「古川さん、一人っ子ですか?」
「どうして?」
「何となくそんな感じがします。」
「キミは?」
「中一の妹がいます。」
「そうか。
女二人の姉妹って何かイイよね。
俺は・・・、一人っ子だ。」
何か意味のありそうな『間』があった。
「ねえ・・。」
ほんの一瞬だったのに、急に返事が無くなって奈緒の顔を覗き込む。
眠ってしまったようだ。
外から帰って身体も温まって眠くなったのだろか。
クローゼットから一枚の毛布を取り出して奈緒に掛けてやる。
仕方ない、少し眠らせてやろう。
部屋を出て庭でカリンと遊んでやる。
ワイヤーフォックステリアのメス。
ちょうどトリミングから帰って来たところだった。
久しぶりに竜に会えて大喜びの様子。
走っては駆け寄ってまた走って駆け寄ってくる。
そんなことを何度も繰り返す。
どれくらい遊んだだろうか、カリンも飽きたようで、水を一生懸命に飲んだ後は自分のハウスに戻り眠り始める。
(誰に似たのか知らないが、気ままなヤツだ。
そこがたまらなく可愛いところでもあるのだが。)
部屋に戻ると奈緒はまだ眠っていた。
その頬には涙の流れたあとがある。
眠っている間もアイツのことを考えているのか?
少しでも長く寝かしておいてやりたいと思ったからそっとしておいたが、もう限界。
そろそろ家に送って行かないと家の人は心配するだろう。
「ねえキミ、加賀さん、奈緒ちゃん・・。」
いくら呼んでも目を覚まさない。
でも、このままってわけには行かない。
何度も繰り返し名前を呼び続ける。
「私・・・、眠ってました・・ね。
どれくらい眠ってましたか?
今・・、何時ですか?」
「三時間は寝てたよ。
そして今は夕方の六時。
そろそろ帰らないと家の人が心配するよ。」
「そうですね。」
ソファーからゆっくりと起き上がる。
家に来るかと誘ったときの反応とは全く違った様子。
眠っていたことに奈緒自信驚く様子もなく、目が覚めて飛び起きるでもない。
それは・・・。
「俺が車で送るから。」
「大丈夫です。
これ以上迷惑はかけられません。
一人で電車で帰りますから。」
「いいから。
俺の言うとおりにして。
家まで送るから。」
「ありがとうございます。」
急いで部屋を出て二人は車に乗り込む。
車を走らせながら古川は話し始めた。
「加賀さん、答えなくていいから聞いて。
もしかして、彼と別れてずっとグッスリ眠れてないんじゃないの?
今日だって、どうなってもいいと思って家を出て来たんじゃないの?」
古川の言葉が強気でいようとする奈緒に静かに語りかける。
心の中を全部見られている、確実に。
「眠ってていいから。」
「はい・・。」
古川の傍にいると不思議と眠りに誘われる。
こういうのを安らぎと言うのだろうか・・。