とってもヘンテコな小説。現れた登場人物は瞬く間に年を取って舞台からいなくなり、その子供が主人公の座にきたかと思ってページを捲っていると、またあっという間に目の前から遠ざかってしまう。タイトル通りに「コップ」だ思っていたら「コッペパン」になってすぐ「ペン」へと変わっていくかのように、一行先も予測不能な物語。掴めそうになるとスルスルと逃げていくストーリーを追いかける楽しさという、今までにない小説の味わい方は斬新だった。
全部で4つの物語があり表題作と「座長と道化の登場」「人情の帯」「2」とある。等身大の視点から描かれるゆるやかな雰囲気は長嶋有に近い気がするが(ちなみに、一緒に同人誌「メルボルン 」をだしている)、そこに挟まれる不条理な状況設定や、文章に対する変化のつけかたなど最近の実験的な文学に近そうだ。
四階はレディースフロアのしっかりと閉じられた試着室のカーテンの下のわずかな隙間から、スッっと、内側から外に向かって、ある休日の午後、白っぽい紙が差し出された。その白っぽい紙には早い話が別れ話が書いてあり、自分はあなたが立ち去ってからでないとこの試着室を出ないといったことが、それしかなかったのだろう、ピンク色の蛍光ペンで走り書きされていた。
『座長と道化の登場』冒頭より引用
芥川賞受賞は選考委員とのかねあいがあるから分からないが、芥川賞候補には余裕で入れるだろう。個人的にはこうしたアクロバティックな変化球(魔球?)も好きだけど、エンターテイメントな直球も読んでみたい。
