深緑の森-小さな箱庭- -5ページ目

深緑の森-小さな箱庭-

───────────────────────

電波の肩には殻火が乗っている


殻火が翼を大きく広げると、電波は顔を背けた

それ以上暴れたら降りろ


境界が出現するまで、まだ少し時間がある
迷わない程度に散策するもよし、地べたに質問するもよし

地べたはこういう時、何も答えてくれないんだ

ハゲは電波の調子に合わせた

向こうに着いたら別行動だな
おめぇ僕が居なくて退屈だろ

目の前に居る時にそれを言われてもね!
おら!トランシーバーハゲ!

電波は耳線を投げた

距離や場所によっては通じなくなる場合があるから、いつでもどこでも
連絡できるなんて思うなよ

心得た

ちなみにそれ、万が一壊した場合、アルジしか直せないからさ
壊すな  嫌だと言ったら? 没収する


ハゲは地べたに座ると、砂浜の方に目を向けた




──ここで、あいつらと出会った


この砂浜で


ただの無人島じゃねぇと思っとったが、まさか動くとは

踏み潰すつもりが勢い余って仲間になっちまった


タコヨリのことがあった時、オレじゃ奴を起こせねぇことはわかっていた
空間を使う相手に正攻法は通用せん

頼る相手として真っ先に浮かんだのが電公だ


『雷を使う人間』

噂に戸は立てられん

そいつは幾千の亡者が蔓延る骨の城を崩し
雪山の化け物が魔女であることを見破り、苦闘の末に倒した

そして誰も手が付けられないと言われていた翼のある鬼を、山へ還した

何れも力を誇示するような戦いじゃない

経緯を聞けば、こいつが戦うことに疑問を抱くことはなかった


飄々としていて、何を考えているんだか分からねぇが

この野郎は、意識してんのかしてないのか知らんが
人を助けるために剣を取る男だ


自分の為に。それも確かにあるだろう
だが真ん中じゃねぇ

せいぜい端っこに佇む程度



人間界を守るなんて大それたことは言わねぇ
そこまで過信はしてねぇさ

オレは隊員を、仲間を守るために戦う


結果としてどうなるかは、予想しないでおく
考えるだけ無駄だ

定刻まで海に向かって発声練習でもしとくか!!
ぐわっはっは!




──オラはムシじゃねぇ


気付けば雪山に弟と二人

この辺の記憶が曖昧で、いつ、どこから来て、何故あの場所に居たのか
思い出せないんだ

魔女に見つかったオラ達は、小屋に案内された
疲れと安堵感から、すぐに眠った

翌朝、宿泊の代金としてイエティの姿にされ、屋敷の使用人として働くことになる


師匠の話を聞いて、全部わかった

オラ達二人は異世界に出現した境界を通って、人間界に来たんだ

…そういえば雪山で倒れている時、温かい光の様なものを浴びた覚えがある
あれが魔女のエーテルだったんだろう

そうして縮小された状態から、本来の大きさまで戻れたわけだ


んなわけで、オラは最初から人間じゃなく
前はビッグ・フット。現在は寒冷地仕様の、イエティだ

…種族なんて関係ねぇ!

このこどがわがっただけでも、部隊に入って良かったと思う

電波達と出会った後に発現した、氷の力

今なら、前より役に立てるはず

しっかし、あの子(魔女)は何者だ?




──ボクは皆を援護する


部隊には役割がある。与えられた任務を全うするのは当たり前のこと
それが出来なくて悔やむこともきっとある

電波はそれぞれが出来ることをすると言っていたけど
その言葉に甘えては駄目だ

ボクは前線に立つほど強くない

だから、後方で最も頼れる、居ると安心できる奴になる

期待通りを、期待以上を見せてやる


なんて、肩に力を入れるなって再三言われたっけな
剣の才があるって師匠に褒められたけど、嘘かもしれないし

兄貴!ボクだって口調に困ってるんだ!




──我輩の罪は、赦されるものではない


城に居れば現れるであろう、約された崩壊を与える者達

預言書の通りであれば、複数のはず

我輩は城の螺旋階段を昇る試練を与え続けた


城が崩れた後、師匠の息子の魂を幽閉していたことを知り
罪悪感に苛まれる

これもすべて決まっていたことなのだろうか


師匠は言った

アルジ君や、お主は罪を罪と知った上で踏み止まれなかったわけではない
二度と言わないからよく聞きなされ

頼りにしておるぞ


身を守るため、盾に隠れた
懼れから、刃を付けた

我輩はこの物語を見届ける。見届ける義務がある
最後まで目を逸らさない

そして、自分自身がその物語の登場人物であることを、誇りに思う



電波!道案内は我輩に任せてもらいましょう!







