竹谷とし子です。
前回のオーストラリアの議会制度の続きです。少し長いですが、見出しをつけていますので、ご関心あるところだけでも読んでいただければ幸いです。
(下院議長 Hon Tony Smith MP)
<投票用紙はあらかじめ政党名や候補者名が印刷>
日本は投票用紙に政党名や候補者名を自分で書きますが、オーストラリアではあらかじめ投票用紙に、政党名や候補者名が記載されており、チェックマークや番号を書く形式でした。
政党や候補者が多いと、ものすごい長い用紙になるようです。下の写真で手にしているのは、オーストラリア選挙管理事務所で見せていただいた投票用紙のサンプルです。
(連邦下院議員選挙の投票用紙サンプル)
(上院投票用紙 政党や候補者が多くなると長く)
<選挙区外の投票所でも自分の選挙区の投票が可能>
在外公館や軍が活動している場所、人口が少ない遠隔地の移動投票所など、すべての選挙登録人に投票機会が与えられるように取り組みがなされていました。住んでいる場所と勤務場所が離れている場合等のために、自分の選挙区外にある投票所でも、投票を可能にしています。したがって、選挙区外の人が投票に来ることを想定し、全ての選挙区の投票用紙を用意するため、多めに印刷しているとのことでした。広大な国ゆえ、投票用紙の郵送に時間がかかり、投票日から選挙結果が出るまでには、10日程度かかるそうです。
インターネット投票も話題にはのぼるっているようですが、セキュリティや投票行動への影響も懸念され、本格的な検討はまだされていないようでした。
<連邦議会は二院制、各州議会は一院制か二院制で、州毎に独自性あり>
オーストラリアは、5つある州の権限がそれぞれ強く、議会制度も独自に決めています。シドニーがあるニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州議会は二院制で、ブリスベンがあるクイーンズランド州は一院制、と州で異なるということでした。任期もそれぞれ決めているそうです。
また、州政府にも、連邦のようにそれぞれの分野の大臣がいるのは日本と異なります。
(NSW州議会 上院議場、手前左が議長席、後ろが傍聴席)
<イギリスの影響>
イギリスの議会制度が色濃く影響しており、NSW州議会の建物はイギリスから運ばれてきた建材でつくられた歴史もので、制度の説明では、ウェストミンスター制という言葉がよく出ていました。
<質疑中のヤジは激しい>
シドニーにあるNSW州議会下院、キャンベラにある連邦議会上下院で、合計3回、日本でいう本会議の質疑を見学しました。
意外だったことは、いずれも、激しいヤジがとんでいたことです。しかし、ひどすぎると議長が退場を命じるそうですが、議長に強い権限があるように感じました。見学した州議会では、議長が、「Shut up!」と言っていたので、少し驚きました。
日本では、議長が「静粛に」などと注意することはありますが、退場までは見たことがありません。
連邦議会は、スマホやタブレットが持ち込み可能で、画面を見ている人も沢山いました。
(連邦議会上院)
<本会議のQuestionTimeは事前通告なし>
開会中は毎日上院で1時間、下院で1時間15分の Qustion Time と呼ばれる、本会議場での質疑時間があるそうです。イメージとしては、日本の予算委員会を全員が出席してやるような感じですが、一人一人の質疑時間は短く、数分程度でした。質疑内容の事前の通告はないそうですが、日本の予算委員会で見るような、クイズのような細かい質問や、あげ足とりのような質問は、見た限りでは、ないようでした。
<上院には首相も下院所属の大臣も出席しないが、独自性がある>
日本と大きく異なると感じたのは、上院の質疑では首相は出席せず、与党の代理が答弁する点でした。下院に所属する大臣も出席しないので、これも代理が答弁していました。
上院の独自性として、Estimation Comittee という委員会があり、省庁に行って朝から夜中まで予算の妥当性を調査する、ということでした。この点は、私が議員の個人活動として、財務書類を調べ、朝から晩まで省庁の担当に質問し、説明を聞いている事と共通点を感じました。それを上院の委員会として行っているのであれば、議会の行政に対するチェック機能として有効なのではないか、と参考になりました。時間があれば詳しく聞きたかったのですが、いつか豪州議員が来日した際に伺いたいと思います。
<オーストラリア公会計制度は複式簿記・発生主義会計>
オーストラリアの公会計制度は、民間企業が行っているような複式簿記・発生主義会計です。日本政府が採用している現金主義会計に比べると、調査がしやすいことでしょう。オーストラリア政府が公表している情報を、少しだけですが拝見したところ、私が取り組んでいる「財政の見える化」に、参考になる点がありそうでした。
(上院議長 Senator the Hon Stephaen Parry)
丁寧に議会制度の説明を受け、全体を通じて、オーストラリアが議会民主主義を大切にしている事が伝わってきました。民主主義の中心にいるのは国民であり、国民の下に議会があり(ですので、議事堂建物の屋上に国民が上がれる)、国民のための議会や政府は、当然情報をオープンにする、という理念が随所で感じられました。
議事堂からは、戦死者を追悼するオーストラリア戦争記念館がまっすぐに見えます。
首都キャンベラは今、真冬で、コートが必要な気候でした。