③ロングリップロールにチャレンジ!

この項目ではリップロールができるようになってきたことで新たに挑戦できるトレーニングとして“ロングリップロール”を紹介します。
このトレーニングの特徴として、歌わずに腹式呼吸強化ができるトレーニングということが挙げられるので、歌の練習場所や練習時間に困っている方(例:マンションなので歌えない・練習時間が深夜で難しい)には大変オススメのトレーニングです。
また、安定感を得るまでにはなかなか時間がかかる、やればやるだけ奥が深いと感じるトレーニングと言えますので、リップロールができるようになった初心者の方からかなり息の使い方が安定してきた上級者の方まで幅広く行うことができます。

 

それでは、早速ロングリップロールに挑戦してみましょう!

【目的】…呼吸筋のストレッチ・安定した息を使えるようになるための呼吸筋の強化

【効果】…語尾や伸ばす部分の安定感up・歌の後半部分での息苦しさを防止・集中力up

【用意するもの】…時間が測れるもの(時計orストップウォッチ)・記録を残す紙・筆記用具

【手順】

①以前紹介した、胸式呼吸と腹式呼吸の使い分けトレーニングを用いて、まずは深く呼吸できるように息を整えます。

②時間を測れるものを手元にセットし、声を出さない“息だけのリップロール”を開始します。

③リップロールの持続時間を計測します。

④計測が終了したら記録を残します。(1度に5回程度を目安に)

⑤最後にその日の平均タイムを算出します。

⑥一言で良いのでトレーニング所感をメモします。

 

以上がロングリップロールの概要となります。
ルールとしては『息のみ』ということと『持続時間を測る』という2点が大きな特徴となります。

『息のみ』にこだわるには理由があります。やってみると分かるのですが、歌うよりも安定するのが意外に難しいことが分かります。
また、音をつけないことで息の使い方に集中することができます。

『持続時間を測る』ことに関しては、実際に数字で記録を残すことで、その日の安定感や日々の成長具合を確認することができます。
1度に5回程度としたのは、それ以上行うと、集中力が途切れてしまったり、頭で考え過ぎになってしまったりと好結果に結びつかないことが増えてくるからです。
回数を決めて集中して行うことをオススメします。

また、平均タイムを算出することに関して、特に最初の頃は結果がなかなか安定しません。
しかし、平均タイムが上がってくれば、それは立派な成長として捉えることができます。
最高記録を伸ばしていく気持ちを持つことはもちろん大切ですが、平均タイムの推移にもぜひ着目して日々の変化をチェックしてみてください。

トレーニングの最後にトレーニング所感をメモしてくださいと記しましたが、これは自分にとって非常に大切な財産となり得ます。
このメモが貯まっていくことで、長く続く時や安定している時の自分の感覚の特徴が理解できますし、また、どうしても途切れてしまう時や不安定の時の自分の特徴も理解できます。
歌のトレーニングにおいて、失敗した時に何が悪かったか反省できる方は多くいらっしゃいますが、どうしたら良くなるかまで気づける方はあまりいらっしゃいません。
この“メモを残す”という行為には、悪い時の自分だけではなく、良い時の自分の感覚もしっかり残すので、あまり記録が伸びない時に、何ができていないから伸びないのかということに気づけるようになれます。
料理の場合、1度美味しく作れたら、またその味を再現したいと思いませんか?
野球でホームランを打ったり、サッカーでゴールを決めたり、バレーボールでスパイクを決めたり、1度うまくできたらまた成功したいと思いませんか?
歌の場合も同じです。
うまくできた自分を、“たまたまできた”と思わず、“何がよかったからできたのか?”と思考が変わることで、自主練の精度は格段に違ってきます。ぜひ書き貯めていきましょう。

最後にトレーニング達成レベルを記しておきます。参考にしてみてください。

【男性】

初級…~15秒 中級…~40秒 上級…~60秒 特上級…60秒~

【女性】

初級…~10秒 中級…~30秒 上級…~45秒 特上級…45秒~

次の項目では、腹式呼吸強化のための発声練習でのひと工夫を紹介します。(1747字)

