連作短編集。はじめて川上弘美を読んだ。現在活躍中の女性作家の中でもトップクラスの書き手だとハードルを上げて読んだにもかかわらず、期待を超える面白さ。日常風景の切り取りかたや人物造形の上手さも見事だが、書くことと書かない部分のバランスが絶妙だなと思う。
商店街を中心とした昭和のにおいがする町。生活感のある日常を背景として、老若男女それぞれが自らの人生を歩んでいる。短編ごとに背景と前景が入れ替わりながら、登場人物たちはそれぞれ悩みを抱えながら生きている。安易なストーリーに回収されることなく、地に足をつけて答えのない日常に踏みとどまる姿が、深い余韻を残す。
このタイトルをみてイタロ・カルヴィーノ『見えない都市』を思い出した。この本の中でペンテシレアという都市が紹介される。その場所を探しても「ここだ」「もっとむこうだ」「反対側だ」などと、誰もがバラバラの方向を指差し、決してたどり着くことのできない都市。『どこから行っても遠い町』の主人公たちは、今自分がいる場所はどこか居心地が悪くて、でも求める場所にはなかなか辿りつけなくて、町を遠めに眺めて立ち止まって自らを振り返る。誰もがペンテシレアを探して彷徨っているような、そんな物語のようにも思えた。誰もがそこにいながら、けれどそこはいつも遠い。
