1. はじめに
国の行政改革推進本部専門調査会において、労働基本権を含む労使関係のあり方についての議論が行われ一定の結論に達しました。
この結論を踏まえ、総務省は「地方公務員の労使関係制度に係る基本的な考え方」を取りまとめ、平成23年6月15日(水)から7月6日(水)までの間、広く意見を募集することになりました。
この間の経過でありますが、まず、問題意識として、組合側が基本権の付与を求めているのに対して、使用者側の認識が一致していないようなところがあるように思えます。
 まず、相互の信頼関係を基本に据え、適度な緊張関係と対等な立場を構築するために労使交渉・労使協議を展開はしているものの、管理運営事項については、交渉議題とすることができないために、主導権は、やはり当局サイドにあることは否めない事実であります。
 近年、勤務条件の不利益な変更が繰り返されている状況がありますが、基本原則として、職員の給与は労使自治の下に、「生計費並びに国及び他の公共団体の職員並びに民間の従事者の給与その他の事情を考慮して」「条例で定める」(地方公務員法第24条)とした自立の原則までも脅かしかねない状況にあり、「労使自治」を大きく逸脱したようなことが多く行われているような気がします。
このような逸脱は、労使自治の根拠そのものをおびやかすものであり、「労使自治の限界」を意味するものと考えざるを得ません。
2.労使自治の尊重と限界
 労使関係を尊重するという観点から、給与や労働条件の運用についての情報が市民に十分に説明されてこなかった点に大きな問題があるような気がします。
給与や勤務時間、職員定数などの勤務労働条件に関しては、労使交渉によるものとすることは当然守られるべき基本であります。
しかし、雇用者責任が厳然としてあるにもかかわらず、その責任をまっとうしきれていないのも事実であります。
この労働条件についての「労使自決」の原則は、むしろ強化されるべき点であると思います。
それは、今後益々すすんでいく地方分権の原則である、自己決定・自己責任の原則を徹底すれば、国やその他の経営者団体からの介入は厳に戒められなければならないと思います。
団結権や争議権などの労働基本権の回復を通じたILO基準という国際基準を遵守することこそ、これからの世界で、責任ある行動を取ることを要求される日本政府、および市民の態度でなければならないのであります。
 しかし、その「労使自決」には、自ら限界があることも明確にしておく必要があるとも思います。まず、税金がその原資である訳でありますから、その詳細についてはその本来の主権者(市民)に対する「説明責任」があるという点であります。
 次に、その説明責任を果たすことを原則とするならば、労働組合側も十分な現状認識をする必要性が求められ、経営的な感覚をもった要求を行うべきでしょうし、より、現実的な対応が迫られます。
しかし、労働組合は、もともと共助の組織であり、広く働く人々との「連帯」や「共感」を基礎にした組織であり、「組合員の利益の維持・向上」を最大の目的としているために、多くのジレンマを感じながらの活動にならざるを得ません。
経営感覚を持ち合わせるということは、組合員に対し、苦渋の決断を迫ることにもなりかねないのであります。
一方、当局側も強い理念(経営者意識)をもち、市民に対しての説明責任を負っているのでありますから、政策立案能力が今以上に求められるのであります。
3.団体交渉以外の交渉方式
 労働者の待遇に関する不満やその他労使関係の運営をめぐって生ずる諸問題を労働組合と使用者が自主的に交渉して解決する手続は、団体交渉にとどまりません。
代表的なものとしては労使協議制と苦情処理手続があります。これらは、団体交渉を補完する労使間の自主的手続であって、憲法28条はこれらの手続をも含めた意味で「労使自治」の発展に必要な基本的ルールを設定しています。比喩的にいえば憲法28条は、労使自治という建築物の土台(基礎)を設定した規定であり、この土台の上にどのような建築物を建てるかは、労使の創意工夫に委ねています。「労使自治」の内容については、労使に多様な可能性が残されているのであります。
4.労使協議制の特徴と状況
 労使協議制とは広範な意味を有するが、ここでは、当該団体的労使関係において団体交渉とは別個のものとして設けられている協議の手続と解しておきます。