②リップロールをマスターしよう!~失敗例とうまく改善できるコツ~

この項目ではリップロールがなかなかうまくいかない失敗例とそれをうまく改善できるコツを紹介していきます。
もし、初めてリップロールにチャレンジしてうまくできた方も、また違う機会にやった時に突然うまくいかなくなることもあり得ますので、その時の対応策として知っておいてください。

 

失敗例①…全く唇が震えない。どちらかと言うと何かを“吹く”ような口になってしまう。

うまく改善できるコツ…唇が硬くなっていませんか?お風呂に入って口を閉じている時はそんなに硬い状態ではありませんよね?
少しボーっとしているくらいがちょうどいいです。な
かなかうまく行かない時は、下の写真を参考にして両手を口角の真横に当てるようにしてやってみましょう。
添える手は口角より上に行き過ぎないように、また引っ張ってしまうことのないように気をつけてください。
(引っ張ってしまうと余計に難しくなってしまいます)


失敗例②…全く唇が震えない。息がただ漏れるだけ。

うまく改善できるコツ…唇がきちんと閉じていない(最初から微妙に上唇と下唇との間に隙間がある)か息をしっかり押し出す勢い不足の可能性が高いと言えます。
唇をきちんと閉じた状態にし(もちろん硬くならないように注意)、一度思い切って一瞬で勢いづけて息を押し出してみましょう。
くしゃみをする時くらいの勢いを想像してみましょう。

 

失敗例③…唇は震えるがすぐに止まってしまう。

うまく改善できるコツ…唇は震えるのに長く続かない方は、“吐き切る”ことが苦手なタイプであると言えます。
歌でも息継ぎが難しい曲で苦戦したりする場合が多いと思います。
この場合は、とにかく限界の限界まで吐き続けるトレーニングを積み重ねましょう。
限界を引き伸ばすことができることでリップロールの持続時間が長くなりますし、息を安定して長く伸ばす感覚が掴むことができます。
このトレーニング方法に関しては次の項目で詳しく解説します。

 

失敗例④…唇は震えるが音までなかなか入れることができない。

うまく改善できるコツ…息だけのリップロールはOKだが、音までつけた状態だと難しい方はリップロールで生じたリラックス感をうまく活かせていない可能性が高いと言えます。
この場合、次のようなトレーニングをオススメします。
まず息だけのリップロールをします。
次に、ある程度息だけのリップロールをしている最中に鼻歌感覚で音も入れていきます。
これだと自然にリップロールで歌う感覚を早く獲得できるようになります。
なかなか音まで入れられない方はぜひチャレンジしてみましょう。

 

私の経験上にはなりますが、失敗例①は割と年配の方や力みやすい方に多く、失敗例②は女性や苦手意識が強い方に多く、失敗例③は歌で語尾に苦戦したりバラードで苦戦する方に多く、失敗例④は“歌”になると、基礎練習でやってきたことが急にできなくなる、うまく活かせない、活かし方が分からないという方に多く見られます。
自分が当てはまる場合には、参考にしてみてください。


また、ここで大切なのは、リップロールがもしできなくてもただ悲観的になるのではなく、できる方法をしっかり探ることが大切になってきます。
そのためには、まず自分の状態を観察・分析をして解決策に結びつけていきましょう。


次の項目では、先ほど失敗例③の改善策で記述したトレーニングについて具体的に解説します。
深夜でも他人に迷惑がかかりにくいトレーニングですので、練習場所や時間に困っている方には特にオススメのトレーニングと言えます。(1468字)

①リップロールをマスターしよう!

さて、ここからは腹式呼吸の強化に繋がるトレーニングを紹介していきます。

まず始めに“リップロール”というトレーニングをマスターしていきます。

リップロールとは、簡単に説明すると息を吐きながら唇をブルブルと震わせるトレーニングになります。
唇をブルブル震わせると言えば、小さい子どもがやっているのを見たことがありませんか?
または自分が昔やっていたと記憶している方もいるかもしれませんね。
実はあの何気ないしぐさは歌の上達に繋がる素晴らしいトレーニングなのです。
本当に?と思う方もいるでしょう。
実は私も最初の頃はそう思っていました。
やってみると分かると思うのですが、鼻の辺りがむず痒くなります。
私もリップロールを知った当初は、このむず痒さだけが気になっていたうえにトレーニングの“目的”をきちんと把握していなかったこともあり、“ただ痒いだけのトレーニング”になっていました。
今考えると、とてももったいないことをしていたと反省せずにはいられません。
今独学でボイストレーニングをしている方にも、今後どこかでボイストレーニングを習おうと思っている方にも言えることなのですが、トレーニングの目的や効果に関しては、はっきりと把握をしてから実践に移ってもらいたいなと思います。


