●はじめに
自治体に勤務し地方公務員の身分を有する臨時・非常勤職員に、諸手当を支給し、給料・報酬を「昇給」的に運用して支給することは、法改正を待つまでもなく、条例・規則、労働協約・労使協定に基づき実施することが多くの場合可能であります。
しかしながら、実態として、自治体に雇用される臨時・非常勤職員に、期末手当や退職手当をはじめとする諸手当を支給するどころか、さらに増加させている自治体も多く存在します。
同様の職務をしているにも関わらず、非常勤職員に諸手当が支給されず、任用更新を何度も重ねて実質的に勤続年数が長期にわたるにもかかわらず、当該経験が給料や報酬に反映されない例が多いのであります。
諸手当の支給を例にとれば、地方自治法203条の2や204条の規定を見る限り、条文上、非現業職の非常勤職員に諸手当の支給を許容していないように見えますが、この間の裁判例が示すように、「非常勤の職員」として任用されていても勤務実態等が常勤職員と同様であれば、地方自治法上の「常勤の職員」とみなされ、諸手当の支給は許容されるのであります。
これに加え、地方公営企業法においては、常勤職員と臨時・非常勤職員は区別なく地方公営企業法上の「企業職員」とされ、「企業職員の給与は、給料及び手当とする」(地方公営企業法38条1項)と規定しています。さらに、給食調理や清掃等の現業職員には、地方公営企業法38条1項が準用されます。
つまり、「企業職員」や「現業職員」たる非常勤職員は、法文上も諸手当が支給されるべき対象なのであります。
民主党政権時に一定の法整備をするべく様々な実態の把握をし、多角的に検討がなされ、方向性を示していこうとしていた時期があります。その辺を中日新聞がWEB版で伝えています。
<はたらく>自治体の臨時・非常勤職員 待遇改善へ法整備を
2012年11月16日中日新聞WEB版より
地方自治体で働く臨時・非常勤職員が増え、不安定な待遇の改善を訴える声が強まっている。先の通常国会では、非常勤職員にもボーナスなどの諸手当を支給できるようにするため、地方自治法改正案の提出も検討されたが、実現しなかった。国も問題を認識しながら効果的な対策を打ち出せておらず、非常勤職員らはいら立ちを募らせている。
(福沢英里)
「担当外の仕事なのに隣人トラブルの相談で三十分。人間性を否定するような言葉には参りました」。東海地方のある消費生活センターで、相談員として働く、五十代の女性は疲れた様子で話した。
月-日曜の週四日、一日七時間半勤務の「常勤」扱いだが、ボーナスなどの手当はなく、年収は手取りで二百万円に届かない。十五年の経験があっても昇給はない。身分は一年契約の「特別職の非常勤職員」だ。
相談業務に必要な法律は六十を超す。商品知識に精通する必要があり、オンラインゲームやスマートフォンなど、デジタル商品への相談にも対応するため、週末は自費で勉強会に参加する。しかし、専門性と経験は給与に反映されず、非常勤職員の中でも最低ランク。女性は「今の給与では若い人は自活できない。結局、夫の稼ぎで生活できる女性の仕事としかみられていない」と憤る。
◇
地方自治法で非常勤職員に認められるのは報酬と交通費のみ。非常勤職員の仕事は臨時的で「生活給ではなく、勤務に対する給付」とみなされるためだ。ただ、近年は東京都西東京市のように内規を定め、非常勤職員にボーナスを支給する例もある。大阪府枚方市に対して、実態が常勤なら非常勤職員へのボーナスと退職金支給を認める大阪高裁の判例も出ている。
実情に即した法改正が必要として、民主党のワーキングチームは自治体が条例整備すれば、非常勤職員にも手当を支給できるようにする地方自治法改正案の提出を検討。だが、先の通常国会では提出できなかった。
非常勤職員の待遇改善に努める公務労協(東京)の藤川伸治副事務局長は「地方自治法が改正されれば『正規公務員の法律』から『非正規も含めた法律』へと意義が変わる。官製ワーキングプア問題解消へ、法改正は不可欠」と力を込める。
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全国保育協議会(東京)の二〇一一年度の調査では、非常勤職員のいる公立保育所は二人に一人が非正規雇用と分かっている。非常勤職員が労働組合をつくり、自治体に訴えるケースも増えてきた。
