【書評】 キャンパスの戦争 | "Food for Thought"

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『キャンパスの戦争』 阿久澤 武史 著 (長文、失礼)

 

 今年読んだなかで暫定第1位! 今月、「日吉台地下壕」見学に参加したのですが、最後にガイドさんから紹介された本です。今年3月に出版され、著者は(いま話題の)塾高の校長かつ「日吉台地下壕保存の会」会長。日吉在学中には、「日吉には、ほら穴がたくさんある」と聞いたことがありますが、こんな歴史があるとは知りませんでした。塾生・塾員のみならず、日本中で読んで欲しい素晴らしい内容です。

 

 「はしがき」に書かれた「慶應義塾の歴史は日本の近現代史そのものであり、日吉キャンパスには激動の昭和史が凝縮されている。(中略)ただし、市民が避難するための場所ではなく、戦争を遂行するために作られた軍事施設だ」ということが本当によくわかります。

 

 慶應・三田校舎が手狭になった上、震災で損傷もしたため、新キャンパスを物色。現・東急から土地の無償提供を受け、古典主義の建築様式をもった「近世アメリカンスタイル」の新校舎を日吉に開設。その後、開戦となり、学徒出陣以降、海軍の軍令部第三部(情報部)が移転。1944年のレイテ沖海戦で主力艦船を失うと、連合艦隊司令部(豊田副武長官以下)も日吉に移り、空襲対策で作った「日吉台地下壕」(総長5㎞)からも作戦を指揮。終戦後、日吉キャンパスは米軍に接収され、長いGHQとの交渉で、4年後の1949年にようやく慶應に返還、というのがざっとした流れです。

 

 見学で実物を見て、ポイントの説明を受けたためか、とてもヴィヴィッドに本の内容が頭に入りました。本書では、慶應生で特攻隊員の上原良司氏(『きけ わだつみのこえ』の「所感」)の記録を1章割いて記述していますが、その後の陸(おか)に上がった海軍指導部とと対比すると、やるせなさで一杯になります(海軍関係者がいらしたら、ごめんなさい)。

 

 慶應は、「日吉台地下壕」を戦争の「負の遺産」として学術研究中心に公開しているとのことですが、「慶應の歴史は日本の近現代史の縮図」でもあり、もっと多くの人に知って欲しいと思うばかりです。これを読んでいれば、お気楽キャンパス・ライフを過ごすのではなく、真剣に勉学に励むべきであったと、自戒を込めてお薦めしたい一冊です。