いつも誰かが一緒だった


友達がたくさんいる人が 人に好かれる人だと思っていた


誰とでも仲良くなることが得意だと自慢した



「あなたはどんな人だと思いますか?」


そう聞かれて 一言も言葉が出なかった・・


周りを気にして 誰かに気を遣って


自分なんて無い・・そう思った



人は一人では生きて行けないと言うけれど


こんな自分だったら 二人でだって生きて行けない


独りで 独りで 頑なに口にしなくてもイイだろうけど


やっぱり 一人で立ってられる強さを持ちたい


やっぱり 一人で歩きだせる勇気を持ちたい


ホントの自分の姿を ちゃんと見つめること


できてるのかな?


ホントの自分の姿を ちゃんと知ること


できてるのかな?


どんな時にも 揺れることのない信念を持って


まずは 立ち上がることから始めようと思う


「あなたはどんな人だと思いますか?」


その問いに 相手の目を見て 


はっきりと答えることができるように



麻衣は、なぜだかすごく疲れた気がしていた。


美緒に会ったからだろうか。


今日は異常に蒸し暑い。


気温ももう少し上がりそうだ。


「あれ?


麻衣・・、こんなところで何してるの?」


「悦子。


あなたこそどうして?


休み?


休憩か。」


悦子は大学を卒業して旅行会社に就職した。


特別就きたい職業があったわけでもなく、どこかで働かなければ・・その程度の軽い気持ちだった。


こんなところも麻衣とよく似ていた。


何かになるために大学に行ったと言うのなら、もっとしっかり勉強もしたのだろうが、高校を出てすぐに働くのが嫌だったから進学した。


遥が欲しくて仕方がなかった『時間』を十分すぎるほど持ってはいたが、中身のある生活をしていたかと問われたら、きっと答えられない。


それでも六年も勤めているのだ、それなりにやりがいみたいなものも最近は少し感じていた。


後輩の教育係を任される年になったのかと複雑でもある。


「お昼、一緒にどう?」


悦子が誘った。


「いいよ。


もう帰ろうと思っていたところだったから。」


「じゃあ、行こうよ。


ねえ、遥のために書いてくれた小説があったでしょ。


あれ、もう無い??」


「どうして、今頃になって??」


「遥が付き合っていた彼がこの前、家にやって来ていろいろ聞くのよ。


書いた人は誰なのかとか、どこに居るのかとか・・。」


「それで?」


「私、麻衣のこと話したの。


今は小説家の草野 麻衣だって。


あの原稿のこと聞いてみるって言ったけど、やっぱり無理よね。」


「ゴメン。


あとは私が持ってるあの一部しかないんだ。


遥と私が一部ずつ。」


「そうだったよね。


ゴメン、同じことを何度も。」


「ううん。」


遥の周りのいろんな人が読んだ。


両親、悦子、医師、看護師、友人。


その誰もが気に入ったと言った。


何かに応募してはどうかという声もあった。


「これは遥のためだけに書いたモノだから。」


そう言った。


初めて書いたモノを褒められて嬉しかった。


それで十分だと麻衣は思った。


遥という女の子のことを覚えていてくれれば十分、この原稿は使命を果たす。


「これから先でもしも私が物語を書くようなことがあったら、その時、応援してください。」


そう言った。


それからしばらくして麻衣は本格的に書きはじめた。




章吾君に知れちゃったのか。


きっと怒ってるだろうな、黙っていたこと。


だけど、あの状況じゃ言えないよね、自分に言った。


隠すことでもないけど、私だと言わなければならないほどのことでもない。


麻衣の足はプラネタリュウムに向かっていた。


今日という日は、どうなっているのだろう。


いろんなことがあり過ぎる。


気持ちが静まらない。


これでもか、これでもか・・というように次々と押し寄せてくる。


外の生ぬるい空気がウソのように中はひんやりとしている。


肌のジトジトした感覚が少しずつ消えていくのがわかる。


客はと言えば、あっちに一人、こっちに二人、そんな風でガラガラだった。


そんな客の中に麻衣は章吾の姿を見つけていた。


だけど近くに行くことはせず、離れた席に座った。


星の上映が終わってもしばらく麻衣は動けなかった。


何気なく見上げたその時、章吾がいた。


「草野さん、どうしましたか?


