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砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

本当は一冊づつ気合の入った紹介文を書きたいけど、ブログを更新する時間がなかなか作れないので、とりあえず読書メモとして誤魔化しておくことにする。なんだか暗い小説がばかりが並んでしまったが、そういうのが好きなのでしかたない。

叫び声 (講談社文芸文庫)
大江 健三郎
講談社
売り上げランキング: 181723


屈折した3人の青年が過剰な自意識に絡め取られ苦悩・挫折する物語。主人公は日本人で、あとの二人は在日朝鮮人と日本人と黒人のハーフ。彼ら3人は同性愛者という噂のあるアメリカ兵の家に下宿する。空虚な理想と、残酷な現実に内なる悲鳴が全編を満たしていている。ラストは僕も心のなかで悲鳴を上げた。とにかく密度が濃い。

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
飛 浩隆
早川書房
売り上げランキング: 45327


娯楽のためにつくられた仮想世界に暮らすAIたち。夏の行楽地として設定された小さな港町。かつてはゲスト(人間)が数多く訪れたが、ある日突然誰もこなくなり1000年の歳月が流れる。誰も年を取ることなく、延々に続くヴァカンスでの日々が、ある日突然舞い降りてきた「蜘蛛」たちによって一日にして破壊され壊滅するというSF小説。スピード感のある展開、迫真の攻防、人間よりも人間的なAIたちの苦悩。シリーズ一作目ということでいくつかの謎を残しながらも、人工の世界であるという設定を小説として最大級に利用した重厚な読後感が味わえる。

俺俺
俺俺
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星野 智幸
新潮社
売り上げランキング: 20200


拾った携帯にかかってきた電話に、なりゆきでオレオレ詐欺をしたことが発端になり、自分が「俺」になってしまう。というか自分と「俺」が同じことに気づく。やがて何人もの「俺」と出会い、世界は混沌としてくる。自分とは何かというアイデンティティの問題を、自分と他者との差異を無効化していくことで問い詰めていくという荒業。ここではお互いが同じ自分でありながらも、それぞれの関係性という立場に釘付けにされ、共感と排除で埋め尽くされていく。どこまでも不快な空気が蔓延するなか、その原因が「俺」であるという残酷さに、打ちのめされクラクラする。

原稿零枚日記
原稿零枚日記
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小川 洋子
集英社
売り上げランキング: 11452


病的な妄想日記のような不思議な世界。全体としてのストーリーは無く、近所の運動会の光景、地方の芸術祭に観光といった日常がグロテスクに歪んだ模様で塗り潰されていく。だが、このネガティブな方向へ全力疾走するような潔さは逆に清々しくもあって、僕は小川洋子の熱心な読者ではないけれど、この小説は僕の心を鷲掴みにした。ぜひ続編も!

切れた鎖 (新潮文庫)
切れた鎖 (新潮文庫)
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田中 慎弥
新潮社
売り上げランキング: 176173


三島賞&川端賞のW受賞作。両親の死に対する罪悪感に悩まされ、現実が崩れ落ち世界が異様に変貌していく「不意の償い」、カブトムシの意識を人間的に描写して、ひとり取り残され蛹のまま成長できない嘆きを綴った「蛹」、過去の因縁により家の裏の教会を激しく憎悪しながら孫娘と暮らす老女を描いた「切れた鎖」の三篇を収録。屈折した親子関係に苦しみ、社会から疎外され孤独に陥る主人公たち。その激しい内面の葛藤が克明に描かれる。鎖という言葉が象徴的だ。主人公たちは、誰もが家族という存在によって深く傷を負い、その傷によって心を縛られ現実世界で身動きできなくなっていく。その悲痛な叫び声があらゆるページから聞こえてくるかのようだ。
読んだけどまったくオススメできない本は封印して、興味がある人が読めば楽しめる本について短く紹介。

セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史 (ソフトバンク新書)
前島 賢
ソフトバンククリエイティブ
売り上げランキング: 36913

セカイ系という言葉がどのように使われてきたのか。その意味の変遷を辿ることによって日本のオタク文化の流れを解読していく。セカイ系という言葉をあちこちで聞いていたが、僕の守備範囲外だから特に深入りしなかった。だが、最近読んだ本のなかで村上春樹や舞城王太郎をセカイ系として語っているものを発見。自分の好きな小説を語っている言葉が理解できないというのは、とてもくやしいので勉強のために読む。セカイ系を含むオタク文化の見通しがかなりよくなった。