関東地方の公立保育所で臨時職員として働く女性保育士たちは五年前、組合を結成。現在は四十人余りが加盟する。市民税を払うとマイナスになるほどのボーナス額だったが、交渉で年約一カ月分から二カ月分に増えた。
しかし、民営化される公立保育所が増える中、雇い止めの不安は消えない。組合員の女性保育士(57)は「正規職員と同じ仕事を任せておきながら、有期雇用で待遇に差をつけるのは納得いかない。自治体独自の働くルール作りが必要」と話す。
◆女性職場に目立つ「非正規」
十月末に公表された自治労の実態調査によると、自治体で働く臨時・非常勤職員は全国に約七十万人。自治体職員の三人に一人は非正規で、どの自治体も急増している。消費生活相談員や保育士のほか、市民サービスの第一線で働く学童指導員、図書館職員など女性職場に目立つ。
非常勤には臨時職員、一般職非常勤職員、特別職非常勤職員、任期付き短時間勤務職員などがある。民間のパート労働法のような、非常勤職員の処遇を整える法律がなく、自治体によって運用はまちまちだ。「非正規公務員」(日本評論社)などの著作がある、地方自治総合研究所(東京)の上林(かんばやし)陽治さん(51)は「非正規公務員は基幹業務を担い、正規と非正規の境界はあいまい。公共サービスの質の確保には、安定雇用と働きに見合った待遇が必要」と強調する。
●処遇を改善していくためには。
非常勤職員の処遇を改善していくためにはどのようにすればいいのであろうか?
まず、情勢変化に対応することが基本であります。
そのことを念頭におきながら、方向性を見出していくわけでありますが、基本的には個々の職員に対して様々な機会を用意していくことが大切であると思います。
なぜならば、価値観の多様性の存在があるからであります。
個々に考え方は様々であり、一つに集約することは非常に難しい。
しかし、多様な方向性を提供できればある程度解消できるのではないでしょうか。
人によって「やりがい」なり「働きがい」は違うものであり、個人が選択可能な環境があれば、相応な努力を行うことでしょう。
そのことで、更なる労働意欲が向上し、資質の向上がなされていくのであると思います。
ただ、一方でセーフティーネットについてもしっかりと整備し、挑戦しやすい環境をつくるとともに雇用をしっかりと確保することも大切であります。
人事院規則の(職員の任免(人事院規則八―一二)、第二節 臨時的任用)では臨時的任用について以下のように定めてあります。
(臨時的任用の資格要件)
第十八条 臨時的に任用される者は、第十六条第一項第一号の場合を除き、転任の場合の資格要件を有する者でなければならない。
2 前項の資格要件を有する者によっては臨時的任用により欠員を補充することができず、そのため公務の運営に支障をきたすおそれがあると人事院が認めるときは、任命権者は、同項の規定にかかわらず、人事院の承認を経た者を臨時的に任用することができる。
(格付の変更又は改訂に伴う臨時的職員の取扱)
第十九条 任命権者は、職階法第十二条の規定により格付の変更又は改訂の行われた官職に変更又は改訂の際に任用されている臨時的職員を、前条の規定にかかわらず、引き続き留職させることができる。
―人事院規則より―
ここで重要なのは18条の資格要件として、ある一定の部分で転任が想定されていることであります。
セーフティーネットとして、一定の取り組みを行っている自治体があります。
茨城県にあります牛久市では臨時的な職員の基盤として、条例を制定されました。
このことの意義は大変大きく、安心して働いていける基盤があることにより、市民サービスの質的向上に繋がり、ひいては職員全体の活性化にも効果が期待できるものであると思います。
詳細については、茨城県 牛久市のホームページを参照していただきたいと思います。
●おわりに
個々に多様な価値観が存在する中、処遇の改善は必要なことではあります。
しかしながら、処遇を改善していくにあたっては個人の努力を引き出しながら、質的な向上と併せた改善が必要だと思います。
「努力すれば報われる」というような組織環境を生むことで、その個人も報われ更なる向上心が芽生え喜びを感じることが何よりも大切なことであると思います。
そして、組織全体として個々の存在を認め合い、お互いが切磋琢磨の関係が築けるような組織作りが必要だと思います。