「晴天」






四人は鏡の向こうへと歩いてゆく盟友達を見送った

師は喧騒が過ぎ去った大広間を眺め、懐旧の情に駆られながら、静かに目を瞑る
先々への不安と期待。それらは声にはならず、暗黒に弧を描いて散っていった




──思えば遠いところまで来たものだ


目的地が見えない間は、無我夢中で走り続けるだけだった
儂にも守るものがあって、それを守りきれなかった己を、己に宿った力を憎む日もあった

二人の息子を失い、息子にも等しい者達と出会い

始めの内は茫漠としていた想いが、日を追うごとに輝きを増してゆく
牙を持たない人々の盾となり、剣となる決意

なぜ人間に味方するのかと問われたら、こう答える

踏み躙る者を砕くために立ち上がる者がいなければ、物語は面白くないだろう

まさか再び騎士として戦うことになろうとはな
どうやらあの馬鹿には、隠居させろなどと言うだけ無駄らしい

年寄りの冷や水。とくと見せて進ぜよう




──私はそれ程、人に思い入れがあるというわけではない


あの二人に関わったことで、色々と面倒なことになってきたものだ

しかし後悔は微塵も無い

偽りの大海で浮かんでいた私に、本当の、波と風のある海を、あいつは見せてくれた
夢の世界に居れば、苦痛や哀しみ、その他すべてのものから解放される

私の望む世界、だからな

何もかも想像通りであれば苦労はない。

あの場所は、居心地が良かった
だが心の隅の隅で、これでは駄目だと解っていたんだ

力が使えなくなったことで、自分を省みることができた

苦楽があるから必死になれるんだ

誰かを救うために、危険は覚悟の上で、あの二人は濁流へ飛び込んだ

その手で、私をも救ってくれた

この借りは、倍にして返さねばな




──料理人のワイが、役に立てるやろか


俺の部隊に来い

なんや、やぶからぼうに。めっちゃ真っ直ぐな目でそないなこと言われて
断る理由を探す方が難しいっつう話ですわ

他ならぬ恩人の言葉やし、それに
この人は何かやる

そういう確信めいたもんがあったんや
ボケッとしとったら祭りに乗り遅れるでぇ!

戦うのが苦手なら戦わなくていい

何を言うんやと、そんなん言われたら頑張りたくなるやないですかと

足手纏いにはなりとうない
ランプはんと特訓して、少しでも腕を磨いとかな

おんどれ食器割ったら承知せえへんど!




──強い 人間


あれと居れば、人の言葉、覚えられる
旨いもの、多く食える

ランプが負けた奴、あいつだけ

バリッ、バリリッ!

あれは、どうしたらできる?

人間の癖に、生意気だ




…さて、儂らも出発じゃ

部隊長の第一声に、三人は表情で応えた

足取りはいつもと変わらない

荷物は少々重たいが、私一人で背負うわけではない

タコヨリの脳裏に、あの時の掛け声が響き渡った



そうさ俺達?!


ワイスバスターズ!!






「WISH」






電公、ケーキで腹を満たすのはよくねぇ。ちゃんとした食事にしたほうがいい。


シラタキの言葉は電波の耳に届いたが、返答はいつも通り変化球だった

あれはケーキという名のメインディッシュさ。クレープの甘くないやつと同じ扱いだ。わかるよな。
わかんねぇな。シフォンケーキっつっただろお前。俺のだけ砂糖が入ってねーんだよ!

お前のだけ入ってなくても意味ねぇやろが!!トゥージーさん、シフォンをお好み焼きに変えて下さい!

アルジは機転が利くなぁ。変えんな。変更ではなく追加。ケーキは食後にします。
料理人は調理場へと走った

扉は開けておけ。作戦の内容は皆が聞かなければならない。

質問は受け付けますが、疑問に思うことがないように話すつもりなんで、内容はしっかり吟味すること。
重要だと思ったことは各自何かに書いておくように。

それでは作戦会議を始めます!



大広間はざわめいていた



さて、ホワイトボードに書いてある通り、ここに居る15名を3つの部隊に分けます。
様々な状況を想定した上での振り分けだから、不満を述べるならば相応の理由を添えなさい。
納得できたら考え直すかもね。

では発表する!まず人間界班

師匠、タコヨリ、ランプ、トゥージーの四名。部隊長は師匠だ。儂か?!
文句ある?うむ、引き受けよう。

この班は探偵事務所の依頼を片付ける。

どうやら人智の及ばないレベルの依頼が1個だか3個だか知らんが来ているらしい。
戦闘の発生確率は低いと見ていいだろう。頭を使うことが多いかもな。

Lは大きく頷いた。えるさん頭突きじゃありませんよ。

依頼をこなしつつ、白雲専用のルートを探してもらいたい。
エーテルのエネルギー量を数値化する機械を師匠が持っているから、移動した先で必ず使用すること。

成る程、師匠を持っていけばいいのか。タコヨリ君や…。

トゥージーがいればランプもちゃんと言うことを聞くだろう。
ランプはニヤッとした

こるあライオンもどき、何かしでかしたら俺がすっ飛んでくからな!