ということで、ここでリップロールの目的と効果について説明します。
リップロールは知れば知るほど奥の深いトレーニングで、様々な場面で応用できるのですが、今回は“腹式呼吸の強化”に焦点を当てて説明します。

 

【目的】…リラックスの獲得と安定した息を使えるようになるための呼吸筋の強化

【効果】…語尾や伸ばす部分の安定感up・歌の後半部分での息苦しさを防止・低音から高音までムラのない発声で歌える・声量up

 

前述したように、他にも高音トレーニングなど様々な場面で用いることが可能な素晴らしいトレーニングなのですが、特に“腹式呼吸の強化”に関しては以上のような目的と効果があります。

これらの効果が自分の歌で実現できたらと思うとわくわくしますね!
また、そのためと思ったらむず痒いことも忘れてしまうでしょう。


目的と効果が分かったところで早速実践に移っていきましょう。
まずはブルブルと唇がすぐに震えることができるか試してみましょう。
最終的には鼻歌のような音も入れたものでやっていきますが、まずは息のみでできるかチャレンジしてみましょう。
どうでしょうか?できましたか?
すぐにできた方はなかなかいいリラックス状態ですね。
全く唇が震えない方や、一瞬またはたまにしか唇が震えない方は掴み切れない原因が関与していると考えられます。


次の項目では、リップロールをするうえでよくある失敗例とうまく改善できるコツについて記述していきます。(1140字)

④胸式呼吸と腹式呼吸の使い分けトレーニング

さて、ここまで胸式呼吸と腹式呼吸のそれぞれの実感方法について紹介してきましたが、2つの呼吸法の違いを体の感覚で覚えることができたでしょうか。

この項目では、それぞれの呼吸法の違いを頭と体で理解した次の段階として、これらをうまく使い分けるトレーニングをしていきます。

【用意するもの】…メトロノーム(用意できない場合はストップウォッチでも代用可)

メトロノームはアナログタイプでも電子タイプでも構いません。
また、最近はスマートフォンのアプリでも手に入れることができるようになったので、比較的入手しやすくなったかもしれませんね。
上記に書いた通り、メトロノームの用意が難しい場合はストップウォッチを用いてトレーニングしていきます。

【手順】

①メトロノームを4/4でセットしテンポは60(四分音符で1分間に60回)に合わせる。

②まず4拍(ストップウォッチの場合は4秒)を胸式呼吸で息を吸います。

③次の4拍を胸式呼吸で息を吐きます。

④もう一度②と③を繰り返します。

⑤次の4拍(ストップウォッチの場合は4秒)を腹式呼吸で息を吸います。

⑥次の4拍を腹式呼吸で息を吐きます。

⑦もう一度⑤と⑥を繰り返します。

⑧②~⑦を1セットとして3セット行う。

これは3セット行っても5分程度でできますので気軽にできますが、ぜひ集中して行ってください。
特に呼吸の切り替えのタイミングは乱れやすいので気をつけましょう。
また、呼吸量はその時間で無理なく吸える・無理なく吐ける量にしておきましょう。
上記の手順に慣れてきたら、次の段階として④と⑦を省いて行ってみてください。
さらに次の段階としては④と⑦を省いたうえで4拍を2拍(ストップウォッチの場合は2秒)にし、より忙しく2つの呼吸を意識的に切り替えていきましょう。
もし、そのレベルにまで達しても途中からあまり乱れるのであれば、一段階戻してより確実にできるようになってから次の段階に進みましょう。
高いレベルのトレーニングも本人にとって最適のレベルでないと、最高の効果は現れません。
ご自分のレベル感を常に確認しながら、無理のないように進めていくことが上達への近道です。

