建築家 田口知子の日常をつづったブログ -30ページ目

暮らしの保健室 ~地域の居場所に必要なこと

先日、かねてから行きたかった新宿戸山ハイツの「暮らしの保健室」に行って来ました。


施設を創設し、運営を取り仕切っておられる秋山正子さんに直接お話を伺うことができました。秋山さんは訪問介護のパイオニアとして、長年在宅介護、看取りの仕事をされてきた経験をお持ちの素晴らし方です。

戸山ハイツは昭和43年~51年に建設された総戸数3000、住民数7000人の大団地です。そして、この時代の団地の例にもれず、高齢化率は45%。その戸山ハイツ1階商店街の一角に「暮らしの保健室」があります。



がん患者さんの相談やさまざまな病気への不安や暮らしの困りごとなど、だれでも、いつでも、予約なしでぶらっと立ち寄って相談できる、ホスピタリティーあふれる開かれた場所です。

資格を持った訪問看護婦さんも常駐されており医療との連携がスムースです。何もなくてもお茶を飲んで話を聞いてくれる、という地域住民の居場所として、木曜日には200円ランチも提供されたり。
秋山さんの運営される訪問介護ステーションとしても、地域包括ケアのステーションとしても、とても充実した役割を持っています。

玄関の引き戸はいつも少し開けています。木のガラス貼りの風除室があって、目の前を通った方が玄関先で躊躇しておられたら、ボランティアのスタッフや秋山さんがさっと外に出て、どうぞ、と声をかけています。敷居を低く、誰でも入ってこれる工夫や思いやりがあふれた活動のあり方を感じました。このようなスペースには、いつでも人がいて、ウェルカムされるということが本当に大切なのだと実感します。

この日はボランティアの女性が3人、お茶を出したりしてくださいました。

 相談室は、医療対象行為にはならなおので予算もかけず、小さなスペースになってしまうことが多いのに、秋山さんはしっかり費用をかけて空間を自然素材とデザインにこだわって作られたそうです。木の窓や間接照明、ホタテのしっくりや土佐和紙の天井、無垢材の床、ひのき貼りのトイレや台形に仕切られたパースペクティブな空間。空間の性格が人に及ぼす影響をとても大切に考えておられる話を聞き、建築を設計するものとして本当にうれしく、感動を覚えました。


使う側の目的、ソフトと建築というハード。両方が融合する建築として、イギリスのマギーズセンターを参考にされたそうです。一人暮らしが増え、孤独や貧困が社会に広がる日本の中に、このような場所はいくらあっても足りないくらいだと・・。

この事業は国の補助金、地方の助成金で運営されているようですが、一番の要は秋山さんのような「人」の存在と、支えてくれるボランティアさんたち。人が一番重要なんです。それに加えて、ハードとしての建築は、その事業の存在をアピールし、成功させ、次に続くため、人を説得するうえでとても大きな力になる、とおっしゃる秋山さん。この暮らしの保健室も改装にお金をかけて本当によかったと。人が心の鎧を脱ぎ、安らぐ空間は、外部、緑・庭と街なみとの連続性、キッチンがあること、居心地のよいテーブルコーナーがあること、といった「家」のような空間であることが大切だとおっしゃいます。このような活動のための場所をつくることは建築家の最高の夢だ、と感じます。

秋山さんとのツーショット。(*^_^*)

「人が自分の力を取り戻す場所」、地域にどんどん広がっていくことを願っています。


MASセミナーのお知らせ

今年ももう12月に入り、年末のあわただしい気持ちになってきました。寒さも厳しくなってきましたが、お元気にお過ごしでしょうか?

さて、今日は日本建築家協会(JIA)港地域会が開催します「MASセミナー」のお知らせです。
チラシPDFダウンロードはこちら


内容は、身近な生活の中にある気づき、問題意識、をトピックして、複数の建築家がそれぞれの視点でスライドをまじえてお話ししていきます。その後に、皆様のご感想、ご意見を伺いながら、テーマについての多面的な議論が展開していければと期待しています。

 今回のテーマは「癒され元気になる建築・街とは何か」です。ストレスの高い現代社会において、人を癒すことは健康に生きていくためにとても大切な質だと思います。
同時に、ストレスの原因はさまざまな関係性や出来事によって形成され、癒しもまた認識の世界に多くの原因を持つ、繊細でうつろいやすいものです。そんな中で、形のある建築や環境の中に人を癒す力を持つことができるか?もし可能ならそれはどのような質によるものか、ということを考えてみたいと思います。
メンバーのコメント一覧PDF→



このセミナーは、まちや建築、社会のあり方などに興味のある方ならどなたでも参加できる開かれたセミナーです。終わった後に簡単な懇親会もあります。あわせて、ぜひお気軽にご参加ください。

テーマ:「癒され元気になる建築・街とは何か」
日時:12/13(土) 14時~16時
      懇親会:16時~17時半まで
    (同会場で簡単な懇親会を行います)

場所:日本建築家協会 JIA館1階 建築家クラブ
    渋谷区神宮前2-3-18
お申込み・詳しくはこちらHPご覧ください。→ http://www.jia-minato.jp/

Steps~お住まいになってからの写真撮影

先週は、9月に竣工した雪谷大塚の集合住宅「steps」のお引っ越し後3か月たっての撮影をさせていただきました。カメラマンはナカサアンドパートナーズの藤井さん。




庭の緑や冬の低い日差しが家の中に入ってくる様子はおだやかな初冬の光が美しく、1階でありながら、外に開かれた空間を感じました。小さなガーデンテラスに植えたシンボルツリーの存在は大切だと思いました。



それにしても、今回撮影したお宅の方は、生活を楽しくデザインする方たちで、竣工直後の空間よりもずっと素敵な住まいに成長していました。そのような空間を撮影するのはとても幸せな体験です。








建築家は抽象的な思考でつくる傾向がありますが、建築単体が語る言葉よりも具体的な生活に伴って生まれる空間のほうが、生き生きとして、ダイナミズムを感じられるのが好きです。


光と風、自然と人との関係をつむぐ、建築のあり方を考えて形にする仕事は、学ぶことが尽きない奥深い仕事だと思います。

撮影にご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。