1.はじめに
地域における雇用がない中で若者の流出と住民の高齢化が進み、過疎化進行が一段と速度を増しています。
景気低迷がますます深刻化している状況下では残念ながらその勢いを押し止めることは難しいのではないかと考えます。
しかしながら、そうした中でも各地において経済環境や住民の価値観変化を背景に、従来とは異なる観点から地域再生に取組もうとする様々な動きが出始めてきています。
まだ目立った成果をみるまでには到ってないが、地域の将来を拓く新たな方向として期待される。
2.進む過疎と集落存続の危機
「過疎地域」といえば、一般的には人影もまばらな農山村等をイメージするが、公式には人口が長期にわたって減り続けて財政力などが一定規準を下回ったような地域のことをいい、総務省が法律に基づき市町村単位で指定する。
また、この過疎化の度合いがさらに進んで地域社会(コミュニティ)としての機能を失った集落を、近頃は「限界集落」とも呼んでいる。
このような現象の背景にあるのは、農山村部でより深刻な経済の停滞と、人口減少および高齢化の進行であろう。これらの現状については改めて詳述するまでもないが、ただ一つ言えるのは、第一次産業における持続可能な政策を展開しきれなかったことに尽きるのではないか。
若者が職と収入を求めて都市部に流出し、残った高齢者たちが営々と農林地を守っている姿が、限界集落に限らずこのところ様々な農山村部では、普通に見られる風景となってしまった。地場産業の振興が思うに任せない中で、人口減少と高齢化は着実に進行し、農山村の経済社会が次第に衰退に向かいつつある様子が明らかである。
過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)に基づき、人口や財政力等を基準に指定する。「過疎地域市町村」、「過疎地域とみなされる市町村」、「過疎地域とみなされる区域のある市町村」の3区分があるが、ここではこれらに該当する地域すべてを「過疎地域」に含める。 ちなみに全国における過疎市町村数は776、全市町村の45%(平成23年4月)にあたる。
3.これまでの地域再生への取組と限界
国レベルにおいては、昭和45年以来4次にわたる過疎対策立法とともに、財政、税制、行政面など地域の自立を支援する各種措置が、全国的規模で講じられてきた。
しかしながら、実質的な効果はあげられず、現状もなお厳しい状況下にある。
しかしながら、手をこまねいていても、現状よりも悪化していく状況が想定されるなか違った視点の取り組みが必要になってくる。
4.従来の施策を見直す必要性
全国でも多くの地域が同様の厳しい情勢下にあることを考えると、これら一連の動向は、基本的な地域対策の方向について、別の角度からも見直してみる必要のあることを示唆しているように思われる。
因みに、これまでの地域再生を巡る基本施策には、根底に「農村に工業を導入するとともに離農者を工場労働者として吸収、もって地域の所得向上と人口流出抑制(=都市の過密化抑制)を図りつつ、併せて日本経済全体の底上げを期す」という、高度成長時代の理念がまだ色濃く反映していた。しかし、昨今、グローバル化が激しく進む中では、農山村地域の現状も国際経済の大枠の中で規定される部分が急速に拡大し、そうした産業の国内再配置をベースとするシナリオでは、既に追随しきれなくなった面がある。
こうした事情は、依然企業誘致を必要とする一方で、工場の海外立地が進みつつあるという一事からも具体的に窺えよう。最早、地域を一括りにして公共事業や企業誘致による産業振興を図るといった従来図式だけでは、地域経済の衰退やそれにともなう人口流出という潮流を、喰い止めることが困難となっている。
5.求められる方向性
健康や交通手段、後継者の確保や地域の存続に強い不安を唱える一方で、人間関係や自然環境を理由に「住みやすい」と思っておられる方が多いであろうと思われる。
これは、多少補足を加えて言い換えると、基盤整備や社会資本については十分とはいえないまでも都市部との格差が一定程度縮まり、昨今希求される分野は医療・交通等の「生活インフラの充実」、及び後継者育成など「地域を支える仕組み作り」である、ということでもあろう。即ち都市部とは異なる地域自身の価値観も拡がりだし、それとともに求められる方向は必ずしもハード分野のさらなる整備ではなく、むしろ地域社会を維持・発展させるためのソフト的な施策になってきた、と理解される。
近頃こうした傾向の強まっていることは、全国的にも多く指摘されるところである。
このため、上記の視点を加えた地域再生策の新たな方向が、近年は広い範囲で模索されるようになっており、行政や産業界、及び大学、研究機関等の様々な部門、分野で、従来とは若干方向の異なる地域活性化の取組が始められている。
6.具体的な動向
最近は各地域で「自立促進計画」を策定し、取り組まれている。
コミュニティービジネスの創出・育成や伝統行事など地域再生活動への支援、助成等がある。
行政の施策の重点が、住民自身を主対象に日々のくらしの面から活性化を図る方向に置かれだしてきている。
他方、地場の産業界においては、農商工連携や6次産業化といった、地域内異業種が連携して新規事業に乗り出す例が多くみられる。加えて、B級グルメ運動や地元食材を活用した新商品の開発・販売、さらには伝統行事再生への取組、ローカル鉄道利用キャンペーンのような、いわゆる「食」と「観光」の分野から地域振興を図る活動も盛んである。
こうした地域の一連の動きに目をやると、全体に共通する特徴は、従来からのやや行政頼みとなりがちな色合いが薄れて、「地元の事業体、住民が主体的に係わる」割合が、これまでになく大きくなりだした点であるように思われる。しかも、個々の事業規模は必ずしも大きなものではなく、また相当数は行政支援を受けつつも、基本的には自らの責任で新事業を営むという点で、活発な取組になっている例が多い様子である。
農山村部における産地直売所が概ね元気であることは、身近なところでの好例といえよう。
集落にとっては、地域外応援団との交流が生まれることで、自立や活性化に向けて自ら行動する動機づけに役立つのである。
過疎に悩む集落に専門の相談員を置き、集落の課題や要望を調査して解決し提言する集落支援員の制度を2009年度から総務省が開始した。
7.最後に
もとより、課題とする産業振興及びそれによる就業機会の拡大実現のためには、これらの事業を発展させ、地域の自立を可能とするレベルに引上げていく必要がある。しかし、現状大部分はその1歩を踏み出した段階に過ぎず、また各々課題も抱えることから、一気に規模拡大を図ることは困難であろう。
ただ、供与された計画ではなく、先述のように地域が「自主的」に取組む姿勢と努力の中からは、新たな産業化の足がかりが生まれる可能性も決して少なくないと思われる。
自分たちでできることは自分たちで行う。こうしたことで、当該地域特有の取り組みが可能になる。
グローバル化の下での地域の自立は、規模の大小はともかく以上のように糧とする事業を自ら起し、行政の支援とともにそれを主体的に生成拡大していく努力こそが本筋と考えられる。また、さらに言えば、それを成し得た地域こそが再生への道をたどることができる、ということでもあろう。厳しい道筋となるが、グローバル世界の中での地域再生とは、実際そうした方向を指すのではなかろうか。