さて、上記のトレーニングで胸式呼吸と腹式呼吸の使い分けが素早く確実になって来たら、次の段階へ進みましょう。


次の章では腹式呼吸の強化トレーニング方法を紹介していきます。
今までは吸うことと吐くことにさほど差をつけてトレーニングはしてきませんでしたが、ここでは“しっかりと吐く力”を身につけるようにしていきます。
前述した通り、歌は息を吐いている時間が圧倒的に長いために、歌の上手さはこの“しっかりと吐く力”で決まると言っても過言ではありません。
この講座の核となる部分でもありますので、ひとつひとつじっくりと取り組んでいきましょう。(1167字)

③腹式呼吸の実感方法


それでは次に腹式呼吸を分かりやすく実感する方法を紹介していきます。
胸式呼吸同様、試してみて分かりやすければ何度も実践し、その感覚を体に染み込ませていきましょう。


腹式呼吸の実感方法①…ほおづえをついて呼吸をしてみよう!(写真参照)

 



ぼーっと何か考え事をする時や行儀は良くありませんが学校の授業中にほおづえをついたことはありませんか?
実はあの瞬間は多くの方が腹式呼吸になります。
今イスに座っていて目の前に机やテーブルなどがある方はぜひ試してみてください。

もし机やテーブルが無い方は、イスに座った状態で“考える人”のような感じで前傾した状態でほおづえをついてみてください。
これは片肘だけでも両肘でも構いません。
そしてまずは何も意識せずに呼吸してみましょう。
実はこの“何も意識しない”というのがミソです。(こちらについては後ほど解説します)
するとどうでしょうか?下腹部の方に変化を感じませんか?
分かりにくい方は、そのままの姿勢でドッグブレス(犬のような素早い呼吸)をしてみましょう。
これだとどこを使って呼吸をしているかが比較的分かりやすくなりますね。
一度実感ができたら何度も呼吸を繰り返し、これが自分の腹式呼吸かと思いながらその感覚を体に染み込ませていきます。
頭でのイメージと体の感覚が一致してきたら、この姿勢に頼らず意識的に腹式呼吸をしてみましょう。



あまりほおづえに馴染みがなくて実感が難しかったり、上記の方法で掴みにくかった方もいらっしゃると思いますので、2つ目の実感方法も記載します。
胸式呼吸同様、ご自分で一番しっくり来る方法でイメージを固めてください。

腹式呼吸の実感方法②…ウエストに手を当てて呼吸をしてみよう!(写真参照)

 

 

 少し偉そうな態度にも見えますが、ウエストに手を当てて呼吸をしてみましょう。
これは座った状態でも立った状態でもどちらでも構いませんが、私のレッスンでの経験上では座った状態で行う方が実感値が高いように思います。
こちらも実感方法①と同様に特に何も意識しないで呼吸するようにしてみてください。
どうでしょうか?下腹部の方に変化を感じませんか?
こちらの方法は腹式呼吸において変化のある部分に直接触れていることもあり、より実感できる可能性が高いと言えます。
それでも分かりにくい場合は、ウエストを潰すくらい強めに手を押し当てて呼吸をしてみてください。
そうすると、息を吸った際にその力に反発するように下腹部が膨らむことを実感できるはずです。
腹式呼吸は本来楽な状態で実感して頂きたいのですが、なかなか掴みにくい場合はこの方法でまずは実感し、徐々に楽にしていくという流れにしていきましょう。
こちらも実感ができたら何度も呼吸を繰り返し、頭でのイメージと体の感覚が一致してきたら、ウエストから手を離しても意識的に腹式呼吸ができるようにしていきましょう。



さて、腹式呼吸の実感方法を2つ紹介しましたが、どちらも最初の段階で“何も意識しない”ことを強調して説明してきました。
最終的には意識的に胸式呼吸と腹式呼吸が使い分けることを目指しますが、腹式呼吸の実感において、最初は“何も意識しない”ことが重要になってきます。
ここでその訳を記述しておきます。


