「心配しなくても大丈夫だよ。
俺は決してキミを無理やりどうこうしたりはしない。
気持ちの無い女は抱かないことにしてる。
まあ、こんなこと言ったって信じろって方が無理だよね。」
心の中で奈緒の返事は『はい』なのに声にならない。
そしてもう一言付け加えた。
「でも、抱いて欲しいなら断る理由もないし、いいよ・・。」
この人、こういうことを平気な顔して言ってしまう。
真面目な人なのかそうじゃないのか、よくわからない人だと思った。
「・・・。」
「車の中で食べる?」
「いえ、大丈夫です。
家に行かせてください。」
大きな門が開かれる。
玄関までも車で行くなんて、テレビドラマでしか見たことがない。
「竜お坊ちゃま、お帰りなさい。」
「ただいま。」
「お食事は?」
「彼女が準備してくれているので、お茶だけお願いします。」
「初めまして。
加賀 奈緒 と申します。
突然お邪魔してすみません。」
「よくいらっしゃいました。
ごゆっくりどうぞ。」
想像をしたことのないような大きな屋敷。
家政婦さんの存在。
奈緒の住む世界とは別の世界。
長い間、ここに勤めているのだろう『竜お坊ちゃま』そう呼んだ。
「あの人は 安江さん。
おかしいだろ?
大人の俺のことを『お坊ちゃま』だなんてな。」
奈緒は持ってきたバスケットから弁当箱を出し、包みをほどき、テーブルの上に並べる。
「どうぞ。
たくさん食べてください。」
「へ~美味そうじゃん。
・・・・。
美味いよホントに。
ほら、キミも食べて。」
古川は嬉しそうに奈緒の作った弁当を食べる。
その無邪気さが奈緒の心に入っていった。
「紅茶とコーヒー、どちらがいい?」
「紅茶を・・。
私が・・。」
そう言っている傍で、
「安江さん、紅茶を二つ俺の部屋に。
あの人が入れる紅茶は美味いんだ。
だから、いつも頼むんだ。
飲んでごらん。」
「はい。」
そして部屋に案内されてまた驚く。
広い部屋。
南側は全てが窓になっていて明るい。
必要なモノが整理されて配置されている。
大型テレビ、オーディオセット。
CDやDVDが几帳面に並んでいる棚。
部屋の真ん中にはグランドピアノ。
壁には大きな絵が飾られている。
「珍しいモノがある?」
「いえ、私の家のリビングの何倍もあるような部屋だったから驚きました。
「祖父の持ち物なんだ。
俺のじゃないから。」
部屋をノックする音が聞こえた。
「ありがとう。」
奈緒にソファーに座るように言う。
ちょうどイイ温かさ。
香りが優しく心まで包まれていくようだ。
カップを両手で包むように持つと手の方からも温かさが伝わる。
「ホント、美味しいです。」
「だろっ。」
