砂場 -23ページ目

砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

マクベス (新潮文庫)
マクベス (新潮文庫)
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シェイクスピア
新潮社
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伊坂幸太郎『あるキング』とどれくらい関連しているのか気になるので読んでみた。34歳にして、シェイクスピア初挑戦。書店員失格!

あらすじ。「王になる」という三人の魔女の予言に心を揺れ動かされ、現在の王を暗殺してその地位を奪うも、王の座を守るため配下を次々に殺していくマクベスの物語。

4大悲劇のひとつとあって、客観的には悪人であるはずのマクベスだが悲壮感が漂う。前王を殺すことへのためらいと、それができない自分を責める言葉の数々。王になってからは、自分が王の座を奪われることを恐れてばかり。マクベスには野心や行動力などなく、その精神の脆さゆえにずっと逃避し続けているように見える。

あるキング
あるキング
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伊坂 幸太郎
徳間書店
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以下、伊坂幸太郎『あるキング』との比較。『あるキング』は単独で十分に楽しめたが、『マクベス』を読んでみると、その対比としての面白さがでてくる。逆に対比がみつからない部分の印象が薄れてしまうという弊害もあるが。『リア王』も読むべきだろうか。

『あるキング』圧倒的で絶対的な「王」
『マクベス』 暫定的で不安定な「王」

『あるキング』魔女の言葉に影響されない「王」
『マクベス』 魔女の言葉に終始翻弄される「王」

『あるキング』宿命に身をゆだねる悲劇
『マクベス』 宿命に翻弄される悲劇

『あるキング』王であることの悲劇
『マクベス』 王であろうとすることの悲劇

どちらも悲壮感は漂うが、『あるキング』は天才的な野球の能力があるのにそれを生かす場がないという外的な要因でありるのに対して、『マクベス』の悲壮感は後悔、不安、疑心暗鬼という内面の問題が多く、「人間であるがゆえ」の弱さが描かれる。だが、『あるキング』はマクベス的な要素を排除した純粋な「王」という存在を描くことによって、逆説的に「人間とは」という命題を読み手につきつけてくる。主人公の「王」とその周りにいる「人間」との関係性や対比などにより、『マクベス』とは違った角度から「人間であるがゆえ」の弱さが浮き彫りにする。

以下、ネタバレあります。

誰の心の奥にマクベス的な弱さがある。それは、行動が理性より感情に流されてしまうということ。感情に捕らわれたマクベスには自らの行動を決定する意志が失われている。『あるキング』の主人公は、感情がほとんどないように描かれている。その行動は感情からではなく「決まっていること」に黙々と従っているだけ。そんな二人の死の直前の姿はまるで重なって見える。そこで二人は初めて「感情」と「意思」と「行動」が一体となり、宿命から解放される。
だるまさんと〈3〉 (かがくいひろしのファーストブック 3)
かがくい ひろし
ブロンズ新社
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うちの2歳児のお気に入り絵本。そして僕もお気に入り。内容としては0歳児から楽しめると思う。

『だるまさんが』『だるまさんの』『だるまさんと』という三部作。ロングセラーが主力の絵本業界で2008年という新作でありながら、人気抜群の絵本。

月刊「MOE」(白泉社)第1回MOE絵本屋さん大賞・新人賞 第1位
メリーゴーランド2008年度ベスト10絵本部門 第1位
「この絵本が好き!2009年版」(平凡社)2008年国内絵本 第2位

ほんわかした画風、愛嬌のあるだるまさん。前作までは、だるまさんだけだったが、今回からは友達たちも登場して賑やかな展開になっている。見開きで「い・ち・ご・さ・ん・と」という文字とイラストが並んでいて、ページをめくると「ぺこっ」という文字と、お互いにおじぎをするいちごさんとだるまさんの可愛いイラスト。次はばななさん、めろんさん、と友達が現れるという展開で文字も少なくすぐ読み終えてしまうけれど、我が子は絶対に「もう一回!」と言って読みだすと止まらない。

僕が珍しく一目見て買うことを即決した絵本。我が子も当然のごとく一目見た瞬間に気に入った様子で、絵本売り場で渡したら、それまでちょこまか遊びまわっていたのに、レジまでしっかりと抱きしめて離さなかった。

追記

50歳で絵本作家としてデビューし、これからの活躍が楽しみだった著者のかがくいひろしさんが、先日、54歳の若さでガンで亡くなられました。書店員という仕事柄、こうしたニュースにふれる機会は多いですが、未だに慣れませんね。自分の子供のために新刊がでたら買ってあげたいと思った初めての作家さんでした。ご冥福をお祈りします。

だるまさんが
だるまさんが
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かがくい ひろし
ブロンズ新社
売り上げランキング: 389

だるまさんの (かがくいひろしのファーストブック)
かがくい ひろし
ブロンズ新社
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2009年9月の気になる文庫本1位。

ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ (ちくま文庫)
ブルボン小林
筑摩書房
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ブルボン小林とは芥川賞作家・長嶋有がエッセイやコラムを書くときにつかう筆名。著者の偏愛に満ちた文章は、数多いるエッセイストのなかでも異彩を放つが、そのなかでも特にゲームを語るときこそ、その本領が発揮される。

その他の気になる文庫本はこちら「砂場書店」で更新。
2009年9月の気になる単行本1位はこれ。

壁の本
壁の本
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杉浦 貴美子
洋泉社
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壁写真家による壁写真集。人工物である壁と、自然による風化が織り成す美しさを、絶妙なバランスで切り取る。今までボロっちい壁を侮っていました、ごめんなさい。装丁は、僕の中で人気急上昇中の名久井直子さん。

その他の個人的に気になる単行本は、こちら「砂場書店」で更新
あるキング
あるキング
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伊坂 幸太郎
徳間書店
売り上げランキング: 562

「伝記小説」「演劇」的な小説ということで、今までの伊坂作品とは大きく違う印象だけど、ここまで今までのスタイルを崩しても、それでも伊坂は伊坂、面白かった。シェイクスピアの『マクベス』をモチーフにしているようで、よく分からない部分もあったけど、読んだことがない僕でも十分に楽しめる内容だった。

主人公は野球の天才。彼は「王」となるために生まれ、「王」として生きる。その驚異的な才能は、他者を圧倒する。彼にとって「王」というのは目標でも結果でもなく、生きることが、そのまま「王」であることを体現している。そこには挫折や成功があるが、その事と彼が「王」であるかどうかとはまったく関係がない。彼はホームランを打つから、「王」なのではない。彼は「王」だからホームランを打つ。

「何かをする」ことではなく、「何かであること」。(「する」という行動ではなく、「ある」という存在によって生み出される、ゆるがない人間関係は、伊坂作品に共通するテーマでもある。)この物語はまぎれもない悲劇だけれど、読後感は清々しいものがある。それはやはり彼が最後まで「王」だったからなのだろう。彼が「王」であることが、ただそれだけで喜びとなる。彼が彼であることによって、そこに希望が生まれる。