まずは腹式呼吸をいきなり意識的にしようとした場合、自然な腹式呼吸になっているケースが非常に少なく、最初の段階としては自分にとって自然な腹式呼吸を一度しっかりと実感する必要があるのです。
上記の2つの方法は、実は胸式呼吸で息が入る部分(肺の上部)の自由を奪う“肩を固定した姿勢”になっており、自分にとって自然な腹式呼吸ができるようになっているのです。
体は常に効率的な方法を求めています。
わざわざ非効率な方法は求めませんね。
試しにほおづえの状態で逆に意識的に胸式呼吸をしてみてください。
ウエストに手を当てたまま強引に胸式呼吸してみてください。
かなり苦しく、その状態では胸式呼吸が難しいと理解できます。
これを他に応用すると、マイクスタンドに手をかざして歌う時も肩を固定した姿勢になっているので、腹式呼吸になりやすいと言えます。
他にも腹式呼吸がしやすい色々な状況が考えられますので、日常生活や演奏している時にアンテナを張って自分なりの方法も探してみてください。
一度自分の自然な腹式呼吸をしっかり実感できれば、その後は安定して意識的にできるか後は練習あるのみです。
また、腹式呼吸の実感方法としては“寝た状態で息をする”という方法が一般的ですが、最終的に体を起こして立った状態にまで持っていくのが難しいということもあり、私としては体を起こした状態でもできる上記の2つの方法をオススメしています。


腹式呼吸の実感に関しては、全ての土台となっていきますので、なかなか掴みにくい場合も焦らずにじっくり進めてみてくださいね。

さて、次の項目では胸式呼吸と腹式呼吸を意識的に使い分けるトレーニングを紹介します。(2020字)

②胸式呼吸の実感方法

まずは胸式呼吸を分かりやすく実感する方法を紹介していきます。
試してみて分かりやすければ何度も実践し、その感覚を体に染み込ませていきましょう。

胸式呼吸の実感方法①…胸部のレントゲン撮影を思い出してみよう!

健康診断などで一度は経験のある胸部レントゲン撮影。
撮影台に上がり、最後に大きく息を吸って息を止めてくださいと言われますね。
あの瞬間は多くの方が胸式呼吸になります。
ではなぜそうなるかという話になりますが、大きく2つの要因が考えられます。
まず1つ目として、“胸部”の撮影と伝えられていることです。
“胸部”の撮影と言われると意識は胸部に行きやすくなります。
そして2つ目として、“大きく”息を吸うと伝えられていることです。
たくさん息を吸おうと思うと、かなり多くの方が胸部をパンパンに膨らますイメージを持ちます。
この2つが噛み合うと、相当意識的に胸式呼吸しやすいはずです。
皆さんもレントゲン撮影を思い出しながら大きく呼吸してみましょう。
どうですか?意識的に胸式呼吸ができましたか?


場合によってはしっくり来ない方もいらっしゃる可能性もありますので、2つ目の実感方法も記載しておきます。
ぜひご自分で一番しっくり来る方法でイメージを固めてくださいね。

胸式呼吸の実感方法②…ラジオ体操の深呼吸を思い出してみよう!

ラジオ体操の最後に行う深呼吸を思い出してみてください。
両手を広げて、大きく胸を広げるあのポーズです。
このポーズは胸を広げている時点でかなり胸式呼吸がしやすい土台ができあがっています。
体の準備ができていることで、負荷が少なく自然と胸式呼吸が体感できるでしょう。
さぁ、ラジオ体操を思い出しながら、両手を広げて胸を広げて深呼吸をしてみましょう。
どうですか?意識的に胸式呼吸ができましたか?

私個人の感覚では②が一番しっくり来る方法で、私の場合はさらに“登山で山の頂上に着いておいしい空気を胸いっぱいに吸い込む”イメージも付け足します。
アロマがお好きな方は、部屋の中を好きな香りでいっぱいにしてから実践してみるといいかもしれませんね。
ここでのひと工夫はぜひ皆さんが自由にカスタマイズして行ってみてください。
今までの生活スタイルや昔から続けているスポーツがあれば、その中にヒントが隠れている可能性は大です。
歌に不安があっても、今の自分に根付いている感覚を歌をうまく歌うことに繋げられたらと思えればわくわくしませんか?