初めて僕がここに案内してきた時と同じ顔をしていますよ。」


「そうかな。


いろいろあってね。


終わってたんだね。


もう一度みていこうかな。


ここは暗くて静かでいい所だね。」


「草野さん、遥のこと知ってたんですね。


この前、彼女の家に行ってきました。」


「そう。


隠すつもりはなかったんだけど、何となく言えなかったんだ。」


「あっ、もう行かなきゃ。」


章吾は時計を見た。


「バイト?」


「はい。


僕のバイト先の女の子が失礼なことを言ったそうですね。


すみませんでした。」


「いいのよ。


そんなこと。」


「でも・・、ああ今日も休もうかな。


せっかく草野さんに会えたんだし・・。」


「おかしな人ね。


そんなことで休まれたんじゃ雇い主も迷惑するよ。」


章吾は、TシャツにGパン。


その辺にいる若い普通の男の子だ。


それでもやっぱりカッコイイ。


こんな普段着でも整った顔立ちと背の高さで目立つ。


きっとお店でカウンターに立つと見違えるほどの紳士になるだろう、そう思った。


「そうですね。


でも・・。」


僕たちはいつもそう、ここで偶然会う以外に会う方法がない。


約束をして待ち合わせるわけでもなく、連絡先を知っているわけでもない。


変な関係だ・・、こんな風な意味のことを言いたかったのだ。


「私も帰るわ。


何時間ここに座っていても星なんて見られそうにないから。


送るよ、車だから。」


「いえ、地下鉄で行きます。」


「そう、じゃあそこまで一緒に。」


ビルを出て横断歩道で信号が変わるのを待っていた二人に声をかけてきた男性。


「やあ、麻衣、俺だよ。」


「えっ、慎二?」


「そうだよ。


オマエ、元気だったか?」


「元気よ。


久しぶりだね、どれくらい振り?」


「そうだな・・。


こんなところじゃなくて、そこにでも入らないか?」


「うん。」


「僕は行かなきゃ。


それじゃあ。」


今、初めて会った慎二に対しても軽く頭を下げ、青になった横断歩道を駆けて行った。


(あの人は誰だろう。


あんなに親しそうに、そして彼女の顔が一瞬でパッと明るくなった。


何年か過ぎてもスッっと気軽に声をかけられる、昔の仲間か?)


章吾は店に行くまでの間、同じことばかり考えていた。


(アイツは誰なんだ。)




「ちょっと、何考えてるのよ。


ちゃんと仕事しなさいよ。」


「ゴメン、ゴメン。」


「もしかして、あの小説家のこと?」


「・・・、絡むなよ。」


女の子たちとのくだらない話にも最近は慣れてきていた。


特別機嫌を取らなくたって、彼女たちは会いに来た。


本当のところどちらが客なのかわからない。


どうしても稼がなければならない仕事ではなかった。


時間が潰れればそれでよかった。


(逃げてばかりいてはダメだ。


そろそろ向かい合ってもいい頃なのかもしれない。


『どう生きるか』ということに対して・・。)







『愛している』 照れくさくてずっと言えなかった


一度だけ言ってみる


「愛している」



これまでキミがどんな人生を歩いてきたか 少しは気になるけど


それは俺だって同じだから 問い詰めたりはしないよ


今のキミと これからのキミで十分だから



手首に残っている その傷痕も


俺が守っていくから


繋いだ手から伝わるこの温もりを


これから先もずっと感じていたい


俺を信じると言ってくれた


その言葉が何よりも嬉しくて


俺は強くなろうと思った


「守りたい誰かが現れた時 


オマエにもきっとわかるだろう」


あの人の言葉を思い出した







「はじめまして。


遠藤 美緒です。


急に電話なんかしてすみませんでした。


一度会って話がしたかったものですから。」


意地の悪そうな人でなくて良かった。


この人か・・、尚の心を動かしたのは。


思ったよりも落ち着いている自分に麻衣は驚いた。


小柄で可愛い人。


そう思った。


真黒く長い髪を一つに束ね耳の後ろで結んでいる。


珍しくピアスをしていない人。


爪は綺麗に切り揃えられていて、マニキュアはしていない。


右手の薬指にリングが一本。


それとお揃いのペンダントが胸元で輝いている。


薄い水色のワンピースが清楚さを感じさせる。


「長い間一緒に暮らしている女性がいることは知っていました。


彼はそのことを隠したことはありませんでしたから。


仕事の仲間に対しても、私に対しても。


でも、好きになって行く気持ちはどうすることもできませんでした。


いつも一緒にいることに慣れてしまうと、離れていることが耐えられなくなりました。


いつの間にか自分のことだけを考えていました。」


「それが普通だと思いますよ。」


「彼と別れるって本当ですか?