平成11年の労使コミュニケーション調査(労働省)では、民間労働組合部分において、労働組合ありの事業所(従業員50人以上)の約85%が労使協議機関を有しているとの事です。
労使協議制は、企業別労使間の情報共有・意思疎通・合意形成の手段であり、産業、企業、事業所、職場などのレベルにおける公式・非公式の多様な協議手続から成っています。
 企業・事業所レベルでの代表的な労使協議制としては、
(1)団体交渉の開始に先立って情報開示・意向打診などを行うための、団交前段的労使協議制
(2)団交事項を労使協議によって解決するための、団交代替的労使協議制
(3)団交事項とは区別された経営生産事項を協議するための、経営参加的労使協議制
(4)協約上の人事協議条項に基づき行われる人事の事前協議制、
などがあります。
これらに共通の特色は、労使間の合意(協定、覚書、了解など)に基づいて設置される手続であり、したがって協議の対象事項や手続はこの合意に従うこと、争議行為を予定しないこと、協議の対象事項は団交事項か否かに拘泥しないこと、などであります。
また、協議の程度(態様)については、「説明・報告」、「意見聴取」、「協議」、「同意」などの区別がなされており、対象事項の性質によって使いわけられている。実際には、企業別組合の締結している労働協約の多くが労使協議を前段的手続とした団体交渉によって、または労使協議手続のみによって締結されており、労使協議制は企業別労使関係の運営において中心的な手続となっています。
5.労使協議制の法的地位
 労使協議制は、労使間の利害の衝突(人事権の規制)を当初から予定した人事協議制の場合を除き、むしろ労使が紛争の発生を回避する目的で設置されるものであり、したがって手続の運営も紛争を回避する方向で行われます。ただし法律的には、労使協議の手続も、法律上の「団体交渉」に該当するものはそのような保護を受けます。たとえば、労使協議制については、法律の要件として定められている場合(労使協定、労使委員会、安全委員会等)を除いて、個別企業において、企業の経営方針や労働条件にかかわる事項等を幅広く協議するために自主的に設けられているものであり、付議事項や手続、制度の位置付け(事業主に対して意見の申出をするといった場合や団体交渉の前段階で行う場合等)も各企業において様々となっています。
 労使協議においては、労働者代表が各労働者から代理権を付与されている場合や労使協議の決定事項に関する黙示の同意がなされている場合を除いて、労働条件の変更に係る機能は有していないが、労働組合との労使協議については、当該労働組合が労働組合法の要件に合致している場合には、同法上の団体交渉に該当し、労働協約が締結されたときは、組合員の労働条件を変更する機能を有します。
 このような、民間レベルでの考え方がある一方で、公共(公務労働者)の組織も先進的な取り組みを行っている労働組合があります。
 三重県職員労働組合では、知事を含めた、当局側とのよりよいパートナーシップを構築し、県民のために、労使が真摯に様々な課題について、話し合いを行っています。
 ここで、その事例を紹介しましょう。
「労使協働委員会」の運営に関する要綱
(趣 旨)
 県民主役のより良い県政の実現を目指して、労使双方が信頼と対等を基本に、県民に対し説明責任を果たせる関係の下、オープンで建設的な議論を真摯に行う場として「労使協働委員会」を創設いたしました。
当委員会の取り組みを通じて、県民満足度の向上を図り、あわせて、職員満足度の向上を目指すため、その運営に関する要綱を定め、労使双方は当要綱に沿って、適切な労使協働委員会の運営にあたることとします。(組 織)
 1 本県の「労使協働」を推進するため、次の組織を設置します。
  ・中央労使協働委員会
  (全庁的な事項について担当します。)
  ・部局労使協働委員会
  (各部局に関わる事項を専ら担当します。)
  ・職場労使協働委員会
  (各職場に関わる事項を専ら担当します。)
  ・地域労使協働委員会
  (県民センターが所管する庁舎に関する事項や職場から提案された地域に関する課題について担当します。)