次の項目では、いよいよ腹式呼吸の実感方法について触れていきます。
胸式呼吸同様、日常生活や今までの経験からのあるあるネタで理解しやすいように進めていきます。(1087字)

①なぜ使い分ける必要があるか?

さて、ここからは呼吸の実践練習に移っていきます。
まずは胸式呼吸と腹式呼吸をしっかり使い分けることから始めましょう。


2つの呼吸を使い分けることは非常に重要です。
なぜかというと、使い分けることができないと必ず“曖昧”になっているゾーンが存在してしまうからです。
これが使い分けることができるようになると“曖昧”は“融合”に変わります。
今胸式呼吸に自信がある方は、腹式呼吸の自信をつけて胸式呼吸との境界線を明確にし、逆に腹式呼吸の方に自信がある方は、胸式呼吸の自信をつけて腹式呼吸との境界線をぜひ明確にしてください。


これは料理の例で挙げると、例えば和食とイタリアンの創作料理を生み出す時に同じことが言えます。
これらの創作料理を生み出す時は、まずは和食とイタリアンのそれぞれの料理法の違いをしっかりと理解することがより良い“融合”した創作料理を生み出すためには必要なことです。
どちらも中途半端な知識と腕前だと“曖昧”な創作料理になることが想像できませんか?
ただ、ここで大切なのはそれぞれの料理法の“違い”をまず知ることです。
すぐに創作料理を極めることは難しいので、最初の段階では“違い”を自分なりにしっかりと見極められるかがカギになってきます。


再度これを呼吸の話に戻すと、最初から腹式呼吸と胸式呼吸をうまくブレンドして行う呼吸ができるようになることは難しいですが、まずはそれぞれの呼吸法の違いを知ることからスタートすることが、2つの呼吸法の“融合”を生み出すきっかけになります。
また、私はこの“融合”は料理と一緒で、正しい答えはないと思っています。
100人いたら100通りの答えがあっていいのではないでしょうか。
呼吸法も個性のひとつになり得るとそう思っています。


この講座の冒頭でも記述しましたが、ここでは絶対的な正解を提示するのではなく、“多くの方が分かりやすい王道の実感トレーニング”を提示します。
最終的なゴールは、2つの呼吸法の違いをしっかりと理解したうえでそれぞれの呼吸レベルをアップし、自分の体にとって一番効率的なオリジナルの呼吸法を見つけ出すところにあります。
これは何も呼吸だけに限定する必要はありません。
ビブラートや抑揚のつけ方などにも共通するところです。
ぜひ基本の考え方として、まずは“使い分ける”ようにし、“曖昧”にしないということをしっかりと覚えておいてください。


次の項目では、胸式呼吸と腹式呼吸の実感方法について触れていきます。
日常生活や今までの経験からのあるあるネタで理解しやすいように工夫しました。
説明を読みながらぜひ実践してみましょう。(1091字)

②呼吸の種類について

呼吸の種類について説明する前に、まず呼吸の仕組みについて触れておきます。

私達は生きていくためには呼吸が必要です。
人間の呼吸は空気中から酸素を取り込み、体内で不要になった二酸化炭素を吐き出すというサイクルで成り立っています。
1回の呼吸が4秒とすると1分間で15回、1時間で15×60=900回、1日では900×24=21600回となります。
運動をしたりするとより呼吸の機会は増えるので、日によっては3万回を超えることもあるでしょう。
普段何気なくしている呼吸もこう考えると、こんなにしているものかと驚かされます。

さて、ではこの呼吸は体のどの部分を使ってしているものでしょうか。
そうです、呼吸といえば肺ですね。
ただ、ここで間違った認識をされている方が案外多いので少し説明しておきます。


肺そのものには筋肉はありません。
したがって、呼吸のトレーニングで肺の筋肉を鍛えて肺活量をつけるといった考え方は間違っています。
肺は自身で膨らんだり縮んだりすることはできないので、胸郭や横隔膜の助けを借りる必要があります。
胸郭とは肋骨などからなる骨組みのこと(肋骨の間にある肋間筋も含み、これらに取り囲まれた空間のことを指す場合もあります)で、横隔膜は胸腔(胸郭に囲まれた部分で肺を含みます)と腹腔(腹壁に囲まれた部分で内臓などを含みます)を仕切っている筋肉の膜になります。
しゃっくりの際にビクッとなるあの部分です。
しゃっくりとは横隔膜の痙攣なのです。

