「そうですね。いまSさんがおっしゃった数値は、飽くまでも現在の科学によって割り出されたものでしょう。いずれにしても、人類が地球に登場してから今日まで過ごしてきた地上での時間は、地球そのものが経てきた久遠の歳月に比べれば、あってもなくても同じくらい圧倒的に短いのは確かです」
そう答えたPが、さっきまでいた少女Fに替わって目の前に現れた時、Sはたちまち九歳の少年になっていた。が、会話を続けていくうちに、Sは次第に大人びてきていた。いまや七十代の高齢者に戻り、同時にPも、いまは二十六歳の若い警察官ではなく、その後の人生を歩んだ末に晩年を迎えた六十代後半の普段着姿の老人になっていた。
それに気がついて、Sは言った。
「不思議なものですね。ぼくたちはいつのまにか、年相応の者同士の姿になっている」
Pは快い笑い声を立てて応じた。
「いいんじゃないですか。会話が会話ですから。もちろん、思い思いの姿をここに再現できるのは、私たちがどちらも肉体のない魂だからですけど。魂の創作力です」
「そうでした。ぼくはいまも肉体を地上に置きっ放しにして、この異世界にいたんだ」
いきなり、いつまでもこのままでいいのだろうかという不安が、Sの胸を騒がせた。
「人と人が殺し合う戦争が地球にとって必要悪かもしれない、という話はまだ先が長くなりそうです。それよりSさん、あなたはいつまでこの異世界にいるつもりですか」
「そうですね。ここからだといま、地上がどうなっているかを知ろうとしても、何をどうすればいいかわからないんです」
「でも、この異世界を創ったのはSさんじゃなかったんですか。地上に戻る方法は考えていなかった……」
「はい。それがその、どうも困ったな」
Sは返答に窮した。いまさらながら、地上に戻る方法は霧の中だった。(続く)





