台風直後で増水していた川に落ちた、当時九歳だったSを救ったのは、二十六歳の警察官Pだった。一方で、Fは女子高校生の時に交通事故に遭ってあの世へいき、やがて男のPとして生まれ変わった。
生まれ変わってきたPは、二十六歳の時に警察官として、台風で増水していた川に落ちた九歳の少年を救った。Sと同じ状況のもとで、同じ川に落ちた同じ九歳の少年を救った同じ年齢の警察官だった。
さらに、警察官Pは少年を救急車で運んだ先の大きな病院で、彼より三歳年下の女性看護師と知り合い、後に結婚するところまで、その歩んだ軌跡はそっくりだった。
「偶然の一致だろうけど、驚くね」
Sは両肩をそびやかして言った。
「だけど、ぼくの場合は、計算するといまから六十六年前の話だ。あの日にやってきた台風は、確か狩野川台風といったかな。きみの生まれ変わりの警察官Pが、いつきた台風の時なのか知らないけど、救った少年がぼくということは絶対にあり得ない」
「そう言いきれるかしら」
Pの前世を少女として過ごしたFが、どこかいたずらっぽい目つきで言った。
「おいおい。だって、時代がちがうじゃないか。この異世界では、ぼくの姿はずいぶん若く見えているかもしれないけど、地上で生きている実際の年齢は七十五歳だよ。きみの生まれ変わりのPは現在いくつになるかな。とにかく、ぼくよりずっと年下だ」
「そのPが二十六歳のときに、当時九歳だったあなたを救ったとしたら……」
「だから、それはあり得ないって」
「あり得る可能性が一つだけあるんです」
Fの言い方には、自信がこもっていた。
「教えてほしいね。どんな可能性かな」
「私の分身の一人Pは、いまから九十年以上昔の時代に生まれ変わっていたんです」
Sの開いた口が穴になった。(続く)





