち全員の「元の魂」が、現在は地上に分身が生きていようがなかろうが、存在するのだから。
Sの心を読んだPが答えた。
「あの世から再び生まれ変わっているかどうか、というご質問でしょうか。はい。二人ともしっかり転生していますよ。その気になれば、どこのだれかもわかりますが」
「いいえ、そこまでは結構です。それより」
なぜ戦争の時代を生きたかったのか、まだ聞いていなかった。Pがすぐに答えた。
「前世でFだった時、高校生ながらも彼女は地上から戦争をなくすにはどうすればいいかを、真剣に考えていたんです」(続く)





