あっ、この人苦手なタイプかも?? って思う時ありませんか~。


それも一言二言で・・。


久々にそう言う人に出会ってしまいましたよ~。


一度そう思ったら最後、私の中で切り捨てられます。


何処かで偶然会ったとしても気が付かないくらい表面的に特徴がある人ではないんです。


ただ、今日のあの場所でもし一緒になることがあったら確実に今日のことは思い出すと思います。


苦手なタイプの人とは付き合わないことにしています。


それが許されるんだからイイですよね~。


ああ、楽しいこと考えて流さなくっちゃね・・。


こんなことに気持ちを向けている場合じゃない。


山積みの用事を片づけなくっちゃいけません。


用事を先にしてパソコンするのがスマートだと思うのですが・・。

古川の声にホッとする。


「身体の方はどうなの?


無理してたんだろ。」


いつかのようにまた目の奥が痛くなる。


(泣くな奈緒。)


電話の向こうにいる向こう側にいる古川に会いたい・・そう思った。


「もう大丈夫です。


頭もしっかりしてきたし。


少し眠ろうと思ったけど眠れなくて・・、そんな時メールが届いたので。」


「そっか。


俺の存在、少しぐらいは加賀さんの役に立ってるってことだね。」


「そんな・・、役に立ってるとかじゃなくて・・。」


「俺を求めてくれてるってこと?」


「求めてるとかじゃなくて。」


「会いたいってこと?」


「はい。


そうです、会いたいです。」


「じゃあ明日、キミ模試でしょ?


昼飯付き合ってよ。


学校に行く長い坂道の下の方で待ってるからね。」


「はい。」


あんなに真面目なメールをくれる人が、こんなに簡単に誘ってくる。


明日が模試だということもすっかり忘れていた。


他人の古川の方がよく知ってるなんて・・小さく一人で笑えた。


さっきの古川とのやり取りを思い出しながら奈緒は眠りにつく。


喉が渇いて水を飲みにリビングに行くとちょうど夕食の準備が出来ていた。


「奈緒、ご飯、食べられそう?


あなたの好きなクリームシチューなのよ。」


「うん。


少し食べようかな。」


母の料理は奈緒の自慢だった。


毎日のお弁当も彩りよく盛り付けられていて弁当箱のふたを開けるのが楽しみだった。


一緒にお弁当を食べる友人たちも奈緒のお弁当の飾りつけを楽しみにしているモノも多かった。


「イイ匂い~。


お母さん、小さい頃、大きくなったら何になりたいと思ってた?」


「いきなりどうしたの?


学校の先生とか保母さんとかケーキ屋さんとかお花屋さんとかお嫁さんとかお母さんとか・・女の子がなりたいと思うようなモノには一通りなりたいと思ったわよ。


そして最終的に看護士を選んだ。


そのおかげでお父さんと出会ってお嫁さんになったし、奈緒たちが生まれてお母さんにもなれた。」


「ふ~ん。


私は何も無いんだ。


将来自分がどんな仕事をして生きて行きたいのか、もうすぐ十七になるっていうのに。


彼と別れていろんなことを考えた。


私には何も無いって気が付いた。


みんな何かに向かって進んでるっていうのに、私は進めずにいる。


正直、真面目に考えたことも無かったんだけどね。」


「奈緒、じっくり考えたらいいのよ。」


「ねえお母さん、今この時期にまだじっくり考えてていいの?


みんなもう大体決めてるのよ。」


「人と比べたって仕方ないじゃないの。


奈緒の人生なの。


あなたが納得できればそれが一番なのよ。」


「そりゃあそうなんだけどね・・。」



自分には何も無い。


眠れなくなって、いろんなことをよく考えるようになった。


将来のこととか・・。


夢とか・・。


思い返してみる・・ずっとこんな風だった。


そのことに疑問を持つことも無く。


「俺、帰るな。」


「うん。


今日はありがとうね。」


「ああ、早く元気になれよ。」


何気ない会話はあの頃と少しも変わらない。


「お邪魔しました。


俺、これで失礼します。」


リビングにいる母親に声をかける。


「津田君、ありがとう。


あなたも気を付けて帰ってね。」


「はい。」


しばらくして部屋をノックする音。


「奈緒、どうなの?


病院行かなくて大丈夫?」


「あ~、お母さん。


大丈夫みたい。


もう、何ともないよ。


あの時、ちょっとフラ~っとして陽子が驚いて大騒ぎになったのよ。


確かに私もこんなこと初めてだったから慌てちゃって・・。


陽子が家まで送ってくれるって言ってくれてたんだけど、津田君が・・。」


「ねえ、奈緒、津田君と仲直りしたの?」


「えっ?」


「お母さんが何も知らないとでも思っていたの?


奈緒の様子が夏休み前くらいからおかしくなったのも知ってるわよ。


大きなケンカでもしたのかなってね。


そして二学期が始まった頃、二人は別れたんだと思ったわ。


・・もっと言うと新しい彼できたの?」


「も~、お母さんたら、どこまで知ってるの?


新しい彼なんて・・。


知り合ったのは当たってるけど、彼じゃないよ。」


「女同士なんだから苦しかったり辛い時には話してよ。


友達みたいにはなれないだろうけど、経験豊富な先輩として聞くくらいならできるんだから。


今度、連れていらっしゃい。


その新しく知り合った人。」


「う~ん、そのうちね。」


「少し眠りなさい。


奈緒は寝不足だとお母さんは思うわよ。」


パジャマに着替えてベッドに横になってみたけど、やっぱり眠れない。


そんな時、メールが届いた。


『初メール 古川です


陽子ちゃんにアドレス教えてもらいました。


身体は大丈夫ですか?


