②呼吸の種類について

呼吸の種類について説明する前に、まず呼吸の仕組みについて触れておきます。

私達は生きていくためには呼吸が必要です。
人間の呼吸は空気中から酸素を取り込み、体内で不要になった二酸化炭素を吐き出すというサイクルで成り立っています。
1回の呼吸が4秒とすると1分間で15回、1時間で15×60=900回、1日では900×24=21600回となります。
運動をしたりするとより呼吸の機会は増えるので、日によっては3万回を超えることもあるでしょう。
普段何気なくしている呼吸もこう考えると、こんなにしているものかと驚かされます。

さて、ではこの呼吸は体のどの部分を使ってしているものでしょうか。
そうです、呼吸といえば肺ですね。
ただ、ここで間違った認識をされている方が案外多いので少し説明しておきます。


肺そのものには筋肉はありません。
したがって、呼吸のトレーニングで肺の筋肉を鍛えて肺活量をつけるといった考え方は間違っています。
肺は自身で膨らんだり縮んだりすることはできないので、胸郭や横隔膜の助けを借りる必要があります。
胸郭とは肋骨などからなる骨組みのこと(肋骨の間にある肋間筋も含み、これらに取り囲まれた空間のことを指す場合もあります)で、横隔膜は胸腔(胸郭に囲まれた部分で肺を含みます)と腹腔(腹壁に囲まれた部分で内臓などを含みます)を仕切っている筋肉の膜になります。
しゃっくりの際にビクッとなるあの部分です。
しゃっくりとは横隔膜の痙攣なのです。

私達は息を吸う時は、横隔膜が下がって胸腔が膨らむことで肺に空気が入る仕組みになっていて、逆に息を吐く時は、横隔膜が上がって胸腔がしぼむことで肺の空気が外に出るという仕組みになっています。
この動作を私達は1日に数万回行っているわけです。


それではここからは呼吸の種類について触れていきます。


まず、呼吸は大きく分けて二種類に分けられます。
ひとつは胸式呼吸、もうひとつは腹式呼吸になります。


胸式呼吸は胸郭の運動(主に肋間筋による運動)による呼吸法で、対する腹式呼吸は横隔膜の運動による呼吸法です。
特徴としては胸式呼吸は浅くて速くて呼吸量は少なく、腹式呼吸は胸式呼吸に比べて深くゆったりと呼吸量が多いのが特徴です。
腹式呼吸に関しては曖昧な知識を持っている方が多かったりするので付け加えておきますが、“腹”式呼吸といってもお腹に息は入りません。
入るのは先ほど述べたように肺になります。
混乱を避けるためには、肺の上部を中心に呼吸するのが胸式呼吸で、肺の下部を中心に呼吸するのが腹式呼吸だと思って頂ければよいかと思います。
腹式呼吸は横隔膜が下がる時に腹圧がかかり、これが息で膨らんでいるかのように感じますが、実際は腹腔が変形しただけに過ぎません。
どちらの呼吸法とも、後ほど実感方法を記載するのでそちらを参考にしてください。
また、この腹圧のお蔭で内臓の血流がよくなるために、腹式呼吸は健康によいとされています。
ヨガが代表的ですね。

さて、ここで1つ質問です。
皆さんは歌う際に息を吸っている時間と吐いている時間のどちらが長いですか?
変な質問かもしれませんが、これは圧倒的に後者ですよね。
歌を歌っている時は圧倒的に吐いている時間が長くなっています。
そうであれば深くゆったりと呼吸量が多い腹式呼吸の方が歌に向いているといえます。(さらに腹式呼吸には精神安定効果もあります)
では胸式呼吸は禁止なのか!?というと、そうでもありません。
まずは2つの呼吸法の違いをしっかりと理解し、体感し、しっかりと使い分けることができるようになることが大切です。
最終的なゴールとしては、メインで使うべき腹式呼吸の強化と肺の機能を最大限に発揮するために胸式呼吸もうまくブレンドして行う呼吸ができるようになれれば最高です。
ただ、そのレベルに達するまではきちんと段階を踏んでいく必要があります。


次の章では胸式呼吸と腹式呼吸の使い分け方について触れていきます。(1626字)