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"Food for Thought"

日々考えていることを、自分の思考をまとめるためにも書きつづっています。

『オシムの遺産』 島沢 優子 著

 

 以前、ジェフ・ユナイテッド市原(・千葉)の非常勤取締役でした。その間、「ナビスコ・カップ2連覇~J2陥落~蘇我ユナイテッド・パーク(ユナパ)建設・竣工」と、天国から地獄を体験しました。オシム監督には直接お目にかかることはなく、次のアマル・オシム監督(息子)からでしたが、その偉業はいまだに仲間内でも語り継がれています。

 

 既に多数の書籍が出版され、「いま何故オシムさん?」はありましたが、読んでみました。ゴールを決めたり、派手なディフェンスをした選手ではなく、チームのために献身的に走り切った「水を運ぶ人」を評価していたとか、選手の家族まで思いを馳せて発表時期を決めていたなど、「オシムの言葉」のみならず、その姿勢も書かれていると思います。「サッカーにエゴイストは必要ない」というのが印象的でした。

 

 佐藤(勇)、阿部(勇)、巻、山岸、羽生、水野、水本など、懐かしい名前も出てきましたが、今期は久しぶりに「J2プレイオフ」に挑戦。遺産を活かして、J1復帰を果たしてもらいたいと思います。

 

『佐々井秀嶺、インドに笑う』 白石 あづさ 著

 

 「いや~、こんな人(日本人)がいるのか~!」とビックリしながら読みました。これは、読み応えあります。

 

酒欲・色欲が強くてどうしようもなく、3度の自殺未遂。改心しようと仏門に入り、その後、タイに修行に行かせてもらうものの、今度は女性に殺されそうになってインドへ移動。それが、今や1億5千万人いるといわれるインド仏教界を率いる人物というのですから、波乱万丈の人生としか言いようがありません。放蕩息子が聖人となるケースでは、聖フランチェスコなどがあるかと思いますが、もっと過激な人生を、密着取材の著者が現地で話を聞いて書き起こしています。ほぼ一気読みコース。

 

 大谷翔平が私淑する中村天風も、軍事スパイの後、原因不明の病気を治そうと世界一周しているうちにインドのカリアッパ師と出会って悟りを開いたそうですが、「天のまさに大任をこの人に降さんとするや、必ず先ずその心志を苦しめ…」とはこのことかと思わせてくれます。

 

 カースト制度のあるヒンドゥー教の最下層である不可触民中心に、人間平等を説く仏教が広まりつつあるようですが、インドの裏事情などもわかり(なぜカンジーはインドで尊敬されないか、出された食べ物には注意など)、こちらもお薦めの一冊です。

 

 昨日は、休暇を取って、いざ歌舞伎座へ。抽選で「一等席」が当たったのです(桟敷席は逃した…)。演目は「天竺徳兵衛韓噺」と「文七元結物語」。

 

 「天竺徳兵衛韓噺」は、異国帰りの徳兵衛が海外事情を話すところが面白いのだとか。「琉球で泡盛を飲んで、与那国島でスキューバダイビングをし、マカオのギャンブルで一儲け」など今風にアレンジされて面白かったです。後半、徳兵衛の父は、実は過去の恨みから日本転覆を図る人物とわかり、息子にガマの妖術を伝授するのですが、「お~、江戸版VIVANTだぁ~」と思いつつ見ていました。また、ガマの大掛かりな仕掛けなど、ちょっとしたディズニー・ランド気分です。

 

 「文七元結物語」は、落語の演目で知っていましたが、中村獅童、寺島しのぶが出るというので期待の一作。今月発売の『文芸春秋11月号』に寺島しのぶが投稿していますが、中村獅童から誘われ、「やらせてください」と電話一本で決まったそうです。明け方まで飲む間柄とかで息がピッタリ。今回、泣ける場面で中村獅童がセリフを噛みまくり、