どんなクレームもゼッタイ解決できる本
津田 卓也
あさ出版
売り上げランキング: 114497

ちょっと色々あってクレーム関連の本を何冊か読んだが、これが一番役に立ちそうだった。悪意のあるクレーマー、特殊クレーマー(ストーカーなど)に対する対処法などとても実践的だ。

家族の痕跡 いちばん最後に残るもの (ちくま文庫)
斎藤 環
筑摩書房
売り上げランキング: 39057

「家族」をテーマとしたエッセイ集。といっても精神科医の著者だけに、とても専門的な視点によって現代社会における家族の意味を問い直していく硬派な内容だ。精神医学に留まらず哲学・心理学などの学問的視点と、臨床現場で関わってきた経験と知識、さらには漫画や小説の中で描かれる家族像が示唆するものまで、様々な角度から家族について考えていく。

便利であって不便。親密にして疎遠。多様にして単純。単純にして複雑。深淵に通づる浅瀬。個別にして普遍。はかなくも不滅。神聖かつ下品。病の元凶にして癒しの器。人は家族のもとで成長し、家族のもとで退行する。人は家族ゆえに孤独を免れ、家族のために孤独になる。(中略)つまり家族は、絶望であって希望である。人間がそうであるように。
P10-P11


あと、宮崎駿のアニメに登場する女性はみんな働き者だという指摘に激しく頷いた。

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
ジョーゼフ キャンベル ビル モイヤーズ
早川書房
売り上げランキング: 3174

世界各国にある神話を総合的に読み解き、そこにある共通性などから全体でひとつの神話であるかのように捉える。世界とは何か、人間とは何か、生きるとは何か。どんな質問にも世界中の神話から最適なものを引用しそこから答えを導きだすのは見事だ。多様化して分断された世界をひとつにする価値観として興味深いが、これ自体がひとつの宗教・信仰のようでもある。対談の中では世界中の神話が大量に紹介されている。「ビシュヌーは眠っている神であり、その夢が宇宙なのです」というインドの神のあまりのスケールの大きさに惚れた。

心にトゲ刺す200の花束 究極のペシミズム箴言集 (祥伝社黄金文庫)
エリック マーカス 翻訳 島村浩子
祥伝社
売り上げランキング: 132771

悲観的で冷笑的で悪意に満ちた名言ばかり。ポジティブな言葉よりも、よほど癒されるのは僕の性格が歪んでいるからだろう。「人生では癪に障ることがつぎつぎ起こるわけではありません。癪に障る同じことが繰り返し起こるのです。」「頭がよすぎて政治にたずさわらない者は、罰として自分よりも頭の悪い人間に統治されることになる。」「毎月、ほんの少し貯金をしよう。一年の終わりに、あなたはお金が本当に少ししか貯まっていないことに驚くはずだ」
絵はがきにされた少年 (集英社文庫)
藤原 章生
集英社 (2010-08-20)
売り上げランキング: 12599

嫁の知人が今回の開高健ノンフィクション大賞に落選したと聞いた。とても残念だが僅差の次点ということで、通常は受賞作のみだが異例の出版になるらしい。発売されたらぜひとも読まねばいかんと思っている所に、第3回開高健ノンフィクション大賞の受賞作が文庫化されたので読んでみた。

舞台は南アフリカ共和国を中心とした南部アフリカの国々。「ハゲワシと少女」というタイトルの写真でピュリツァー賞を受賞した写真家が自殺した背景を取材した「あるカメラマンの死」、裸でクリケットをしている自分の子供の頃の写真が、絵はがきとして売られているのを見つけた黒人の老教師「絵はがきにされた少年」など11のエッセイが描かれている。取材した内容をまとめるのではなく、取材をする自分の視点を綴ったような文体なので、どれも読みやすい。

ここで描かれているのは、貧困や内戦、人種差別という悲惨なアフリカの現状で生きる人々を「不幸な被害者」という一括りにしたイメージに押し込めるのはなく、それを日常として生きるひとりひとりの人間の姿だった。自分がいかにアフリカに対してステレオタイプなイメージしか持っていなかったかと、思い知らされながらみ進めていくなか、「老鉱夫の勲章」に大きな衝撃を受けた。鉱山での仕事というその内容が現在進行中の事故と繋がる。

現在、チリの鉱山の地下700mに33人が閉じ込められ、救助に数カ月かかると見られている。先日、地上から送ったビデオカメラで彼らの自ら撮影した映像が流れた。人はあの状況下でここまで団結して前向きになれるのかと驚いた僕に、この老鉱夫の言葉が真っ直ぐ胸に突き刺さってきた。

