砂場 -24ページ目

砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

人間・この劇的なるもの (新潮文庫)
福田 恆存
新潮社
売り上げランキング: 68439

一年半ぐらいかけて、眠る前に少しづつ読んだ。突き刺さる箴言。目からウロコの言葉の数々。枕頭の書として完璧だった。

私たちの行為は、すべて断片で終わる。P12

行動というものは、つねに判断の停止と批判の中絶とによって、はじめて可能になる。P139


タイトルにある通り、この本では人間について書いている。自由とは何か、生きがいとは何か、という主題が何度も繰り返される。著者は生きるとは、演じることだとする。自由な生きかたに生きがいを見いだすことに異を唱え、「自由に生きる」こと「自分らしく生きる」ことの欺瞞を暴きだす。

私たちは自己の宿命のうちにあるという自覚においてのみ、はじめて自由感の溌溂さを味わえるのだ。自己が居るべきところに居るという実感、宿命感とはそういうものである。P23

信じるにたる自己とは、なにかに支えられた自己である。私たちは、そのなにものかを信じているからこそ、それに支えられた自己を信じるのだ。P102

生きがいを見いだすために、安易なポジティブ思考や現状追認の達観主義に流れるのではなく、その欺瞞に満ちた既存の人生論を打ち破ることによって、厳しい現実を提示しながらも、それを乗り越える示唆を与えてくれる。内容だけでなく、その文章もまた「劇的」で読み応えがある。

現在が中断することによってしか未来は起こりえず、未来とはたんに現在の中断しか意味しないのである。が、私たちは、現在の中断でしかない未来を欲してはいない。そんなものは未来ではないからだ。私たちの欲する未来は、現在の完全燃焼であり、それによる現在の消滅であり、さらに、その消滅によって、新しき現在に脱出することである。P12
新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に
小林弘人
バジリコ
売り上げランキング: 2121

雑誌の休刊が相次ぐなか、出版というものの意味を問い直す。紙媒体だけが出版ではなく、WEBサイトも立派な出版なのだと「ワイアード」「サイゾー」「ギズモード・ジャパン」を創刊させたITメディア界の中心人物コバヘンの主張をまとめた内容。

新たな出版のビジネスモデルとして、成功しているWEBサイトのノウハウを丁寧に紹介しているのはとても勉強になった。これからは個人が情報発信をする「誰でもメディア」の時代だという立脚点も、こうしてブログをしている僕にとっても勉強になる。サイト開発・運営に関わる人にとっての基本書となるだろう。

また、これからはトップダウン型のコンテンツばかりでなく、ボトムアップ型のコンテンツがユーザーとの間に長い関係性を築く時代でもあります。(中略)
つまり、パッケージとして完成されている必要はなく、常に生成される「情報のフロー」の鮮度とバリエーションが重要になってきます。P68


まあ、半年前に発売されあちこちで話題になった本を、いまさら紹介している時点で「情報のフロー」の鮮度は落ちているけれど。
考具 ―考えるための道具、持っていますか?
加藤 昌治
阪急コミュニケーションズ
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アイデア・企画を生み出すための技法(著者はこれを考具と呼ぶ)を紹介した本。頭の中でぐるぐる考えて神が降臨するのを待つのではなく、きちんと形にするための効率的な技が網羅されている。2003年発行ながら、このジャンルではすでに古典と呼ばれる基本書らしい。

紹介されているのは「カラーバス」「フォトリーディング」「マンダラート」「マインドマップ」「オズボーンのチェックリスト」「ブレーンストーミング」「5W1H」などなど。基本を押さえながらも、実際にそれを活用してきた著者らしく、ちょっとしたコツが書かれているのが役に立ちそう。

書店員としてもフェアを考えたり、POPで目をひくキャッチコピーを書いたりと、それなりにアイデア・企画が必要なことがある。そんな書店員にとって、本書を一冊読めば、考具を学ぶのには十分だろう。問題は僕がこの考具を使いこなせるかどうか。さてさて、次のフェアは何にしようか。
日本の難点 (幻冬舎新書)
宮台 真司
幻冬舎
売り上げランキング: 654

ひとりで「日本の論点」を全部語ってしまうという内容。コミュニケーション論・メディア論、若者論・教育論、幸福論、米国論、日本論という章立てで、ケータイ小説からいじめ、ゆとり教育、早期教育、宗教、自殺率、セクハラ、オバマ大統領、対米追従、米軍基地、金融資本主義、後期高齢者医療制度、裁判員制度、環境問題、秋葉原事件、格差社会、民主主義、エリート、農業などなど、現在の日本が抱えている主要な社会・政治問題を分析していく。