 ・中村「おい、おめぇ、泣いてんだか笑ってんだかはっきりしろい!」

 ・寺島「あんたの言っていることがわかんないだよ!」

で場内大爆笑。因みに、脚本・演出が山田洋次でしたが、やっぱり「寅さん版文七元結物語」でした。

 

 この『文芸春秋』の投稿には、「歌舞伎の稽古は非常に短くて、全員揃ってやるのは3、4日だけ。演じながら舞台が固まっていくところもある」とありますが、これだけを3~4日で仕上げるとは、日本の古典芸能とは凄いものだと思いました。

 

 以前、「トレビアの泉」というTV番組がありましたが、そこにあった「へぇ~」ボタンをバシバシ叩きたくなる内容です。

 

「若者」と言っても、主に10代を軸に書かれていますが、①小中学生の読書率・平均読書冊数は2000年以降V字回復(児童書は一人当り販売額はほぼ倍増)、②日本人の半分が本を読み(平均月1~2冊、一日30分程度)、長期間この傾向は変わっていない、③但し、「雑誌」は減少傾向に歯止めがかからず伸びしろがある、ということにつき、グラフを交えてデータで検証しています。特に、「子どもの読書量に関して、本棚や蔵書などの環境要因からの影響は確認できず、遺伝的影響だけが『影響あり』と統計的に見なされた」というのには少なからず驚きました。

 

「若者」には太宰治の『人間失格』が依然人気のようですが、売れるには「お作法」があり、①正負両方に感情を揺さぶる、②思春期の自意識・反抗心・本音に訴える、③読む前から得られる感情がわかり読みやすい、が三大ニーズと書かれています。これを踏まえた「型」もあり、子どもが大人に勝つ(『名探偵コナン』)、脱出もの(『王様ゲーム』)、余命もの(『余命10年』)などなどが分類・列挙。

 

 書店で「いま売れています!」のポップにつられて購入したものの、どうもしっくり来なかったのは、ネット小説や「若者」向けのものだったのだと「へぇ~」ボタンを押しながら納得しました。

 

『ローマ教皇は、なぜ特別な存在なのか』  廣崎 衛 著

 

 NHKが今年から始めた「世界史のリテラシー」シリーズの3作目。「カノッサの屈辱」を引き合いに、ローマ教皇の力の変遷が書かれています。「ヨーロッパにおけるローマ教皇の変遷」という内容で、なぜローマに教皇がおり、十字軍、宗教改革が起こった背景は何か、など、概略を平易に把握することができる内容になっています。

 

 以前、グローバル企業の日本支社長に「欧米で仕事をする上で最も大切な知識は何ですか」と聞いたことがあります。ファイナンスやマーケティングという回答を想定していたのですが、「そりゃ、キリスト教だよ」と一刀両断されました。この本は、キリスト没後の歴史中心なので、それ以前の歴史や思想などが分かるわけではないのですが、入門書としてはいいのかなと思いました。

 

 前作の『ロシアはいかにして生まれたか』や『少女はなぜフランスを救えたのか』より本作のほうが格調高く、11月発売予定の4作目『ユダヤのアイデンティティはいつ芽生えたか(バビロニア捕囚)』にも期待したいところです。

 

『コンビニオーナー ギリギリ日記』 仁科 充乃 著

 

 このシリーズはなかなか面白くて、たまに読んでいます(『メガバンク銀行員 ぐだぐだ日記』は、舞台となるM銀行の知人にも読んでもらったところ、「このとおりだ!」と心強い回答をもらいました)。

 

 今回の舞台は、「ファミリーハート」のオーナーご夫妻。虫の乱入、トイレのゴタゴタ、パワハラ・セクハラ・カスハラ、バイトやお客とのトラブル、リサイクル品処理の大変さ(これからペットボトルはラベルと蓋を必ず外して投入します)、入庫・廃棄処理、混じり合った複雑な決済方法への対応(今では端末が指示してくれるらしい)、チケット・宅急便・行政書類対応、さらには、窃盗・万引き・恫喝・精神障がい者対応などが書き綴られ、まさに人間社会の凝縮版。

