2009年6月に読んだ本。選挙の報道ばかりチェックしていて、ブログの更新が滞りがちのため、今頃、6月に読んだ本を紹介。いまいちな本は読まなかったことにしたので、全部がおすすめ本。
歌野 晶午
幻冬舎
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「絶望」と書かれた日記を綴る主人公。そこには両親への不満と学校での過酷ないじめの日々が書いてあった。追い詰められた主人公は拾った石を神として崇めて祈る。あいつを殺して下さい、と。すると死んだ。
今年の「このミス」ベスト10に入るかな。ミステリーを読みなれた人なら先の展開が分かるかも知れないが、それでも「デスノート」を意識したであろうテーマで、十分に読み応えのある内容になっている。
幅広い作風の著者だが、今回は「黒歌野」なので「葉桜」のような爽やかさを求めると痛い目に合う。
中村 文則
集英社
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死刑囚を担当する刑務官。彼は自分が犯罪者と同類ではないかという恐れを持っている。満たされない感情に押し潰されて自殺した親友の言葉が頭から離れない。それ以外は自分と変わらない普通の人でありながら、歪んだ形でしか快楽を得ることのできない人間が確かに存在するということ。死刑の判決を控訴せず、平然としている死刑囚の男を目の前にして、彼の心は掻き乱されていく。
自殺した親友のノートにこう記されていた。
「こんなことを、こんな混沌を感じない人がいるのだろうか。善良で明るく、朗らかに生きている人が、いるんだろうか。たとえばこんなノートを読んで、なんだ汚い、暗い、気持ち悪い、とだけ、そういう風にだけ、思う人がいるのだろうか。僕は、そういう人になりたい。本当に、本当に、そういう人になりたい。これを読んで、馬鹿正直だとか、気持ち悪いとか思える人に……僕は幸福になりたい。」P81より引用
読んでいて、どこまでも憂鬱になる。けれど、読まなければよかったとは思わない。これを読めば全ての問題の解決が示されているという内容ではない。それでも一筋の光が射している。闇が濃過ぎるから、その僅かな光がとても眩しく思える。
デイヴィッド アーモンド
東京創元社
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引っ越した先のガレージの奥に潜んでいた不思議な男。ほこりまみれで、虫の屍骸を食べ、アスピリンと中華料理のテイクアウトを欲しがる。生まれたばかりの妹が生死の境をさ迷って、暗い影が差す日常のなか、少年は彼と少しづつ仲良くなっていく。
児童文学だが、大人も十分に楽しめる内容。妹の病気が落とす影が物語を覆っているので、明るく楽しい読み心地ではないが、だからこそ、その影が吹き飛んでしまう終盤はとても気持ちがいい。詩的な文章と視覚的な描写はとても心地よく、児童文学というのは「子供向けの小説」ではなく、「文章で表現した絵本」に近いのかもしれないと思わせる。カーネギー賞、ウィットブレッド賞受賞。帯の推薦文は宮崎駿が書いている。確かに、トトロと重ねて読むと、また違った面白さが味わえる。
湊 かなえ
東京創元社
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小学生が変質者に殺される事件。一緒に遊んでいた4人の少女たちに我が子を殺された母親は言う。犯人をみつけるか、罪を償いなさい。この言葉が、少女たちの人生を大きく狂わせて行く。
モノローグで語られる少女たちの人生。事件の複雑な側面が、少女たちの人生に影響を与える。そして、少女たちが見たものが重ねられていくことにより、事件の真相が少しづつ明らかになっていく。デビュー作『告白』のアクロバティックな展開とは違って、物語全体の起承転結がしっかりした、完成度の高い長編ミステリーになっている。
岡部えつ
メディアファクトリー
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死んだ元カレの骸骨が部屋に浮かぶ。それでも新しい男を部屋に呼ぶ女。人間の業、女の情念を深く描き、正統派の怪談の魅力を描き出した短編集。
いわゆるアラフォー女性たちが主人公で、現代社会を色濃く反映した設定で描かれた怪談。都会で孤独に生きる彼女たちは、リストラ、パワハラに苦しみ、男とうまくいかず、見かけだけの友人に翻弄されていく。理不尽に死んでしまった人間が、霊となって現れるとき、現実が崩れ落ち、真実が浮かび上がってくる。
その恐怖と同時に、恨みが晴らされることに安堵する自分に気付く。怪談は恨みの残して死んだ人間に対する、鎮魂歌でもある。だからこそ、江戸時代でも現代でも怪談話は人の心を揺さぶるのだろう。
それしにしても装丁が素晴らしい。
穂村 弘
講談社
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穂村弘エッセイ集。いつも通り笑えるエピソードも盛りだくさんだが、今回は他のエッセイ集に比べて真面目な考察が多く含まれていて読み応えがある。
詩歌とはそもそも「わからない」ジャンルであり、穂村弘氏でも短歌の「わかる」は60%、俳句は25%、現代詩は10%だという。僕も詩歌は「わからない」ので手を出してこなかったけど、そういわれると読んでみようかなと思う。
この本でも短歌がたくさん紹介されていて、やっぱり僕には「わからない」ものが多いが、これはとても好きだ。
雨だから迎えに来てって言ったのに傘も差さず裸足で来やがって
盛田志保子
橋本 治
中央公論新社
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経済学者ではない著者が、自ら持つ知識と思考によって、なぜ大不況になったのかを考察する。タイトルに「本」とあるわりには、ほとんど経済の話で、本のことは最後の方に少しあるだけだ。
自分の考えを伝えることだけでなく、思考することを読者に求めている著者。その文章は、自らの思考の流れをそのまま記述するので、とてもわかりにくい。最終的には結論をまとめてくれているので、そこだけ読めば著者の主張は理解できるが、それは結論であって答えではない。
著者は日本の近代150年を振り返るべきだとして、そのために本を読むべきだと主張する。
『もちろん、一人の人間の頭の中に、そんなに膨大なものが入るはずはありません。「本を読む」という行為は、その膨大なゴミの山の一角に入って、「自分が分担出来る片付け」を実行するというほどのものです(中略)現実はもう「一人の人間の手に負えるもの」ではないのです。だから、みんなで手分けをするしかない――「問題はどこにあったんだ?」をみんなで手分けして考える。そういうことをしない限りは、「この先」という方向を考えるための基盤は出来上がりません。』P234-P235
著者はこの本のなかで、日本の近代を振り返りこの大不況の原因を探っている。つまり、自分の分担をこの本で実行していることになる。著者は自分の分担分をこの本でやったから、さあ次はみなさんの番ですよということだろう。