 2 部局労使協働委員会を補完する組織として、部署を横断する課題については、課題を所管する部局と組合の専門委員会(職能協議会の執行部)は、当要綱に沿った開催形態を定めた上で、労使協働委員会を設置し、開催することができます。
 3 部局および職場労使協働委員会は、それぞれの委員会を補完するものとして、必要に応じて、双方の労使協働委員会が連携した委員会を開催することができます。
 4 1の各委員会は、委員会の運営を円滑にし、より深い議論と取り組みを進めるため、個別課題を扱う小委員会を設置することができます。

(構成員および人数)
 1 各委員会は、あらかじめ労使同数の中心的構成員を定めておきます。
 2 労使が事前に調整した上で、各委員会は必要に応じて中心的構成員以外の者を参加させることができます。
 3 職場労使協働委員会は、職場に身近な課題について議論を行う場であることから、労使の代表だけでなく、できる限り職員の積極的な参画を図ることとします。

(協議事項)
 1 各委員会は共同アピールの理念に則り、勤務条件から政策議論に至る幅広い課題について建設的な議論を行うこととします。
 2 協議事項は委員会の開催前に、労使双方で決定しておきます。

(開催方法)
 1 各委員会は定期的に開催することとし、その開催頻度等は、事前に決めておくこととします。なお、必要に応じて随時開催することができます。
 2 委員会を開催する場合は、参加者およびその所属長に対して、あらかじめ委員会の開催を通知しておきます。

(服務および活動対象)
 1 「労使協働」の本旨から労使協働委員会への参加は、原則、業務とします。ただし、業務として取り扱うのは、当委員会に係る労使による事前の打合せ、労使協働委員会での協議、および労使協働委員会の協議を経て取り組む労使による活動のみとします。
 2 労使協働委員会の協議に必要な事前の意見収集(労使協働促進会議の開催)については、あらかじめ定められた手続きに則り、実施することができることとします。
(情報公開・共有)
 1 中央労使協働委員会は、常に資料提供を行い、報道機関に公開の上で協議を行うとともに、県のインターネットHP(ホームページ)へ協議概要を掲示し、その取り組みを広く公開いたします。
 2 中央および部局、地域の各労使協働委員会は、協議概要を電子キャビネットの所定のフォルダーに速やかに掲載し、職員に広く公開し、情報の共有化を図ります。
 3 職場労使協働委員会は、その概要を各職場の職員へ、必ず周知することとします。
 附則 平成14年4月24日制定
 附則 平成15年10月22日改定
 附則 平成18年3月30日改定、平成18年4月1日施行


総務省は「地方公務員の労使関係制度に係る基本的な考え方」を取りまとめ、平成23年6月15日(水)から7月6日(水)までの間、広く意見を募集しています。
意見公募の趣旨・背景として、地方公務員の労働基本権については、国家公務員制度改革基本法(平成20年法律第68号)附則第2条において、「国家公務員の労使関係制度に係る措置に併せ、これと整合性をもって、検討する。」とされています。
 これを踏まえ、「国家公務員制度改革基本法等に基づく改革の『全体像』」(平成23年4月5日 国家公務員制度改革推進本部決定)においては、「地方公務員制度としての特性等を踏まえた上で、関係者の意見も聴取しつつ、国家公務員の労使関係制度に係る措置との整合性をもって、速やかに検討を進める」とされ、総務省において「地方公務員の労働基本権の在り方に係る関係者からの意見を伺う場」を開催し、関係者からの意見徴収を行ってきています。
その徴収した意見を踏まえ、総務省としての「地方公務員の労使関係制度に係る基本的な考え方」を取りまとめたようであります。
 地方公務員の労使関係制度に係る基本的な考え方については以下の内容であります。(総務省資料から抜粋)
Ⅰ 趣旨として
国家公務員に係る自律的労使関係制度の措置を踏まえ、地方公務員についても新たな労使関係制度を設けることとする。
Ⅱ 制度の概要
1 協約締結権を付与する職員の範囲一般職の地方公務員(ただし、団結権を制限される職員、重要な行政上の決定を行う職員及び地方公営企業等に勤務する職員等を除く。以下「職員」という。)に協約締結権を付与する。
2 団体交渉の当事者
(1)労働側の当事者
