音楽評論家の小倉エージ氏の中島みゆき評、「歌会VOL.1」評(以下記事全文引用)
「歌会VOL.1」、私は5月8日、東京国際フォーラムに参加した。
『メロディー、演奏を伴ってこそ成立する「詞」への執着と矜持(きょうじ)。歌唱の圧倒的な説得力に改めて打ちのめされた』(以下記事)ことに同感であり、共感する。
1人では歌は歌えない
受けとめられて産まれる
あてもなく声に出す 心を放つ
1人では歌は歌えない
受けとめられて産まれる
響きあう波を探して
(中島みゆき「アリア-Air-」)
聴いてくれる人、受け止めてくれる人がいて初めて自分の歌は生まれ、解き放たれる―だからこそ、歌を届けるために「詞」に執着し、「詞」作に矜持を持つ。まさに中島みゆきの歌そのものにかける矜持を見たような一夜だった。
記事の下に拙稿のいくつかをリンク。
(評・音楽)中島みゆき
「詞」への矜持と圧倒的な歌唱
2024年6月6日 朝日新聞(夕刊)
今年1月から東京と大阪で間を置いて交互に実施してきた、中島みゆきの4年ぶりのコンサート「歌会VOL.1」の最終公演(5月31日、東京・有楽町の東京国際フォーラム)。
幕開けは「はじめまして」。当初、歌いぶりは心もとなかったが、次第に本調子に。続いた中近東風の編曲による「歌うことが許されなければ」は、居場所の定まらない難民の嘆きと意思がテーマというが、コロナ禍の自粛期間、強いられてきたことにも重なる。次いで、医療ドラマの主題歌で前向きに歩もうと歌いかけた「倶(とも)に」、病院での体験を観察したユーモラスな「病院童」、また「銀の龍の背に乗って」など病院に関わる3曲を並べた。
懐かしい「店の名はライフ」では都市部の再開発の裏側に共存する昔ながらの光景を語り、時代の変遷、現代模様を浮き彫りにするなど世情を反映。
休憩後は、自身が続けてきた音楽劇「夜会」から「ミラージュ・ホテル」など主要5曲をメドレーで。「夜会」のテーマの多くは環境や社会問題が背景にあり、改めて意味を問いかけた。
人生の歩みを振り返り救済を求めた「慕情」のしみじみとした味わい。危ない世の中を生き抜く拠(よ)り所(どころ)を軽妙に歌った「体温」。旧曲で、あの映画に触発されたに違いない「ひまわり“SUNWARD”」は、現在のウクライナ紛争を想起させ、未来を託した子供たちの背中を押す「心音(しんおん)」で本編を締めくくった。
亡きバンドマスターの小林信吾への追悼を込め、彼のピアノソロをフィーチャーした「LADY JANE」など、サンプリングを多用した音楽展開も注目され、彼女の新たな歩みを物語る。それにもまして、メロディー、演奏を伴ってこそ成立する「詞」への執着と矜持(きょうじ)。歌唱の圧倒的な説得力に改めて打ちのめされた。(小倉エージ・音楽評論家)
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中島みゆき「慕情」