 

一方で、ファミリーハートはネーミングが悪く、商品名に「極旨」「鶏」「柚子」「焙煎」など読めない字を用いたり、「北海道産大納言小豆のつぶあん」「とろ~りチーズの濃厚ピザまん」などお客が読み上げられず「途中で力尽きる」のには笑ってしまいました。

 

 日本の震災、中国、ウクライナ戦争などもコンビニ経営を直撃し、売上・入庫にも即影響。「コンビニって本当は大変なんだ」ということが伝わり、もうコンビニには足を向けては眠れないと思わせる一冊です。

 

『ふりさけ見れば』 安部 龍太郎 著

 

 阿倍仲麻呂とその生涯の友である吉備真備を軸に、中国側からは、玄宗皇帝・楊貴妃・安禄山・鑑真・王維・李白、日本側からは、天智~称徳天皇・藤原不比等・藤原仲麻呂と、「VIVANT」並みの豪華キャストで展開。

 

 白村江の戦いで日本が唐・新羅軍に敗れ、日本が唐に冊封のため使者を送ったところ、①律令制度を導入し律令国家とすること、②仏教を国の基本理念とすること、③長安にならった条坊制の都を築くこと、④国史で天皇の由緒正しさを示すこと、を唐から申し渡され、①は大宝律令制定、②は各国に寺の造設、③は藤原京の造営、④は『古事記』の編纂計画、と対応。しかし、④の国史については、『古事記』を提出するも「これは国史ではない」と言い切られ、この「国史」に関係して阿倍仲麻呂は帰京せず唐に残ったとあります(詳細はネタバレになるので省略)。阿倍仲麻呂は表向き唐の優秀な官僚ながら、実は「VIVANT」ばりに内部で暗躍。この辺の史実に詳しくないので「そうなんだ~」と思うばかりです。それにしても、③以外は、戦後日本が某国から受けた指示とよく似ていると思うのは自分だけでしょうか。

 

 歴史に詳しい知人に聞いたら、「そんなことはないよ」と軽くいなされたのですが、「歴史」(国史)が、国家間でもこれほど重要な役割を果たすのかと再認識させられた一冊です。

 

『GDP、<小さくて大きな数字>の歴史』 ダイアン・コイル 著

 

 「ギリシアでは、統計は格闘技なのです」で始まる本書では、GDPが如何にでき、それが徐々にいまの時流と合わなくなってきたことを分かりやすく述べています。

 

 英語の「statistic(統計)」という単語は「state(国家)」と語源が同じであり、もともとは大恐慌や第二次世界大戦などで国の経済をどう図るかがきっかけだったそうです。しかし、「ハウスキーパーと結婚して無償で家事をしてもらうと、GDPは減少する」「災害が起きるとGDPは伸びる」「教師の価値を何で測るのか」など様々なパラドックスも生じ、現代の経済に合致していない部分も多々あると論じられています。「GDPは単に産出量を測るものであり、人々の豊かさは考慮外」であり、実は国によってもその算出方法はまちまちというのが分かりました(単純比較は難しい)。

 

 手に取ったのは、8月19日付・日本経済新聞の「リーダーの本棚」で林外相が、愛読書として紹介していたためです。実は、昨年、林外相とは外務大臣室でお目にかかり、「以前は10曲程度入ったレコードが2,500円くらいだったものが、いまでは月980円で聞き放題。こうした差額を『消費者余剰』と言って、これまでのようなGDPでは計算できなくなっている」ということを話されていましたが、この「消費者余剰」について、この本にも書かれていました。多くのネット・サービスが「無料」で、一日の多くの時間を費やしながらも充分満足できるので、GDP云々ではもう測れない部分もあるとも思いました。

 