私達は息を吸う時は、横隔膜が下がって胸腔が膨らむことで肺に空気が入る仕組みになっていて、逆に息を吐く時は、横隔膜が上がって胸腔がしぼむことで肺の空気が外に出るという仕組みになっています。
この動作を私達は1日に数万回行っているわけです。


それではここからは呼吸の種類について触れていきます。


まず、呼吸は大きく分けて二種類に分けられます。
ひとつは胸式呼吸、もうひとつは腹式呼吸になります。


胸式呼吸は胸郭の運動(主に肋間筋による運動)による呼吸法で、対する腹式呼吸は横隔膜の運動による呼吸法です。
特徴としては胸式呼吸は浅くて速くて呼吸量は少なく、腹式呼吸は胸式呼吸に比べて深くゆったりと呼吸量が多いのが特徴です。
腹式呼吸に関しては曖昧な知識を持っている方が多かったりするので付け加えておきますが、“腹”式呼吸といってもお腹に息は入りません。
入るのは先ほど述べたように肺になります。
混乱を避けるためには、肺の上部を中心に呼吸するのが胸式呼吸で、肺の下部を中心に呼吸するのが腹式呼吸だと思って頂ければよいかと思います。
腹式呼吸は横隔膜が下がる時に腹圧がかかり、これが息で膨らんでいるかのように感じますが、実際は腹腔が変形しただけに過ぎません。
どちらの呼吸法とも、後ほど実感方法を記載するのでそちらを参考にしてください。
また、この腹圧のお蔭で内臓の血流がよくなるために、腹式呼吸は健康によいとされています。
ヨガが代表的ですね。

さて、ここで1つ質問です。
皆さんは歌う際に息を吸っている時間と吐いている時間のどちらが長いですか?
変な質問かもしれませんが、これは圧倒的に後者ですよね。
歌を歌っている時は圧倒的に吐いている時間が長くなっています。
そうであれば深くゆったりと呼吸量が多い腹式呼吸の方が歌に向いているといえます。(さらに腹式呼吸には精神安定効果もあります)
では胸式呼吸は禁止なのか!?というと、そうでもありません。
まずは2つの呼吸法の違いをしっかりと理解し、体感し、しっかりと使い分けることができるようになることが大切です。
最終的なゴールとしては、メインで使うべき腹式呼吸の強化と肺の機能を最大限に発揮するために胸式呼吸もうまくブレンドして行う呼吸ができるようになれれば最高です。
ただ、そのレベルに達するまではきちんと段階を踏んでいく必要があります。


次の章では胸式呼吸と腹式呼吸の使い分け方について触れていきます。(1626字)

①私達は呼吸のプロである

まず始めにいくつか質問があります。

あなたは今何をしていらっしゃいますか?
いきなり変な質問かもしれませんが、間違いなくあなたは呼吸をされていますね(笑)

ではこの呼吸はいつから始めたものでしょうか?
当たり前ですが、答えはこの世に生まれた瞬間からですね。
オギャーオギャーと生まれた時から私達は自力で呼吸をしています。

それでは、この世に生まれてから呼吸以上に常にしていることはあるでしょうか?
ありませんよね。
当たり前ですが、生きるためには呼吸することは必要なことです。
したがって赤ちゃんの頃からずっと呼吸を続けている私達は、間違いなく「呼吸のプロ」であると言えます。

最後になりますが、あなたはおいくつでいらっしゃいますか?
例えば25歳だとすると、生まれてからずっと呼吸をしているこの道25年のプロといえることになります。
なかなかのベテランですね。
50歳であれば50年のプロです。
もうそれは大ベテランですね。