私は、単純に喜びました。


でも、彼はまだ迷ってる。」


「あなたはこんなことを言うために私に会いに来たわけじゃないでしょ。


言ってください。


『彼と早く別れて。』って。


私の気持ちはもう決まっているから。


尚が決めることです。


こんな言い方、卑怯かもしれませんね。


恋愛なんて壊れる時はどちらか一方の意志でいいんです。


もうダメだと思って、これ以上修復が不可能だと感じた時。


尚と私が別れるのは、あなたのことが原因の全てだとは思わないでください。


あなたは尚が好きなんでしょ。


それでいいじゃないですか。」


年上の人に対して少し生意気なことを言ってしまった。


いつの間にか自分の世界に入ってしまってることに気が付いた。


いろんな人の心を想像してしまう。


かなり正確に。


自分たち三人の場合、大半の人が麻衣の味方に付き、残りは尚と美緒を応援する側、麻衣を責める側。


今、麻衣は彼女の気持ちも理解することができた。


「なんだか冷めてますね。


ドキドキしながらここへやって来た私が、ただのバカみたいです。」


「じゃあ、私が『尚は絶対に渡しません。』そういえばよかったですか?


私は、ずっと前から気づいていました。


もっと言えば、他に好きな人ができたってことも。」


麻衣は紅茶にミルクを注ぎ一口飲んだ。


彼女のコーヒーはもう冷めてしまったようだ。


「どうして黙っていたの?


私にはできない。」


「そうですか・・?


私は聞ける人の方が少ないと思います。


本人に聞かなくたって、わかってることなら聞けないと思います。


今の関係を失う覚悟ができてれば別だけど・・。


あなたと私の立場は真逆ですから。」


「彼よりも仕事を選んだそうですね。


私は何よりも彼を選ぶ。


あなたの気持ちに負けてるとは思っていませんから。」


「そうですか。」


麻衣は何も言わなかった。


彼女も必死なのだ。


経過はどうであれ尚を愛していることは本当らしい。


私だって彼を愛している、心はそう叫んでいたがその言葉を飲み込んだ。


それは多分、別れようと話をした時、全てを捨てたのだ。


二人で過ごす時間、二人で綴る様々な未来全部を・・。


美緒は心の中で麻衣に会ったことを悔やんでいた。


尚を愛してるという気持ちが自分の中で激しく燃え上がると思っていた。


例えば麻衣の鋭い言葉や行動に対して。


でも、実際は違ってた。


麻衣は冷静で純粋だった。


だからと言って尚を忘れられるとか諦められるとかそういう事とは違う。


尚のいない毎日何て考えられない。


もう戻れない。


「ごめんなさい。


私、もう行かなきゃ。」


そう言って麻衣は席を立った。


「私の方こそ、忙しいのに時間とってもらってありがとうございます。」


あわてて美緒は言った。


「じゃあ、失礼します。」




美緒は今、自己嫌悪の塊だった。


自分がこんな女になっていることが怖かったし嫌だった。


心のどこかで思っていた。


自分の方が彼女よりも勝っている。


だから彼が自分を選んだんだと。


その自信も麻衣の静かな態度で全て壊されてしまった。


彼女に勝てるモノなんて何一つない。


このうぬぼれた貧しい心くらいなものだ。


周りを気にせず今日まで尚と暮らしてきたけど、これって意味のあることだったのだろうか。


もし、自分が彼女の立場だったら、あんな風でいられたはずがない。


麻衣の後ろ姿に今も変わらず尚を愛していることが感じられた。


同じ男を愛したのだ、それえくらいのことはわかる。


もうやめよう、こんなことを考えるのは。


知らんふりをして、このまま今まで通り尚を・・美緒は気持ちをそう向けることにした。

もうどうにもならないほど落ち込んだ時


何もしないで ただじっとしてることを覚えた


どうにかしようとか このままじゃダメだとか・・・


無理に思い込むことは止めた


こんな時は 何をしても救われる気がしない



少しでも良い方に導こうと みんなが気にして言葉をかけてくれる


だけどゴメン 届かないんだ 響かないんだ 心に・・・


どんなに素晴らしい言葉も


どんなに私のことを思ってくれていても


どんなに助けようと頑張ってくれても


ゴメン 届かないんだ 響かないんだ




ある時 不意に入ってくる


あの時は何とも思わなかった言葉が 


ス~ッと入ってくる


今 心が受け入れられる状態になったんだ



届いた言葉が 力を生み出す


響いた言葉が 閉じていた扉を開く


ここから抜け出したいと思う気持ちも 今 生まれた


そろそろ歩くことを始めてみよう


新しい 今日を・・


新しい 私で・・