古川の声にホッとする。


「身体の方はどうなの?


無理してたんだろ。」


いつかのようにまた目の奥が痛くなる。


(泣くな奈緒。)


電話の向こうにいる向こう側にいる古川に会いたい・・そう思った。


「もう大丈夫です。


頭もしっかりしてきたし。


少し眠ろうと思ったけど眠れなくて・・、そんな時メールが届いたので。」


「そっか。


俺の存在、少しぐらいは加賀さんの役に立ってるってことだね。」


「そんな・・、役に立ってるとかじゃなくて・・。」


「俺を求めてくれてるってこと?」


「求めてるとかじゃなくて。」


「会いたいってこと?」


「はい。


そうです、会いたいです。」


「じゃあ明日、キミ模試でしょ?


昼飯付き合ってよ。


学校に行く長い坂道の下の方で待ってるからね。」


「はい。」


あんなに真面目なメールをくれる人が、こんなに簡単に誘ってくる。


明日が模試だということもすっかり忘れていた。


他人の古川の方がよく知ってるなんて・・小さく一人で笑えた。


さっきの古川とのやり取りを思い出しながら奈緒は眠りにつく。


喉が渇いて水を飲みにリビングに行くとちょうど夕食の準備が出来ていた。


「奈緒、ご飯、食べられそう?


あなたの好きなクリームシチューなのよ。」


「うん。


少し食べようかな。」


母の料理は奈緒の自慢だった。


毎日のお弁当も彩りよく盛り付けられていて弁当箱のふたを開けるのが楽しみだった。


一緒にお弁当を食べる友人たちも奈緒のお弁当の飾りつけを楽しみにしているモノも多かった。


「イイ匂い~。


お母さん、小さい頃、大きくなったら何になりたいと思ってた?」


「いきなりどうしたの?


学校の先生とか保母さんとかケーキ屋さんとかお花屋さんとかお嫁さんとかお母さんとか・・女の子がなりたいと思うようなモノには一通りなりたいと思ったわよ。


そして最終的に看護士を選んだ。


そのおかげでお父さんと出会ってお嫁さんになったし、奈緒たちが生まれてお母さんにもなれた。」


「ふ~ん。


私は何も無いんだ。


将来自分がどんな仕事をして生きて行きたいのか、もうすぐ十七になるっていうのに。


彼と別れていろんなことを考えた。


私には何も無いって気が付いた。


みんな何かに向かって進んでるっていうのに、私は進めずにいる。


正直、真面目に考えたことも無かったんだけどね。」


「奈緒、じっくり考えたらいいのよ。」


「ねえお母さん、今この時期にまだじっくり考えてていいの?


みんなもう大体決めてるのよ。」


「人と比べたって仕方ないじゃないの。


奈緒の人生なの。


あなたが納得できればそれが一番なのよ。」


「そりゃあそうなんだけどね・・。」