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砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。



彼女と一緒にいた短い時間、僕たちはより本当に近いことを話そうと努力した。その頃には沢山のことが、なにがなんだかわからなくなっていて、本当のことなんてそう簡単には見当たらなかった。そこにあった石ころは目をはなすと蛙になっていたし、目をはなすと虻になっていた。昔蛙だった虻は昔蛙だった自分を思い出して、虻を食べようと舌を伸ばそうと考えて、それとも自分は石だったのかと思い出して、それをやめにして墜落した。

文学界新人賞受賞のデビュー作『オブ・ザ・ベースボール』が芥川賞候補にもなった注目作家の円城塔による受賞後第一作。帯には神林長平「本書は、かのオイラーの等式の文芸的表現である」、飛浩隆「無数のソラリスの海が語る、愚にもつかないバカ話。」と書かれてある。

「昔々あるところに、男の子や女の子が住んでいました。男の子が沢山いたのかも知れないし、女の子が沢山いたのかも知れません。男の子はいなかったのかも知れないし、女の子はいなかったのかもわかりません。それとも全く本当に誰もいなかったのかもわかりません。ぴったり同じ数だけいたということは、とてもありそうにありません。もともと誰もいなかった場合だけは別ですけれども」

ジャンルでいうと複雑系SF小説らしい。僕はSF小説には深入りしていないので、こういうジャンルは初めてなのだが、ややこしくて内容を正確に理解できなかった。そんな僕でも面白く読めるというのがこの本の素晴らしいところ。ストーリーは断片的で掴みどころがない。特に前半では世界の急激な変化が意味不明で、細部は面白いのだが全体像はさっぱり理解できずに置いてけぼり感がつらいのだが、後半になるにつれ今までよくわからなかった巨大知性体のキャラが立ってきて、物語の全体像もぼんやりと見えてくる。

なんとなく分かったつもりになって満足げに読み終えたが、さて僕はこの物語を理解することができたのだろうか。思い返して浮かんでくるのは江戸の町を走り回る岡っ引の知性体と、床下から大量にでてきたフロイトと、未来から打たれた弾丸が頭に入っている少女のこと。僕の知性だとこれくらいか。
コップとコッペパンとペン
河出書房新社
福永 信(著)
発売日:2007-04



とってもヘンテコな小説。現れた登場人物は瞬く間に年を取って舞台からいなくなり、その子供が主人公の座にきたかと思ってページを捲っていると、またあっという間に目の前から遠ざかってしまう。タイトル通りに「コップ」だ思っていたら「コッペパン」になってすぐ「ペン」へと変わっていくかのように、一行先も予測不能な物語。掴めそうになるとスルスルと逃げていくストーリーを追いかける楽しさという、今までにない小説の味わい方は斬新だった。


全部で4つの物語があり表題作と「座長と道化の登場」「人情の帯」「2」とある。等身大の視点から描かれるゆるやかな雰囲気は長嶋有に近い気がするが(ちなみに、一緒に同人誌「メルボルン 」をだしている)、そこに挟まれる不条理な状況設定や、文章に対する変化のつけかたなど最近の実験的な文学に近そうだ。

 四階はレディースフロアのしっかりと閉じられた試着室のカーテンの下のわずかな隙間から、スッっと、内側から外に向かって、ある休日の午後、白っぽい紙が差し出された。その白っぽい紙には早い話が別れ話が書いてあり、自分はあなたが立ち去ってからでないとこの試着室を出ないといったことが、それしかなかったのだろう、ピンク色の蛍光ペンで走り書きされていた。

『座長と道化の登場』冒頭より引用

芥川賞受賞は選考委員とのかねあいがあるから分からないが、芥川賞候補には余裕で入れるだろう。個人的にはこうしたアクロバティックな変化球(魔球?)も好きだけど、エンターテイメントな直球も読んでみたい。


誰もが知っている古今東西の物語から現代社会の歪みを読み取って続編を考えてゆく。続編の完成度とかは関係なく、森達也の視点によって導き出される部分が読みどころ。

ここで語られる15の物語は「裸の王様」「桃太郎」「仮面ライダー」「赤ずきんちゃん」「ミダス王」「瓜子姫」「美女と野獣」「蜘蛛の糸」「みにくいあひるのこ」「ふるやのもり」「幸福の王子」「ねこのすず」「ドン・キホーテ」「泣いた赤鬼」

童話をネタにしているため読みやすく、理解しやすい内容になっている。そして、宇野亜喜良の挿し絵が素晴らしい。

■森達也の本たち

いのちの食べかた (よりみちパン!セ)
理論社
森 達也(著)
発売日:2004-12

世界を信じるためのメソッド―ぼくらの時代のメディア・リテラシー (よりみちパン!セ)
理論社
森 達也(著)
発売日:2006-12

世界が完全に思考停止する前に (角川文庫)
角川書店
森 達也(著)
発売日:2006-07

放送禁止歌 (知恵の森文庫)
知恵の森
森 達也(著)
発売日:2003-06-06


Amazy

ハル、ハル、ハル
河出書房新社
古川 日出男(著)
発売日:2007-07
おすすめ度:4.5



この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ。ノワールでもいい。家族小説でもいい。ただただ疾走しているロード・ノベルでも。


冒頭からいきなり古川日出男節が全開。あいかわらずクセのある文体だが、クセがあるだけにヤミつきになる。書評で誰かがこの小説は詩に近いと言っていた。登場人物は少年と女子高生と中年男性の三人の「ハル」。それぞれ今まで生きてきた物語があり、もちろんこの物語は彼らの物語の続編なのだが、同時に今まで僕が読んできた物語の続編でもある。僕はこんなふうにどこまでも主観的に物語を読むのは好きだ。小説は主観的だからこそ面白いと思っている。

この本には「ハル、ハル、ハル」「スローモーション」「8ドックズ」の三編が収録されている。帯には「古川日出男の圧倒的最高傑作」とある。巻末に古川日出男のかなり気合の入った文章が掲載されているので一部抜粋。

二〇〇五年十一月から僕は完全に新しい階梯に入った。最初にこれを宣言しておこう。そして、その階梯での第一作として書き綴り、発表したのが中篇の『ハル、ハル、ハル』だとも言い切っておこう。意図したのは“生きている文章”であり、はっきりとした“世間との対決姿勢”だ。小説は世間なんぞに吸収されるものではない。小説のリアリティこそが、虚構としての世間を咬む。


■古川日出男の本たち

ベルカ、吠えないのか?
文藝春秋
古川 日出男(著)
発売日:2005-04-22

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)
角川書店
古川 日出男(著)
発売日:2006-07

サウンドトラック〈上〉 (集英社文庫)
集英社
古川 日出男(著)
発売日:2006-09

LOVE
祥伝社
古川 日出男(著)
発売日:2005-09


Amazy

買いました。不思議な音がしますね。メロディーを奏でるには相当な熟練の技がいるかと思われます。写真は史上最年少テルミニストを目指す我が子。この数秒後にアンテナを握りつぶして、ひん曲げる。


テルミンと我が子


組み立て時間は20分。完成するとこんな感じです。楽譜はちょっと端を切って貼り付けました。


テルミン




■知るひとぞ知るテルミン映画

テルミン ディレクターズ・エディション
PI,ASM
レフ・セルゲイヴィッチ・テルミン(俳優)クララ・ロックモア(俳優)ブライアン・ウィルソン(俳優)トッド・ラングレン(俳優)スティーブン・M・マーティン(監督)
発売日:2002-02-22