さあ今日一日張り切って行こう!


そう声をかけて 玄関を出るキミを見送る


ケンカしてても とにかく朝はちゃんと送り出す


これは決めてるんだ



夕方には帰って来ると決めてるけど


それって絶対そうなの?


私は知っているんだ


そのまま帰って来なかった人のことを・・


だから どんなことがあったって 朝はちゃんと送り出す




明日も明後日もその次も・・当然当たり前にやって来ると思ってた


今 言わなくたって 後で言えば良いって思ってた


でも・・


だから 瞬間・瞬間をちゃんと生かそうって




・・こんな風に思っていたって


その時が来たら いくつもの後悔に襲われる


だったら一つでも その後悔を減らしておきたいじゃない・・

一睡もしなくたって結構普通でいられるものだと優斗はひとり呟く。


「おはよう。」


「優斗、文化祭でバンドの演奏するって聞いたよ。」


「時間あったら見に来てくれよな。


人が少ないと哀しいじゃん。


毎日、一生懸命練習しているわけだし。


オリジナル曲もやるかも?


まあ、期待しててくれて良いから。」


明るく笑う優斗を遠くで見つめながら、新しい何かを見つけたのなら良かった・・奈緒はそう思った。


仲間たちの中で楽しそうに話す優斗が好きだった。


そろそろ気持ちの整理をしないといけないな。


いつまでもこんな風ではいられない。


文化祭の準備ほど大変ではなかったがそれでも結構忙しかった体育祭が終わった。


クラス対抗混合リレーは盛り上がる。


男女各五名、計十名。


体育系のモノでは負けたことのないこのクラス。


今回もその思いは同じ。


体操着の前後に縫いつけられたゼッケン。


来年はもう無い。


「絶対勝つぞ!」


そう優斗が大きな声で叫ぶ。


クラス全員が繰り返す。


選手たちは入場門へと向かう。


その中に、将太・優斗・陽子・奈緒もいた。


スタートのピストルの音とともに走り始め歓声が上がる。


昨日の雨で少し柔らかくなっているグランドを走る。


放課後の練習の成果か見事優勝。


最後だと思うとその嬉しさは今まで以上で、クラスメートの中には感激の涙を見せる女子もいた。


みんなで抱き合って喜んだ。


何もかもが夏休み前に戻った気がした奈緒。


そんなことあるわけないのに、そうだったらいいのにと思わずにはいられなかった。

いつもすんなりと「わかった」 そう言う


あなたが私の前を通り過ぎて行く


ホントはわかって欲しくなんかないのに


いつもすんなりと「わかった」 そう言う


あなたはそうやってこれまでの時間を生きてきたんだね


欲しいモノを「欲しい」と言わない


行きたいところがあっても「行きたい」と言わない


自分の意志を言葉にしない




長く付き合ってわかった


あなたは何かを望んでその通りになったことが無かったのね


だから 望むことをしなくなった


期待することをしなくなった




でも 私には言ってよ・・


「どこにも行くなよ」・・って


「わからない・・絶対にわからない」・・って





優斗は文化祭の準備とバンドの練習で一日が終わる。


ふと一人になった時、心に浮かぶ優しい笑顔。


別れを告げた日の奈緒の涙顔がずっと心の中にある。


将太のオリジナル曲に付けられた詩。


切なさが伝わってくる。


優斗の頭の中で一つのドラマが生まれる。


美しく微笑む女(ヒト)。


その裏側で心はいつも泣いている。


愛することから目を逸らし、求めることもしない。


希望を持たず、日々を過ごす。


それでも生きることからは逃げようとしない。


痛みだけを受け入れることが彼女の意志。


優斗は歌の中の彼女の心にいつの日か光が射すことを願っていた。


将太から渡された紙袋の中にもう一枚のCD-Rを見つけた。


パソコンんで再生してみる。


ピアノで録音されている。


(将太って、ピアノ弾けたっけ??


アイツの母さん、ピアノの先生だった・・。


弾けるよな、やっぱり・・。)


ピアノの音色が、優しくて心にスッ~っと入り込む。


耳に残るメロディー。


思わず何度も繰り返し聞く・聴く・聴く・・。


覚えてしまった。


そしていつの間にか朝が来た。


新聞配達のバイクの音が聞こえる。


もう朝なのか~。


もしかして徹夜??


そう、ただ同じ曲を何度も聴きながら朝が来てしまったのだ。


曲のイメージを自分の言葉で表してみる。


短いドラマの主人公は『奈緒』。


そして隣にいるのはいつも俺『津田優斗』。


こんな自分のこと、おかしくて誰にも話せやしない。


未練タラタラで情けない。


昨日、学校で何かが違うと思いながら、それが何かずっとわからなかったことがある。


奈緒が「津田君」そう呼んだこと。


今頃、やっと気が付いた。


『友達には戻れない』そう言った言葉の意味を今頃知るなんて。


同じクラスになって、親しくなって『優斗』そう呼ばれるようになった。


それ以前の二人に戻ったってことなんだな。


奈緒に別れを告げて心が軽くなったはずなのに、日を重ねるようにだんだんと重くなる。


優斗の口から出た短い言葉・・。


幾つになっても トキメキながら生きて行けたら


幸せだろうな


現実とは別の世界で 誰かを思いながらドキドキしたり・・


そんな自分を隠していたけど


同じ思いの人がいることを知って 安心したりしている


でも まだそれを言葉にはできないけど・・




何かする度に理由を欲しがる 私


誰かを思う時にも理由を欲しがる 私


何かを新しく始める時にも理由は必要で


何かを諦める時にも やっぱり理由を求める


もっと感情のまんまで 生きている自分を想像すればイイのに


だって そこは現実ではない 空想の世界なのだから


好きなっても誰にも迷惑かからないし


好きだと言っても誰も何も言わない


気持ちだけで生きることのできる世界


求めたり 与えたり・・


感情を表現してみればイイ


だって そこは現実ではない 空想の世界なのだから