ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
posted with amazlet at 09.10.20
伊藤 計劃
早川書房
売り上げランキング: 46706
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ディストピア小説だが、従来の大きな権力を持った超管理社会ではなく、フーコーが唱える「生・権力」が人類を支配した、超福祉国家社会になっている。人々には健全で健康な生活が完璧に保障されているが(一部辺境のみは内戦状態の部分がある)、その健全で健康な生活から逸脱することは世間の「空気」によって許されない状態になっている。精神状態ですら適切なカウンセリングによって安定させるのが常識。そんな世界に違和感をおぼえるカリスマ性を持ったミァハとその友人で主人公のトァンを中心に物語が展開する。
食生活まで最適化され、誰もが同じ体型であり、精神的にも健康で画一的な人間ばかりの世界。そんな世界に反感を持つミァハにとっては「健康」は「不自由」であり、「不健康」こそが「自由」になる。そして「自由」とは何かという問いが、そのまま「生きる」ことの意味に直結していく。自分という存在は「わたし」のためにあるのか、「みんな」のためなのか。世界を極限の状況に突き落とすことで、この物語は現代社会の歪を暴き出していく。喫煙は自由? 肥満は自由? カフェインは自由? 自殺は自由? 売春は自由? ニートは自由? トラウマは自由? 病気は自由? 生きることは自由?
快適に生きる権利が拡大していくと同時に、知らないうちに失われていくものはいったい何なのか。何度も問いかけられる「自由」というテーマに、藤原新也がインドで言った「人間は犬に食われるほど自由だ」という言葉を思いだした。どこまでも世界を過酷な状況に追い込んでいくアクロバティックな展開に「デビルマン」を彷彿とさせる。
著者は一昨年のデビュー作『虐殺機関』を読んで、次回作も読もうとチェックをしていた作家だった。『ハーモニー』は全作を超える内容だと思う。これからも、ずっと追いかけたかったから、今年の3月に癌で亡くなったと聞いてとてもショックだった。好きな作家さんばかり亡くなっていく。星雲賞受賞、おめでとうございます。ご冥福をお祈りします。