息子が金鉱山の最も深い場所、地下4000mで働いているのを延々と自慢する父親。深いほど鉱山労働者としての腕が良く序列が高いという。彼自身も引退するまで金鉱山で働き、チームリーダーにまでなったことを誇らしげに語る。狭い宿舎に押し込められ安い給料で危険な作業を行う鉱山での仕事。著者は今回の取材のテーマである「彼らは「奴隷」なのだろうか」という問いをなかなか言いだず、夜も更け蝋燭の灯りを挟んで話をするなかで、やっと切りだした。老鉱夫はこう答えた。

「それは、とんでもない言い方です。奴隷だなんてことはありません。我々は鎖につながれて連れていかれたわけではないし、自分たちで、この足で、自分で決めて鉱山にいったんです。あなたの国にあるようないい待遇ではないかも知れない。自分ももしかしたら体を悪くしたかもしれない。でも、我々はそれがわかっていて働いていたんです。そして、働く、仕事を持てることが、こんなにも幸せなことだったのかと、わかったんです。そうです。我々は幸せだったんです。奴隷なんかじゃありません。そんな風に考えるのは間違っています」
P126


あのチリの映像をみて感じた僕の疑問が消え去った。あのビデオに写っていたのは自分たちの仕事、生きてきた人生に誇りをもっている人たちの姿だった。以前読んだ本でずっと心に残っているひとつの文章を思いだす。

アジアの悲惨さを撮ることで知られたある写真家から、映画でアジアの現実を知ることはできない、といわれたことがある。しかし逆に、アジアの悲惨さを知っただけでアジアの人々を知ったことにはならないということもまた確かなことである。われわれは彼らの悲惨以上に彼らの自尊心をこそ知るべきであるし、それを知るためには彼らが容姿をととのえて威儀を正したときに丁重にあつかうことが重要である。
『映画の真実』佐藤忠男 P142


参考図書
映画の真実―スクリーンは何を映してきたか (中公新書)
スコーレNo.4 (光文社文庫)
宮下 奈都
光文社
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中学生の頃の自分を思いだす。高校生の頃、大学生の頃、就職した頃の自分を思いだす。あの頃の父親の背中、母の言葉、兄の顔を思いだす。初めてネクタイを締め職場に立ったあの日、始めた誰かを好きだと感じたあの瞬間を思いだす。

僕とはまったく違う人生を歩んできた一人の少女の物語が、こんなにも僕の人生を思い起こさせる。僕とは違う家族に囲まれ、僕とは違う人達と出会い、僕とは違う悩みを抱えている。けれど、彼女の見ている景色は僕と同じような気がする。

自分の心に真っ直ぐ向き合い、それゆえ切実で狂おしい日常が丁寧にひとつひとつ積み重ねられていく。読み終えたとき、空を見上げたくなった。とてもいい小説だ。
齋藤孝の速読塾 これで頭がグングンよくなる! (ちくま文庫)
齋藤 孝
筑摩書房
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とにかく速く読むだけの速読術の本が多いけど、著者の速読は「本の2割だけ読んで内容を理解する」というもの。最初から最後まで読み切ることに意義があるのではなく、自分が使える概念を得ることを目的とする。(これはもちろん小説以外の本の話で、小説はじっくり読むべきだと著者も言っている。だが、ざっくり読んでその小説の主題を掴みたい、という時には役に立つ)

読書論の本は多数読んできて、僕の中では『本を読む本』が最高峰だと位置づけられているけれど、残念ながら読書力を身につけるための『本を読む本』を読破するのに読書力が必要というワナがあるので、とりあえず本書を一冊読んでおけば読書論の基本は十分に抑えられるかと思う。著者が実践している読書の大技・小技の数々からインプット(読む)だけでなくアウトプット(書く)まで抑えているぶん、こちらのほうが読書論に留まらない有用な本になっている。

いつの頃からか本は最初から最後まで読まなければいけないという風潮があり、そのハードルの高さが読書の足枷になっているので、こういう本は全部読まなくてもいいという読書が広まるといいなと思う。本は読まなくても本棚に並べてあり、タイトルが目に入るだけでも価値があるという著者の主張に、僕は全力で同意する。

ということで、僕はまだまだ未熟者なので本書の内容を把握するために3割ぐらい読んでこれを書いた。重要部分は太字になっているなど、この本自体が2割読書をしやすい内容になっているので、ぜひ一度試していただきたい。2割、3割でもけっこう本の内容を理解でき、使える概念を得ることができることが分かるかと思います。

■関連書籍

本を読む本 (講談社学術文庫)
J・モ-ティマ-・アドラ- V・チャ-ルズ・ド-レン
講談社
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