"Food for Thought"

"Food for Thought"

日々考えていることを、自分の思考をまとめるためにも書きつづっています。

【それでも息子を日本の小学校に通わせたい】 山崎 エマ 著

 

 著者は、英国人の父親と日本人の母親の間に生まれた「ハーフ」。小学校までは大阪で育ち、中学校からはインターナショナルスクールへ。その後、ニューヨーク大学映画制作学部で映画について学び、卒業後は「モンキービジネス」「甲子園」などの映画監督としてドキュメンタリー映画を制作。「小学校~それは小さな社会」から生まれた「Instruments of a Beating Heart」は、第97回(2025年)米アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞にノミネート。本書からの著者の経歴は以上のとおりです。

 

 見た目からも「ハーフ」として扱われ、小さい頃からアイデンティティに悩んだと言います。日本の小学校では、「横の比較」が当たり前なのに対し、インターナショナルスクールでは「縦の成長」(各自がどれだけ成長できたか)を重視するのにショックを受け、こうした本人の経歴を通じて、日米の教育方法や文化の違いがわかります。その後の米国での体験を通じ、日本の小学校で学ぶ当たり前のこと(「他者との共生を実現する」「組織の中で自分の役割を果たす」)が、実は極めて優れた価値を持っていることを体感し、これを「小学校」という映画で表現するに至っています。

 

 米国で生き残るために自己主張の固まりとなって、米国人の夫から逆に諫められる場面もあったようで、やや本人の自叙伝的な内容であることは否めません。ただ、これを割り引いても、日本の学校教育の良さや日米間の文化・価値観の違い、映画業界の内情などを知る上では興味深い内容が盛りだくさんです。日本の小学校教育は、「どのシステムより優れている」とベタ褒めで、現在、世界中で取り入れられつつあるようですが、問題は大学以上の高等教育なのかなという思いをもった一冊です。

 

「Instruments of a Beating Heart」(約23分)

https://www.youtube.com/watch?v=DRW0auOiqm4

 

【フロイトの灯】 西 見奈子 著

 

 某Podcastで著者の話を聞いて読んでみたもので、フロイトの生涯を関係する人や思索とともにたどっていくものです。

 

フロイトというと、夢判断や無意識が思い浮かぶのですが、本書は、「精神分析は性愛なしには語ることはできない」とのことで、主にこちらに焦点をあてた内容。「誘惑理論」という初耳の言葉が出てきて、後半では男性器・女性器について縷々語られるのですが、これらがそれほど人間の精神に影響を与えるものなのか、「う~ん」という感じでした。

 

 文章は平易で、フロイトの生い立ちや思考がわかる「フロイト入門」とも言えますが、お子ちゃまの自分には、どうもピンとこないところもある一冊でした。

 

【ほんとうの中国】 近藤 大介 著

 

 「日本と中国とは、近いようで遠い国である。それは『大晦日』と『元旦』の関係にもたとえられるであろうか」。日中国交正常化時の外相・大平正芳は、こう語ったそうです。本書は、まさに「大晦日」と「元旦」の違いを如実に著した書と言えます。

 

 「日本は海に囲まれ、過去に数回しか外敵の侵入がないが『天災』は多い。一方、中国は現在でも14ヵ国の国々と国境を接し、過去には外敵の侵入や革命などの『人災』に見舞われ、そもそもの思考回路が異なる」「『勝者総取り』で、敗者は顧みられないハイリスク社会」「そのため、勝つためには何をしてもよい(賄賂も当然OK⇒ただ最近の腐敗撲滅運動で「潤滑油」が使えなくなって経済は低迷)」など頷けるところ多です。長らく中国ビジネスには携わりましたが、「大枠を重視して細部は走りながら考える中国人」と「細部まで詰めないとスタートしない日本人」という点は、実際に現場で痛感したところです。そのほか、「外科手術的外交(未然に危険を切除する)」のアメリカと「漢方薬的外交(じっくり構えて時を待つ)」の中国との対比もなかなか面白い分析と思いました。

 

 キャッシュレスやペーパーレスが進み、タクシーも中国版Uber(滴滴出行)が主流の中国にあって、日本への観光案内に、<二十世紀を懐かしむ旅を、日本でどうぞお楽しみにください!>とあるのは何ともやるせなさが残りましたが、彼我の違いがとてもよく理解できる一冊です。

 

【長安のライチ】 馬 伯庸 著

 

 「6月1日の楊貴妃の誕生日に、嶺南(広東省)の新鮮なライチを、長安(西安)まで運び献上せよ」という「命」を受けた下級役人(できなければ「死」)。これをどう遂行するかを書いた中国版“ミッション・インポッシブル”。すでに映画化されているようですが、まさに映画に打ってつけの内容です。

 