したがってボイストレーニングを始めようとする今、いきなり意識的に無理矢理呼吸しようとしてはいけません。
まずはあなたの体の中に染み込んでいる“プロの呼吸法”をしっかりと理解していく必要があります。
ボイストレーニングが初めての方にとっては、理解できるか、実感できるか、歌に活かせるかなど、不安が大きいかもしれません。
もしあなたが年齢を重ねていて、ボイストレーニングを始めるには遅いのではないかと思っているのであればなおさらです。
ところが、あなたの体の中にはすでに“プロの呼吸法”をマスターした立派なベテランの先生がいらっしゃいます。
年齢による不安もここでは前向きに、大ベテランの先生がついていると自信を持って、安心してトレーニングを始めていきましょう。


また、トレーニングではしっかりと段階を踏んでいきます。
まずは呼吸だけのトレーニング、そして次の段階では発声練習でのトレーニング、最後は歌に活かすトレーニングと、この
3段階をしっかりひとつずつクリアできるようにしていきましょう。
特に腹式呼吸は感覚が分かったからと言っても、すぐに歌で応用しようとすると失敗しやすくなります。
焦らずにじっくりと着実に力をつけていきましょう。
それぞれのトレーニングには到達レベルの目安も記載し、自分の大まかなレベル感も分かるように工夫しました。
自主練の際に活用して頂ければ幸いです。

次の項目では呼吸の種類について説明していきます。(1013字)

歌う時は腹式呼吸がいいと聞いたことはありませんか?

ボイストレーニングを未経験でも聞いたことがあるという方はたくさんい
らっしゃるのではないでしょうか。
ただ、この腹式呼吸、ボイストレーニングでは基本とされていながらもやってみると案外難しいですよね。
よく耳にする声としては、「意識はしているのですが、できているか不安です。」「歌いながらだと何となくになってしまいます。」といったような実感値が少ないものが多いように感じます。
インターネットの掲示板等においても、日々腹式呼吸に関する書き込みがあり、「正しい腹式呼吸とは?」「どのような練習法だと身につくのか?」など様々な意見が飛び交っています。
中には色々やってみたことで逆に不自然になってしまい、訳が分からなくなってしまった方もいらっしゃるようです。

私は感性や感覚というものは人それぞれなので、絶対的な正解はないと考えています。
例えば料理でも同じことが言えます。
世界中の誰もがおいしいと思える絶対的な料理は存在するでしょうか?
辛い物が好きな方にとっては辛い料理はおいしく感じますが、苦手な方にとっては到底おいしく思えません。
腹式呼吸の感覚もその方の体つきや呼吸器の大きさ・内臓の大きさやそれぞれの臓器の位置関係で必ず違うはずです。
したがって腹式呼吸の感覚の絶対的な正解はないと思います。
ですが、先ほどの料理の例で言うと、多くの方がおいしいと思える王道の味というものがあるのは事実です。
腹式呼吸のトレーニングにも、多くの方が実感できる王道の実感方法やトレーニング方法というものが存在するはずだと思っています。
したがって先述した「正しい腹式呼吸」とは言い換えれば、“多くの方が自然な感覚で腹式呼吸できる方法”だと考えて頂ければよいのではないかと思います。

この講座では私のレッスン経験を通じて蓄積した、より自然にかつ確実に体感できる腹式呼吸の方法を紹介していきま
一部に胸式呼吸の体感方法も記述し、しっかりと使い分けられるようにも配慮しました。
また、練習メニューには到達状況を確認できるレベル一覧も記載し、あなたが現在どのくらいのレベルに達しているかを確認できるように工夫しています。
焦らずじっくりと自身の成長を楽しみながらトレーニングをしていきましょう。

また、練習の頻度に関してですが、これは毎日が理想です。
1週間に1時間しか時間を
作れない方は1日10分でもよい(歌うことが難しい場合は息のトレーニングだけでもよい)ので、継続してできるだけ毎日練習する環境を整えてください。
これは料理の腕を上達したい時と全く同じです(私は料理での例えが頻繁に出てきます。料理と歌は共通点が多いように思います)。
週末だけ頑張ってたまに料理を作るよりも、毎日ちょっとした1品を作り続ける方が料理の感覚は磨かれていきます。
ボイストレーニングも習慣化することで体にその感覚が浸透していきます。

この講座を通してあなたが獲得した自然な腹式呼吸が、豊かな歌声に結びつくことを願っています。(1250字)