俺の携帯の番号を送ります。


何かあったら連絡ください。』


真面目な真面目な・・メールを読むと頭に古川の顔が浮かんでくる。


電話帳にアドレスと電話番号を登録して、ちょっと電話をかけてみる。


「古川・・。」


不機嫌そうな声。


あ~、やっぱりかけなきゃよかった。


でも、もう遅い。


「加賀です。


メールありがとうございました。」


「ああ、加賀さんだったんだ~。


さっそく電話くれたんだね。」

奈緒の荷物を持つ。


「大丈夫なのか?」


心配で心配でたまらなかった気持ちが抑えられない。


でも言葉になるのは『大丈夫?』そればかり。


ゆっくりとした一歩一歩を二人で踏みだす。


二人ともが黙ったまま、ただひたすら左右の足を交互に前に出す。


奈緒の家の前までやってくるとポストの前に母がいる。


「お母さん、仕事どうしたの?」


「今日は午前中だったのよ。


奈緒、あなたこそどうしたの?」


「学校で気分が悪くなって、津田君に送ってもらったの。」


「大丈夫なの?


早く中に入りなさい。


津田君、ありがとうございます。


あなたも入って・・ほら、どうぞ。」


奈緒の母の強引さに圧倒されて、このまま帰るとは言えなかった優斗。


「どうぞ。」


奈緒が自分の部屋に優斗を案内する。


「へ~、きっちり片付いてるな。


部屋の雰囲気変わったな。」


「も~、そんなにジロジロ見ないでよ。」


付き合っていた頃、何度か来たことがあった。


その時はもう少し女の子っぽかったのに、今はそれがない。


「早く横になって休め。


あんなに元気いっぱいだった奈緒が倒れるなんて、俺は信じられなかった。


俺にとって奈緒はある意味完璧な女だったからな。」


「何それ~。


そんなこと言われるの初めてで、くすぐったいよ。」


「俺、将太たちのバンドに入ったんだ。」


「うん。」


「今度の文化祭で演奏するんだ。


もしよかったら聞きにきて。」


「うん。」


「やっぱり奈緒、少し変だ。


調子が良くないからなのか?」


「普通だよ。


津田君は夢中になれるモノを見つけたんだね。


ホントウに良かった。」


「奈緒、俺・・。」


優斗の言葉を遮って奈緒は言った。


「津田君、私、付き合っている人がいるの。


陽子が、失恋の傷は新しい恋で手当てするのが一番だとか言って紹介してくれたの。」


「そうか。」


「だから、私に責任とか感じなくていいから。


今日みたいなこともしないで。


苦しくなるから。」


「わかった・・、もうしないよ。」


二人の会話はどこかぎこちなくて、奈緒の母親が運んできてくれたココアを手に取る。


「あの時、奈緒が言ったことを今でもはっきりと覚えている。


将太にバンドに誘われた時、『頭で考えるよりやってみるタイプでしょ。』って。


思い切って行ってみて良かったよ。」


「あの時、私、もしかしたら津田君はバンドするかも?ってそう思ったよ。


将太と行ったあのライブの時の感動を何度も聞かされたからね。」


「俺。頑張るよ。」


「うん。」


奈緒の言葉は短い。


優斗は自分の力で進む道を見つけ歩き始めた。

浅い眠りで夜と朝をつなぐ。


「奈緒、気分悪いんじゃないの?」


「もうね、何がどうなのかもわからないの。


優斗ともう一度とか考えてるわけじゃないの。


ただ、私から優斗を追い出すと何も残らないな~と思ってね・・。」


奈緒の声の力が弱くなる。


その場に座り込んでしまった。


保健室まで何とかたどり着いて一安心した陽子。


「加賀さん、今日は帰って家でゆっくり休んだ方がいいわ。


お母さんに迎えに来てもらいましょう。」


「いえ、母は仕事でいません。


家も近いですし、一人で大丈夫です。」


陽子が心配そうに傍にいる。


「私が送るよ、家まで。」


『大介、奈緒が学校で気分が悪くなったので、一緒に家まで行くことにしたよ。


約束の時間より少し遅くなるけど待っててね。


二人で誕生日のお祝いしようね。』


陽子のメールを古川も一緒に見ていた。


四時間目の授業の終わりのチャイムが鳴り始めると、教室を急いで飛び出す優斗。


保健室に向かう。


「奈緒!


奈緒、どうした、大丈夫か?」


「津田君、静かにしなさい。


ここは保健室よ。」


そう注意される。


ベッドを仕切ったベージュ色のカーテンの間から陽子が出てくる。


「今日はもう授業もないし、私が家まで送って行くから優斗は心配しなくてイイから・・。」


「俺も一緒に・・。」


「・・えっ、いいってば。


わからない人ね。」


陽子の口調がだんだんと強くきつくなる。


「あなたたち二人は別れたのよ。


そんなに心配そうな顔して走って来るなら別れなきゃよかったのよ。


奈緒のこと、あんなに傷つけて・・。」


「確かに陽子の言うとおりだ。


でも、今日だけ俺に・・・、頼む。」


優斗が真剣な顔で切羽詰まったように言う。


「わかったわ。


奈緒に話してくる。」


「ああ。」


奈緒は当然、嫌だと言った。


それをなんとか陽子が説得した。


「優斗、奈緒を頼むからね。


あとで必ず連絡ちょうだいね。」