 「楊貴妃の何気ない一言から始まり、そして楊貴妃の一つの笑みで終わった」のですが、この二つの間に、どれほど多くの人の辛苦があるかを描いています。著者はパンデミックのときに、「決算! 忠臣蔵」「殿、利息でござる!」などの日本映画で下級役人から見た歴史を知り、その後、皇帝がライチを楊貴妃のために取り寄せたという唐の杜牧の七言絶句「一騎紅塵紀子笑(一騎の紅塵 紀子笑う)」で着想を得て、一気に書き上げたようです。

 

 「宮使えはつらいよ」の世界と、中国ならではのお話し(権力が絶対、渡る世間は金次第)もあって、あっという間に読み終えました。帯には「中国のエンタメ王が贈る」「社畜アドベンチャー」とありますが、最終章では清々しさも感じさせる一冊です。

 

【敗戦後の日本を慈悲と勇気で支えた人】 野口 芳宣 著

 

 スリランカ大使と公邸でディナーとなり、慌ててスリランカについて勉強。AI君で概要は理解したものの、網羅的にと本書を選択。小学校5年生の孫におじいちゃんが語りかけるという設定のため、大きな字で行間も広く、漢字にルビも振ってある本ながら、これには痛く感銘を受けました。

 

 日本とスリランカ(セイロン)の関係を知るため、まずは戦後の国際状況から訥々と書き始められます。詳細は以下ですが、戦後日本の分割統治に異を唱え、賠償も放棄した経緯が書かれています。これを読むと、もうスリランカには足を向けて寝られません。紅茶とシーギリヤしか知らなかったのですが、個人的に赤丸急上昇の国になりました。

 

 2022年に国家破綻し、パッとしないという国のイメージですが、大統領もかわって、この4年間で急回復。これからは関心をもって見ようと思います。

 

◆本書から自分の備忘録として記載(長文)

 1945年2月、米英ソで「ヤルタ会談」でドイツの敗戦が確定して3ヵ月以内にソ連が日本に宣戦布告することを協定。5月7日にドイツが無条件降伏を行い、約束通り8月8日にソ連が対日宣戦布告。一方、米国内では、戦後日本の統治案につき、①国務省主導の日本単独占領案、②米軍部による米英中ソ4カ国分割統治案、が検討されていたが、原爆により米国の威力が見せつけられ、米国による単独占領案となる。しかし、ソ連は終戦後も北海道周辺に迫り、北海道北半分をソ連領土として要求。トルーマン大統領は断固としてこれを拒否したが、ソ連は報復処置として日本人捕虜を労働者としてシベリアに抑留。以降、講和条約案は米英主導で検討。

 1951年のサンフランシスコ講和会議では、提出された講和条約案について、ソ連・グロムイコ代表が13の修正案を提示。日本に各種制限を設け、賠償交渉を進め、日本内の海峡を隣接国の軍艦のみに通行権を与える、など「二週間の参戦」で、ちゃぶ台返しを図った。この修正案への批判・反対演説が出ないなか、セイロンのジャヤワルダナ代表は演壇に立ち、「分割統治は行わず日本を一つの完全な独立国と認める。また、セイロンは多大な被害を受けたが、仏教の『憎悪は慈悲の精神によって消滅する』の観点から戦後賠償を放棄する」と宣言。割れんばかりの拍手のなか、吉田茂は感涙し、その日のうちに宿舎を訪問し謝意を述べた。

 後にジャヤワルダナ氏はセイロン大統領に就任。1979年には国賓として訪日し、ときの大平正芳首相は、戦後賠償放棄への謝意表明のため、85億円の最先端医療病院の建設を決定。現在でも支援は続き、高次先端医療病院として現地の人の命を支えている。1996年にジャヤワルダナ氏は亡くなるが、遺言により「日本の目の不自由な人に役立てて欲しい」と角膜移植のための眼球を日本に送り、群馬県の二人の女性に移植された。これに倣って、その後も多くの眼球、角膜がスリランカから送られている。

 

【Michael】

 

 いや~、純粋に楽しめました! 往年の名曲がバシバシ胸に響いてきます。IMAXでは、大画面に大音響で迫力満点! 音楽のみならず、曲作りやMV作成の舞台裏、Michaelの優しさや社会問題への対応、家族、特に父と子の葛藤など、知らないことテンコ盛りです。Michael役の甥っ子のジェファー君は本物そっくりの名演で、これは絶対に映画館で観ることをお薦めします。

 

 最後に続編を予告するメッセージ。確かに、ポール・マッカートニーとの共演や確執、「We Are the World」までは及ばず、次作が楽しみです。

 

PS

 ネタバレを避けつつも、あまり話題になっていない点を二つ。まずは、「チャネリング」という言葉。(自分も経験がありですが…)アイデアや構想が「(天から勝手に)降ってくる」のです。また、ムーン・ウォークがチャップリンからヒントを得たという「噂」もあるのですが、確かにチャップリンをよく観ていたのもわかりました(真偽は不明)。

 

【プラハの古本屋】 千野 栄一 著

 

