宵山を舞台とした連作短編集。日常のなかにある祭りという非日常。6編がそれぞれ対になっているが、視点を変えた単純な裏表ではなく、全体も複雑に絡み合っているところが万華鏡的。ここでは幻想的な世界と現実とが混じりあっていて、人ごみの中をスイスイと走り回る不思議な赤い浴衣女の子たちが深く印象に残る。
万華鏡をクルクル回しているかのような物語。見えなかったものが見えてきて、見えていたものが消えていく。また見えていたものも、角度を変えるとまったく違ったものになる。幻想と現実、表舞台と裏舞台、現在と過去、不安と寂しさ、喜びと怒り、美しさと恐ろしさ、金魚と風鈴。様々なものがクルクルと入り混じる。
いつものバカバカしさはちょっと抑え目になっているが、こういう落ち着いた森見作品も好きだ。やっぱり森見は勢いだけじゃなくて、小説がほんとに上手い。