複雑な問題を、一刀両断していくさまは宮台の本領発揮で気持ちいい。だが、実際のところ、宮台が言っていることが正しいのか専門家でも無いので僕には分からなくて、それよりも、こんな風にあらゆる問題に対して即答てきる宮台とはいったい何者なのかが気になってしまう。『ニッポンの思想』で佐々木敦は宮台真司に対してこう説明している。

対談やトークにおける宮台は、「八〇年代」の浅田彰、「ゼロ年代」の東浩紀と並ぶ、瞬間解答マシンのようなクレヴァーぶりを露骨なまでに誇示します。「それは簡単に説明できます」「それはすべてわかっています」「それは最初から織り込み済みです」などといった意味の台詞が、彼の発言には頻出します。そして実際、彼は本当に何もかもが瞬時に「わかって」しまうのでしょう。
『ニッポンの思想』佐々木敦 P219


それぞれの専門化たちが取り組むテーマをたった一人で「瞬間解答マシン」として、答えを導きだしつづける宮台が、「理屈ではない」としているのが、いじめ問題だ。

先生の本気が、生徒たちに「感染」していきます。人の「尊厳」を傷つけ、そのことで「自由」を奪ってしまうのが、なぜいけないのか。それは「理屈」ではありません。(中略)
「ダメなものはダメ」なのです。(中略)「ダメなものはダメ」を伝えられるのは「感染」だけです。(中略)心底スゴイと思える人に出会い、思わず「この人のようになりたい」と感じる「感染」によって、初めて理屈ではなく気持ちが動くのです。
(中略)
想像してほしい。利己的な奴が本当にスゴイ奴だなんてあり得るでしょうか。「感染」を引き起こせるでしょうか。あり得ない。周囲に「感染」を繰り広げる本当にスゴイ奴は、なぜか必ず利他的です。人間は、理由は分からないけれど、そういう人間にしか「感染」を起こさないのです。
P51-P52

そして宮台は本書の最後に、チェ・ゲバラを例として、社会を変革するのは、この「感染」の力だとしている。正論を言うだけでは誰もついてこない。人は、「言葉」ではなく「人」についていく。自ら瞬間解答マシンとして、「言葉」を社会に向けて発信してきた著者が、その「言葉」の力の限界を「わかって」しまったゆえの、当然の帰結なのだろう。


■参考書籍&関連書籍

ニッポンの思想 (講談社現代新書)
佐々木敦
講談社
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日本の論点 (2009) (文春ムック)
文芸春秋
文芸春秋
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読書について 他二篇 (岩波文庫)
ショウペンハウエル
岩波書店
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読書論の本は数年前にけっこう読んだけど、この本は有名なのに読み逃していた。

「反読書」の立場から辛辣な言葉が並ぶ。読書とは著者の思考をたどるだけで、自分の思考を奪う有害なものだと強烈に批判している。読書家の読書には罵詈雑言だが、思想家のする読書はまったく質の違うもので有用だとする。ソクラテスの「文字批判」と同じ思考停止批判の流れにあり、本書の批判は読書批判の王道と言えるだろう。

縦横無尽に様々な角度から切り込んでくる、読書批判の警句の切れ味に感服する。書店員として耳の痛い言葉もあった。そして、シャア・アズナブルがショウペンハウエルの影響下にあったことも判明。

以下、気になった言葉の引用。

紙に書かれた思想は一般に、砂に残った歩行者の足跡以上のものではないのである。歩行者のたどった道は見える。だが歩行者がその途上で何を見たかを知るには、自分の目を用いなければならない。P129

ヘロドトスによると、ペルシアの大王クセルクセスは、雲霞のような大軍をながめながら涙した。百年後には、この全軍のだれ一人として生き残ってはいまいと思ったからである。分厚い図書目録をながめながら泣きたい気持ちに襲われない者がいるだろうか。だれでも、十年もたてば、この中の一冊も生き残ってはいまいという思いにうたれるはずである。P131

文学も日常生活と同じである。どこに向かっても、ただちに、どうにもしようのない人間のくずに行きあたる。彼らはいたるところに群をなして住んでいて、何にでも寄りたかり、すべてを汚す。夏のはえのような連中である。P132

我が国の現在の書籍、著書の大半は、読者のポケットから金を抜き取ること以外に目的がなく、著者と出版社と批評家は、そのために固く手を結んでいる。P132


現実の国では、いかに美しい幸福、快適な生活に恵まれていても我々は常に重力の影響下に動いているにすぎず、たえずこの影響にうちかたなければならない。P20



■批判ばかりでなく、もっと前向きに本を読みたい人におすすめ読書論の本はこの2冊

本を読む本 (講談社学術文庫)
モーティマー・J. アドラー C.V. ドーレン
講談社
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読書からはじまる (NHKライブラリー)
長田 弘
日本放送出版協会
売り上げランキング: 93787