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砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)
梓崎 優
東京創元社
売り上げランキング: 254

大型新人と呼ばれるだけあって、今後の活躍が期待できる素晴らしいデビュー作だった。

世界各地を飛び回る雑誌ジャーナリストの男性を中心とした連作短編集。サハラ砂漠の商隊からアマゾンの少数民族、貧困国の内戦など、今までの国産ミステリーでは決して取り上げなかった状況で起きる事件の数々。その事件の謎だけでなく、その舞台が抱え込んだ世界観そのものに読み応えがある。ロマンティックな文体が描きだす厳しい世界の現実。これぞ本物のセカイ系ミステリーと呼べるのかも知れない。

過酷な世界の現実を描きながらも、それがステレオタイプなものに留まっているのが少し物足りなく感じたが、それは些細な部分。この短編集の魅力はその叙情的な文体、ナイーブな視線にこそある。そこに何があるかではなく、そこにあるものから何を読みとるのか。その奇抜なトリックで読者を物語の先へと導きながらも、その傷つきやすい優しい視線が、ミステリーという枠を超えた小説の世界へ僕たちを連れて行ってくれる。次作も必ず読む。
詩めくり (ちくま文庫)
谷川 俊太郎
筑摩書房
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詩集は苦手でほとんど手をだしてこなかったけど、はじめて谷川俊太郎の詩集を読んでみた。日記のように日付がつけられた366の短詩。だが特に繋がりも季節感もなく、それぞれが独立している。パラパラと見てたら楽しそうなので買ってみた。僕がツイッターを始めたからだろう。どれも短い文字数で書かれているのでツイッター風などと思って買ってしまった。谷川俊太郎ファンに怒られそうなきっかけ。

その意図の全てを汲み取って味わうということなど、詩がよく分からない僕にはまったくできないのだけど、それでも「なんかいいな」ぐらいのユルイ感じで楽しんだ。小説は読み流すと物語を見失って、ついていけなくなるけど、詩はもともと意味がわからないので、ぼんやりパラパラと読むのに向いていることを発見した。こういう読書もいいかも知れない。
天地明察
天地明察
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冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 1170


本屋大賞ノミネート作。吉川英治文学新人賞受賞作。

好奇心溢れるひとりの若者が、江戸幕府の沽券にかかわる壮大なプロジェクトの中心人物となっていく生涯を描いた時代小説。個性的で愛すべき様々な人たちが彼を支え、彼に夢を託していく。それらを一心に背負い、自らの才能と熾烈な戦いを繰り広げながら、前へと進んでいくその姿が、胸を打つ。

「囲碁」「算術」「天文学」という専門的な分野を描きながらも、予備知識ゼロで読むことができる内容。超文系の僕でも問題なかった。知らないだけに興味がわいて、物語に引き込まれる。とにかく登場人物たちが魅力的で、展開も目まぐるしく、ページを捲るのがもどかしいほど。こういう小説がたくさん出てきたら、日本の小説界の未来も明るいのではないかと思われる快作!

さすが小説界の風雲児・冲方丁。めでたく吉川英治文学新人賞も受賞したし、この勢いがあれば直木賞も狙えるかと思われる。本人が狙っているかわからないけど。
船に乗れ!〈1〉合奏と協奏
藤谷 治
ジャイブ
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船に乗れ!(2) 独奏
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藤谷 治
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船に乗れ! (3)
船に乗れ! (3)
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藤谷 治
ジャイブ
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音楽一家に生まれたチェリストの少年が主人公。爽やかさを前面に押し出した青春小説として素晴らしい前半と、急転直下して若さゆえの過ちと苦悩を綴った切実な後半。そして全編に渡って鳴り響く音楽。そのメロディは祝福であり、審判でもあった。喜びと、悲しみと、希望と、絶望と、全てが音楽とともにある。

この小説を思い返すたび、いろんな想いが駆け巡りうまく言葉にならない。読み終えてからもうだいぶ時間がたつのに、いまだ余韻の中にいるような気がする。誰かが「小説とは読者から言葉を奪うものだ」と言っていた。僕は小説を読んだのだなと思う。
植物図鑑
植物図鑑
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有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング)
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主人公の女性は道端で行き倒れていた男性を拾って一緒に暮らすこととなる。その男性はとても植物に詳しく野草や山菜を取って料理するという意味と、同棲しながらもまったく主人公には手をださないという意味において「草食系」男子。その微妙な恋愛関係など、読んでいて恥ずかしくなるぐらいの超王道のベタベタなラブコメ展開に、35歳男としては困惑するばかり。

でも同じラブコメ路線でも、捻りをくわえた『図書館戦争』よりも、こっちのほうが好きだなと思った。お約束の展開も、ここまで直球でくると様式美として楽しめるのだなと新発見。