 「日本人が好きなものランキングで第一位は?」 答えは「ランキング」。東京駅前の丸善で「文庫本ランキング第1位」とあって目を引き、しかも「プラハ」とあれば買うしかないと即決。内容を調べて買ったわけではないので、そのまま放置し、ふと思い出して読みました(今はもう、ランキング外)。

 

 いきなり「チェコスロバキア」と出て「およ?」です。1993年に、チェコとスロバキアは双方の話し合いによって血を流すことなく分離(ビロード離婚)。よって、「チェコスロバキア」と書くのはかなり前の本かと思ったら、初版が1987年でした。内容は、書店・古本屋巡り、専門の言語学、プラハの街並み・旅行などで、なぜにこれが「第1位」なのか不思議ではあります。しかし、かつて教科書に小林秀雄の文章がよく使われたように、著者の文章は極めて洗練されていて、「こうした文章が書ければいいな」と思える書きぶりです。

 

 因みに、チェコは、一人当たりビール消費量が「32年間連続世界第1位」(日本の4倍)。ピルスナーの発祥地であり、バドワイザーももとはチェコの地名(地名を勝手に使われたと世界中で訴訟を起こして100年以上も係争中)。昼からビールを飲めるという呑兵衛天国で、その辺の記述も散見され、個人的にはプラハ愛を再燃させる一冊でした。

 

【殺し屋の営業術】 野宮 有 著

 

 ひょんなことから営業成績抜群の主人公が殺し屋集団に入り、2週間以内に3億円をゲットしなければ殺されるという設定。

 

 前半は「後攻有利の法則(競合が商談後により優れた提案を出す)」「5%の法則(どうしても買わない客層が5%いる)」「お客より良いものは身につけない」などの営業術の話が盛りだくさんです。後半はいよいよ3億円を巡る攻防。主人公が「相棒」で水谷豊演じる杉下右京特命係のようであり、また脚色・情景もヴィヴィッドに浮かんでくるので、映画化、必至の内容と思います(少なくとも、続編『殺し屋の出世術』は本年中に出版予定)。

 

 「江戸川乱歩賞」受賞で、「本屋大賞」はノミネートのみでしたが、殺し屋が主題では本屋大賞は難しいかもです。それにしても、本書にある通り、日本では年間約9万人の失踪者がいるようですが、事故死と見せかけて、実は殺し屋集団に抹殺されているのではないかと、これからニュースを見るときに疑ってしまいそうです。

 

【お終活3】

 

 「舞台挨拶のある映画」のお誘い。「う~ん、『お終活3』ってどうよ」なのですが、舞台挨拶は初物で、「お誘いには乗る」ポリシーなのでまずは鑑賞。「お終活」はシリーズ物で三作目なんですね(人気だ!)。

 

映画そのものは、笑いあり涙ありで、さらには今後の勉強にもなって楽しめました。高畑淳子、三田佳子、監督、くまモンが舞台挨拶。くまモンは熊ではなくて人間で、熊本には熊がつくのに熊が出ないのだそうです。

 

 認知症役の三田佳子は、目がうつろで本物みたい…、と、思ったら、↓が早速、記事にあがっていました。

 

“三田佳子、役の影響で認知症を疑われるも否定「あれは演技です!」 周囲の声に驚き”

https://news.yahoo.co.jp/articles/b86b66a05ff0f2ee068283b5dadcf39fc5dcac91






【オペレーションZ】 真山 仁 著

 

 著者の対談をYouTubeで視聴。これは!と、2020年WOWOW制作の同名ドラマの全6エピソードを一気見し、真に迫った内容なので原作の本書も読了。ドラマが原作をほぼ忠実に表現していることがわかりました。

 

 米国大統領、IMF専務理事から、「日本が破綻(デフォルト)すると世界が恐慌に陥る」と指摘された総理が、歳出半減・増税を実行しようする物語。1,000兆円を超える日本の債務が不履行となれば、80兆円の資産規模しかないIMFではとても救い切れないという設定から始まります。

 

主人公の妻が、「1億円以上の借金があるのに、500万円の年収で年間1000万円以上使う暮らしをやめない人…。そんなダメ亭主とは即離婚!」と比喩するいまの日本財政を踏まえ、一般会計の「社会保障費ゼロ、地方交付税交付金ゼロ」を「オペレーションZ(後がないZ旗)」として掲げ、総理官邸、財務省、厚労省、与野党、新聞社、学界、地方自治体、小説家、芸能人から果ては中国・ロシアまで巻き込んでの壮大なストーリーです。対談では、財務省からヒアリングをして著者なりに盛り込んだと語っていましたが、「圧倒的なリアリティ」で、真に「あるある」の世界。

 

 始めにドラマを見ていて内容がよく理解できました。「いきなり歳出半減って、そりゃ、あり得ないっしょ!」ですが、そのほかの場面では、さもありなんの一冊です。