お前は食い意地、次に交渉班

俺、アルジ、ウィンドリット、がらびの四名。

黎明の国へ続く境界が、明日の正午くらいに無人島に現れる。ハゲは手を挙げた
なんだよ。何もかも行き成りで状況が把握できないんですが、無人島に黎明専用ルートが、あるということか。
そういうのを人は把握できているという!

でんぱ交渉ってなんですか!これから説明すんのっ!!

王様を蹴ってくるって書いてあったよな。これは誇大表現。
どうにもこの国は戦いの備えが少ないから、俺の提案を叩き込んでくるわ。

そして交渉によって、通常では出入りできない場所に踏み入る許可を貰う。立ち入り禁止の場所。
遺跡とか色々ね。

畳(たたみ)か。 そうそう、街の一画にひっそりと置かれた一畳のたた
電波はハゲを睨んだ。

最後に遺跡攻略班

ハゲ、ヨモギ、L、ケイティ、テイティ、シラタキ、シガーヘッドの7名!
部隊長はハゲ、お前だ! ハゲは驚いた顔をした

恐らくは3つの部隊の中で最も状況を判断する力が求められる。お前が皆に指示を与えるんだ。
すぐに上手くやれとは言わん!

電波はLやシラタキ達を見回した後で、ハゲに視線を戻した 

今は頼りないだろうが、素質は俺が保証する。
他の皆は、こいつが右往左往している時に助言したりして、本物の隊長にしてやってくれ。


ハゲ坊、頑張れ!オレ達はお前さんをサポートする。 シラタキは力強く拳を作った
Lです。はげ隊長、気楽にな!自分はいつでも隊長になりてぇかった。


でんぱ、一言いわせてくれ。

彼に迷いはなかった


あ?

まかせとけ!! 

未知なる世界へ出発の準備だっぺ! テイティそろそろ口調を定めねーど!
イエティ兄弟はすぐにでも登山できそうな様子である

よし。お前達には交渉が済み次第動いてもらう。遺跡で何をするかは後で教える。
連絡が来るまで観光でもしていればいい。

お前ら待機! ハゲは得意気な顔だ

そう、俺が頑張っている時にな、観光をしているわけだよ、この人達は。
交渉なんてせずに突進しようか。電波さん落ち着いて下さい。いいよなアルジは!
目新しい物なんて僅かだろう! 

できたぞ~

トゥージーが料理を運んできた



…空腹こそ真の敵だ。 隊員達はお好み焼きを食べながら頷いた
さて、装備の配分は



電波班  ヨモギの牙(剣) リボルバー×1

師匠班  ヨモギの牙(刀) リボルバー×2

ハゲ班  ライジング・リボルバー リボルバー×2



こんなところか。

武器は使い方を誤れば、味方さえも傷付けてしまうということを忘れるなよ。

狙いを定めるのはお前らだ。撃鉄を起こし引き金を引けば、照準の先に何があろうと弾丸は飛んでゆく。
訓練を怠るな。武器の重みを心身に刻み込め!わかったか!

師匠は弟子の成長に笑みがこぼれた

言葉がないわい。


でだ、異世界のガイドブックを渡しておく! アルジは皆に冊子を配った

通貨や移動手段、必須と思える情報はすべて載っている。
まあ各班向こうに詳しいやつが一人は居るから、分からないことがあったら訊くといい。

電波は腕を組んで少々考えた後、再び話し始めた


…言い残しはない。多分。
意見などなければ、これで作戦会議を終わります。

何も……ないのかよ。師匠は? 師は首を横に振った
ああそう。では、最後に俺が締め括りの言葉を。

必ずまたここに集まって、皆で騒ごう。

会議終わり!黎明の国へ行く人は明日の9時、大鏡の前に集合!
境界の場所まで連れてくかあーそうだ、菓子の塔に行って買い物してこようぜ。賛成の人ー!

弟子よ、意見ではないが儂からも一言いいか?
当店のオススメ、カラメルビスケットをどうぞ宜しく。

お前ら聞け。最後に到着した人は食後のシフォンケーキなし

隊員は我先にと走った


電波とハゲはランプの足を掴んで、塔とは逆方向に飛んでいった
こっちに何かあるんですね。 あるわけねーだろ!!

…そろそろ向かうとするかの。 師匠の手には扉の鍵があった
鍵がなければ入れんだろうに。まったく。

ヨモギは扉を壊し、電波は上手くランプを操縦して塔の最上階にある窓を割って入った

師匠は塔が近付くにつれ、怒りの数値を上げながら全速力で走る



師匠ケーキなし。 コゾウ…!!






「蒼-iconoclast」