○ 労働組合は、職員が主体となって自主的にその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体又はその連合体とする。
○ 都道府県労働委員会に認証された労働組合は、団体協約の締結、不当労働行為の救済申立て、あっせん・調停・仲裁手続への参加、職員の在籍専従等が可能となる。
○ 認証の要件は、規約が法定の要件を満たすこと、構成員の過半数が同一
地方公共団体に属する職員であること等とする。
(2)使用者側の当事者
地方公共団体の当局は、引き続き交渉事項について適法に管理し、又は決定することのできる者とする。
3 団体交渉等
(1)認証された労働組合と地方公共団体の当局は、下記の事項について団体交渉を行い、団体協約を締結できるものとする。
① 給料その他の給与、勤務時間、休憩、休日及び休暇に関する事項
② 職員の昇任、降任、転任、休職、免職及び懲戒の基準に関する事項
③ 職員の保健、安全保持及び災害補償に関する事項
④ ①~③に掲げるもののほか、職員の勤務条件に関する事項
⑤ 団体交渉の手続その他の労働組合と地方公共団体の当局との間の労使関係に関する事   項
(2)地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項は、引き続き団体交渉の対象とすることができないこととする。
(3)現行地方公務員法において規定されている予備交渉の実施、団体交渉の打ち切り、勤務時間中の適法な団体交渉の実施等については、引き続き法定する。
なお、職員が勤務時間中の適法な団体交渉に参加する際の手続を整備する。
(4)地方公共団体の当局は、団体交渉の議事の概要及び団体協約を公表しなければならないこととする。
4 不当労働行為の禁止
(1)地方公共団体の当局が労働組合の構成員であること等を理由として職員に対する不利益な取扱いをすること、認証された労働組合との団体交渉を正当な理由がなく拒否すること、労働組合の運営等に対して支配介入・経費援助をすること等の行為を禁止する。
(2)不当労働行為があった場合の都道府県労働委員会による救済制度を設ける。
5 勤務条件の決定原則等
(1)情勢適応の原則等、現行地方公務員法において規定されている勤務条件の決定原則については、引き続き法定する。
(2)職員に協約締結権を付与することに伴い、勤務条件に関する人事委員会勧告制度を廃止する。
(3)住民への説明責任を果たし、住民の理解を得る観点から、民間の給与等の実態を調査・把握する。調査・把握する主体等については更に検討を進める。
6 勤務条件の決定方法及び団体協約の効力
(1)職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、引き続き条例で定めることとする。
(2)勤務条件を定める条例の制定改廃を要する内容の団体協約を締結した場合には、地方公共団体の長は条例案の議会への提出義務を負うこととする。
(ただし、地方公共団体の長以外の機関が団体協約を締結する場合には当該地方公共団体の長との事前調整を行う仕組みを設ける。)
(3)勤務条件を定める規則等の制定改廃を要する内容の団体協約を締結した場合には、地方公共団体の長その他の機関等が規則等の制定改廃の義務を負うこととする。
7 交渉不調の場合の調整システム
認証された労働組合と権限ある地方公共団体の当局の間に発生した紛争であって団体協約を締結することができる事項に係るものについて、都道府県労働委員会によるあっせん、調停及び仲裁の制度を設ける。
8 人事行政の公正の確保
勤務条件に関する措置要求、不利益処分に関する不服申立てその他の職員の苦情の処理に関する事務等については、引き続き第三者機関が所掌する。

6.まとめとして
上記において述べましたように、民間の労働組合レベルにおいても様々な考え方に基づき、試行錯誤の状態ではありますが、取り組みを行っている状況があります。
 また、一つの事例として今回取り上げました三重県における取り組みに協調されますように、労使が対等な立場に立ち、市民のための「公共サービス」をどのように質的向上を目指し、どのように改革を行っていくのかを真摯に話し合いながら「新たな公共」を創造し、政策を共有できるかが、今後の最大の課題であるような気がしています。