『Self-Reference ENGINE』円城塔/早川書房 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。



彼女と一緒にいた短い時間、僕たちはより本当に近いことを話そうと努力した。その頃には沢山のことが、なにがなんだかわからなくなっていて、本当のことなんてそう簡単には見当たらなかった。そこにあった石ころは目をはなすと蛙になっていたし、目をはなすと虻になっていた。昔蛙だった虻は昔蛙だった自分を思い出して、虻を食べようと舌を伸ばそうと考えて、それとも自分は石だったのかと思い出して、それをやめにして墜落した。

文学界新人賞受賞のデビュー作『オブ・ザ・ベースボール』が芥川賞候補にもなった注目作家の円城塔による受賞後第一作。帯には神林長平「本書は、かのオイラーの等式の文芸的表現である」、飛浩隆「無数のソラリスの海が語る、愚にもつかないバカ話。」と書かれてある。

「昔々あるところに、男の子や女の子が住んでいました。男の子が沢山いたのかも知れないし、女の子が沢山いたのかも知れません。男の子はいなかったのかも知れないし、女の子はいなかったのかもわかりません。それとも全く本当に誰もいなかったのかもわかりません。ぴったり同じ数だけいたということは、とてもありそうにありません。もともと誰もいなかった場合だけは別ですけれども」

ジャンルでいうと複雑系SF小説らしい。僕はSF小説には深入りしていないので、こういうジャンルは初めてなのだが、ややこしくて内容を正確に理解できなかった。そんな僕でも面白く読めるというのがこの本の素晴らしいところ。ストーリーは断片的で掴みどころがない。特に前半では世界の急激な変化が意味不明で、細部は面白いのだが全体像はさっぱり理解できずに置いてけぼり感がつらいのだが、後半になるにつれ今までよくわからなかった巨大知性体のキャラが立ってきて、物語の全体像もぼんやりと見えてくる。

なんとなく分かったつもりになって満足げに読み終えたが、さて僕はこの物語を理解することができたのだろうか。思い返して浮かんでくるのは江戸の町を走り回る岡っ引の知性体と、床下から大量にでてきたフロイトと、未来から打たれた弾丸が頭に入っている少女のこと。僕の知性だとこれくらいか。