 「何事も量がすべてではない」ことがわかり、漠然と捉えていた言葉に新しい視点を投げかけてくれる良書と思います。

 

『キャンパスの戦争』 阿久澤 武史 著 (長文、失礼)

 

 今年読んだなかで暫定第1位! 今月、「日吉台地下壕」見学に参加したのですが、最後にガイドさんから紹介された本です。今年3月に出版され、著者は(いま話題の)塾高の校長かつ「日吉台地下壕保存の会」会長。日吉在学中には、「日吉には、ほら穴がたくさんある」と聞いたことがありますが、こんな歴史があるとは知りませんでした。塾生・塾員のみならず、日本中で読んで欲しい素晴らしい内容です。

 

 「はしがき」に書かれた「慶應義塾の歴史は日本の近現代史そのものであり、日吉キャンパスには激動の昭和史が凝縮されている。(中略)ただし、市民が避難するための場所ではなく、戦争を遂行するために作られた軍事施設だ」ということが本当によくわかります。

 

 慶應・三田校舎が手狭になった上、震災で損傷もしたため、新キャンパスを物色。現・東急から土地の無償提供を受け、古典主義の建築様式をもった「近世アメリカンスタイル」の新校舎を日吉に開設。その後、開戦となり、学徒出陣以降、海軍の軍令部第三部(情報部)が移転。1944年のレイテ沖海戦で主力艦船を失うと、連合艦隊司令部(豊田副武長官以下)も日吉に移り、空襲対策で作った「日吉台地下壕」(総長5㎞)からも作戦を指揮。終戦後、日吉キャンパスは米軍に接収され、長いGHQとの交渉で、4年後の1949年にようやく慶應に返還、というのがざっとした流れです。

 

 見学で実物を見て、ポイントの説明を受けたためか、とてもヴィヴィッドに本の内容が頭に入りました。本書では、慶應生で特攻隊員の上原良司氏(『きけ わだつみのこえ』の「所感」)の記録を1章割いて記述していますが、その後の陸(おか)に上がった海軍指導部とと対比すると、やるせなさで一杯になります(海軍関係者がいらしたら、ごめんなさい)。

 

 慶應は、「日吉台地下壕」を戦争の「負の遺産」として学術研究中心に公開しているとのことですが、「慶應の歴史は日本の近現代史の縮図」でもあり、もっと多くの人に知って欲しいと思うばかりです。これを読んでいれば、お気楽キャンパス・ライフを過ごすのではなく、真剣に勉学に励むべきであったと、自戒を込めてお薦めしたい一冊です。

 

 

『まいまいつぶろ』 村木 嵐 著

 

 徳川幕府では、家康~3代・家光、5代・綱吉、8代・吉宗、15代・慶喜らの評伝は多いと思いますが、こちらは9代・家重の物語。本当にこんなことがあったのかと、何度もWikiで確認してしまいました。

 

 生来虚弱で半身も不随。頻尿を抑えることができず、歩くとその跡が残るので、周囲から「まいまいつぶろ(蝸牛)」と揶揄されたとあります。リーダーに必須の言語も不明瞭のため、吉宗の長男に生まれながら、優秀な弟とも比較されて常に廃嫡も取り沙汰。唯一言葉がわかる大岡忠光という陪臣を得て聡明さも理解され、第9代・家重として吉宗を襲職。忠光本人は、虎の威を借ることはなかったものの、周囲からは常に批判を受けていたようです。このほかにも、お世継ぎをめぐる大奥での動き、田沼意次の登場など、知らないことが多く、Wikiで確認しまくりでした。主題とは別に、家康が、「徳川内での内紛を避けるためお世継ぎは長男を優先する」、「西の守りを固めるために尾張からは将軍を出さない」と決めたなど、家康の凄みもわかりました。

 

 著者は、司馬遼太郎の秘書だったそうです。歴史上の英明な人物のみならず、こうした人物に焦点をあてることで、見えてくるものもあるのだと思わされた一冊です。